異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節

文字の大きさ
18 / 131

第18話 大山ダンジョン 2

しおりを挟む
 聡史たち四人は最短距離でダンジョン一階層を突っ切り、現在2階層へとやってきている。


「美鈴さん、2階層に来たのは、初めてなんですよ~」

「明日香ちゃん、私も一緒よ」

 魔法学院に入学してからまだ2か月少々、1年生の大半は1階層で単体のゴブリンを数人掛かりで倒すのが関の山。2階層に降り立ったのは未だ一握りの生徒でしかない。

 これが2年生ともなると3~4階層が活動の中心となり、3年生となったら5階層が当然という流れとなる。さすがにそこから先に進む生徒はまずをもって存在しないのだが…

 5分ほど通路を進むと今度は最後尾を警戒する聡史が警告を発する。


「背後から来た。俺が相手をするぞ」

 聡史は桜と同様に他のメンバーをその場に置いてひとりで足音の方向に向かっていく。ゴブリンは醜悪な表情で聡史に向かって棍棒を振り上げる。


 カキン ズシャッ

 聡史の短剣は一呼吸の間に棍棒を斬り捨ててから、返すひと振りでゴブリンの首を落としている。


「ヒイィィィ、く、首が落ちましたぁぁ!」

「何が起きたのよぉ!」

 血を噴き出した首無しゴブリンがバッタリ倒れていく光景に耐え切れず、明日香ちゃんは叫び声を上げている。美鈴もそのスプラッターな場面を直視できない様子。


「美鈴ちゃんも明日香ちゃんも大袈裟ですよわ。ホラーハウスだと思えば全然大したことはありません」

「桜ちゃん、私はお化けが一番苦手なんですよ~」

「明日香ちゃん、ホレこの通り、首はありませんが足は付いていますからお化けではありませんわ」

「桜、その言い方のほうが逆に怖いぞ」

「慰めにも励ましにもなっていないわね」

 聡史と美鈴がダブルで突っ込んでいる。

 このまま最短距離で2階層を突破していく間に、美鈴と明日香ちゃんはそれぞれ2回ずつレベルアップを繰り返す。




 そして3階層。

 ここから先はゴブリンが集団で現れる上に、ゴブリンソルジャーやゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジといった上位種が出現する。時には上位種の組み合わせも出現するので、普通のパーティーであればメンバー間の連携が重要となってくる。

 だがそのような心配はこの娘には全くの無用。相手が何体だろうが我関せずといった表情。


「なるほど、ゴブリンメイジにゴブリンアーチャーが出てきましたわね」

 桜の眼前には魔法の呪文を唱え始めているゴブリンメイジと、弓をつがえて狙いを定めているアーチャーが。


「桜ちゃん、矢が飛んできますよ~」

「桜ちゃん、魔法にも注意して!」

 やや下がった位置から明日香ちゃんと美鈴の警告が飛ぶが、桜は一向に動きを開始しない。


「桜ちゃん、何をしているの。早く後ろに下がって!」

 美鈴が懸命に桜に向かって声を枯らして叫ぶが、桜は頑なに動こうとはしない。そうこうするうちにゴブリンたちの攻撃が始まる。

 ヒューン

 ゴォォォ

 2体のゴブリンから同時に矢とファイアーボールが桜目掛けて飛んでくる。どちらも当たったらタダでは済まない威力で宙を飛翔してくる。


「桜ちゃん、そこを退いて。ファイアーボ…」

「美鈴、止めておけ!」

 聡史が美鈴の肩に手を置き、同時に自らの魔力で美鈴に干渉を及ぼして発動直前だったファイアーボールを霧散させる。


「聡史君、何をするのよ。このままでは、桜ちゃんが!」

 美鈴が振り返って聡史に強い口調で抗議する、その時だった。


「それっ」

 キーン

 まるで耳鳴りがしてくるような高音がダンジョンの通路を震わせると同時に、桜が突き出した右手から目に見えない何かが飛んでいく。

 ズドーン!

 見えない何かはゴブリンメイジが放ったファイアーボールを消し去り、ついでに3体のゴブリン上位種を吹き飛ばす。

 そして、アーチャーが放った矢は何処かといえば…


 桜の左手に握られている。

 桜は飛んでくるファイアーボールを右拳から打ち出した衝撃波で粉砕して、同時に左手で矢をキャッチするというとんでもない離れ業をやってのけている。3体のゴブリンを吹き飛ばしたのは、いわばオマケみたいなもの。


「えっ、えっ、ええぇぇぇぇ! ファイアーボールと矢と魔物が全部きれいに消えていますよ~」

「なんだか、一瞬のうちに終わっちゃたんだけど…」

 明日香ちゃんは飛んでくる魔法と矢の恐怖に思わず目を閉じてしまっていた。恐る恐る目を開いてみると、いつの間にやら全て片付いている不思議な現象にわけが分からず大声で叫んでいる。

 美鈴は美鈴でもうダメかと思ったら、何事もなかったかのように桜が立っている奇妙な現象に目を白黒。


「お二人とも、そこまで驚くような出来事ではございませんわ。今の私でしたら飛んでくる銃弾でも楽に掴み取って差し上げます」

 この程度は芸のうちには入らないと言わんばかりの桜が振り返る。これこそがレベル600オーバーの実力の片鱗だろう。この娘、真の怪物に他ならない。


「それじゃあ、出発しようか」

「聡史君、『それじゃあ』ではないでしょう。何が起きたのか納得いくように説明してよね」

「美鈴は大袈裟だなぁ~。大したことじゃないさ。飛んできたファイアーボールを桜が拳の圧力で打ち消して、同時に矢をキャッチしただけだ。ついでにゴブリンも吹き飛ばしたみたいだな」

「人間業じゃないでしょうがぁ! 大したどころか、とんでもない出来事よぉ!」

「だって桜だから、しょうがないだろう」

 聡史は切り札を繰り出す。万人を簡単に納得させるだけの効果がある魔法のフレーズを。その結果…


「ああ、そうでしたよ~。桜ちゃんじゃしょうがないですよねぇ~」

「言われてみれば、桜ちゃんだったら何でもアリよね」

「そうだろう」

「「「ハッハッハッハッハッハァ!」」」


 シーン


「ハハハじゃないでしょうがぁぁ! 笑い事では済まされないんだからね!」

 美鈴の叫び声だけが虚しく通路に響くのであった。 
 



   ◇◇◇◇◇




 そんなこんなで四人は3階層の東側、マップを見た際に桜が気になると指摘した箇所へとやってくる。


「桜、何が気になるんだ?」

「お兄様、通路の微妙な曲がり具合とか枝道が不自然に続いている点がどうも気になりますわ。私の経験上、このような場所には隠し通路が存在するはずです」

「なるほど、未発見の隠し通路か」

 桜はしきりに壁を叩いて回る。返ってくる音の変化で内部の空洞や壁が薄い部分の有無を探っている。


「この辺りですわ」

 桜は確信をもって壁の前に立つと、右のストレートを一閃。

 ガラガラガラガラ

 壁が音を立てて崩れると、その向こう側にポッカリと空間が現れて先へと続く通路を形成している。


「桜ちゃん、すごいですよ~。本当に隠し通路を見つけちゃいました」

「本当にビックリね。何をどうすれば、こんな信じられない芸当が可能になるのかしら?」

 異世界で3年ほどダンジョンに入り浸っていれば誰でもなれます… という声が出掛かるのをグッと堪えて、桜は笑って誤魔化している。そのまま四人は崩れた壁の隙間から隠し通路へと入り込んでいく。もしかしたらお宝ゲットかと期待に胸を膨らませる明日香ちゃんがいる。


「桜ちゃん、高価なお宝が出てきたらデザート食べ放題ですよ~」

「明日香ちゃん、お宝なんてそうそう見つからないんですよ」

 隠し通路には魔物は出現せず、そのまま300メートル進むと突き当りの壁が立ちはだかる。


「もしかして不発ですか?」

「明日香ちゃんが言う通り、何もないようね」

 せっかく新たな通路を発見して期待してみれば何もなしでは、美鈴と明日香ちゃんがガッカリするのは当然。だがこの娘は自信満々の表情をしている。


「お兄様、この辺りの床に魔力を流していただけますか」

「いいぞ、こんな感じか?」

 聡史が魔力を流し込むと床が白く光りだす。そして一際大きく光った後に床には魔法陣が出現する。


「なんだか怪しいですよ~」

「危険はないかしら?」

「明日香ちゃんと美鈴ちゃん、もちろんこのような魔法陣はトラップである危険が高いですわ」

 桜はダンジョンに時折発生する魔法陣について二人に解説を始める。


「この先にお宝が眠っているかトラップなのかは、いってみれば運次第ですの」

「そうなんですか… やっぱり危険ですから、このままにしておきましょうよ~」

「明日香ちゃんが言う通り、このまま放置するしかないわね」

 さすがにこの場で運に身を任せる勇気はこの二人にはないよう。ダンジョン初心者としては当然の判断だろう。桜は二人の判断に大きく頷いている。


「やっぱりそうですよね。お二人とも腰が引けて当然ですわ。ですからこのような魔法陣は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ こうして踏み抜きま~す!」

 桜が踏みつけた魔法陣から真っ白な光が溢れ出してこの場にいる四人を包み込む。


「さ、桜ちゃん、何をするんですか? 早くその足を退けてください!」

「明日香ちゃん、とっても残念なお知らせですが転移魔法陣はすでに発動済みですわ。運を天に任せましょう」

「桜ちゃんの鬼! 悪魔!」

「明日香ちゃん、むしろ私たちにとって、死神かもしれないわ」

「お兄さん、笑っていないで助けてぇぇぇぇ!」

 こうして明日香ちゃんの絶叫を残して、四人は何処かへと転移していくのであった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「面白かった」

「続きが気になる」

「早く投稿して!」

と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! 皆様の応援を心よりお待ちしております。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

迷宮アドバイザーと歩む現代ダンジョン探索記~ブラック会社を辞めた俺だが可愛い後輩や美人元上司と共にハクスラに勤しんでます

秋月静流
ファンタジー
俺、臥龍臼汰(27歳・独身)はある日自宅の裏山に突如できた洞窟を見つける。 語り掛けてきたアドバイザーとやらが言うにはそこは何とダンジョン!? で、探索の報酬としてどんな望みも叶えてくれるらしい。 ならば俺の願いは決まっている。 よくある強力無比なスキルや魔法? 使い切れぬ莫大な財産? 否! 俺が望んだのは「君の様なアドバイザーにず~~~~~っとサポートして欲しい!」という願望。 万全なサポートを受けながらダンジョン探索にのめり込む日々だったのだが…何故か元居た会社の後輩や上司が訪ねて来て… チート風味の現代ダンジョン探索記。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...