61 / 77
本編
61 悪い子にはおしおき
しおりを挟む「やあ、おかえり楪君」
「た、ただいま戻りました……」
ルナと別れ、部屋に戻ると羽金先輩が出迎えてくれる。
わざわざあたしの為に玄関まで迎えに来てくれるのだから、その好意の大きさと申し訳なさに心が痛む。
「今日は少し遅かったようだね、何かあったのかい?」
「あ、いえ……ちょっと友達と話していて遅くなりまして……」
「ほう……友達ね」
羽金先輩は含みのある言い方で“友達”という単語を繰り返す。
「何かまずかったですか……?」
消灯時間を過ぎなければ、寄宿舎内での行動は自由になっている。
特に規定に触れるような事はしていないはずだけど。
「いや、その友達は私の事をどう思っているのかと気になってね」
「ど、どうと言うと……尊敬していると思いますよ、羽金先輩は凄い人だって皆知ってますから」
「そういう事じゃないよ楪君」
すると羽金先輩の腕があたしの腰に回され、体を引き寄せられる。
「あ、ちょっと……!?」
ぐっと近づいた体は密着してしまいそうだった。
「私が言っているのは、彼女達が私の事を恋敵としてどう思っているのかって事さ」
「こ、恋敵……!?」
はっきりと言葉にされると、さすがに抵抗感がある。
その中心人物が自分でなければ心穏やかだっただろうが、自分の事で敵味方が出来てしまっている状況は気が引けてしまう。
「適切な表現だと思うけど、君のお友達も私に何か言っていたんだろ?」
「え、えっとそれは……」
「ふふ、楪君は分かりやすいね」
先輩はあたしがそっぽを向いた仕草で確信したらしい。
言葉を発さずとも、仕草一つで察してしまうのだから隠し事も出来やしない。
「まぁ、大方の想像はつくけどね。リアンになった私を快く思わず、お友達が楪君に積極的なアプローチを仕掛けに来たんじゃないのかな?」
ず、図星すぎる……。
監視カメラでもつけられているのだろうか。
それとも羽金先輩のコミュニティなら周囲の生徒から自然と情報を集められるのだろうか。
彼女の求心力ならどんな方法でも可能になりそうだから恐ろしい。
「でも、それすら私の手の内さ」
グッとさらに腕に力を込められて体を寄せられる。
「せ、先輩ちょっと距離感おかしいですって」
顔があまりに近いのであたしは体をのけ反らせるが、そのせいで……こ、腰が痛みそう……。
「いまさら慌てて君に手を伸ばしても、君は私の所へ戻って来る……そうだろ?」
「そ、そりゃリアンになったんですから戻りますよ……」
他に行く部屋がないのだから仕方がない。
さすがに外で野宿なんてするのも御免だ。
「ふふ、違うね。君にだって拒否権はある。本当に嫌なのなら私とのリアンを解消すればいい、その権利が君にはあるんだ」
「そ、それはそうですけど……」
「だからこれは君の選択でもあるのさ。そして君が私を選んでいるという事実を友達も当然理解している」
確かに羽金先輩とのリアンが決まってから皆にアプローチされたのは事実。
それすらも見通して、尚且つこの余裕の羽金先輩の底知れなさも感じるのだが。
「初めは焦燥で行動を起こしたとしたても、この抗えない事実を前にしていずれ諦めに変わるさ」
「そ、そうなんでしょうか……?」
圧倒的自信、それが羽金麗の根底にはある。
だからこんなにも揺るがずに俯瞰して物事を見ていられるのだろうけど……。
「だからね、私は思うんだ」
また一段と引き寄せられる。
それに合わせてあたしも腰を更に引く……折れる折れる……腰がぁあ……。
その抵抗も虚しく、羽金先輩の艶やかな唇が近づいてくる。
あ、ああ……こ、これは奪われてしまうのかっ。
千冬さんに引き続き、あたしはまたも奪われてしまうのかっ。
「君が早く素直になって、私の物になったらいいのに……ってね」
しかし、その唇はあたしの頬の横を通り過ぎ、耳元で囁かれるのみだった。
