異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節

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第120話 砦の殲滅戦 後編

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 城壁の上にいる弓兵を駆逐した桜は砦の内部に飛び降りていく。ようやく暴れ回る人族を発見したとばかりに剣や槍を手にした魔族の兵士が一斉に押し寄せてくるが、それは正しく桜の思う壺。


「太極波ぁぁ!」

 ドッパーーン! 

 今度は砦の内部で大爆発が生じる。城壁にいた弓兵たちのように疎らに布陣しているのとは違って、桜を追い詰めようと密集した魔族兵は爆発の煽りを受けて方々に吹き飛ばされる。そのまま動かなくなった亡骸や、大怪我をして呻き声を上げる兵士がたった一撃で50人以上発生する惨状を呈している。


「さあ、本格的に始めますわよ!」

 桜にとってこの程度の乱行はいわば前菜に過ぎない。ここからがメインディッシュだとばかりに、魔族兵が集まっている場所に疾風のような勢いで突っ込んでいっては悉く薙ぎ倒す。その様は平らに地面を均していくブルドーザーのごとくに、立っている者は遍く地面に転がされていく。

 桜が猛威を振るう所、魔族は全て吹き飛ばされ、あるいは薙ぎ倒されて簡単に命を刈り取られる。これほど命の価値が安いとは… 異世界とはいえ滅多に見られない大虐殺が繰り広げられている。

 必死に抵抗する魔族が懸命に槍や剣を突き出そうとも、桜は歯牙にも掛けずにヒョイヒョイ避けながら一撃で5、6人をまとめて倒す様は、さすがに魔族たちが哀れに思えてくるレベルの違いが存在する。手加減なしのパンチを食らった魔族兵はひと溜まりもなく死に誘われて二度と起き上がることはない。

 これほどまでの猛攻を食らう側は自分たちの手には負えないと士気が低下して、軍律が徐々に崩れていく。


「ダメだ! 逃げろぉぉ!」

 桜の勢いに抗しきれずに、魔族兵たちは続々と砦の出口を目指して背走を開始。桜に背を向けるなど、殺してくれと言わんばかりの危険な行動とも知らずに…


「太極波ぁぁ!」

 再び桜の闘気をまとった右手が振るわれると、出口方面に密集した兵士が爆発の威力で宙に舞う。爆弾が爆発した戦場さながらの光景がその場に広がり、夥しい物を言わぬ死体で足の踏み場もない。


「まだまだ行きますわよ!」

 桜は攻撃の手をまったく緩めずに別の方向に突進しつつ、次々と魔族を手に掛けて乱暴に地面に寝かし付ける。寝かし付けられた魔族は、二度と目覚めることはないが…




   ◇◇◇◇◇




 砦の内部には千人程度の魔族が確認されている。これだけの人数を収容する広さがあると、中には桜の魔の手を逃れて外部に逃げ出す兵士も少数ながら現れてくる。

 だがせっかく命からがら逃げ出しても、脱走した兵士を上空から捕捉する目がある。もちろんそれは、高空で羽ばたきつつ桜の暴れっぷりを観察している美鈴に相違ない。


「あらあら、まとまって逃げ出す兵士が現れたわね」

 彼らが砦から命からがら脱出したのは魔族領とは反対側、つまりマハティール王国の王都に続く街道が延びている方面。このまま敗残兵を放置しておくと新たな街や村で被害を出すとも限らない。


「逃げた魔族を片付けるくらいなら、桜ちゃんは大目に見てくれるわよね」

 美鈴が気にしているのは、後から桜に文句を言われないかの一点に尽きる。桜の手を逃れた魔族を片付けるくらいなら、桜は広い心で許してくれるであろうと美鈴は判断を下したよう。ということで、地上からは黒い点にしか見えない美鈴が高空から一気に急降下していく。


「な、何だあれは? 空から何かがやってくるぞ!」

 逃げ出した魔族のひとりが、上空から急接近する美鈴に気が付いて空を指さす。その声につられるようにして魔族全員が空を見上げるその時、誰もが美鈴の姿をはっきりとその目にする。黒いドレスに身を包み漆黒の翼を左右に大きく広げる美鈴は、魔族の兵から見ると不吉そのもののような存在に映っている。


「ま、まさか… あれは伝承にある悪魔か?」

「何を馬鹿な! 大古の神話に過ぎないだろう」

「なんとも禍々しい姿だぞ!」

 美鈴を指さして口々にその存在が何者であるかを論じあっている。だが、それは長くは続かない。上空で羽ばたく美鈴から死の宣告が告げられる。


「愚かなる魔族たちよ、この場に自らの愚かさに相応しき躯を晒すがよい。グラビティー・コンプレッション!」

 ズドーン!

 上空から襲い掛かる100Gに及ぶ莫大な重力は地面を陥没させながら魔族たちを圧し潰していく。巨大な恐竜の足跡がその場に刻まれたかのように、窪んだ地面には圧し潰された魔族の死体が土壌のシミとなっている。

 大魔王の魔法が炸裂した結果がコレ。桜の力は局地的な大破壊を発生させるが、ルシファーが宿る美鈴の強大な力はより広範囲の破滅をもたらすのであった。




   ◇◇◇◇◇




 桜から遅れて砦に突入しようと走り出した聡史は、通用門脇の小さな扉から押し合いへし合いしながら外に出ようとする魔族の兵士たちの姿を捉える。


「せっかく逃げようとしたのに、運が悪かったな」

 そう呟いて取り出すは魔剣オルバース。腰をわずかに落として横薙ぎに一閃すると、飛び出していく真空の刃。外に出ようとする魔族の体はひとまとめに上下に二分される。


「新たな敵だぞぉぉ!」

「俺達にはもう逃げ場がないのかぁぁ!」

 目の前で味方が体を断ち斬られて死んでいく様を見せつけられた兵士たちは絶望した叫びを上げる。傍若無人に暴れ回る桜から逃れた矢先にかち合ったのが聡史では、兵士たちとしては堪ったものではないだろう。


「悪いな、こちらも色々と事情があるから、この場で死んでくれ」

 聡史が斬り込んでいく速さは魔族たちの想像を大幅に上回る。100メートル先にいたと思ったら、次の一瞬にはもう兵士たちの目の前に立っている。桜ほどではないが、聡史もその持ち前の俊敏性を生かした疑似的な瞬間移動が可能なのは言うまでもない。

 ザシュッ! グサッ! バシュッ!

 聡史がオルバースを振るうたびに魔族の死体が出来上がる。兵士たちの誰一人として、聡史が振るう剣を受け止められる者は存在するはずもない。


 砦の入り口を潜った聡史は、縦横無尽に剣を振るいながら内部深くまで進む。


「無理だぁ! あんな怪物をどうやって止められるんだぁぁ!」

「逃げろぉぉ! 命が惜しかったら、何としてでもこの場から逃げるんだぁぁ!」

 阿鼻叫喚とはこのような事態を指す言葉なのだろう。抵抗する術なく切り伏せられる魔族の兵士たち、必死に逃げようとはするが聡史と桜に挟まれて身動きが取れなくなる者が続出する。

 何とか二人の挟撃を振り切って外に逃れたら、今度は上空から監視する美鈴が逃亡者を逃がすまいと魔法を放つ。魔族兵にとっては、進むも地獄、退くも地獄というどうにもならない状況。

 するとここで…


「者共、引けぇぇぇ! 一旦引くのだぁぁ!」

 混乱する砦の内部に魔族の幹部の大声が響く。これまで指揮を小隊長レベルに任せて高みの見物を決め込んでいたのだが、兄妹によって大混乱に陥った状況を収拾するために陣頭指揮に立つつもりであろう。


「部隊長殿が出てきたぞぉぉ!」

「隊長殿の前に集結しろぉ!」

 混乱していた魔族の兵たちは、その声に導かれるように隊長が声を枯らしている建物の前に続々と詰めかける。聡史と桜はその動きを敢えて止めずに、兵が隊列を組み直す様子をじっと眺めている。


「多少は骨のありそうな相手が出てきましたわね」

「どうやらあの建物が、幹部連中が籠っている場所のようだな」

 兄妹の着目点は違うが、それぞれが目的にするところを的確に把握している。


「魔法の一斉攻撃で愚かな人族を殺すのだぁ!」

 桜の乱入で一気に大混乱に陥った結果、ここまで出番がなかった魔法使いの一団が前に出る。彼らの周囲には号令一下すぐに魔法を放てるように大量の魔力が集中している様子が察せられてくる。


「放てぇぇ!」

 炎、風、氷、稲妻、闇などの多彩な属性の魔法が兄妹をそれぞれに襲う。この恐ろしいほどの数の魔法に対して、桜は自信満々に迎撃を開始。


「それっ、それ、それ、それっ!」

 拳をフル回転して衝撃波を飛ばす桜。迫りくる魔法は衝撃波にぶつかって霧散していく。さらにトドメとばかりに、拳に闘気を込めると…


「太極波ぁぁ!」

 ドッパーーン!

 魔法使いをまとめて吹き飛ばす強烈な爆発が生じる。荒れ狂う衝撃が収まった跡には、バラバラになった魔法使いたちの残骸が方々に飛び散っているのみという恐ろしい状況。

 聡史は聡史で、結界を展開して魔法を自分の手前で撥ね返している。自信をもって命じた魔法が兄妹に簡単に無効化された状況を見て、部隊長は目を剥いて驚くしかない。

 弓兵は桜に片っ端から蹂躙され、切り札ともいうべき魔法使いたちはたった今全滅という有様。剣や槍で立ち向かう兵士たちは、桜と聡史の猛攻の前に半ば戦意を失っており、すでに魔族たちは軍として瓦解寸前の様相を呈しているのは明らか。

 ただしこれには桜も少々おかんむりな様子で、あくまでも上から目線の不敵なフレーズがその口から零れる。


「もっと抵抗してもらわないと、全然面白くありませんわ。そちらが攻めてこないのなら、こちらから参ります」

 桜が地を蹴って建物の前に集結している兵士に向かう。今目の前で魔法使いの一団が吹き飛ばされたばかりで、いまだ生き残っている兵士たちの士気と戦意はどん底にまで落ち込んでいる。

 魔族たちは此度のマハティール王国との戦いで常に優位に戦況を進めてきた。人族を追い立てる場面が大半で、ここまで完膚なきまでに追い詰められた経験は皆無に等しい。魔王の名の下に常勝を誇っていただけに、いざ守勢に回ると意外なほどの脆さを露呈している。


「おのれぇぇ! 我が剣を受けてみよぉぉ!」

 劣勢を挽回しようと、部隊長が剣を振り上げて桜に向かって斬り掛かる。たった二人を倒せば、これまでの劣勢は一気に覆るという思いを一振りに込めた一か八かの悪手にすぎないと、襲い掛かる桜は見て取っている。


「無駄ですわ」

 桜にとっては、たとえ魔族の隊長といえども並の剣士と同等にしか映っていない。振り下ろされる剣を軽々と避けると、隊長の胴体の真ん中に拳を叩き込む。


「グワァァァァ!」

 絶叫を上げながら口から大量の血を吐き出して部隊長は倒れていく。自分たちの指揮者を失った魔族兵の動揺は明らかなのは言うまでもない。これまで以上に混乱の様相を呈して右往左往するばかり。

 そんな魔族たちを尻目に兄妹は一旦合流して小声で遣り取り。


「桜、この場は任せるぞ」

「物足りない相手ですが、きっちりと処分いたしますわ。お兄様、気兼ねなくいってらしてください」

 頼もしげな桜の声にひとつ頷くと、聡史は建物のドアの前に立っている魔族を切り伏せて内部に入り込んでいく。


「邪魔するな!」

 建物の内部では警備を務める魔族が聡史に剣を向けるが、オルバースによって一刀両断される。聡史の行く手を止められる魔族はどこにも存在しないよう。建物の1階を調べた聡史は階段を上ろうとする。もちろん階段を守備する兵士が数人いるが、悉く聡史に切り伏せられて、あるいは蹴落とされて排除される。

 2階の各部屋をチェックして回る聡史、その目はひときわ豪華な造りの通路の突き当り部屋に向けられる。マハティール王国がこの砦を管理していた時分は指揮官の執務室であっただろうと思われる。

 バーーン!

 ヒューン!

 聡史がドアを蹴破ると同時に、彼に向けてファイアーアローが放たれる。間一髪ドアの陰に身を伏せてやり過ごすと、聡史は部屋に踏み込んでいく。


「愚かな人族よ、よくぞこのマンスールの前に姿を現したな」

「貴様がこの砦の責任者か?」

「その通り! 我は魔王様から直々に伯爵位を賜り、人族の偽りの王国を滅ぼすためにこの地に遣わされた存在。愚かな人族は我と偉大なる魔王様の前にその首を差し出せばよいのだ」

「よく喋るヤツだな。俺を屈服させたければ実力を示せ」

「よかろう」

 マンスールは腰の剣を抜いて構えると間髪入れずに聡史に斬り掛かる。

 キンッ!

 両者の剣が鍔迫り合いを演じる。聡史を押し込もうとマンスールは力を込めるが、オルバースを片手で握る聡史は微動だにしない。それどころか逆に両手で剣を支えるマンスールを押し込み始める。


「なんだとぉぉぉ!」

 マンスールは剣に関して相当な自信を持っていたようだが、聡史に力負けしている事態に目を剥いている。


「どうした? この程度で負けを認めるのか?」

 聡史には、まだまだ余裕がある模様。魔族の伯爵ごときに本気を出すまでもないと、敢えて力をセーブしている。


「おのれぇぇぇ! こうしてくれる!」

 一旦後退したマンスールは剣の先から魔法を撃ち出す。どうやらこの剣には魔法を撃ち出す魔法陣が刻まれていたよう。至近距離からファイアーボールが聡史に向かって飛び出していく。


「くだらない手品だな」

 だが聡史はあろうことか空いている左手でその魔法を掴み取って、そのまま握り潰す。これにはマンスールも驚くほかない。


「ば、馬鹿な! 魔貴族たる我の魔法を握り潰すだとぉぉぉ!」

 この程度の技で驚くとは魔貴族のお里が知れると聡史は内心でニヤニヤしている。確か那須ダンジョンで捕らえた二人の魔族も、公爵と伯爵と名乗っていた気がする。あの時は大して気に留めなかったが、どうやら魔族の中でも実力者と思しき連中の力が掴めてきたのだろう。


「さて、仕上げに入るか」

 聡史はマンスールに斬り掛かって今一度剣に力を込めて押し込むと同時に、左足でローキックを叩き込む。まったく予期していない攻撃を食らったマンスールは、真横に吹き飛ばされて床にもんどりうって倒れ込む。よく見ると、キックを食らった右足の太ももの辺りが不自然に折れ曲がっている。


「ギヤァァァァァ!」

 マンスールの痛覚神経がやや遅れ気味に痛みを伝えてきたよう。右足を抑えて床の上を転がり回っている。


「ギャーギャーうるさいヤツだ。ちょっとは静かにしろ」

 頭を蹴り付けるとマンスールはそのまま昏倒していく。聡史は彼の体をズルズル引き摺って、階段を降りて建物の外へ向かう。外に出てみると、桜がすっかり兵士を片付けているいつもの光景が広がっている。


「桜、どうやら終わったようだな」

「お兄様、この程度の敵では準備運動にもなりませんわ」

 ざっと見渡しただけでも、砦の内部は死屍累々の様相なのは言うまでもない。約千人の魔族がこの砦にいたと考えられるが、この場で生き残っている者は皆無のように映る。


「よし、責任者を捕えたし、撤収するぞ」

「カレンさんと明日香ちゃんが待っていますわ」

 こうして兄妹は、マンスールの体を雑に引き摺りながらダンジョンの方向に戻っていくのであった。

  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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