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48. 違和感
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王都の北方にある王宮は、近づくほどにその荘厳さを増していく。馬車の小窓から、高くそびえる塔と白い石造りの城壁を眺めながら、緊張のために胸が締めつけられるようだった。私はゆっくりと深呼吸を繰り返した。
やがて馬車は、王宮の正門前に到着した。開かれた門から中へと進む。正面扉へ続く階段前で私と侍女が降り立つと、衛兵の一人がすぐさま私たちのそばへとやって来た。
「ハートリー伯爵令嬢でいらっしゃいますね。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
丁寧に一礼すると、衛兵は私たちを案内し、先を歩き出した。そして階段を上り荘厳な扉の前に着いた時、そこに立っていた別の衛兵と侍女に、案内役が代わった。
「ハートリー伯爵令嬢。ようこそお越しくださいました。これより王妃陛下にお目通りいただきます。どうぞ、こちらへ」
二十代後半くらいに見える侍女が、柔和な笑みと言葉で私を出迎えてくれ、少しほっとする。
衛兵とその王宮の侍女、その後ろに私、私の侍女の順で、王宮の中を歩く。これまで数えるほどしか訪れたことのない王宮の荘厳さと、威圧感さえ覚えるきらびやかさに、心臓が早鐘を打ち続ける。
(いよいよこれから、王妃陛下と謁見するのね……)
期待と不安が入り混じる。歩みを進めながら、頭の中で何度もカーテシーの姿勢と王妃陛下への挨拶の言葉を繰り返していた。
長い距離をひたすら歩き続けると、少しずつ周囲の雰囲気が変わってきた。
最初は白い大理石の柱が等間隔に並ぶ、広い回廊だった。けれど、階段を上がって曲がり角を二つ三つと抜けると、先ほどまで頻繁にすれ違っていた侍女や衛兵、文官らしき人たちの往来が徐々に少なくなった。そして、二人の衛兵が入り口に立つ一つの細い通路に入ると、ついに誰もいなくなる。そのまましばらく、真っ直ぐに歩いた。
(……王妃陛下の謁見室って、もっと正面に近い区域にあるものだと思っていたわ……)
胸の奥に、ふっと小さな違和感が灯る。
王宮に詳しいわけではないけれど、この辺りはどこか、私的な空間のような雰囲気があった。こんなところに立ち入るのは初めてだ。
けれど、案内してくれる衛兵と侍女は、迷いのない足取りで私たちを先導していく。
「こちらでございます、ハートリー伯爵令嬢」
ようやく辿り着いた部屋は、豪奢ではあるけれど奥まった静かな一角にあった。小さなサロンに繋がる前室といった雰囲気だ。そのうえ、妙に薄暗い。
部屋の手前で立ち止まった案内役の侍女は、振り返ると私の侍女に向かって声をかけた。
「お付きの侍女様は、あちらの控え室でお待ちいただけますか?」
(……そうか。ここから王妃陛下の御前へは、私一人で行くのね)
衛兵が私の侍女を連れ、今来た道を少し戻り、角を曲がった。そこに控え室があるのだろう。
その後ろ姿を見送った私は、案内役の侍女に促され、部屋の中へと入った。
(……カーテンが閉められているわ……)
薄暗さの一因はこれだった。厚いレースのカーテンが、いくつもある大きな窓全てにかかっている。
ここに来るまでに頭の中で想像していた謁見の雰囲気とはまるで違っていて、得体の知れない不安が胸をよぎった。けれど私は、動揺をおくびにも出さぬよう努めた。
侍女に言われるがまま、椅子に腰かける。彼女は私に一礼すると、入ってきた扉から出て行った。そして扉は閉められ、部屋には私一人になった。
(……あれ……? そういえば、衛兵もいない……)
これから王妃陛下が来られるというのに、扉のところに衛兵がいないことに気付き、私は今度こそ明確な違和感を覚えた。薄暗い部屋の中。一人ぼっちになった私。心臓がざわりと波打ち、突如大きな不安が押し寄せ、息が浅くなる。……一体……これはどういう状況なのだろう……。王妃陛下は本当にここに来られるの……?
そんなことを考えていた、その時だった。
私が入ってきた扉とは別の、奥側の扉が音を立てて開いた。驚いて肩が大きく跳ねる。慌てて立ち上がった私は、祈るような思いでその扉を凝視した。
そして。
「…………っ!」
その扉から姿を現した人物を見た瞬間、息が止まった。
「……ごきげんよう、ロザリンドさん」
数ヶ月ぶりに聞く、その甘く細い声。
けれど、それは私が知っているあの澄んだ声とは、少し違っていた。
まるで何かに取り憑かれたような、生気のない、かすかな淀みを孕んだ声。
自分の指先が急激に冷えていくのを感じながら、私は無意識に、目の前に現れた彼女の名を呟いた。
「……エメライン……王女殿下……」
やがて馬車は、王宮の正門前に到着した。開かれた門から中へと進む。正面扉へ続く階段前で私と侍女が降り立つと、衛兵の一人がすぐさま私たちのそばへとやって来た。
「ハートリー伯爵令嬢でいらっしゃいますね。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
丁寧に一礼すると、衛兵は私たちを案内し、先を歩き出した。そして階段を上り荘厳な扉の前に着いた時、そこに立っていた別の衛兵と侍女に、案内役が代わった。
「ハートリー伯爵令嬢。ようこそお越しくださいました。これより王妃陛下にお目通りいただきます。どうぞ、こちらへ」
二十代後半くらいに見える侍女が、柔和な笑みと言葉で私を出迎えてくれ、少しほっとする。
衛兵とその王宮の侍女、その後ろに私、私の侍女の順で、王宮の中を歩く。これまで数えるほどしか訪れたことのない王宮の荘厳さと、威圧感さえ覚えるきらびやかさに、心臓が早鐘を打ち続ける。
(いよいよこれから、王妃陛下と謁見するのね……)
期待と不安が入り混じる。歩みを進めながら、頭の中で何度もカーテシーの姿勢と王妃陛下への挨拶の言葉を繰り返していた。
長い距離をひたすら歩き続けると、少しずつ周囲の雰囲気が変わってきた。
最初は白い大理石の柱が等間隔に並ぶ、広い回廊だった。けれど、階段を上がって曲がり角を二つ三つと抜けると、先ほどまで頻繁にすれ違っていた侍女や衛兵、文官らしき人たちの往来が徐々に少なくなった。そして、二人の衛兵が入り口に立つ一つの細い通路に入ると、ついに誰もいなくなる。そのまましばらく、真っ直ぐに歩いた。
(……王妃陛下の謁見室って、もっと正面に近い区域にあるものだと思っていたわ……)
胸の奥に、ふっと小さな違和感が灯る。
王宮に詳しいわけではないけれど、この辺りはどこか、私的な空間のような雰囲気があった。こんなところに立ち入るのは初めてだ。
けれど、案内してくれる衛兵と侍女は、迷いのない足取りで私たちを先導していく。
「こちらでございます、ハートリー伯爵令嬢」
ようやく辿り着いた部屋は、豪奢ではあるけれど奥まった静かな一角にあった。小さなサロンに繋がる前室といった雰囲気だ。そのうえ、妙に薄暗い。
部屋の手前で立ち止まった案内役の侍女は、振り返ると私の侍女に向かって声をかけた。
「お付きの侍女様は、あちらの控え室でお待ちいただけますか?」
(……そうか。ここから王妃陛下の御前へは、私一人で行くのね)
衛兵が私の侍女を連れ、今来た道を少し戻り、角を曲がった。そこに控え室があるのだろう。
その後ろ姿を見送った私は、案内役の侍女に促され、部屋の中へと入った。
(……カーテンが閉められているわ……)
薄暗さの一因はこれだった。厚いレースのカーテンが、いくつもある大きな窓全てにかかっている。
ここに来るまでに頭の中で想像していた謁見の雰囲気とはまるで違っていて、得体の知れない不安が胸をよぎった。けれど私は、動揺をおくびにも出さぬよう努めた。
侍女に言われるがまま、椅子に腰かける。彼女は私に一礼すると、入ってきた扉から出て行った。そして扉は閉められ、部屋には私一人になった。
(……あれ……? そういえば、衛兵もいない……)
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そんなことを考えていた、その時だった。
私が入ってきた扉とは別の、奥側の扉が音を立てて開いた。驚いて肩が大きく跳ねる。慌てて立ち上がった私は、祈るような思いでその扉を凝視した。
そして。
「…………っ!」
その扉から姿を現した人物を見た瞬間、息が止まった。
「……ごきげんよう、ロザリンドさん」
数ヶ月ぶりに聞く、その甘く細い声。
けれど、それは私が知っているあの澄んだ声とは、少し違っていた。
まるで何かに取り憑かれたような、生気のない、かすかな淀みを孕んだ声。
自分の指先が急激に冷えていくのを感じながら、私は無意識に、目の前に現れた彼女の名を呟いた。
「……エメライン……王女殿下……」
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