申し訳ございません。あいにく先約がございまして。

ハリネズミ

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申し訳ございません。あいにく先約がございまして。

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退社後考え事をして歩いていたら無意識のうちに多岐商事の近所まで来てしまっていた。
その事に気づき、帰らなきゃと思うが足が動かない。
ただ茫然と多岐商事のエントランスの方を見ていた。
そうしていると、三木が出てくるのが見えた。一人だった。

今日は多岐と食事に行かないのかな?
それとも待ち合わせとか?

そこまで考えて俺は頭を振る。
何やってんだ俺。
今度こそ帰ろうと歩き出すと後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。

振り向くと多岐が立っていた。少し息を切らしている。
俺を見つけて走ってきてくれた?
なんてことはないか。

「多岐さん……」
「日下さん!」
多岐は心配そうにまじまじと俺の全身を見ていた。
「もう大丈夫なんですか?」
はて?大丈夫とは?
「三木さんに日下さんがお怪我をされたので担当を代わったとお聞きしまして」
尚も全身をくまなく見ながら触って確かめたいのだろうか両手を彷徨わせる。
無遠慮に触ってしまわないのは育ちのよさゆえか。
思わずくすりと笑ってしまった。

「―――あの…?」
俺の様子に怪訝そうな顔をする。
「いえ、大丈夫ですよ。ご心配をおかけしました」
ぺこりと頭を下げる。
「よかったぁ」
心底安心したように笑顔を見せる多岐。

あぁ、何だか……なんだか―――――心がむずむずする。

「多岐さん!」
三木の声だった。
すごく慌てた顔をしていた。いるはずのない俺をみつけて動揺しているようだった。
「日下っ今日は俺たち、用事がある、から、気を付けて、帰れよ?」
三木にしては珍しくどもり気味に言った。かなり焦っているようだ。
そして、俺や多岐が何か言う前に多岐の腕を掴んでどこかへ行ってしまった。


一人残された俺はひどく心が痛んだ。
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