異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節

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第36話 弟子入り志願

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「よ、よかったら水着姿を写真に収めようか?」

「えぇぇ! ちょっと恥ずかしいよぉ」

「せっかくの記念だから一枚だけ」

 勇気を振り絞った男たちの情熱が届いたのかEクラスの女子五人は彼らに囲まれて、その手にするスマホで色とりどりの水着姿を画像に残すのを許可する。下心満載の狼たちの欲望に塗れた提案を彼女たちはよくも広い心で許したものだ。夏の海というこの開放的なシチュエーションが女子たちを普段よりも大胆にしているのか?


「それじゃあ画像を送るからアドレス教えて」

「まあいいかな。はいこれ」

 ついでに彼女たちのアドレスまでゲットするとは、コヤツら中々やりおる! 

 そして男たちの視線は揃って聡史へと向けられる。美鈴とカレンの写真を撮れという無言の圧力が彼らの眼光に込められているのは言うまでもない。

 当然Eクラスの愉快な男たちの切実なる願望は聡史にも痛いほど伝わっている。彼らの願いが叶うかどうかは、ひとえに聡史の肩に懸かっているといっても過言ではない。


「えーと、せっかくだからみんなの水着姿を写真に撮ろうか?」

 及び腰の聡史の態度に背後からは「もっと押せ! 倍プッシュだ!」という無責任な男たちの心の声が響く。


「お兄様、そんなに私の水着姿が魅力的なのですか?」

「お兄さんったら、私のナイスバディーにメロメロなんですね~」

 言いたい放題の桜と明日香ちゃんに対して「お前たちじゃねぇぇぇぇ!」「その二人は需要が限られているんだよぉぉ!」「俺たちはロリコンでもデブ専でもねえぞ!」と叫ぶスタンドが男たちの背後に立ち上る。それはもう自らの魂すら犠牲に捧げて悪魔の手を借りてもよいと言わんばかり。、pはや完全なるダークサイドに墜ちているといっても過言ではない。

 だがこの桜と明日香ちゃんのいつものような前に出たがる姿勢は聡史にとっては絶好の追い風となる。先にこの二人を撮影する流れで、美鈴とカレンの水着撮影のハードルが一気に下がる。


 こうして無事に全員の水着姿を画像に収めた聡史の元には「早うデータを寄越せ!」というどす黒い思念が殺到する。だがこの時聡史は決心する。「この画像は絶対に誰にも渡さない」とオリハルコンよりも固く自らの良心に誓う。ただし桜と明日香ちゃんの画像のみは、場合によっては融通しようと思っている。いくらなんでも二人に関してブロックが甘過ぎやしないか? まあどうせ需要なんかないだけど…


 圧倒的男子一同が落胆する中、せっかく海に来たのだからと水に入って泳いだり、波打ち際で砂遊びなど童心に帰ったように皆がそれぞれ伊豆の海を満喫する。真っ白な砂浜と照り付ける日差しがいかにも夏のひと時を感じさせる。

 ひと泳ぎした聡史がパラソルの下で休もうとしたところに桜がやってくる。


「お兄様、このビーチボールを魔力で頑丈にしてもらえますか?」

「ああ、いいぞ」

 聡史が硬化魔法を掛けると、ちょっとやそっとでは割れたりしない丈夫なビーチボールにあっという間に早変わり。このボールを使って桜、美鈴、明日香ちゃん、カレンの四人が砂浜でバレーボールを始める。

 バシン! 

 ズバッ!

 ズゴン!

 ズシュッ!

 ゴバッ!

 ビニール製のビーチボールでは有り得ない音が砂浜に響くが、四人は普通の顔をして楽しそうにバレーボールをしている。うら若い女子高生の楽しそうな歓声が響くと、その様子に気が付いて男子のひとりがやってくる。


「俺も入れてくれよ」

「どうぞ」

 楽しそうなビーチボールでの遊びだと考えて彼は何の気なしに参加している。いや、してしまった!


「行きますよ~」

 バシン!

 いかにも重たそうな音を響かせて明日香ちゃんが男子に向かってボールをアタック!


