異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節

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第131話 出雲ダンジョン 2

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 桜の指令によって、男子たちは一丸となって通路の魔物を排除していく。そこにはもちろん桜からエクスカリバーを手渡されていた茂樹も混ざっている。

 最初のうちは新たに手にする聖剣の取り回しに苦労しているようだったが、30分も振り回していると茂樹の手にズッシリとした重みが馴染んでくる。両手に伝わってくる感触はもうすでに何年も握っている相棒のように感じてくる。


「てやぁぁぁぁ!」

 エクスカリバーの一振りでオークが脳天から唐竹に両断されて、真っ二つになったオークの体は左右に分かれて床に崩れ落ちていく。聖剣を手にした茂樹のその持てる力が数倍になったかのような活躍ぶりは目を見張るものがある。

 もちろんこの様子を見たEクラスの男子たちも負けてはいない。桜から委託されたオーク狩りを散々繰り返したこともあって、上位種であってもすでにお客さん扱いにしている。洗練かつ手慣れた動きで、次々にオークの集団を倒していく。


「手持ちの食糧は節約しないといけませんから、ドロップアイテムの肉はしっかりと確保してくださいね」

「イエッサー!」

 可能な限り食糧をダンジョンで調達しながら、通路を先に進んでいく。こうして一行は、桜の指令通りに18時を前にして10階層のボス部屋の攻略を終える。


「ご苦労でしたね。第1のミッションはクリアですわ。さて、それでは11階層に降りてから野営の準備に入りましょうか」

「イエッサー!」

 11階層に降りていくと、そこは野営にはおあつらえ向きのフィールドエリアが広がる。キャンプに適した場所を見つけると、美鈴が結界を張って魔物を寄せ付けない措置を取る。こうしてテントを張ってこの日は休息となるのであった。

 もちろん明日香ちゃんは、今日一日ずっと歩いてだけであってもしっかりと自前で持ちこんだフルーツパフェを食べている。これこそが一日を終えるための最大のお楽しみという表情で、じっくりとパフェの味わいを堪能するのであった。



   ◇◇◇◇◇




 翌日桜がスッキリと目覚めると、視線の先にはロングホーンブルの群れが悠然と草を食んでいる光景が目に飛び込んでくる。桜にとっては食糧確保の大チャンス、これを見過ごす手はない。自分で仕留めようと思って結界から出ようとするが、そこで足を止める。せっかくの機会だから、男子たちにやらせるのはどうかという考えが天啓のように閃く。この桜の悪魔のような閃きは、頼朝たちにとっては不運以外の何物でもない。


「全員起床! 貴重な食料を発見ですわ!」

 桜の大声が響くと、Eクラスの男子たちがテントから転がり出るように飛び出してくる。気の毒にも叩き起こされた挙句にこれからロングホーンブルを相手にさせられるとは、彼らはまだこの時点で気がついてはいない様子。


「ボス、朝からどうしましたか?」

「目の前に貴重な肉が出現しました! 食事の前にひと汗かいて、肉をゲットしましょう!」

「ボス、自分たちがアレを相手にするんでしょうか?」

「頑張ってきてください」

 桜の突き放すような宣告に男子たちの目が宙を泳ぎ出す。やや離れた場所に群れているロングホーンブルは、1体が小型トラックよりも大きな体格をしている。それが20頭近くいるのだから、男子生徒たちが涙目になるのも無理はない。


「ボ、ボス… もしかして俺たちが肉弾戦でアレを狩るのでしょうか?」

「他に何かいい方法がありますか?」

「いいえ、念のために聞いてみただけであります。そ、それでは行ってまいります」

 悲壮な決意を固めた頼朝以下の男子が結界の外に出ると、1体のロングホーンブルがその気配に気が付く。

 ブモォォォォォ!

 雄叫びを上げながらその1体が頼朝たちに突進開始をすると、他の個体もその習性によって後に続いて走り出す。真黒な奔流が草原を駆け抜ける様は、さながら弾丸列車のように映る。


「ほらほら、ボケっと突っ立っているとあっという間に撥ね飛ばされますよ~!」

 桜も結界の外に出て男子たちから離れた場所で様子を見ながら檄を飛ばす。その口からは無責任な指示が送られて、男子たちをますます絶望の淵へと追い込んでいく。そしてついにロングホーンブルの群れが頼朝たちの目の前に近付く。


「い、いいか! 一か八かでギリギリまで引き付けてから左右に避けるんだ」

「お、おう… それしか手はないようだな」

 頼朝の指示に、男子生徒たちは生唾を飲み込みながら迫りくる群れを見つめる。まともにぶつかったら生命の危機であるのは、すでにこの時点で明白。


「今だ! 散れぇぇぇ!」

 男子たちが素早く左右に展開すると、ロングホーンブルの群れはその間を速度を上げて駆け抜けていく。魔物の習性として先頭を進む個体に付いて走るので、頼朝たちの姿を追って群れが急激な方向転換をしなかったのは、彼らにとっては大きな救いだったかもしれない。


「チャンスだ!」

 元原が自分の脇を駆け抜けようとする1体の足元目掛けて槍を突き込んでいく。元原の勇気ある行動はまんまと嵌って、槍に躓いた個体がバランスを崩して転倒すると、その後続も次々に乗り上げては倒れていく。


「全員掛かれぇぇぇ!」

 躓いて倒れたロングホーンブルなど、頼朝たちにとっては簡単にトドメを刺せる相手。次々に剣や槍を突き込んでは、その命を刈り取っていく。


 こうして頼朝たちは、徐々に群れの数を減らしながら20体近くのロングホーンブルを倒し切る。


「まあまあですね。全部討伐できた点は、褒めて差し上げましょうか」

「ボス、恐縮であります!」

 こうして朝から桜によって叩き起こされた頼朝たちは、厳しく鍛え上げられて一回り大きくなっていく。ドロップアイテムの肉は、拾い集めてみると全部で500キロ以上に上る。散々狩ったオークと合わせると、丸々1カ月は肉の心配はいらないだろう。これには桜もご満悦の表情を浮かべている。


 森林ダンジョンを抜けると、12階層以下はオークに混ざって様々な種類の魔物が姿を現してくる。爬虫類系の魔物やコウモリ系、カエルの化け物、カマキリやカブトムシが巨大化した不気味な魔物など、多彩な種類のモンスターのオンパレード。

 頼朝たちは、ゴブリンやオークなどの人型の魔物を相手取るのは慣れているが、このような形態の動物型の魔物との対戦経験はそれほど積んでいない。彼らの手に余る場合には、美鈴や明日香ちゃん、マリウスなどが手を貸しながら討伐を進めていく。

 階層が下がっていくにつれて、オーガやミノタウロスなどといった人間をはるかに上回る体格を持った魔物が登場するが、ここでも桜は男子たちや茂樹を最前線に立たせている。おかげで頼朝たちや茂樹は頻繁にレベルアップを繰り返して、出雲ダンジョンに入る前と比較して14~15程度あっという間にランクが上がっている。

 デビル&エンジェルがパーティでこの辺りの階層を進んでいくと、およそ2日で20階層まで到達可能であるが、桜は敢えて手を出さずに男子たちに任せている。そのため20階層のボスを倒すまで3日半を要したが、それでもこの攻略スピードは驚異的な早さといえる。頼朝たち、本当によくやったぞ! バカ集団と名指しして申し訳なかった。君たちはやれば出来る男たちだ。

 同時に茂樹の活躍も目を惹く。攻略に臨んだ最初の頃こそは足手纏いになる場面が多々あったのだが、桜から聖剣を手渡されて以降はレベルが上昇した効果と相まって最前線に立って次々と魔物を屠る光景が数多く見られるようになっている。これまで勇者という立場に悩み苦しんでいた男が、完全に一皮剥けて吹っ切れたその称号に相応しい能力を発揮しているかのように見受けられる。


 20階層のボス倒すと、他のダンジョンと同様に階層転移魔法陣が出来上がる。桜率いるチームは一旦出雲ダンジョンから外に出て、出雲駐屯地で1泊してから、翌日に20階層以下の攻略を再開する。

 さすがに20階層以下となると、頼朝や茂樹たち単独では歯が立たないのは当たり前の話。


「明日香ちゃんの出番ですわ。今まで大して運動していなかったんですから、そのブクブクした下っ腹を引っ込めるいい機会です」

「誰がブクブクですかぁぁ! ミスリルの胸当てがキツ過ぎて入らなくなったなんて、まだ誰も気が付いていないんですからぁぁ!」

「明日香ちゃん、自分でバラしていますよ」

 しまったという表情の明日香ちゃん、その目が宙を泳ぎ始める。頼朝たちは顔を伏せて聞かなかったことにしている。何とも優しい男たちだ。すると、ここで意外な人物が明日香ちゃんに声を掛ける。


「明日香ちゃん、実は私も日本の食べ物が美味しくてこのところ太り気味なんです。スリムなボディーを目指して一緒に頑張りましょう」

「ロージーさん、まさか同じ境遇の人がいるなんて… 私、頑張れる気がしてきます」

 明日香ちゃんは仲間ができた喜びにロージーと手を取り合う。だがその視線がロージーのお腹周りに向けられると、明日香ちゃんは突然握っていた手を離してしまう。


「ロージーさん、その手は食いませんよ! 全然太っていないのに口では太ったという人… いるんですよねぇ~。危うく騙されるところでした」

「いいえ、明日香ちゃん。確かに2キロくらい体重が増えたんですよ」

「2キロくらいなんぼのものじゃぁぁぁぁ! こっちは○○キロも…」

 あ~あ、自分で暴露しちゃった… という視線が一斉に明日香ちゃんに注がれる。ダンジョンという逃げ場のない場所で何キロ太ったなどと明かすのは、年頃の女子としては致命的というべきだろう。だが明日香ちゃんは思わぬ行動に出る。


「さあ、魔物は片っ端から私が倒しますから、ジャンジャン掛かってきなさい!」

(発言をなかったことにしている…)

(なかったことにして誤魔化すつもりだ)

(みんなの視線を魔物の方向に逸らそうとしている)

(カラ元気… これ以上はやめよう)

 その背中に一身に色々な意味での同情を集める明日香ちゃん。


 こうして明日香ちゃんの無駄な奮闘で、20階層から30階層までの魔物は全て排除されていく。主の体重の件など素知らぬフリのトライデントだけが、戦いの喜びに震えるかのように青白い光を放っていく。


 30階層以下は、ここ出雲ダンジョンでも階層ボスとの一発勝負が始まる。ここからは美鈴と桜がようやく前に出て簡単に片付けていく。

 さらに最下層のラスボス、クイーンメデューサとの対戦では、美鈴の闇魔法によってあっという間に灰となって決着がつく。

 そのあまりの呆気なさに、頼朝たちはなんだか肩透かしを食らったような表情。これはラスボスが弱いのではなくて、大魔王様が強すぎるという事実に彼らはまだ気が付いていない。

 ドロップアイテムアイテムの回収を終えると…

(出雲ダンジョンの完全攻略者として認定いたします。ただ今から次元を超えて異世界にわたる回廊がこの場に出現します)

 最下層に到達した15人の脳内にアナウンスが響く。と同時に、空間の壁が崩れて宇宙へと続く透明な架け橋が出現。


「す、すげえぇ~」

「ダンジョンの最下層って、こうなっていたのか…」

「あの橋の先に、本当に異世界があるのか?」

 そのあまりに壮大な人智を超越した光景に、初めて目撃した頼朝や茂樹は茫然としながら心に浮かんだ感慨を口にしている。宇宙の秘密の一端を垣間見た人間ならば誰もが抱きうる、驚嘆と畏敬の念が混ざっているのは言うまでもない。


「さあ、あの橋を渡りますよ」

「ボ、ボス! 本当に行くんですか?」

「心配いりません。私たちはもう何度も通っていますから、安心して付いてきなさい」

 桜が太鼓判を押すのもあって、頼朝たちは恐る恐る宇宙へと続く回廊を進み始める。星々のきらめきや色取り取りの鮮やかな光を放つ星雲を横目にしながら、彼らは空間の渦に飛び込む。そして、次元を跳躍した先には…


「ここが異世界ダンジョンの最下層ですわ」

「ボ、ボス… よく冷静でいられますね」

「もうすっかり慣れていますからね。ほら、向こうからラスボスが現れましたよ」

 桜が指差す先には、全長100メートルを超えるムカデの怪物[エクスキューシュナー]が登場する。硬い甲羅に包まれた外殻と頑丈な顎から伸びる牙、数百本の足を敏捷に動かして移動速度も巨体にしては異常に素早い。当然猛毒を標準装備している。こんな怪物を目の当たりにして頼朝たちはドン引きしている。


「それでは軽く片付けてきますわ」

 オリハルコンの籠手を打ち鳴らしながら、桜が飛び出していく。真正面から突っ込むように見せ掛けながら、エクスキューシュナーの顎先の直前で大きくジャンプすると、その背中に飛び乗って次々に外殻にパンチを叩き込んでいく。


「す、すげぇ~! 圧倒している」

「ボスはやはり桁が違うな」

「あんな怪物が、何の抵抗も出来ずに一方的に…」

 桜がその能力を発揮している光景を間近で見せつけられた頼朝たちは、このダンジョン攻略開始以来最大の衝撃を受け取っている。鬼神となった桜が戦う様は、まさにその称号通りの[天啓の虐殺者]そのもの。しかも嬉々としてエクスキューシュナーをボコっている様子と相まって、ある意味ホラーとかスプラッター的な光景が頼朝たちの眼前に展開している。


 そして硬い外殻を全て桜に潰されて、身動きが不可能となったエクスキューシュナー… 最期は桜の踵が頭部に落されて、ついに絶命する。討伐に要した時間は、まだ3分も経過していない。恐ろしすぎる暴れっぷりに頼朝たちは完全に言葉を失っている。


「さて、宝を回収したら外に出ますよ。異世界ですから、気を引き締めてください」

「イ、イエッサー!」

 ラスボスを殴り殺した桜の恐怖が未だ脳裏に焼きついたままで、頼朝たちの反応は心ここにあらずという状態が続く。こんな調子でも先を急がなければならないので、桜に急かされて彼らは階層転移魔法陣に乗って地上に至る。

 その地上とは…


「どうやらこのダンジョンは、こちらの世界からすると、まだ未発見の手つかずの場所のようですね」

 山肌に洞窟の入り口のような穴がポッカリ空いているだけで、周囲にはまったく人影が見当たらない。どうやら桜たちは、この名もないダンジョンの第1号侵入者にして、第1号攻略者になった模様。

 岩だらけの崖を慎重に降りていくと、傾斜が緩やかな斜面が続く。この辺の高度は、見渡せる地平線の具合から勘案するとおよそ700~800メートルと推計できる。


「桜ちゃん、一旦この辺で休息を取りましょう。その間に私が偵察をしてくるから」

「ああ、それはいい考えですね。美鈴さん、魔族や人間の痕跡が付近にないか空から見てきてください」

 美鈴の提案を桜は二つ返事で了承。やみくもに山地を進んでいくよりも、美鈴が空から確認した目標を頼りにする方が安全かつ確実なのは言うまでもない。

 ちなみに美鈴が休憩を提案したのは、全員が休んでいる間に誰にも見られずにコッソリと空へと羽ばたいていこうという美鈴の思惑が絡んでいる。現時点で男子たちや茂樹に全てを明かすのは、時期尚早という判断が働いている。


 こうして一行が軽食を口にしながら水分補給を開始する頃、美鈴は死角になる場所から大空に羽ばたいていく。山頂をはるかに見下ろす高度を保ちながら上空を旋回すると、山地の西側にある程度の規模を誇る街が確認できる。

 どちらの陣営に属する街かこの時点で判別は出来ない。迂闊に高度を下げると美鈴の姿が発見されるリスクがあるので、遠くから街があるという情報を確認するに留めて、美鈴は桜たちが待っている場所へと戻っていく。


「桜ちゃん、ここから西に向かって進んでいくと大きな街があるわ」

「美鈴さん、それは有益な情報ですわ。ひとまず、その街に向かいましょう」

 こうして桜たちは、休息を切り上げて山肌の道なき道の西の方向にある美鈴が発見した街に向かって進んでいくのであった。

        ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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感想 3

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みんなの感想(3件)

Rydangel
2024.11.05 Rydangel

I really hope this doesn't turn into a harem novel. I hate those the most. I already dislike the setup of Misuzu and Karen both in love with Satoshi.

解除
睦
2024.09.17

主人公の名前の読み方が分からない(´・ω・`)
一応、『そうし』って読んでるけどあってます?

解除
伊予二名
2024.09.15 伊予二名

24話。妹ちゃん得体の知れないヤバさを持ったキャラだったけど、雅美さんへの制裁の程度で、底が見えてきてしまったな。
思ったより常識を知る人だったんだね、妹ちゃん

解除

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