13 / 39
本編
13. 善にも悪にも
しおりを挟む
午後は普段通りに講義を受けたけれど、内容は全く頭に入ってこなかった。
ケヴィン様よりも心を許していたアリスに拒絶されたことがショックすぎて、何をしても手につかない。
違和感は感じているけれど、一度拒絶されてしまったという事実に変わりはない。
アリス以外の人に相談すればいいかもしれない。でも、それは出来ない。
家族は別だけれど、学院にいる人達は信用できないから。
何か弱みを見せれば、すぐに付け込もうとしてくる。
相談すれば代価を要求してくる。
一応は友人と言える人はいるのだけれど、こういう理由で信用なんて欠片もしていない。
「ソフィア様、今度はアリス様に嫌われたみたいね」
「見ましたわ。冷徹令嬢でもあんな表情を浮かべますのね」
「でも、今はあんなことがあったとは思えない無表情ですわね」
陰口も耳に入ってくるけれど、何も響かない。
セレスティア様が怪しいのは分かっていても私に何か出来る相手じゃない。
八方塞がりとはまさにこのことね。
ため息をぐっと堪えて、迎えの馬車との待ち合わせ場所に向かう。
でも、その途中で声をかけられてしまった。
「ソフィア嬢、話したいことがある。この後すぐに王宮に来て欲しい」
「分かりましたわ。また後ほど。
アリスに見つかると良くないことになりそうですので、これで……」
「ああ」
声の主は王太子殿下だった。
十中八九アリスの異変についてだと思うけれど、彼も突然変わってしまったら?
その時は私に未来は無いと思った方が良さそうね……。
覚悟を決めてから、私は御者にこう指示を出した。
「屋敷に戻る前に王宮に寄りたいのだけれど、いいかしら?」
「畏まりました。約束は取り付けてありますか?」
「ええ、もちろん」
頷くと、馬車が揺れ始めた。
それに遅れて、侍女からこんな問いかけをされた。
「それにしても、突然ですね? 何かありましたか?」
「今日のお昼なんだけど、アリスの様子が急におかしくなって、拒絶されてしまったの」
「拒絶、ですか?」
問い返してくる侍女。
不思議に思うのも仕方ないと思う。アリスと私の仲が悪くなることは今まで一度もなかったから。
喧嘩をすることはあったけれど、数日もすれば仲直りしていた。
拒絶することなんて一度も無かった。
「ええ、近寄らないでって言われてしまったわ。まるで私を怖がってるような……そんな感じかしら?」
「そんなことが……。何か恐怖心を煽るようなことでも刷り込まれたのでしょうか?」
「分からないわ。でも、誰かに操られてる気配も無かったのよね……」
法で禁じられてはいるけれど、残念なことに他人を操る魔法というものは存在している。
けれど、アリスにその魔法をかけられた気配は無かった。
「お嬢様はご存知ではないかもしれませんが、それ以外にも拒絶の原因になる魔法もあるのですよ」
「どんな魔法かしら?」
「口で説明するよりも試す方が早いと思うのですが……恐怖を感じさせる魔法をかけても良いでしょうか?」
侍女の提案に頷く私。
それから、普段から貼っている他人からの魔法に抵抗するための防御魔法を弱めた。
その瞬間だった。
手にしている鞄がおぞましい化け物に感じられたのは。
この鞄は私のことを丸呑みにしてきた化け物……。
このままだと私は……。
「いやっ……」
咄嗟に全力で防御魔法を使って、鞄を放り投げる私。
確かに拒絶したけれど、こんなものでアリスが私を拒絶するとは思えないわ……。
「私に出来るのはこれくらいですけど、もっと力のある方なら他にも出来ると思います。今お見せしたのは、偽の記憶を作り出して惑わす闇属性の魔法ですね」
「もしかして、貴女が子爵家を追い出されたのって……」
「ええ、この魔法が原因です。気味が悪いと思われても仕方ありませんから」
使い方によっては気味が悪い魔法かもしれない。
でも、使い方次第では他人の悩みを消せる奇跡みたいな魔法になるはずだわ。
「確かに怖かったけれど、楽しい記憶を作ることもできるのよね?」
「ええ、当然でございます」
「それって凄いことだと思うの。公言は出来ないけれど、その魔法は誇っていいと思うわ」
どの魔法にも言えることだけれど、使い方次第で善にも悪にもなる。
私が信用している侍女だから、道を踏み外すことはないはず……。
ケヴィン様よりも心を許していたアリスに拒絶されたことがショックすぎて、何をしても手につかない。
違和感は感じているけれど、一度拒絶されてしまったという事実に変わりはない。
アリス以外の人に相談すればいいかもしれない。でも、それは出来ない。
家族は別だけれど、学院にいる人達は信用できないから。
何か弱みを見せれば、すぐに付け込もうとしてくる。
相談すれば代価を要求してくる。
一応は友人と言える人はいるのだけれど、こういう理由で信用なんて欠片もしていない。
「ソフィア様、今度はアリス様に嫌われたみたいね」
「見ましたわ。冷徹令嬢でもあんな表情を浮かべますのね」
「でも、今はあんなことがあったとは思えない無表情ですわね」
陰口も耳に入ってくるけれど、何も響かない。
セレスティア様が怪しいのは分かっていても私に何か出来る相手じゃない。
八方塞がりとはまさにこのことね。
ため息をぐっと堪えて、迎えの馬車との待ち合わせ場所に向かう。
でも、その途中で声をかけられてしまった。
「ソフィア嬢、話したいことがある。この後すぐに王宮に来て欲しい」
「分かりましたわ。また後ほど。
アリスに見つかると良くないことになりそうですので、これで……」
「ああ」
声の主は王太子殿下だった。
十中八九アリスの異変についてだと思うけれど、彼も突然変わってしまったら?
