10 / 39
本編
10. 意外な味方
しおりを挟む
「アルト・カーグレイ! 私の邪魔をしないでくださいませ!」
「貴女に呼び捨てされるほど仲が良かった記憶はないんだが? それに、公爵家同士とはいえこちらが上だ。身の程を弁えろ」
呑気な声の主、カーグレイ公爵家のアルト様。彼は宰相閣下の息子で、次期宰相になることが決まっているお方だ。
貴族なら明るい髪色という例に漏れず、明るいブロンドの髪に全てを見渡しているかのような透き通った空色の瞳。
スラリとした体躯でありながら、騎士団長をも凌駕するという実力の持ち主で、お顔も文句のつけようがないほどに整っている。魔法は火属性しか使えないけれど、それを凌駕するほどの才能があるらしい。
一言で言えば、美男。
外に出れば女性の目を引いてやまないアルト様だけれど、婚約者は未だにいない。
その理由は、彼自身が「女性を愛することは出来ない」と公言しているから。
女性嫌いなのか、それとも男色なのか。貴族の間では意見が割れている。
そんなアルト様は大の戦闘好きで、よく魔物狩りに行っていると有名だ。
それでいて頭も冴えるという。
戦うことが大好きなお方だから、私達の騒ぎを見て吸い寄せられたのね……。
「決闘は面白そうだが……」
そう呟き、私を包囲しようとしていた方々に視線を向けるアルト様。
すっかり静まり返ってしまったこの場所で、彼はこう言葉を続けた。
「いくらなんでも君たちが1つの属性しか魔法を扱えない上に、剣の腕も無に等しいからと言って、相手がソフィア嬢1人だけというのは感心しないな。
それとも、そこまでしないと勝てないほど君達は無能なのか? 同じ男として恥ずかしいな」
心底うんざりした、と言った様子のアルト様。
けれども目は笑っていて、この状況を楽しんでいるというのが察せられる。
ちなみにだけど、魔法の適性が1属性しかないというのはセレスティア様も例外ではない。
彼女は闇属性しか扱えないから。
「いえ、そうではありません。
そのソフィア嬢がリエル嬢を虐め、ひどく傷つけていたのはご存知ですか? これはその罰なのです」
「へぇ? 精霊に愛されているソフィア嬢が虐めねぇ……。
その戯言、精霊への冒涜だとは思わない?」
その手があったのね……。
私が少し感心していると、別の声が聞こえてきた。
「アルト、お前がご令嬢に関わるとは珍しいな? 野獣のような心が刺激されたか?
間違っても襲うなよ? あ、お前は女性嫌いなんだっけ? それなら心配いらないな」
「殿下、口が悪いですわよ」
「アリス、そろそろレオンって呼んでくれてもいいんだよ?」
「話を逸らさないでください」
アルト様を馬鹿にするような口調で言い放つそのお方は、貴族でも平民でも誰もが知っているレオン・エスプリ王太子殿下だ。
そんなお方に苦言を呈しているのは私の親友のアリスなのだけれど……堂々と言って大丈夫なのかしら?
少し不安になってしまった。
「レオン、俺のことをなんだと思ってる?」
「戦闘狂の変人」
「くっ、言い返す言葉がねぇ」
「で、これどういう状況?」
アルト様にそう問いかける殿下。
その問いに、アルト様はこう返した。
「あー、この8人がソフィア嬢と決闘したいんだって。精霊の愛し子と無能の戦い、見てみたいだろ?」
「ソフィア嬢の魔法は綺麗だから見てみたいが、彼らの魔法は見たくないな……」
「いや、魔法もそうだけど、決闘って楽しいだろ? あ、そうだ。俺がコイツらと戦えばいいのか」
「「ヒッ……」」
次期国王と次期宰相の会話がこれって、頭が痛いわ……。
将来、戦争ばかりする国になったりしないわよね? アリスに念押しした方がいいかしら?
今の私が嵌められかけている危ない状況だという自覚はあるのだけれど、別の不安を感じずにはいられなかった。
「貴女に呼び捨てされるほど仲が良かった記憶はないんだが? それに、公爵家同士とはいえこちらが上だ。身の程を弁えろ」
呑気な声の主、カーグレイ公爵家のアルト様。彼は宰相閣下の息子で、次期宰相になることが決まっているお方だ。
貴族なら明るい髪色という例に漏れず、明るいブロンドの髪に全てを見渡しているかのような透き通った空色の瞳。
スラリとした体躯でありながら、騎士団長をも凌駕するという実力の持ち主で、お顔も文句のつけようがないほどに整っている。魔法は火属性しか使えないけれど、それを凌駕するほどの才能があるらしい。
一言で言えば、美男。
外に出れば女性の目を引いてやまないアルト様だけれど、婚約者は未だにいない。
その理由は、彼自身が「女性を愛することは出来ない」と公言しているから。
女性嫌いなのか、それとも男色なのか。貴族の間では意見が割れている。
そんなアルト様は大の戦闘好きで、よく魔物狩りに行っていると有名だ。
それでいて頭も冴えるという。
戦うことが大好きなお方だから、私達の騒ぎを見て吸い寄せられたのね……。
「決闘は面白そうだが……」
そう呟き、私を包囲しようとしていた方々に視線を向けるアルト様。
すっかり静まり返ってしまったこの場所で、彼はこう言葉を続けた。
「いくらなんでも君たちが1つの属性しか魔法を扱えない上に、剣の腕も無に等しいからと言って、相手がソフィア嬢1人だけというのは感心しないな。
それとも、そこまでしないと勝てないほど君達は無能なのか? 同じ男として恥ずかしいな」
心底うんざりした、と言った様子のアルト様。
けれども目は笑っていて、この状況を楽しんでいるというのが察せられる。
ちなみにだけど、魔法の適性が1属性しかないというのはセレスティア様も例外ではない。
彼女は闇属性しか扱えないから。
「いえ、そうではありません。
そのソフィア嬢がリエル嬢を虐め、ひどく傷つけていたのはご存知ですか? これはその罰なのです」
「へぇ? 精霊に愛されているソフィア嬢が虐めねぇ……。
その戯言、精霊への冒涜だとは思わない?」
その手があったのね……。
私が少し感心していると、別の声が聞こえてきた。
「アルト、お前がご令嬢に関わるとは珍しいな? 野獣のような心が刺激されたか?
間違っても襲うなよ? あ、お前は女性嫌いなんだっけ? それなら心配いらないな」
「殿下、口が悪いですわよ」
「アリス、そろそろレオンって呼んでくれてもいいんだよ?」
「話を逸らさないでください」
アルト様を馬鹿にするような口調で言い放つそのお方は、貴族でも平民でも誰もが知っているレオン・エスプリ王太子殿下だ。
そんなお方に苦言を呈しているのは私の親友のアリスなのだけれど……堂々と言って大丈夫なのかしら?
少し不安になってしまった。
「レオン、俺のことをなんだと思ってる?」
「戦闘狂の変人」
「くっ、言い返す言葉がねぇ」
「で、これどういう状況?」
アルト様にそう問いかける殿下。
その問いに、アルト様はこう返した。
「あー、この8人がソフィア嬢と決闘したいんだって。精霊の愛し子と無能の戦い、見てみたいだろ?」
「ソフィア嬢の魔法は綺麗だから見てみたいが、彼らの魔法は見たくないな……」
「いや、魔法もそうだけど、決闘って楽しいだろ? あ、そうだ。俺がコイツらと戦えばいいのか」
「「ヒッ……」」
次期国王と次期宰相の会話がこれって、頭が痛いわ……。
将来、戦争ばかりする国になったりしないわよね? アリスに念押しした方がいいかしら?
今の私が嵌められかけている危ない状況だという自覚はあるのだけれど、別の不安を感じずにはいられなかった。
257
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。
有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。
けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。
絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。
「君は決して平凡なんかじゃない」
誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。
政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。
玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。
「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」
――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
【完結】傲慢にも程がある~淑女は愛と誇りを賭けて勘違い夫に復讐する~
Ao
恋愛
由緒ある伯爵家の令嬢エレノアは、愛する夫アルベールと結婚して三年。幸せな日々を送る彼女だったが、ある日、夫に長年の愛人セシルがいることを知ってしまう。
さらに、アルベールは自身が伯爵位を継いだことで傲慢になり、愛人を邸宅に迎え入れ、エレノアの部屋を与える暴挙に出る。
挙句の果てに、エレノアには「お飾り」として伯爵家の実務をこなさせ、愛人のセシルを実質の伯爵夫人として扱おうとする始末。
深い悲しみと激しい屈辱に震えるエレノアだが、淑女としての誇りが彼女を立ち上がらせる。
彼女は社交界での人脈と、持ち前の知略を駆使し、アルベールとセシルを追い詰める貴族らしい復讐を誓うのであった。
私は王子の婚約者にはなりたくありません。
黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。
愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。
いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。
そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。
父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。
しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。
なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。
さっさと留学先に戻りたいメリッサ。
そこへ聖女があらわれて――
婚約破棄のその後に起きる物語
幸運を織る令嬢は、もうあなたを愛さない
法華
恋愛
婚約者の侯爵子息に「灰色の人形」と蔑まれ、趣味の刺繍まで笑いものにされる伯爵令嬢エリアーナ。しかし、彼女が織りなす古代の紋様には、やがて社交界、ひいては王家さえも魅了するほどの価値が秘められていた。
ある日、自らの才能を見出してくれた支援者たちと共に、エリアーナは虐げられた過去に決別を告げる。
これは、一人の気弱な令嬢が自らの手で運命を切り開き、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転の物語。彼女が「幸運を織る令嬢」として輝く時、彼女を見下した者たちは、自らの愚かさに打ちひしがれることになる。
《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法
本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。
ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。
……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?
やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。
しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。
そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。
自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる