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46.結ばれた心(※sideレイモンド)
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「……。はぁ……」
セレスティア様から届いた長い詫び状を読み終わったが、まだ返事を書く気力が湧かない。あの方が悪いわけではない。セレスティア様はミランダ嬢をどうにか真っ当な令嬢にしようと、ずっと苦心なさっていた。しかしその努力の甲斐もなく、クランドール公爵家はロゼルア王国王家との縁談を失ってしまった。公爵夫妻もさぞや落胆なさっていることだろう。
(……だが、今は人のことどころじゃない……。俺はここから立ち直れるのか……?)
グレースがロゼルアに旅立ってから、数週間。俺の心はどんよりと沈み込んだままだった。あいつは今頃、向こうで王子妃教育だの何だの受けているのだろうか。ライオネル殿下の妻となる準備を、進めているのだろうか……。
(……俺の妻になるはずだったのに……。自分から父に請うてまで、手にした婚約者だったのに。昔から、俺にとってのたった一人の愛する女性だったんだぞ。それを……)
我ながら女々しい男だ。情けない。
だが後にも先にも、こんなことは初めてなんだ。もうこの際心ゆくまで落ち込ませてもらう。
「……はぁ。……あぁぁ……」
俺の溜息で部屋の空気がどす黒く澱んでいるのではないだろうかというほど、ここ数週間何百回も溜息ばかりだ。
俺はよろよろとベッドから起き上がると、湯浴みをし、だが結局何もする気が起きずにまたベッドに倒れ込んだ。目を閉じれば可愛いグレースの笑顔が脳裏にチラつき、恋しさで胸が張り裂けそうだった。
夏の音楽祭でグレースが見せてくれた、あの振り向きざまの愛らしい笑顔を思い出し、俺が頭を抱えのたうち回っていた、その時。使用人の一人が扉の向こうから声をかけてきた。
「失礼いたします、レイモンド様。エイヴリー侯爵令嬢がいらっしゃってますが」
「……。……?」
「お通ししてもよろしいでしょうか」
「…………。」
……今、何て言った?
……エイヴリー侯爵令嬢……。エイヴリー侯爵令嬢?
使用人の言い間違えか?いや、グレースにはすでに嫁いでいる姉がいたから……、その人もエイヴリー侯爵令嬢っちゃエイヴリー侯爵令嬢……。
「……大丈夫よ、ごめんなさいね、もういいわ。勝手に開けるから。……レイ、いるんでしょ?」
(……ああ、可愛い声だな。やっぱり姉上じゃなくてグレースだ)
理解が追いつかない俺がそんな馬鹿なことをぼんやりと思っている間に部屋のドアが開き、……目の前に突然、誰よりも愛しい人の姿が現れた。
「……レイッ!」
不安そうに入ってきたかと思うと、こちらを見て花が咲くような満面の笑みを見せる。ああ、やっぱり美しいな。俺が愛して止まないこの笑顔……。俺の、愛する人……。
そんなことを思っているうちに、その愛する人は両手を広げ、ベッドの上にいる俺に飛びついてきた。温かさと重み、パープルグレーの柔らかな髪、そして恋しくてたまらなかった甘い香りが、俺を突然包み込む。
「……っ?!……は?グ、グレース……?本当に、グレースなのか……?」
五感でグレースの存在を確認した俺は、その瞬間、ようやく覚醒した。考えるより先に、俺の上に乗っかっている彼女の腰を両腕で抱きしめる。
「ええ!グレースよ!ねぇ、聞いてレイ。私ね……、あなたのことが、好きなの。たとえあなたに自由にしていろと言われても、周りから隣国に嫁げと言われても、私の心にはあなたしかいないわ。あなたがどう思っていようと、私はあなただけが好きよ!」
「…………。」
俺はついに、頭がおかしくなったのだろうか。恋しさのあまり、自分に都合の良い幻覚でも見ているのか……?
だけど、目の前のこの確かな感触が、これが夢でも幻でもないことを俺に伝える。
なぜ、とか、どうしてここに、とか、そんなことはもうどうでもよかった。
「……俺も……俺の方こそ、お前を愛してるよ、グレース。本当はずっと、子どもの頃から、……俺には、お前だけだった」
「……っ!……レイッ……」
俺の上で目を見開いたグレースは、たちまちその美しい紫色の瞳に涙を溜めると、俺の首に両腕を回して強く抱きしめてきた。俺は彼女の首筋に顔をうずめ、艶やかな髪を優しく撫でながら、もう片方の腕で強く強く、その細い体を抱きしめた。
しばらくそうして互いの体温を確かめあった後、どちらからともなく俺たちは見つめあい、そしてゆっくりと唇を重ねた。その瞬間、激しい想いが洪水のように溢れ、俺はグレースの体をくるりと反転させると、ベッドの上に降ろした。そしてより一層強く抱きしめあいながら、俺たちは熱い口づけを交わし、想いをぶつけあった。
(……駆け落ちしよう)
いつまでもグレースの温もりを味わいながら、俺はそう心に決めた。髪を撫で、何度も何度も唇を重ね、少しの隙間もないほどに強く抱きしめあいながら、俺は決意していた。
家族にもエイヴリー侯爵家にも、多大な迷惑をかけることになるだろう。だが、もうグレースを隣国の王子に渡すことなど絶対にできない。一生死にもの狂いで働いて、グレースを養いながら、両家にも金を払い続ける。そんな人生でいい。グレースさえいれば。何もかも失っても、たとえ全てを敵にまわし、皆から恨まれたとしても、俺は──────
そんな風に思い詰めながら、俺は昂る想いのままに、グレースのドレスの裾に手を滑らせた。
セレスティア様から届いた長い詫び状を読み終わったが、まだ返事を書く気力が湧かない。あの方が悪いわけではない。セレスティア様はミランダ嬢をどうにか真っ当な令嬢にしようと、ずっと苦心なさっていた。しかしその努力の甲斐もなく、クランドール公爵家はロゼルア王国王家との縁談を失ってしまった。公爵夫妻もさぞや落胆なさっていることだろう。
(……だが、今は人のことどころじゃない……。俺はここから立ち直れるのか……?)
グレースがロゼルアに旅立ってから、数週間。俺の心はどんよりと沈み込んだままだった。あいつは今頃、向こうで王子妃教育だの何だの受けているのだろうか。ライオネル殿下の妻となる準備を、進めているのだろうか……。
(……俺の妻になるはずだったのに……。自分から父に請うてまで、手にした婚約者だったのに。昔から、俺にとってのたった一人の愛する女性だったんだぞ。それを……)
我ながら女々しい男だ。情けない。
だが後にも先にも、こんなことは初めてなんだ。もうこの際心ゆくまで落ち込ませてもらう。
「……はぁ。……あぁぁ……」
俺の溜息で部屋の空気がどす黒く澱んでいるのではないだろうかというほど、ここ数週間何百回も溜息ばかりだ。
俺はよろよろとベッドから起き上がると、湯浴みをし、だが結局何もする気が起きずにまたベッドに倒れ込んだ。目を閉じれば可愛いグレースの笑顔が脳裏にチラつき、恋しさで胸が張り裂けそうだった。
夏の音楽祭でグレースが見せてくれた、あの振り向きざまの愛らしい笑顔を思い出し、俺が頭を抱えのたうち回っていた、その時。使用人の一人が扉の向こうから声をかけてきた。
「失礼いたします、レイモンド様。エイヴリー侯爵令嬢がいらっしゃってますが」
「……。……?」
「お通ししてもよろしいでしょうか」
「…………。」
……今、何て言った?
……エイヴリー侯爵令嬢……。エイヴリー侯爵令嬢?
使用人の言い間違えか?いや、グレースにはすでに嫁いでいる姉がいたから……、その人もエイヴリー侯爵令嬢っちゃエイヴリー侯爵令嬢……。
「……大丈夫よ、ごめんなさいね、もういいわ。勝手に開けるから。……レイ、いるんでしょ?」
(……ああ、可愛い声だな。やっぱり姉上じゃなくてグレースだ)
理解が追いつかない俺がそんな馬鹿なことをぼんやりと思っている間に部屋のドアが開き、……目の前に突然、誰よりも愛しい人の姿が現れた。
「……レイッ!」
不安そうに入ってきたかと思うと、こちらを見て花が咲くような満面の笑みを見せる。ああ、やっぱり美しいな。俺が愛して止まないこの笑顔……。俺の、愛する人……。
そんなことを思っているうちに、その愛する人は両手を広げ、ベッドの上にいる俺に飛びついてきた。温かさと重み、パープルグレーの柔らかな髪、そして恋しくてたまらなかった甘い香りが、俺を突然包み込む。
「……っ?!……は?グ、グレース……?本当に、グレースなのか……?」
五感でグレースの存在を確認した俺は、その瞬間、ようやく覚醒した。考えるより先に、俺の上に乗っかっている彼女の腰を両腕で抱きしめる。
「ええ!グレースよ!ねぇ、聞いてレイ。私ね……、あなたのことが、好きなの。たとえあなたに自由にしていろと言われても、周りから隣国に嫁げと言われても、私の心にはあなたしかいないわ。あなたがどう思っていようと、私はあなただけが好きよ!」
「…………。」
俺はついに、頭がおかしくなったのだろうか。恋しさのあまり、自分に都合の良い幻覚でも見ているのか……?
だけど、目の前のこの確かな感触が、これが夢でも幻でもないことを俺に伝える。
なぜ、とか、どうしてここに、とか、そんなことはもうどうでもよかった。
「……俺も……俺の方こそ、お前を愛してるよ、グレース。本当はずっと、子どもの頃から、……俺には、お前だけだった」
「……っ!……レイッ……」
俺の上で目を見開いたグレースは、たちまちその美しい紫色の瞳に涙を溜めると、俺の首に両腕を回して強く抱きしめてきた。俺は彼女の首筋に顔をうずめ、艶やかな髪を優しく撫でながら、もう片方の腕で強く強く、その細い体を抱きしめた。
しばらくそうして互いの体温を確かめあった後、どちらからともなく俺たちは見つめあい、そしてゆっくりと唇を重ねた。その瞬間、激しい想いが洪水のように溢れ、俺はグレースの体をくるりと反転させると、ベッドの上に降ろした。そしてより一層強く抱きしめあいながら、俺たちは熱い口づけを交わし、想いをぶつけあった。
(……駆け落ちしよう)
いつまでもグレースの温もりを味わいながら、俺はそう心に決めた。髪を撫で、何度も何度も唇を重ね、少しの隙間もないほどに強く抱きしめあいながら、俺は決意していた。
家族にもエイヴリー侯爵家にも、多大な迷惑をかけることになるだろう。だが、もうグレースを隣国の王子に渡すことなど絶対にできない。一生死にもの狂いで働いて、グレースを養いながら、両家にも金を払い続ける。そんな人生でいい。グレースさえいれば。何もかも失っても、たとえ全てを敵にまわし、皆から恨まれたとしても、俺は──────
そんな風に思い詰めながら、俺は昂る想いのままに、グレースのドレスの裾に手を滑らせた。
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