その時は私に未来は無いと思った方が良さそうね……。
覚悟を決めてから、私は御者にこう指示を出した。
「屋敷に戻る前に王宮に寄りたいのだけれど、いいかしら?」
「畏まりました。約束は取り付けてありますか?」
「ええ、もちろん」
頷くと、馬車が揺れ始めた。
それに遅れて、侍女からこんな問いかけをされた。
「それにしても、突然ですね? 何かありましたか?」
「今日のお昼なんだけど、アリスの様子が急におかしくなって、拒絶されてしまったの」
「拒絶、ですか?」
問い返してくる侍女。
不思議に思うのも仕方ないと思う。アリスと私の仲が悪くなることは今まで一度もなかったから。
喧嘩をすることはあったけれど、数日もすれば仲直りしていた。
拒絶することなんて一度も無かった。
「ええ、近寄らないでって言われてしまったわ。まるで私を怖がってるような……そんな感じかしら?」
「そんなことが……。何か恐怖心を煽るようなことでも刷り込まれたのでしょうか?」
「分からないわ。でも、誰かに操られてる気配も無かったのよね……」
法で禁じられてはいるけれど、残念なことに他人を操る魔法というものは存在している。
けれど、アリスにその魔法をかけられた気配は無かった。
「お嬢様はご存知ではないかもしれませんが、それ以外にも拒絶の原因になる魔法もあるのですよ」
「どんな魔法かしら?」
「口で説明するよりも試す方が早いと思うのですが……恐怖を感じさせる魔法をかけても良いでしょうか?」
侍女の提案に頷く私。
それから、普段から貼っている他人からの魔法に抵抗するための防御魔法を弱めた。
その瞬間だった。
手にしている鞄がおぞましい化け物に感じられたのは。
この鞄は私のことを丸呑みにしてきた化け物……。
このままだと私は……。
「いやっ……」
咄嗟に全力で防御魔法を使って、鞄を放り投げる私。
確かに拒絶したけれど、こんなものでアリスが私を拒絶するとは思えないわ……。
「私に出来るのはこれくらいですけど、もっと力のある方なら他にも出来ると思います。今お見せしたのは、偽の記憶を作り出して惑わす闇属性の魔法ですね」
「もしかして、貴女が子爵家を追い出されたのって……」
「ええ、この魔法が原因です。気味が悪いと思われても仕方ありませんから」
使い方によっては気味が悪い魔法かもしれない。
でも、使い方次第では他人の悩みを消せる奇跡みたいな魔法になるはずだわ。
「確かに怖かったけれど、楽しい記憶を作ることもできるのよね?」
「ええ、当然でございます」
「それって凄いことだと思うの。公言は出来ないけれど、その魔法は誇っていいと思うわ」
どの魔法にも言えることだけれど、使い方次第で善にも悪にもなる。
私が信用している侍女だから、道を踏み外すことはないはず……。
206
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。
有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。
けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。
絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。
「君は決して平凡なんかじゃない」
誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。
政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。
玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。
「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」
――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。
最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜
腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。
「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。
エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
【完結】傲慢にも程がある~淑女は愛と誇りを賭けて勘違い夫に復讐する~
Ao
恋愛
由緒ある伯爵家の令嬢エレノアは、愛する夫アルベールと結婚して三年。幸せな日々を送る彼女だったが、ある日、夫に長年の愛人セシルがいることを知ってしまう。
さらに、アルベールは自身が伯爵位を継いだことで傲慢になり、愛人を邸宅に迎え入れ、エレノアの部屋を与える暴挙に出る。
挙句の果てに、エレノアには「お飾り」として伯爵家の実務をこなさせ、愛人のセシルを実質の伯爵夫人として扱おうとする始末。
深い悲しみと激しい屈辱に震えるエレノアだが、淑女としての誇りが彼女を立ち上がらせる。
彼女は社交界での人脈と、持ち前の知略を駆使し、アルベールとセシルを追い詰める貴族らしい復讐を誓うのであった。
私は王子の婚約者にはなりたくありません。
黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。
愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。
いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。
そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。
父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。
しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。
なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。
さっさと留学先に戻りたいメリッサ。
そこへ聖女があらわれて――
婚約破棄のその後に起きる物語
幸運を織る令嬢は、もうあなたを愛さない
法華
恋愛
婚約者の侯爵子息に「灰色の人形」と蔑まれ、趣味の刺繍まで笑いものにされる伯爵令嬢エリアーナ。しかし、彼女が織りなす古代の紋様には、やがて社交界、ひいては王家さえも魅了するほどの価値が秘められていた。
ある日、自らの才能を見出してくれた支援者たちと共に、エリアーナは虐げられた過去に決別を告げる。
これは、一人の気弱な令嬢が自らの手で運命を切り開き、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転の物語。彼女が「幸運を織る令嬢」として輝く時、彼女を見下した者たちは、自らの愚かさに打ちひしがれることになる。
《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法
本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。
ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。
……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?
やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。
しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。
そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。
自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる