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第109話 筑波ダンジョン20階層
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16階層で一夜を明かした聡史たちはアラームの音で起きだして、現在朝食を摂っている最中。
「聡史、ここから先は私たちに任せてちょうだい。あなたたちの手を借りていては、自分たちが攻略したと胸を張れないわ」
「いいぞ、マギーたちのお手並みを拝見する。手が足りなくなったら声を掛けてくれ。そもそも三人しかいないんだろう」
「確かにねぇ~… アンデッドと相性が悪かっただけで他の魔物に対してけっして引け目はとらないと言いたいところだけど、これから先には場合によっては人手が足りなくなる場面があるかもしれないわね」
「お兄様、私が臨時でマギーさんたちのパーティーに加わりましょうか?」
「マギー、どうする?」
「そうね… 念のために桜を借りましょうか」
「お任せくださいませ。とはいっても余計な手は出しませんから、お三人でまずは魔物と当たってみてください」
こうして話がまとまると、桜を加えたマギーたちが先に出発していく。聡史たちは先行するマギーたちとは別ルートで下層に降りていく階段を目指すこととなった。
マギーたちは野営していた安全地帯から真っ直ぐに階段に向かうルートを進んでいる。
「この階層はもうアンデッドは出てきそうもないですね」
「大山ダンジョンでは爬虫類系の魔物が多い階層でしたわ」
「となると、ここも爬虫類系の魔物が出てくる公算が高そうね」
「ヘビは苦手ですぅ」
フィオが切り出した話題にそれぞれが乗っかって会話が弾んでいる。桜が加わったからといってギクシャクするようなムードは感じられない。
というよりも、マリアがヘビが苦手という話に桜が吹き出している。それは美鈴のヘビ嫌いを思い出したためのよう。大魔王となった今でもヘビを見ると「イヤァァァ!」と悲鳴を上げながら闇魔法で消し炭にしている姿が桜にとっては笑いのツボらしい。元を正せば子供の頃の桜のイタズラが原因であるが、その件はこの際思いっきり棚の上に載せている。
こんな感じで特に気負った様子もなく通路を歩いていると、前方からグリーンバイパーが体をくねらせながら姿を見せる。
「やっぱりヘビは嫌ですぅ」
マリアを目を閉じてその場にしゃがみ込んでいる。魔法を撃ち出す余裕もなさそうなその態度から察するに、どうやら美鈴よりも重症のヘビ嫌いのよう。ひょっとすると明日香ちゃんのお化け嫌いに匹敵するかもしれない。
「フィオ、魔法でやっつけて!」
「ええ、凍らせてしまいましょう。久遠の氷と止まぬ吹雪よ、この場に顕現せよ!」
フィオの詠唱に応えて通路には猛烈な吹雪と氷の礫が発生して、床を這ってこちらに向かってくる魔物に吹き付けていく。たちどころにグリーンバイパーの凍った彫像がその場に出来上がる。
「いい感じの氷魔法ですねぇ~。フィオさん、さすがはヨーロッパの魔法の名門だけありますわ」
「まだまだ未熟です」
桜が珍しく他人を褒めている。これだけのレベルの氷魔法を操る存在は、桜がかつて異世界で行動を共にした大賢者しか知らない。もっとも大賢者のほうが数段レベルは高いのだが…
こうしてマギーのパーティーは、さして桜の応援を得るまでもなく待ち合わせ場所の下層へ降りていく階段へと到着する。すると、彼女たちが通ってきた通路とは別の方向から声が響く。
「明日香もヤル時はヤルんだな。あんなデカいトカゲをひと突きで倒すなんて、なんだか見直したぜ」
「美晴ちゃん、私だって伊達に桜ちゃんに鍛えられてはいませんからね。あの程度の魔物なんていいカモですよ~」
どうやら美晴が明日香ちゃんの活躍を褒めているよう。かと思えば…
「師匠、美鈴さんが怖かったです」
「ほのか、それは間違っているぞ。美鈴はヘビが怖いから普段の10倍くらい攻撃的になっていただけだ」
「聡史君、誤解しないでよ! 怖いんじゃなくって、目の前にヘビがいるのが我慢できなかっただけよ」
聡史の話し振りからして、グリーンバイパーを見てしゃがみ込んでしまったマリアとは違って、美鈴はダークフレイムを撃ちまくって消し炭にしていたよう。怖がりながらも、行動そのものはやっぱり大魔王様というほかない。
「お兄様、お待ちしてましたわ」
「お待たせ、色々と有意義だったぞ」
ブルーホライズンたちはこの筑波ダンジョンに入ってからすでに7回レベルアップしており、レベル40という大台も見えてきている。レベルアップと同時に徐々に彼女たちの能力が上昇しており、美鈴やカレンのフォローを得ながらも16階層の魔物たちを次々に屠れるようになってきている。
待ち合わせして再び合流した一行は、さらに下の階層を目指していく。下層に降りる階段を一緒に下って、再び別行動に移る。17階層ではオーガの集団が出現してくる。ここでも桜はマギーたちに付いていき、聡史たちはマギーたちとは違う通路を進んでいくと、そこには…
「デカい鬼だなぁ~!」
美晴が目を見張って出現したオーガを見上げている。
「このくらい大した敵じゃないですよ~」
相手が戦い慣れたオーガとあって、明日香ちゃんが自信満々の表情でトライデントを構えて突進していく。
「えいっ! それっ!」
トライデントを横薙ぎにしてオーガの巨体を壁に叩き付けると、魔物が起き上がらないうちにその首元にトライデントを突き刺していく。たったこれだけでオーガを討伐する明日香ちゃんの姿にブルーホライズンたちは目を丸くする。
「あ、明日香は本気になると凄いんだな~」
「日頃はダラダラしているから、こうして活躍する場面を見ると別人みたいね」
「普段の姿からついつい忘れがちだけど、これでも一応八校戦の優勝者でしたね」
「パフェを食べてブクブク太っているだけだと思ってたわ」
「体重か? 体重がパワーを生み出しているのか?」
「褒める時はちゃんと褒めろぉぉ!」
最後に明日香ちゃんがキレている。歯に衣を着せぬ発言がこれだけブルーホライズンの間で飛び交うと、さすがに明日香ちゃんとしても黙っていられなかったよう。とはいえ、いかに日頃の行いが他人の見る目に影響を与えるかというまたとない見本がここにある。明日香ちゃん、どうか常日頃の言動をもうちょっと見直してはもらえないだろうか。
オーガを蹴散らしながら階層を突破していくと、昼前には20階層に到着する。マギーたちとは階層ボスの部屋の前で待ち合わせの約束をしている。
「この調子だと、階層ボスはオーガキングで間違いなさそうだな」
「大山ダンジョンとはちょっと順番が違うみたいね」
聡史の予想に美鈴が同意している。大山では15階層のボスがオーガキングで、20階層ではリッチという順番だったが、ダンジョンによってこの辺はまちまちなのだろう。どちらにしても並みの冒険者には強敵に違いはない。
そしてボス部屋の前に聡史たちが到着すると…
「待っていたわよ」
「すまなかったな。やはりこちらのルートのほうがやや遠回りになるようだ」
先に到着していたマギーたちに出迎えられる聡史たち。この場で相談が始まる。
「ボスは私たちの手で仕留めるわ。いいかしら?」
「問題ない。助けが必要になったら言ってくれ」
「オーケー! それじゃあ中に入るわよ」
こうしてボス部屋に入っていくと、中で待ち受けているのはやはりオーガキングと手下たち。マギーたち3人が前進すると、手下のオーガが獰猛な雄叫びを上げながら襲い掛かってくる。
「アイスバレット!」
「ウインドエッジですぅ!」
フィオとマリアの魔法がオーガの突進を食い止めると、そこにマギーが単独で襲い掛かる。彼女の両拳にはトゲ付きのメリケンサックが嵌められている。
ドガッ! バキッ! グシャッ! バコバコッ!
手足を自在に動かして、さながら舞うようにマギーは下っ端のオーガを倒していく。もちろん桜の体捌きには及ばないものの、それは全米ナンバーワンの名に恥じない華麗な戦い方に映る。
マギーが下っ端を片づけている間に、今度は標的を変えたフィオとマリアがオーガキングに向けて相次いで魔法を放っていく。
グガァァァァ!
体に命中した魔法にオーガキングは苦しそうな叫びを上げているが、ふたりはなおも追撃の魔法を放っていく。
「アイスアロー!」
「ウインドカッター!」
すでに体中を切り刻まれて、その分厚い皮膚を食い破るように氷の槍が突き刺さっているが、オーガキングはその有り余る生命力で魔法を放っている二人に向かって突進を開始する。
「そうはいかないわよ!」
オーガキングが走り出す真横から、マギーがドロップキックをぶちかます。こんなド派手な一撃を食らうなんて、オーガキングにしたら堪ったものではないだろう。
グオォォォォ!
死角からの不意打ちを食らって真横に吹き飛ばされたオーガキング。さすがはマギー、レベルが間もなく200に到達しようという底力をいかんなく発揮している。
「いいキックが入りましたわね。オーガキングの首が逝ってしまったでしょう」
「さすがは全米ナンバーワンだけのことはあるな」
「まあ、私でしたら捻りを加えて錐揉み状態でより高い威力を出していましたが」
「変な対抗意識を燃やすんじゃない!」
兄妹がマギーの体術を討論している。その間にオーガキングは、桜の言葉通り床に吹き飛ばされて体を痙攣させている。
こうして20階層のボスを倒すと、大山ダンジョンと同様に転移魔法陣が現れる。
「この魔法陣は何なのかしら?」
「階層を転移可能な魔法陣だ。この魔法陣で1階層に戻ったり、自分が進んだ階層に再び直行可能となる」
マギーの質問に聡史が答えている。この転移魔法陣を出現させるのが今回の聡史の目的だといっても過言ではない。
「まあ、それは便利になりますね」
「そうだな。したがってこの場所までいつでも来れるようになった。今回の攻略はここまでとして、一旦地上に戻ろうか」
フィオにはこの転移魔法陣がもたらす意義がすぐに理解できたよう。もちろんマギーとマリアもその有効性が徐々に理解されてきたよう。
「なるほど、この階層にすぐに来ることができるなら次はここからスタートできるのね。いいわ、今回はここまでにしましょう。今ならまだ明るいうちに外に出られるし、昼食は食堂で摂れるわ」
「昨日のバーベキューも捨てがたいですぅ。でもダンジョンの緊張感から早く解放されたいですぅ」
「今回はここまで」という聡史の説明にマギーも納得したよう。ただしマリアはフィールドステージで味わったステーキの味が忘れられないらしい。まあ、これは次回のお楽しみにしてもらおう。
これにて今回の筑波ダンジョン攻略は一旦お開きとなって、一行は魔法陣に乗って1階層へと戻っていく。
やや遅くなった昼食をマギーたちと共にすると、聡史たちはバスに乗って第4魔法学院を発つ。電車を乗り継いで伊勢原へと向かうが、車内で口を開けて寝ている明日香ちゃんの側から一人二人と座席を移っていったのは、本人には内緒の話。
夕方になる前に大山の魔法学院に戻ってくると、カレンが母親である学院長に連絡を入れる。
「カレン、今頃どうした?」
「筑波ダンジョンを20階層まで攻略して、たった今戻ってきました」
「そこに楢崎兄はいるか?」
「はい、替わります」
カレンからスマホを受け取った聡史が通話に出ると…
「もしもし、楢崎です」
「楢崎准尉、私の言葉を覚えているか?」
「学院長の言葉? えーと、なんでしたっけ?」
「筑波ダンジョンのラスボスを倒すまで帰ってくるなと言っただろうがぁぁ!」
「ええええ! あれって冗談じゃなかったんですか?」
「私が冗談を口にする人間だと思っているのか?」
「お、思っていません」
「それではたった今から回れ右をして、筑波に戻れ!」
「さすがにそれは厳しいのではないでしょうか。来週こそはラスボスを倒してきますから、今日のところはこれで勘弁してください」
「よし、いいだろう。来週はいい報告が聞けると楽しみにしているぞ」
「は、はい! 必ず吉報をお届けします」
こうして聡史たちは、学院長の無茶振りによって来週末も筑波ダンジョンに挑むこととなるのであった。
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「聡史、ここから先は私たちに任せてちょうだい。あなたたちの手を借りていては、自分たちが攻略したと胸を張れないわ」
「いいぞ、マギーたちのお手並みを拝見する。手が足りなくなったら声を掛けてくれ。そもそも三人しかいないんだろう」
「確かにねぇ~… アンデッドと相性が悪かっただけで他の魔物に対してけっして引け目はとらないと言いたいところだけど、これから先には場合によっては人手が足りなくなる場面があるかもしれないわね」
「お兄様、私が臨時でマギーさんたちのパーティーに加わりましょうか?」
「マギー、どうする?」
「そうね… 念のために桜を借りましょうか」
「お任せくださいませ。とはいっても余計な手は出しませんから、お三人でまずは魔物と当たってみてください」
こうして話がまとまると、桜を加えたマギーたちが先に出発していく。聡史たちは先行するマギーたちとは別ルートで下層に降りていく階段を目指すこととなった。
マギーたちは野営していた安全地帯から真っ直ぐに階段に向かうルートを進んでいる。
「この階層はもうアンデッドは出てきそうもないですね」
「大山ダンジョンでは爬虫類系の魔物が多い階層でしたわ」
「となると、ここも爬虫類系の魔物が出てくる公算が高そうね」
「ヘビは苦手ですぅ」
フィオが切り出した話題にそれぞれが乗っかって会話が弾んでいる。桜が加わったからといってギクシャクするようなムードは感じられない。
というよりも、マリアがヘビが苦手という話に桜が吹き出している。それは美鈴のヘビ嫌いを思い出したためのよう。大魔王となった今でもヘビを見ると「イヤァァァ!」と悲鳴を上げながら闇魔法で消し炭にしている姿が桜にとっては笑いのツボらしい。元を正せば子供の頃の桜のイタズラが原因であるが、その件はこの際思いっきり棚の上に載せている。
こんな感じで特に気負った様子もなく通路を歩いていると、前方からグリーンバイパーが体をくねらせながら姿を見せる。
「やっぱりヘビは嫌ですぅ」
マリアを目を閉じてその場にしゃがみ込んでいる。魔法を撃ち出す余裕もなさそうなその態度から察するに、どうやら美鈴よりも重症のヘビ嫌いのよう。ひょっとすると明日香ちゃんのお化け嫌いに匹敵するかもしれない。
「フィオ、魔法でやっつけて!」
「ええ、凍らせてしまいましょう。久遠の氷と止まぬ吹雪よ、この場に顕現せよ!」
フィオの詠唱に応えて通路には猛烈な吹雪と氷の礫が発生して、床を這ってこちらに向かってくる魔物に吹き付けていく。たちどころにグリーンバイパーの凍った彫像がその場に出来上がる。
「いい感じの氷魔法ですねぇ~。フィオさん、さすがはヨーロッパの魔法の名門だけありますわ」
「まだまだ未熟です」
桜が珍しく他人を褒めている。これだけのレベルの氷魔法を操る存在は、桜がかつて異世界で行動を共にした大賢者しか知らない。もっとも大賢者のほうが数段レベルは高いのだが…
こうしてマギーのパーティーは、さして桜の応援を得るまでもなく待ち合わせ場所の下層へ降りていく階段へと到着する。すると、彼女たちが通ってきた通路とは別の方向から声が響く。
「明日香もヤル時はヤルんだな。あんなデカいトカゲをひと突きで倒すなんて、なんだか見直したぜ」
「美晴ちゃん、私だって伊達に桜ちゃんに鍛えられてはいませんからね。あの程度の魔物なんていいカモですよ~」
どうやら美晴が明日香ちゃんの活躍を褒めているよう。かと思えば…
「師匠、美鈴さんが怖かったです」
「ほのか、それは間違っているぞ。美鈴はヘビが怖いから普段の10倍くらい攻撃的になっていただけだ」
「聡史君、誤解しないでよ! 怖いんじゃなくって、目の前にヘビがいるのが我慢できなかっただけよ」
聡史の話し振りからして、グリーンバイパーを見てしゃがみ込んでしまったマリアとは違って、美鈴はダークフレイムを撃ちまくって消し炭にしていたよう。怖がりながらも、行動そのものはやっぱり大魔王様というほかない。
「お兄様、お待ちしてましたわ」
「お待たせ、色々と有意義だったぞ」
ブルーホライズンたちはこの筑波ダンジョンに入ってからすでに7回レベルアップしており、レベル40という大台も見えてきている。レベルアップと同時に徐々に彼女たちの能力が上昇しており、美鈴やカレンのフォローを得ながらも16階層の魔物たちを次々に屠れるようになってきている。
待ち合わせして再び合流した一行は、さらに下の階層を目指していく。下層に降りる階段を一緒に下って、再び別行動に移る。17階層ではオーガの集団が出現してくる。ここでも桜はマギーたちに付いていき、聡史たちはマギーたちとは違う通路を進んでいくと、そこには…
「デカい鬼だなぁ~!」
美晴が目を見張って出現したオーガを見上げている。
「このくらい大した敵じゃないですよ~」
相手が戦い慣れたオーガとあって、明日香ちゃんが自信満々の表情でトライデントを構えて突進していく。
「えいっ! それっ!」
トライデントを横薙ぎにしてオーガの巨体を壁に叩き付けると、魔物が起き上がらないうちにその首元にトライデントを突き刺していく。たったこれだけでオーガを討伐する明日香ちゃんの姿にブルーホライズンたちは目を丸くする。
「あ、明日香は本気になると凄いんだな~」
「日頃はダラダラしているから、こうして活躍する場面を見ると別人みたいね」
「普段の姿からついつい忘れがちだけど、これでも一応八校戦の優勝者でしたね」
「パフェを食べてブクブク太っているだけだと思ってたわ」
「体重か? 体重がパワーを生み出しているのか?」
「褒める時はちゃんと褒めろぉぉ!」
最後に明日香ちゃんがキレている。歯に衣を着せぬ発言がこれだけブルーホライズンの間で飛び交うと、さすがに明日香ちゃんとしても黙っていられなかったよう。とはいえ、いかに日頃の行いが他人の見る目に影響を与えるかというまたとない見本がここにある。明日香ちゃん、どうか常日頃の言動をもうちょっと見直してはもらえないだろうか。
オーガを蹴散らしながら階層を突破していくと、昼前には20階層に到着する。マギーたちとは階層ボスの部屋の前で待ち合わせの約束をしている。
「この調子だと、階層ボスはオーガキングで間違いなさそうだな」
「大山ダンジョンとはちょっと順番が違うみたいね」
聡史の予想に美鈴が同意している。大山では15階層のボスがオーガキングで、20階層ではリッチという順番だったが、ダンジョンによってこの辺はまちまちなのだろう。どちらにしても並みの冒険者には強敵に違いはない。
そしてボス部屋の前に聡史たちが到着すると…
「待っていたわよ」
「すまなかったな。やはりこちらのルートのほうがやや遠回りになるようだ」
先に到着していたマギーたちに出迎えられる聡史たち。この場で相談が始まる。
「ボスは私たちの手で仕留めるわ。いいかしら?」
「問題ない。助けが必要になったら言ってくれ」
「オーケー! それじゃあ中に入るわよ」
こうしてボス部屋に入っていくと、中で待ち受けているのはやはりオーガキングと手下たち。マギーたち3人が前進すると、手下のオーガが獰猛な雄叫びを上げながら襲い掛かってくる。
「アイスバレット!」
「ウインドエッジですぅ!」
フィオとマリアの魔法がオーガの突進を食い止めると、そこにマギーが単独で襲い掛かる。彼女の両拳にはトゲ付きのメリケンサックが嵌められている。
ドガッ! バキッ! グシャッ! バコバコッ!
手足を自在に動かして、さながら舞うようにマギーは下っ端のオーガを倒していく。もちろん桜の体捌きには及ばないものの、それは全米ナンバーワンの名に恥じない華麗な戦い方に映る。
マギーが下っ端を片づけている間に、今度は標的を変えたフィオとマリアがオーガキングに向けて相次いで魔法を放っていく。
グガァァァァ!
体に命中した魔法にオーガキングは苦しそうな叫びを上げているが、ふたりはなおも追撃の魔法を放っていく。
「アイスアロー!」
「ウインドカッター!」
すでに体中を切り刻まれて、その分厚い皮膚を食い破るように氷の槍が突き刺さっているが、オーガキングはその有り余る生命力で魔法を放っている二人に向かって突進を開始する。
「そうはいかないわよ!」
オーガキングが走り出す真横から、マギーがドロップキックをぶちかます。こんなド派手な一撃を食らうなんて、オーガキングにしたら堪ったものではないだろう。
グオォォォォ!
死角からの不意打ちを食らって真横に吹き飛ばされたオーガキング。さすがはマギー、レベルが間もなく200に到達しようという底力をいかんなく発揮している。
「いいキックが入りましたわね。オーガキングの首が逝ってしまったでしょう」
「さすがは全米ナンバーワンだけのことはあるな」
「まあ、私でしたら捻りを加えて錐揉み状態でより高い威力を出していましたが」
「変な対抗意識を燃やすんじゃない!」
兄妹がマギーの体術を討論している。その間にオーガキングは、桜の言葉通り床に吹き飛ばされて体を痙攣させている。
こうして20階層のボスを倒すと、大山ダンジョンと同様に転移魔法陣が現れる。
「この魔法陣は何なのかしら?」
「階層を転移可能な魔法陣だ。この魔法陣で1階層に戻ったり、自分が進んだ階層に再び直行可能となる」
マギーの質問に聡史が答えている。この転移魔法陣を出現させるのが今回の聡史の目的だといっても過言ではない。
「まあ、それは便利になりますね」
「そうだな。したがってこの場所までいつでも来れるようになった。今回の攻略はここまでとして、一旦地上に戻ろうか」
フィオにはこの転移魔法陣がもたらす意義がすぐに理解できたよう。もちろんマギーとマリアもその有効性が徐々に理解されてきたよう。
「なるほど、この階層にすぐに来ることができるなら次はここからスタートできるのね。いいわ、今回はここまでにしましょう。今ならまだ明るいうちに外に出られるし、昼食は食堂で摂れるわ」
「昨日のバーベキューも捨てがたいですぅ。でもダンジョンの緊張感から早く解放されたいですぅ」
「今回はここまで」という聡史の説明にマギーも納得したよう。ただしマリアはフィールドステージで味わったステーキの味が忘れられないらしい。まあ、これは次回のお楽しみにしてもらおう。
これにて今回の筑波ダンジョン攻略は一旦お開きとなって、一行は魔法陣に乗って1階層へと戻っていく。
やや遅くなった昼食をマギーたちと共にすると、聡史たちはバスに乗って第4魔法学院を発つ。電車を乗り継いで伊勢原へと向かうが、車内で口を開けて寝ている明日香ちゃんの側から一人二人と座席を移っていったのは、本人には内緒の話。
夕方になる前に大山の魔法学院に戻ってくると、カレンが母親である学院長に連絡を入れる。
「カレン、今頃どうした?」
「筑波ダンジョンを20階層まで攻略して、たった今戻ってきました」
「そこに楢崎兄はいるか?」
「はい、替わります」
カレンからスマホを受け取った聡史が通話に出ると…
「もしもし、楢崎です」
「楢崎准尉、私の言葉を覚えているか?」
「学院長の言葉? えーと、なんでしたっけ?」
「筑波ダンジョンのラスボスを倒すまで帰ってくるなと言っただろうがぁぁ!」
「ええええ! あれって冗談じゃなかったんですか?」
「私が冗談を口にする人間だと思っているのか?」
「お、思っていません」
「それではたった今から回れ右をして、筑波に戻れ!」
「さすがにそれは厳しいのではないでしょうか。来週こそはラスボスを倒してきますから、今日のところはこれで勘弁してください」
「よし、いいだろう。来週はいい報告が聞けると楽しみにしているぞ」
「は、はい! 必ず吉報をお届けします」
こうして聡史たちは、学院長の無茶振りによって来週末も筑波ダンジョンに挑むこととなるのであった。
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