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本編
45 相談しよう
しおりを挟む「それで、わざわざ私の部屋まで来て何か用?」
そう怪訝そうに眉をひそめるのは千冬さんだ。
あたしは彼女の部屋を訪れ、“すぐ終わるから”とお願いして入口で立ち話をさせてもらっていた。
「あ、えっと、是非拒否して欲しいリアンの申請がありまして……」
「帰りなさい」
即帰宅を命ぜられる。
ひどいっ!
「いやいや、ちゃんと聞いてよっ」
「聞けるわけないでしょう……どうしてリアンの申請を貴女の一存で決められると思ったのよ。それってかなり横暴というか、不正よ?」
すんごい呆れられた表情を向けられている。
だが、ちがう、ちょっと誤解があるっ。
「いや、これはあたしのリアンの話だから、お願いする権利はあると思いますっ」
「だとすれば申請自体をしなければいいだけじゃない。貴女、頭どうかしたの?」
ああ、今度はあたしの脳の異常を心配されている。
ちょっとその判断も待ってください。
「いや、ほら人間関係的に断れないと言うか……あたしの状況的にも断れないと言うか……」
だからこうして出来る手は打っておきたい。
わたしには心強い味方がいるのだからっ!
「そもそもリアンがいない貴女の状況の方がおかしいんだから、大人しく受けれるべきじゃない?」
それは仰る通りなんですけどもっ。
「ここだけの話だけど、先生方の間でも貴女の心象は良くなっているみたいで、“今の楪柚稀ならリアンを組んでも問題を起こさないんじゃないか?”という議題は上がっているみたいよ」
うわぁあああ、朗報なはずなのに悲報だっ。
そんな所に明璃ちゃんのリアンの申請が届いたら認可が下りるに決まっている。
それはあってはならないっ。
「いや……でも今後の事を考えるとそうするべきじゃないと言いますか……」
「はあ……ちなみに誰なのよ、貴女とリアンの申請をしたい子って」
あ、そう言えばそれを言ってなかったな。
……ふふ、そうかっ。
まだ名前を挙げてないから塩対応だったんだね。
さすがに主人公の名前を挙げれば、ヒロインである千冬さんも阻止しようと動いてくれるに違いない。
「明璃ちゃんだよ」
「……明璃ちゃん?」
ほら、その名を聞いただけでこの嫌悪を浮かべた表情!
主人公を悪女に取られる、それはヒロインにとって最もあってはならない結末なのだからっ。
「うん、明璃ちゃんもリアンがいないから一緒になろうって誘われて困ってるの。ここは是非協力して欲しいと思ってね」
「へえ……随分と親し気になったものね?」
ふふ、ジェラシーですねっ。
主人公の好意があたしに向けられている事のジェラシーですねっ。
さぁ、それを阻止して下さい千冬さんっ。
「そう、明璃ちゃんの気持ちは嬉しいけど、これからの事を考えるとちょっと困ると言うか……」
「私は貴女の事を言っているのよ」
ぴしゃりと千冬さんの言葉で遮断される。
「……ん? あたし?」
「ええ、明璃ちゃんだなんて、つい先日まで小日向呼びだった貴女が随分仲良くなったようじゃない」
「……あ、ああ……いや、これは……不可抗力と言いますか……?」
「親しくなった間柄でリアンを申請しておいて、私を使って生徒会で認可を取り下げる? 貴女、何がしたいの?」
「あ、ちょっ、ちょっとストップね、千冬さん……?」
あれ、どうしてさっきまでクールな千冬さんの域を出なかったはずの彼女が、こんな絶対零度の冷気を放つほど怒り心頭しているのだろう。
それも、明璃ちゃんならいざ知らず、あたしの対応で腹を立てているんだよね?
おやおや?
「なに? 私に“仲良しアピール”をしにきたの?」
「いやいやっ、そんな意味不明な行動とりませんって!」
「現に意味不明な行動をしているじゃない」
「そ、それはぁ……」
千冬さんにとってはそうかもしれないけど、あたしにとっては切実な問題なんですけどねぇっ。
だが、どうにもこうにも上手く説明出来ないと言うかぁ……。
「……はぁ」
千冬さんが重めの溜め息を吐く。
すると、さっきまでの絶対零度が吹雪程度に収まる、どっちにしても冷たいのですが。
「いえ、その反応で何となく遊んでいる訳じゃない事は分かったわ。貴女なりに真剣なのね」
「……ち、千冬さぁ~んっ」
や、やはり、千冬さんは分かってくれる人だったんだ……!
これでも生徒会選挙を共に戦った仲間だもんねっ。
持つべき友人は生徒会副会長!
「でも悪いけど、私にはどうする事も出来ないわ」
「……え」
そして突然の悲報。
「リアンの認可は生徒会長案件よ、だから私はノータッチなの」
「え、でも外出届けの時は千冬さんが……」
「何でもかんでも生徒会長に任せていたら仕事量がパンクするでしょ? 優先度を考えて仕事は振り分けられていて、リアンは人間関係に直接関与するから優先度が高い分、生徒会長に任されているのよ」
「そ、そんな……」
そ、そうか……。
これは千冬さんでも、手の届かない範囲だったか。
ど、どうしよ……。
「でも、もっと簡単な方法があるわよ」
「え、そ、そうなのっ!?」
さすが学年次席の秀才、アイディアまで持っているだなんてっ。
「私とリアンになればいいんじゃないかしら?」
「……はい?」
あれ、思っていたのと違う飛び道具が出てきた。
「元々、私のリアンには別の人に変更になる可能性がある事は説明して受諾してもらっているから問題はないはずよ。そうなると小日向には私のリアンと一緒になればいいだけね。こうすると貴女も小日向に説明しやすくなるでしょうし、不都合のないプランだと思うのだけれど」
「ちょ、ちょっと千冬さんっ、マシンガントークで何が何だか……!?」
急にぺらぺら言葉をまくし立て始めた千冬さんだが、何をそんな必死になって話し始めたのだろうか。
いきなりのスイッチオンにあたしの方が困惑してしまった。
「何よ、私のプランに問題があるとでも?」
ぐわっと鋭い視線をぶつけてくる。
若干だが、頬を染めているようにも見えるのだが気のせい……だよね。
そうなる理由がないのだから。
「いや、問題はないんだけど、違和感はあると言うか……」
「何よ、何の違和感があるって言うのかしらっ」
千冬さんの眉が更に引き攣っていく。
ああ、どんどん地雷を踏んで行っている気がするが、後にも引けないしぃ……。
「え、いや、だって千冬さんは生徒会長の羽金先輩とリアンになる事にこだわってたのに、急にあたしになっていいのかなって……?」
それが叶わなくて涼風千冬は憤っている人物だったのに。
そんなすぱっと諦めるようなムーブは、原作を知っているあたしからすると違和感しかないと言うか……。
「……あ、そうっ!」
「ひぃっ」
ああ、完全に地雷を踏みぬいた。
千冬さんが憤怒の感情に染まっている。
「別に私は貴女が誰とリアンを組もうが、どうでもいいのだけれどっ。ただ困っていそうだからアイディアを出してあげただけよっ、勘違いしないでもらえるかしら!?」
「え、いや……あたしは何を勘違いしたと言うのでしょうか……」
むしろ何も分からなくて困惑中なんですが……。
「兎に角、リアンの話をしたいなら羽金会長にしてちょうだいっ。まぁ、認可に関して一生徒がとやかく言う権利はないのだけれど。というか、そもそもリアンになりなくないのなら本人に直接言うのが筋じゃないかしら、あ・か・り・ちゃ・んにねっ!」
――バンッ!
あたしは廊下に追い出され、扉を物凄い勢いで閉じられてしまった。
……ぐすん(泣)
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