異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節

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第130話 出雲ダンジョン 1

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 デビル&エンジェルと学院生たちが二手に分かれてダンジョン攻略に出発する日を迎えている。

 一足先に出雲ダンジョンに向けて魔法学院を発つのは、桜に率いられた美鈴、明日香ちゃん、マリウスたち、Eクラスの男子八人に加えて浜川茂樹という、総勢15人にも及ぶ即席チーム。チーム内のメンバーのレベルは桜の600オーバーをを筆頭に明日香ちゃんやマリウスたちが70~80程度で、Eクラスの男子たちが40前後、さらに茂樹はようやく20に手が届くかどうかといった具合。こうして見比べると、それぞれのレベルが不揃いな面は否めない。

 レベルが低いメンバーが混ざるとパーティーは一番レベルが低い人間に行動を合わせる必要があるので、常識的な判断では茂樹に合わせた攻略スピードを考慮する必要に迫られるはず。だが桜は茂樹を甘やかそうなどとは髪の毛一筋ほども考えていない。

 この点が気になった美鈴は、桜に問い質す。


「桜ちゃん、一緒に行動するメンバーのレベルに相当開きがあるんだけど、どうしようと考えているのかしら?」

「特に何も考えておりませんわ。要はあの勇者が私たちのスピードに付いてこれればいいのです。仮にも勇者ならば、歯を食い縛ってでも付いてきてもらいますわ」

 その回答には美鈴もやや呆れ気味。

 だが桜としては、そんな細かいことに拘っていたら、わずか1週間以内という短期間での攻略など不可能とでも言いたいのであろう。少々無茶な攻略速度であろうとも、ケツを引っ叩いてでも無理やり魔物と対峙させる気満々。これはもちろん茂樹だけに当て嵌まらない。Eクラスの男子たちにしても、扱いは同様なのは言うまでもない。

 桜流のスパルタ指導の最初の教えに「魔物に殺されるか私に殺されるか、どちらか好きな方を選べ」という一言がある。今回も出雲ダンジョンでこの指導方針を貫く姿勢のだろう。茂樹と男子八人には、階層を下るたびに試練が繰り返される地獄の門がそのアギトを開いているという恐ろしい運命が待っている。



 こんな話題が交わされているとは知らずに、ヘリポートに茂樹が姿を現す。彼はすでに勢揃いしているメンバーに深々と一礼する。


「今回皆さんと同行させていただきます浜川茂樹です。未熟者ですが、どうかよろしくお願いします」

 背中には大きなリュックを背負って頭を下げる姿に、桜が目を光らす。

(おやおや、以前よりも殊勝な態度ですわね。ついこの前まで目が死んでいたのが、何があったのかわかりませんが光が戻っています。これは鍛え甲斐がありそうですわ)

 マリウスと交わしたあの短い会話の中で何か切っ掛けを掴んだのか、茂樹は別人のように立ち直っている。そしてその瞳には、自らの頼りなさを自覚しながらも新たな環境に身を置いてどんな些細なことも吸収しようとする覚悟が見て取れる。

 マリウスの穏やかな瞳は、まるで弟を見るような光に溢れている。同じ勇者として茂樹を育てようという気持ちは、マリウスも桜と同様らしい。桜とマリウスという二人によって茂樹がどこまで成長できるか、ここは温かく見守るとしよう。




   ◇◇◇◇◇




 時刻は午前10時、魔法学院のヘリポートには陸上自衛隊の輸送ヘリが離陸を待っている。桜に率いられるチームが次々にこのヘリに乗り込んでいく。


「お、おい… さすがはボスだな。ダンジョン攻略にあたって自衛隊が送り迎えをしてくれるのか」

「俺、初めてヘリコプターに乗るけど、酔わないか不安だ」

 思い思いの感慨を抱きながら、男子たちは座席に着いてシートベルトを締めている。


「ところで出雲って、どこにあるんだ?」

「出雲っていうくらいだから、出雲県だろう」

「お前はバカだなぁ~。九州に決まっているだろう」

「九州なのか… 俺はてっきり北海道だと思っていたぞ」

「四国じゃないのか?!」

 八人もいるにも拘らず、出雲がどこにあるか知っている人間はひとりもいないよう。これぞEクラスの頭脳、全員が出雲がどこにあるか知らなくても死にはしないと開き直っている。これから死ぬような目に遭うとも知らずに…


「桜ちゃん、いくらなんでも出雲の場所を知らないなんて、同じクラスながら呆れてしまいますよ~」

「おや、そういう明日香ちゃんは知っているんですか?」

「そんなの常識です。出雲は広島県にありますから」

「明日香ちゃんもやっぱりEクラスがお似合いのようですね」

 明日香ちゃん、残念! 地域的には近いが、もう一捻り欲しかった。広島県のさらに日本海側に目を向けてもらえば、もしかしたら正解できたかもしれないのに… ただし明日香ちゃんの名誉のために一言申し添えておくと、彼女は定期試験で50点ギリギリで追試を受けずに済んでいる。こう見えてもEクラスではトップレベルの頭脳の持ち主といえよう。ただし地理は苦手としている。根っからの方向音痴で地図も読めないし、見知らぬ街でひとりにすると確実に迷子になる結構手が掛かる子でもある。

 こうして昼過ぎには輸送ヘリは出雲駐屯地に到着して、ダンジョン攻略メンバーは案内された部屋へと入っていくのであった。




   ◇◇◇◇◇




 午後の1時には、聡史たちのチームを乗せた輸送ヘリが魔法学院を発ち、一路高山へと向かう。こちらは聡史と異世界からやってきた剣聖メルドス以外は全員女子という華やかな雰囲気。ことにカレンは美鈴がいない絶好のチャンスとばかりに聡史の隣席をガッチリとキープしている。


「ぜひともこの機会に、聡史さんとの仲を進展させないと」

 小さな呟きがカレンの口から洩れるが、聡史の耳には全く入らなかった。こうして聡史たちも無事に岐阜分屯地に収容されるのであった。




   ◇◇◇◇◇




 翌日から、桜に率いられたチームはさっそく出雲ダンジョンの攻略を開始する。


「最低でも10階層までは、男子だけで突破してもらいますよ」

「ボス、お任せください」

「イエッサー! 我々が前に立ちます」

 こうして男子たちは腕捲りをするが、次に突き付けられた桜からのリクエストに彼らの表情が一気に曇る。


「タイムリミットは今日の18時にしますわ。それまでに10階層を攻略しないと、その場で回れ右してダンジョンを去ってもらいますから」

「ボ、ボス… 現在午前8時ですから、残りは10時間ということでしょうか?」

「そうなりますわね」

「分かれ道の指示だけは出してもらえますか?」

「まあ、そのくらいならいいでしょう。期待してますわ」

 10時間で10階層まで到達して、なおかつ階層ボスを倒せという過酷な指令が下されている。これまでの彼らが培ってきた真の実力が試されるというのが正解だろう。食糧や他の生活物資を1週間分は準備しているが、ダンジョン攻略後の異世界でどんな状況が待っているか現時点では予測不可能なので、出雲ダンジョンをいち早く攻略するに越したことはない。よって、桜の口からこのような指令が男子たちに下されるのはムリもないかもしれない。


 こうして男子たちの奮闘が開始される。1階層のゴブリン達を蹴散らしながら20分で2階層へと降りて、こちらの階層も30分かからずに突破していく。この辺は、さすがは桜に鍛えられた成果が見て取れる。

 レベル40に到達した現在、彼らにとってゴブリンはもやは敵ではない。Eクラスの男子たちに混ざって茂樹も剣を振るっているが、やはりレベル差があって思うような成果を現わしてはいない。だがそれでも腐ることなく黙々と自分の役割を果たそうと努力したり、Eクラスの男子たちに頭を下げて教えを請う姿は、以前では考えられない茂樹の態度だろう。


「茂樹、それでいいんだ。少しでもパーティーの役に立とうという姿勢こそが大切だ。今回は学ぶ場と割り切って、仲間の技をしっかりと目に焼き付けるんだ」

「マリウスさん、ありがとうございます。俺も力がないなりに、少しでも役に立ちたいです」

 他のメンバーが平然とゴブリンの上位種相手の戦いを終えている中で、茂樹ひとりが肩で息をしている。だがその目はけっして折れていない。必死で何かを掴もうと足掻きながらも、自分が歩む道を見い出そうとしているように映る。

 昼前には5階層のボスであるゴブリンキングを倒して、一行は早々に6階層へと降り立っていく。だが、ここにはひとつの関門が待ち構えている。

 いきなりアンデッドが蠢く階層のご登場と相成る。こんな感じでダンジョンによって階層の順番が前後するのはよくあること。


「ボス、さすがにアンデッドは対処が難しくなります」

「仕方がありませんね~。マリウスさん、お願いできますか?」

「わかりました。どうかお任せください。茂樹、君も前に立つんだ!」

「はい、マリウスさん」

 勇者の手に掛かれば、ゾンビだろうがスケルトンであろうが呆気なく片付く。この程度の下級のアンデッドならばわざわざ神聖魔法を使用しなくても、マリウスが手にする聖剣の一振りで消滅していく。もちろん茂樹もマリウスと並んで、手にする剣に魔力を纏わせてアンデッドを倒していく。すでにこの階層に至るまでの間に茂樹は4回レベルアップしており、少しずつではあるが剣を振るう姿に力強さが加わっている。この急速なレベルアップによって、茂樹自身にも自信が加わっていく様子が窺える。


 マリウスと茂樹の活躍によってアンデッドの階層を突破する。この茂樹に活躍は、当然ながらEクラスの男子たちも認めている。

 これまではどちらかというと腫れ物に触るように接していたのだが、アンデッド相手の茂樹の活躍によって晴れてチームの一員と誰もが受け入れたよう。

 さらに茂樹には嬉しい出来事が起こる。それは桜によってもたらされたものなのだが。


「Aクラスの勇者さん、どうやら手持ちの得物は市販の剣ですね」

「はい、学院に入学した時に購入した安物です」

「それでは実力を十分に発揮できないでしょう。この剣を差し上げますわ」

 桜がアイテムボックスから取り出して茂樹に差し出したのは、異世界ダンジョン最下層の台座に突き刺さっていた聖剣エクスカリバー。試しに聡史が手にしたものの、この剣はどうやら勇者の称号がないと能力を十分に発揮できないと判明したため、桜のアイテムボックスに仕舞いこんですっかり存在を忘れていたという伝説の業物。

 それにしても、最強レベルの聖剣をポンとあげてしまう桜の気前の良さは傍から見ると信じられない。まあ本人が持っていても、たいして役に立たないという事情はあるにせよだ。


「こ、こんな凄い剣を俺が使っていいんですか?」

「勇者でないと使えない剣ですからね~。本来の持ち主に手渡すだけですわ」

 桜は当然という表情をしている。聖剣を手にするのは勇者と決まっているから、桜的にはこれが極々常識的な判断なのだろう。世間一般では「もったいない」とか「売れば目玉が飛び出るような大金が手に入るのに…」という意見はあろうが、武器は使ってこそ本来の輝きを放つ。そしてその使い手を選ぶ剣となると、本来の使用者に手渡すことこそが桜にとっては正義に他ならない。


「ありがとうございます。この剣の持ち主として胸を張れるように精一杯技を磨いていきます」

「良い心掛けです。あなたが勇者として精進すれば、その剣は必ず応えてくれるはず。その時を楽しみにしておりますわ」

 桜は満足した表情。自分はこの聖剣を単に預かっていただけという立場をまったく曲げていない。対して茂樹は、桜には返し切れない恩義を受けたと感じている。それは二度と桜に頭が上がらないくらいに… 

 Eクラスの男子たちは茂樹が聖剣を桜から手渡されたのを羨ましげに見ているが、すでに自分たちは桜から支給された剣を手にしているので、反論等は漏れてはこない。むしろ自分たちには使いようのない剣だと知って、だったらダンジョンでもっと自分の手に合う剣を手に入れてやろうと意気込んでいる。


「茂樹、良かったな。聖剣は勇者にとって切っても切れない相棒だ。その剣を使いこなして自分の物に出来るように頑張ってくれ」

「マリウスさん、エクスカリバーの持ち主に相応しい人間に成れるように一層努力していきます」

 茂樹にとって新たな誓いが生まれた瞬間を迎えたよう。聖剣に相応しい持ち主… 聖剣に選ばれた人間になるというのは、実は額面以上に困難な遠き道のりに違いない。

 明日香ちゃんがトライデントに認められたのは偶然の要素が強いが、あのように上手くいく例は通常は有り得ない。必死で技を磨いて結果を残した果てに、ようやく持ち主として認められるのが常の姿のはず。

 果たして茂樹はこの困難な道のりを無事に乗り切れるかどうか、これは今後の彼の努力如何に懸かっている。


「さあ、それでは次の階層で昼食を取ってから、10階層を目指して進みますよ!」

 こうして桜の号令の下に、一行は下の階層に向かって進んでいくのであった。

        ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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