先輩との距離が再び開くと、不思議そうにこちらを眺めていた。
何やら羽金先輩の独占欲をアピールされたみたいだが、あたしはそれ所ではない。
「あれ……顔が赤いけど、そんなになるような事言ったかな? 昨日から私の気持ちは伝えているよね?」
「……あ、いえ、その……気持ちはとっても嬉しいんです……はい」
ごめんなさい。
一人で勘違いしてた自分を恥じているだけなんです。
ここ最近の出来事が過激すぎて、知らず知らずのうちに自惚れてたんですね。
羽金先輩に唇を奪われるのが当たり前だと思ってしまってたんですね。
無意識ではしゃいでいた数秒前の自分を叩き潰したい衝動に駆られていた。
「……ああ、なるほど。やっぱり君は力づくで責めて断る理由を無くした方が受け入れてくれるのかな?」
「違いますからねっ!」
先輩はあたしの態度を見ただけで、どんな勘違いをしていたのか察してしまったみたいだ。
やめて、あたしにその頭脳を発揮しなくていいからっ。
「でも正直な話どうなんだい? 一日経って考えは少し固まりそうかい?」
でもやっぱり先輩は優しいから、本当の大事な所では無理矢理な事はしない。
最後はあたしに選択を委ねてくれる。
「いえ、その……まだ、と言いますか……」
「でも断りもしないと言う事は、少なくとも私に気はあるという事だね?」
ぬああああ。
その理詰めも止めて欲しいっ。
こっちは抵抗しているのに、いつの間にか丸裸にされているような気分だ。
「でもね……」
空いていた反対の方の手で、顎を持ち上げられる。
「私は我慢というものが苦手でね? あんまり長いと発狂して手を出しちゃうかもしれないから、気を付けてね」
「て、手を出すとは……その」
やはり、あっち方向な意味ですよね、それはっ。
「そうだね、まずは君が勘違いしちゃった事から始めるのもいいかもしれないね?」
あーっ、やっぱりバレてしますよねっ。
あたしの恥ずかしすぎる過ちを気付いてらっしゃいますよねっ。
「よよ、良くないですよっ、リアンでそんな事しちゃうのはっ。千冬さんも“生徒会は生徒の見本にならないといけない”と言ってましたしっ」
「へえ……涼風君がね?」
え、あれ?
急に先輩の目が鋭くなってしまったけど、あたし何かおかしな事を言った?
「その発言の意図はどこにあると思う?」
「え、で、ですから生徒会としての見本として……」
「涼風君はそう言いいながらも、君から私の行動を聞き出そうとしていたんじゃないのかい?」
……確かに、結果的には色々と言う流れにはなった面はある。
とは言え、話の流れを千冬さんだけのせいにするのは良くない。
「……え、いやぁ、結果的にはそうなるのかもしれませんがぁ」
「彼女がそんな打算もなく発言をするタイプかな?」
「……そ、それはぁ」
「そして結果的にだとしても、私の行動を涼風君に伝えたんだね?」
ひいいいっ。
たった一言でめっちゃ推理してくるよおお。
「リアンはプライベートな関係でもあるのだから、何でも誰かに伝えてはいけないよ」
いえ、それはあなたの察する能力が高すぎるだけだと思うのですが……。
でも、実際の事だから否定もできないしぃぃ……。
「いけない子だね君は……そういう子にはおしおきが必要かな」
「ええっ!?」
おしおき……こわいっ!
とは思っても既に羽金先輩の腕の中にいるあたしは逃れようもない。
先輩はあたしの首元に顔を近づけると、突き刺すような痛みが小さく走った。
「っ……」
そうしてようやく羽金先輩の腕から解放される。
首筋に触れると、ほんのりと温かさが残っていた。
「初めてだから優しくしたけど、次は手加減できなくて跡を残しちゃうかも」
と、悪戯っぽく笑っている。
……ど、どうやらあたしは羽金先輩に甘噛みされていたようだ。
11
あなたにおすすめの小説
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる