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本編
65 文化祭準備
しおりを挟む文化祭で皆がバラバラの役割をこなすという事は、それぞれ別々のアプローチが可能になるという事でもある。
だが、そんなあたしも美術係を任命されているので仕事はある。
誰かしらと行動を共にしないと、そもそもアプローチを掛ける時間すらないのが現実だ。
だが本来の楪柚希はサボり魔の悪女という事を忘れてはならない。
あたし一人がいなくても美術の仕事はきっと上手く進む。
本当であれば悪名に繋がるような行動は避けたいのだけど、今回ばかりは仕方ない。
抜け出して単独行動するしかないと、虎視眈々と画策していた。
「楪さん、このお城はどう思われます?」
美術係として一緒になったクラスメイトの花園さんにお城の写真を見せてもらう。
「うーん、舞台背景に基づくと14世紀イタリアのお城をモチーフにするのは正しいんだろうけど。でも、なんか皆が漠然と思い描く“ロミジュリのお城”って、こうじゃない気もするなぁ」
「なるほどですね。私も違和感を感じていましたが、ご指摘された通りかもしれません」
「なんというか勝手なあたしの意見だけど、イメージ先行でもいいと思うんだよね“キラキラしてる白亜のお城!”みたいなさ?」
「確かにその通りかもしれません、参考になりますっ」
……抜け出して単独行動、するつもりだったのだが。
実際は舞台背景として、どんなお城をデザインしたら良いか資料を選定している所だった。
こういう時にかつて百合で学んだ創作意欲を爆発させてしまい、居心地の良さを感じ始めている。
正直、美術を頑張りたくなっている気持ちが沸き上がっているのだ。
いきなり前言撤回しようとしている自分が恐ろしい!
「でも驚きました。楪さんがこんなに美術の仕事をしっかり手伝ってくれるとは思いませんでした」
「あ……いえ、その、心を入れ替えたので……」
実は速攻で仕事を抜け出そうとしていたとは流石に言えない。
こうしている今もサボろうか葛藤している事もシークレットだ。
「あ、失礼な事を言ってしまいましたね。ごめんなさいっ」
あたしが口ごもったのを機嫌損ねたと勘違いしてしまったのか。
クラスメイトの女の子は深々と頭を下げる。
変に気を遣わせてしまったみたいだ。
「いやいや、いいんだよ。あたしは仕事サボると思われても仕方なかったから」
「そう言って頂けると助かります……。でも本当に楪さんは心を入れ替えたんですね?」
「ええ、この通り」
「あの、その件で以前から伺いたかったのですが……」
花園さんがごくりと生唾を飲み込んで間を開ける。
なんだ……そんな重大そうな空気で、何を聞きたいんだこの人……。
「やはり、それは羽金様とリアンがきっかけだったのですか!?」
「ぶふっ」
すごい直球の質問だった。
返事に困る。
「噂になっていますよ、涼風さんですら叶わなかったリアンを、楪さんが強奪したと……」
人聞きが悪いねっ。
あたしは奪ったわけじゃなくて、むしろ譲ろうとしてたんだけどねっ。
……だが、そんな些細な事情を当事者以外が知るわけもなく、泥沼展開として見られていても仕方ないのかもしれない。
「それで、やはり楪さんを変えたのは羽金様なのですか?」
クラスメイトの子が鼻息荒く接近してくる。
美術の話はどこに行ったのか。
「いや……羽金先輩によるものではない、かな」
否定したので、これでお話は終了だよね?
とあたしは思っているのに、目の前の少女はまだ瞳をキラキラと輝かせている。
まだ聞きたい事はあるらしい。
「ですよね! 皆さんは羽金様だと仰っていましたけど、私は違うと思っていたんです。楪さんはそれ以前から変わっていたんですから、他の方の影響に違いないって!」
……え、そんな事を気にしてるの?
ていうか“皆さん”って、何だろう。
そんな複数であたしの話をしてるの?
「やはり、転入して仲の良い小日向さん? それとも生徒会選挙を共に戦った涼風さん? それとも一緒に外出までされたマリーローズさん?」
「なっ、なんでその人たちの名前が出るのかなっ」
図星ですがっ、クラスに浸透しているのは初耳だっ。
「学院ではその話題で持ち切りですよ? 楪さんの争奪戦を誰が制するのかって」
とうとうクラスすらはみ出して、学院にまで及んでしまった!
あたしって今、そんな時の人だったのかっ!
「そんなに皆があたしの事を……す、すすっ、好きなように、見えてるのかな……?」
う、うおおお。
クラスメイトにあたしは何て事を聞いているんだ。
すごい痛いヤツみたいじゃないかっ。
「ええ、もう。皆さん乙女になっていますから傍目ですぐに分かりますよっ」
そ、そうなんだぁ……。
他の人から見てもそう見えてるんだぁ……。
「それで、正直どうなんですかっ、楪さんには意中の人がいるのですかっ!?」
その瞳には星が瞬きながら、奥には炎が燃え盛っている。
どんな熱量を持ってるんだ、この人……。
「……自ずと答えは出るでしょうね」
「わぁ……すごいっ! いよいよ楪さんを巡る愛の修羅場に終止符が打たれるんですねっ!」
そ、そんなドロドロした展開にはしたくないんだけど……。
でも、もう他の人から見てもこうなのだから、やっぱり覚悟は決めなきゃだなと改めて確認する。
「応援していますからねっ!」
両手を強く握り込んで背中を押してくれる。
ふと思ったのだが、これはある意味チャンスではないだろうか?
「……じゃ、じゃあ、そのさ、たまに美術の仕事を抜け出してもいい? 会って話したい事とかあるからさ」
「そんな事でしたらお安い御用ですよっ。休憩時間も大事ですから、そういう時はすぐに言って下さいっ、協力しますよ!」
まさかの一発オーケー。
「……あ、ありがとう」
「美術係のメンバーには私から伝えておきます。もし問題があるようでしたら説明が必要な方に個々に対応させてもらいますからっ、安心してくださいっ!」
しかもサムズアップと笑顔まで返してくれた。
いや、気持ちはすごい嬉しいんだけど。
そんなクラス全体まで巻き込まれると流石に気が引けるんだけど……。
「あ、あともう少し伺ってもいいですか……?」
「え、まだ何か……?」
なぜだろう、寒気がする……。
「小日向さんとは幼馴染で、将来を誓い合った仲とか?」
「そ、そこまでは言ってないっ!」
「マリーローズさんとは従者まで懐柔し、しかもあのアンナ・マリーローズ様から高級な洋服を貢がれたとか……」
「言い方に棘があるかな!」
「羽金様と一緒のベッドで寝られているという噂は本当でしょうか?」
「ぐふっ」
「涼風さんとは何やら早朝で二人きりで近づいていたとか……」
「ひいっ」
や、やばい……。
表現に尾ひれがあれど、結構的確に情報が洩れている……。
こ、こんなのが当人たちにバレたらまた良からぬ争いのきっかけになるに違いないあ。
冷静に考えて、ここまで来て躊躇とかしてられないねっ。
やるぞ、あたしはっ!
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