「ブヘッ!」

 顔面を直撃した剛速球のビーチボールはその男子生徒を軽々と吹き飛ばす。明日香ちゃんだけでなくて美鈴やカレンのレベル20オーバーに対して、Eクラスの生徒の平均レベルは6~7に過ぎない。

 体力の数値は明日香ちゃんでも100近いのに対して、男子生徒は50以下。しかもボールは聡史の魔法によって硬化されている。時速130キロで飛んでくるバスケットボールに匹敵する衝撃によって、悲しいかな彼は砂浜に昏倒している。鼻血を出して白目を剥いた男子生徒はカレンの回復魔法のお世話になっている。


「健太は、何やっているんだ? 俺が見本を見せてやるよ!」

 別の男子が参加すると、今度は美鈴のアタックが炸裂する。


「グハぁぁぁ!」

 結果は同じだった。美鈴が軽く打ち込んだアタックでさえも男子生徒は受け止められない。これがレベル差というもの。どれほど体格が勝っていようとも、各種数値に基づいたボールの威力というのは絶対に覆らない。これが知らず知らずの間にレベルが上昇していた聡史たちのパーティーメンバーの実態といえるだろう。

 学年最弱であった明日香ちゃんでさえも、いつの間にかこんなに強くなっている。それだけではなくて魔法専門の美鈴ですら体力的にEクラスの男子生徒を圧倒するレベル。もちろん桜は本気など出してはいない。まかり間違って彼女が本気を出したら真っ白な砂浜には死屍累々の惨劇が発生しているだろう。


 こうして遊んでいるうちにそろそろ昼の時間となる。海岸で火を使用するのは禁止されているので、一行は道路を挟んだバーベキューのスペースと器具を貸し出してくれる店へと向かう。幹事の頼朝がしっかりと予約を入れてくれていたので、鉄板5枚分の座席がすでに準備してあってあとは焼くだけという行き届いたサービスの良さが光る。


「お待たせしましたわ。このためにわざわざ秩父ダンジョンまで遠征しましたのよ。そして私が討伐したロングホーンブルの肉がこちらで~~す」

 桜がアイテムボックスから取り出したのは、重さが10キロはある鮮やかな赤身にほんのりとサシが入ったどこから見てもA4ランクは獲得できそうな高級肉。ダンジョンのドロップアイテムとは思えないような上質な肉はステーキにして30枚分は取れそう。さらに桜は、リブロースの部位に相当する同様のブロックをもう一つ取り出してはテーブルにドンと置く。

 ロングホーンブルの肉の塊10キロ×2がデンとテーブルに置かれた眺めは壮観ですらある。


「ほぉぉぉ!」

「すげぇぇぇ!」

「どこから見ても牛肉だよな!」

「こんな量、絶対に食べ切れないぞ!」

 Eクラスの生徒は男子も女子も、大きな肉の塊がデンと2つテーブルに置かれた光景に見入っている。ロングホーンブルは秩父ダンジョンの11階層にある草原ステージに生息している魔物で、桜はこのバーベキューのためだけにわざわざ単独でそこまで足を延ばしてゲットしてきた。楽しみにしていたバーベキューに懸けるその執念にはもはや脱帽するしかない。

 ひと塊の肉を求めてダンジョンの奥深くに潜入していく! …それこそが桜の食材に対する美学なのだろう。


「ここからは、美鈴ちゃんにお任せしますわ」

「ええ、まかせて」

 美鈴は桜から肉切り用のナイフを受け取ると、大きなブロックを手際よく切り分けていく。手早く塩コショウを掛けると、あとは鉄板で焼くだけ。


「焼き加減はお好みでどうぞ。食べにくい人は切り分けるから持ってきてね」

 笑顔のシェフが手にするは、実は異世界製のミスリルのナイフ。どおりでスパスパよく切れるわけ。塊の肉がまるで豆腐を切っているかのように簡単に切り分けられていく。

 ロングホーンブルのステーキはもちろん全員が笑顔になってしまう美味しさ。そのほかにも焼きソバや焼き野菜なども用意されており、全員がお腹がいっぱいで動けなくなるまで食べまくる。そしてトドメに…


「美鈴ちゃん、お肉をもう1枚切ってもらえますか」

「桜ちゃん、これで5枚目よ」

 美鈴はもう半ばヤケクソになっているよう。分厚く切られたたっぷり1ポンドはあるステーキ肉を桜に差し出す。


「バーベキューのフィナーレを飾るにはふさわしい一品ですね」

 ホクホク顔で受け取った桜は、最後の最後まで美味しくいただくのであった。



 昼食を終えると、再び砂浜に散っていく一行。美鈴とカレンは日焼けしたくないので海の家に引っ込み、桜と明日香ちゃんはあれだけバーベキューを満喫したにもかかわらず、海の家のテーブル席で係員さんに注文を開始。


「カレーライスをお願いしますわ」

「イチゴのかき氷をお願いします」

「明日香ちゃん、海水浴といえば、やはりカレーライスですね~」

「桜ちゃんは何を言っているんですか。カキ氷こそ至高の品ですよ~」

 どっちもどっちだろう。それよりも桜にとってはカレーライスがデザート代わりらしい。明日香ちゃんと二人でとことん食欲を満たしているようで、すでに胃袋のストッパーが壊れている。


 男子たちは腹いっぱいで思い思いに休憩を兼ねて砂浜に寝転んでいる。工事現場で土方焼けしている上半身をこの際だからまんべんなくこんがりと日焼けさせようとしているかのよう。

 そんな中で聡史はひとりでパラソルの下で「ちょっと食べすぎたかなぁ」などと考えている。

 その時、彼の前に水着姿の女子たちが五人揃って顔を出す。


「あの~… 桜ちゃんのお兄さんに実は折り入ってお願いがあるんです」

 この五人組は女子だけでひとつのパーティーを結成しており、その中でリーダーを務める竹内真美が何やら相談事を聡史に持ち込んできたよう。彼女の周りには他のパーティーメンバーが取り囲むように砂浜に座り込んでいる。ひとりで女子五人に囲まれるなんて聡史は男冥利に尽きる。美鈴にバレたら当分口もきいてもらえなくなるかもしれないが、幸い彼女はカレンとともに海の家の奥に引っ込んでいる。


「俺の呼び方は聡史でいいから。それで、お願いというのは?」

「実は私たちは〔ブルーホライズン〕というパーティーを組んでいるんですが、実力がなくて未だにゴブリンに苦戦しているんです」

 真美の深刻そうな表情に合わせて他のメンバーがうんうんと頷いている。聡史にもなんとなく彼女たちの相談内容が分かってくる。


「明日香ちゃんが聡史さんたちと一緒になって強くなったのを見て、私たちもこれじゃあいけないんじゃないかって考えたんです」

「明日香ちゃんは相当頑張ったからな」

「ええ、毎日泥だらけになっている姿をよく見掛けました。ですから聡史さん、私たちを鍛えてもらえませんか」

「そうだなぁ… 色々とパーティーメンバーに付き合わないといけない時間があるからなぁ。空いている時間はというと… ああ、自主練の時でいいか?」

「自主練っていうと、藤原君たちがやっている放課後の訓練ですか?」

「そうだ、俺も参加しているから、その時間だったら訓練に付き合ってもいいぞ」

「ほんとうですか、ありがとうございます。学院に戻ったらぜひともお願いします」

「「「「おねがいします!」」」」

 真美をはじめとしたメンバーたちの顔が一斉にパッと明るくなる。実は彼女たちは何とか聡史に頼み込めないかと色々考えてこの海水浴に同行している。結局女子が参加したのは頼朝たちの手柄ではなくて、どちらかというと聡史が目当てというほうが正しい。だがこの事実は彼らには内緒にしておこう。


「それで、みんなはどんな武器を使っているんだ?」

「私とほのかが剣で、渚と絵美が槍で、美晴が斧です」

「全員物理系か… まあ、Eクラスの生徒で魔法が使える人材は貴重だからなぁ… しょうがない、取り敢えずは今使っている武器の技術を上げていこう」

「「「「「はい、どうかお願いします!」」」」」

 こうして聡史には弟子が増える。この兄妹は異世界でも孤児を保護しては剣を教えたりしていたので、他人に何かを教えるのが習い癖になっているのかもしれない。厳しいが実は面倒見のいい先生ともいえる。

 話がまとまったところで、聡史が真美たちに改めて顔を向ける。


「腹の具合はこなれてきたか?」

「だいぶ楽になりました」

「そうか、それじゃあ、ひと泳ぎいくぞ」

「「「「「はい!」」」」」

 こうして新たな弟子となった女子五人は、聡史につられるようにして海へと向かうのであった。


                                   【お知らせ】

 9月12日の投稿より小説のタイトルを変更させていただきます。確定ではありませんが当面の仮タイトルは以下の予定です。お間違えの無いようにご承知おきください。


〔異世界から日本に戻ったらなぜか魔法学院に入学。ダンジョンで活動しているうちにパーティーメンバーがどんどん強くなっていくので楽が出来ると思ったらとんでもない間違いだったでござる〕




      ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


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