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第40話 ブルーホライズンダンジョン奮戦記 1
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聡史によるブルーホライズンの訓練はまだまだ続く。
美晴の盾の扱い方をまずは徹底的に体に覚えさせていく。たとえ女子であっても脳筋に対しては理論や理屈は横に置いて体に覚えさせるのが最も手っ取り早い。変に理屈を教えると頭の中で考える動きと体の実際の動きのギャップによって何がなんだかわけがわからなくなるのがこの手合いと相場は決まっている。
よって聡史は美晴に対しては体が感じる感覚重視で撃ち合いをしながらコツを掴んでいく方針を徹底する。その分何度も木刀が体にヒットして美晴はカレンのお世話になる。だがちっとやそっとの痛みでは挫けないのが脳筋の最大の強み。というよりも他にメリットを見つけるほうが難しい。
どんなに痛みが体を駆け巡ろうが美晴のその闘志だけは絶対に衰えない。気合強化をフル活用して立ち上がっては、聡史の木刀を何とか盾で防ごうと懸命になっている。ある程度盾の扱いに慣れてくると逆に聡史の木刀を押し返してくるこの気の強さだけは誰にもマネができないであろう。ついでだからとその気の強さを生かして聡史は盾を用いた攻撃方法も伝授しておく。
美晴が一段落すると今度はほのかの番となる。彼女も美晴同様に左手に小型の盾を装着するようになったので、今までとは戦法がガラリと変わる。元々剣道をベースにして両手持ちの剣を振るっていたのだが、体格に合わせた短剣と小盾の組み合わせに挑む。
「いいか、剣道で覚えた技術は全部忘れるんだぞ。間合いや相手の剣の受け方がまったく別物になるからな」
「はい、わかりました」
と口では答えるものの、手にしたばかりの短剣と盾を早々簡単に扱えるはずもない。聡史の木刀を受ける盾の動きと攻撃を仕掛ける剣の動きがてんでんバラバラで、ほのかは四苦八苦している。
脳筋ゆえに体に覚えこませる必要がある美晴と違って、ほのかはいきなり打ち合いをしていてもまったく効果がないよう。そこで聡史は右受け左受け剣を振ってから再び右受けという具合にほのかには反復練習を課す。彼女の場合は基本的な型を覚えるのが上達の近道であろうという判断が働いている。ある程度基本形を身に着けてから徐々に応用を覚えていくのが彼女には最も相応しい。
この辺の見極めに関しては聡史がこれまで培ってきた指導者としての経験がものをいう。それぞれに最も効果がある訓練方法を模索しながら少しずつ技術の底上げを図っていく方針を聡史は選択している。その分だけ聡史とブルーホライズンの師弟関係は相当な長期間に及ぶことが決定するのもまた事実。
その次の順番は真美となる。元々は中型剣を両手持ちで扱っていた彼女は、レイピアの二刀流に挑むという途方もなく高い峰を目指している。これがどれだけ困難な道のりかというと、かの剣豪宮本武蔵ですらその生涯を懸けて追及しようとした剣の奥義ということからもわかる。
右手と左手で1本ずつの剣を扱うのだから素振りと基本動作だけで倍の時間がかかる。しかも相手に合わせて左右の剣を個別に動かしていくのだから脳内の処理もざっと2倍。それだけでなくて左右に視線と気を配らないといけないので、神経も2倍使わなくてはならない。
例えるならば、ピアノのアドリブ演奏で左右の手で別々のメロディーを完璧に奏でていく緻密さが剣を振るうという動きの中で求められてくる。
この困難な道のりを克服するために、まず聡史は当面利き手である右の剣をメインにして左手は補助として使用する方法を提案する。真美自身も右手一本で剣を扱うのはまだしも左手の剣は素振りでさえもぎこちなさを感じているので、この提案に素直に納得している。彼女はその分左手の素振りは右手の倍にしようと誓っている。
こうして三人の基礎練習を開始した聡史は、順に各自の元を回って気付いた点をアドバイスしたり実際に見本を見せたりしながら少しずつ基礎を固めていく。彼女たちは汗だらけになりながら必死に剣や盾を振るっていく。
この三人とは別に、槍を手にする二人は桜に預けられている。彼女たちは手にする槍が大幅にグレードアップしただけなので基本的な技術自体はこれまでの継続となる。新たな槍を手にしてしばらく素振りをしてその感触を体に馴染ませてから、明日香ちゃんとカレンを相手にして打ち合いを開始。
もちろんこの場でトライデントvsロンギヌスなどといった神話級の槍が刃を交えたら周囲にどんな影響を及ぼすかわからないので、現在は木槍を手にして立ち会っている。現在は明日香ちゃんと渚、カレンと絵美の組み合わせで盛んに打ち合う。
この場で槍を交えている四人の中では、明日香ちゃんの槍術スキルレベル3というのは抜きんでた存在。体の捌き方や手にする槍を突き出したり引いたりする技術ともども渚を圧倒している。
対してカレンは棒術スキルレベル1に対して絵美は槍術スキルレベル1と技量の面では互角。だが大元のステータスレベル自体が段違いなので、体力的な部分でカレンが圧倒している。
しかしながらこうして格上の相手を槍を交えることによって、渚と絵美の両名にとっては技術面や駆け引きなどの点で学ぶべきことが多い。もちろん側で見ている桜が時折声を掛けてはアドバイスを送っているので、そのたびに渚と絵美は打ち合いの手を止めては指摘された点を振り返って動きの修正している。
こうして午前中は、訓練場の反対側のサイドから送られてくる男子たちの羨ましげな視線を受けながらの訓練が続いていく。
時折、カレンが動くたびにブルンブルンする上半身のとある部分に視線というのは憚られるばかりの欲情に塗れた波動が飛んでくるが、カレン自身は特に気にする様子はない。この無意識のサービスぶりがカレンがEクラスの男子から熱い支持を受ける理由でもある。カレンとしては、そんなものをいちいち気にしてはいられないという心境なのだが。
だが彼女の鷹揚な態度に便乗した一部男子がスマホを取り出して撮影するに及んで、その様子に気が付いた桜から大目玉を食らって正座させられているのはご愛敬というべきだろう。何事も程々に留めておく必要がある。「雉も鳴かずば撃たれまい」ということわざの通りだろう。
◇◇◇◇◇
昼食を終えて午後に入ると、訓練場にいた全員が装備に身を包んでダンジョンへと向かう。
本日は聡史だけはブルーホライゾンに同行して桜たちとは別行動の予定となる。
せっかく生徒会の仕事を猛スピードでこなして何とかこの時間に間に合わせた美鈴が心の底からガッカリした様子。聡史と一緒にダンジョンに入るためにあれだけ大量の書類を作成したのにダンジョン内部では別行動とは… 「私の頑張りは何だったのよぉぉ!」という心の叫びが聞こえてきそう。
だが美鈴もこの場に多くの目がある手前、声には出さないように努力している。その分だけジト目で聡史を見ているのは彼女の心情ゆえのやむを得ないささやかな反抗だろう。
そして美鈴は決心している。今日は女子寮に外泊許可を提出して特待生寮に泊まってやる! …と。
頭の中は完全に切り替わって、今夜ゆっくりと聡史と話をする話題を考えていたりする。もうそれだけですっかり機嫌が直ってしまうのは、揺れ動く恋する乙女の心境の複雑怪奇さであろう。傍から見てもコロコロ変わっていくその表情はなんだかとってもわかりやすい。
ブルーホライズンのメンバーは腰や背中に聡史から貸し出してもらった新たな武器や盾を装備している。習熟度としてはまったく完成には程遠いが、とりあえず実戦で試してみないことにはこれから先この武器でやっていけるかどうか判断がつかない。このような理由で聡史から実戦使用のオーケーが出されている。
今までのありふれた普及品の剣や槍とは違って武器自体から立ち込めるオーラが彼女たちを包んでいるかのよう。殊に絵美が背にするロンギヌスの存在感が尋常ではない。よくぞ彼女はこんな神話級の槍を手にしようと考えたものだ。それを言うと「フォークみたいでカワイイ」という理由でトライデントを選んだ明日香ちゃんも大概なのだが…
入場手続きを終えると、聡史が全体に向かって本日の予定の最終確認を始める。
「俺はブルーホライズンを引き連れて1階層を回る。可能だったら2階層に足を運ぶかもしれない。桜たちはどうする?」
聡史が不在のため、本日臨時でリーダを務めるのは当然桜となっている。一応行動の予定を確認しておかないと「このまま10階層を目指す」などと言いかねない。
「お兄様、今日は5階層でオーク狩りをいたしますわ。食堂に納入するオーク肉を集めないといけませんので」
桜は学生食堂の仕入れ担当と交渉の結果、オーク肉10キロあたり6500円で引き取ってもらう契約を結んでいる。魔石よりも10倍近い価格で引き取ってもらえるのはパーティーの財政に大きな寄与をもたらす。食堂側も豚肉の相場と比べて2割以上安いのでお互いにウィン‐ウィンの関係らしい。
ということで、入り口をくぐったらすぐに別行動を開始。桜に率いられたパーティーは下層へ向かい、ブルーホライズンはこのまま1階層に残って行動開始。
「渚が斥候役か?」
「はい、気配察知のスキルがあるのでいつも先頭を務めています」
本来槍持ちは一列下がった場所に控えているほうが咄嗟の場合に対処しやすい。斥候役は短剣やナイフを持った身軽な人間に任せたいのだが、彼女しか適任がいないのでこの際仕方がない。
隊列は渚を先頭にして、大型の盾を手にする美晴、小型の盾と短剣を手にするほのか、ロンギヌスを手にする絵美、一番後ろにリーダーの真美という布陣。さらに聡史がその後ろについて全体の様子を観察している。
「それでは、渚が一番適切だと思う方向に向かってくれ」
「はい」
こうしてパーティーは、ひとまずは1階層の東側に向かって歩き出す。こちらの方向はゴブリンの出現頻度が比較的低いので初心者にはお勧めのコースとなっている。もちろん1階層をほとんど素通りしていた聡史は東側に足を踏み入れるのは初めて。
「前方でゴブリンと他のパーティーが戦っています」
耳を澄ますと前方から人の声や器物がぶつかり合う音が確かに聞こえてくる。おそらく1年生の他のパーティーが戦闘中なのだろう。このような場合はゆっくりと接近しつつ状況を観察して、生徒たちが優勢であったらそのまま距離をとって待機。劣勢であったら後方から声を掛けて応援に加わると、教官から口を酸っぱくして教え込まれている。
ある程度離れた場所から観察するとどうやら生徒側が押しており、あと一息でゴブリンを仕留められそうなムード。だが、その時…
「おわぁぁぁ!」
「牧田! 大丈夫かぁ!」
「おい、牧田を安全な場所に運べ!」
どうやら1名負傷者が出た模様。これまで優勢だったのが、戦列から負傷者と彼を後方に運ぶ人員が一時離脱した影響で逆に棍棒を振り回すゴブリンから反撃を受けて徐々にこちら側に後退し始める様子が目に飛び込んでくる。
「助けに行くわよ」
真美の指示が飛ぶが、他のメンバーは不安そうな表情を浮かべる。
「私たちが出張っていって大丈夫かな?」
「かえって足手まといにならないか不安だわ」
どうやら今まで苦い思いをすることが多かったせいでゴブリンに対する若干のトラウマがあるよう。だがここで真美が力強く叱咤する。
「いい、私たちが生まれ変わるチャンスは今この時しかないのよ。それに私だけじゃないわ。いざとなったら聡史さんが助けてくれるから」
「そ、そうだよな。とにかく教えてもらった通りにゴブリンにぶちかましてやろうぜ!」
美晴がいち早く真美の意見に賛同する。その声に合わせて全員が頷いて救援の手を差し伸べることに意見がまとまったよう。
「それじゃあみんな、いくわよ!」
「「「「はい!」」」」
こうして苦戦している学院生の元に向かうブルーホライズン。聡史はその後ろ姿を頼もしく眺めつつ、万一の場合にはすぐに介入できるように万全の態勢をとるのだった。
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異世界召喚モノにちょっとだけSF要素を取り入れた作品となっておりますが、肩の力を抜いて楽しめる内容です。皆様この小説同様に第1話だけでも覗きに来てくださいませ。
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「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! 皆様の応援を心よりお待ちしております。
美晴の盾の扱い方をまずは徹底的に体に覚えさせていく。たとえ女子であっても脳筋に対しては理論や理屈は横に置いて体に覚えさせるのが最も手っ取り早い。変に理屈を教えると頭の中で考える動きと体の実際の動きのギャップによって何がなんだかわけがわからなくなるのがこの手合いと相場は決まっている。
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どんなに痛みが体を駆け巡ろうが美晴のその闘志だけは絶対に衰えない。気合強化をフル活用して立ち上がっては、聡史の木刀を何とか盾で防ごうと懸命になっている。ある程度盾の扱いに慣れてくると逆に聡史の木刀を押し返してくるこの気の強さだけは誰にもマネができないであろう。ついでだからとその気の強さを生かして聡史は盾を用いた攻撃方法も伝授しておく。
美晴が一段落すると今度はほのかの番となる。彼女も美晴同様に左手に小型の盾を装着するようになったので、今までとは戦法がガラリと変わる。元々剣道をベースにして両手持ちの剣を振るっていたのだが、体格に合わせた短剣と小盾の組み合わせに挑む。
「いいか、剣道で覚えた技術は全部忘れるんだぞ。間合いや相手の剣の受け方がまったく別物になるからな」
「はい、わかりました」
と口では答えるものの、手にしたばかりの短剣と盾を早々簡単に扱えるはずもない。聡史の木刀を受ける盾の動きと攻撃を仕掛ける剣の動きがてんでんバラバラで、ほのかは四苦八苦している。
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この困難な道のりを克服するために、まず聡史は当面利き手である右の剣をメインにして左手は補助として使用する方法を提案する。真美自身も右手一本で剣を扱うのはまだしも左手の剣は素振りでさえもぎこちなさを感じているので、この提案に素直に納得している。彼女はその分左手の素振りは右手の倍にしようと誓っている。
こうして三人の基礎練習を開始した聡史は、順に各自の元を回って気付いた点をアドバイスしたり実際に見本を見せたりしながら少しずつ基礎を固めていく。彼女たちは汗だらけになりながら必死に剣や盾を振るっていく。
この三人とは別に、槍を手にする二人は桜に預けられている。彼女たちは手にする槍が大幅にグレードアップしただけなので基本的な技術自体はこれまでの継続となる。新たな槍を手にしてしばらく素振りをしてその感触を体に馴染ませてから、明日香ちゃんとカレンを相手にして打ち合いを開始。
もちろんこの場でトライデントvsロンギヌスなどといった神話級の槍が刃を交えたら周囲にどんな影響を及ぼすかわからないので、現在は木槍を手にして立ち会っている。現在は明日香ちゃんと渚、カレンと絵美の組み合わせで盛んに打ち合う。
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こうして午前中は、訓練場の反対側のサイドから送られてくる男子たちの羨ましげな視線を受けながらの訓練が続いていく。
時折、カレンが動くたびにブルンブルンする上半身のとある部分に視線というのは憚られるばかりの欲情に塗れた波動が飛んでくるが、カレン自身は特に気にする様子はない。この無意識のサービスぶりがカレンがEクラスの男子から熱い支持を受ける理由でもある。カレンとしては、そんなものをいちいち気にしてはいられないという心境なのだが。
だが彼女の鷹揚な態度に便乗した一部男子がスマホを取り出して撮影するに及んで、その様子に気が付いた桜から大目玉を食らって正座させられているのはご愛敬というべきだろう。何事も程々に留めておく必要がある。「雉も鳴かずば撃たれまい」ということわざの通りだろう。
◇◇◇◇◇
昼食を終えて午後に入ると、訓練場にいた全員が装備に身を包んでダンジョンへと向かう。
本日は聡史だけはブルーホライゾンに同行して桜たちとは別行動の予定となる。
せっかく生徒会の仕事を猛スピードでこなして何とかこの時間に間に合わせた美鈴が心の底からガッカリした様子。聡史と一緒にダンジョンに入るためにあれだけ大量の書類を作成したのにダンジョン内部では別行動とは… 「私の頑張りは何だったのよぉぉ!」という心の叫びが聞こえてきそう。
だが美鈴もこの場に多くの目がある手前、声には出さないように努力している。その分だけジト目で聡史を見ているのは彼女の心情ゆえのやむを得ないささやかな反抗だろう。
そして美鈴は決心している。今日は女子寮に外泊許可を提出して特待生寮に泊まってやる! …と。
頭の中は完全に切り替わって、今夜ゆっくりと聡史と話をする話題を考えていたりする。もうそれだけですっかり機嫌が直ってしまうのは、揺れ動く恋する乙女の心境の複雑怪奇さであろう。傍から見てもコロコロ変わっていくその表情はなんだかとってもわかりやすい。
ブルーホライズンのメンバーは腰や背中に聡史から貸し出してもらった新たな武器や盾を装備している。習熟度としてはまったく完成には程遠いが、とりあえず実戦で試してみないことにはこれから先この武器でやっていけるかどうか判断がつかない。このような理由で聡史から実戦使用のオーケーが出されている。
今までのありふれた普及品の剣や槍とは違って武器自体から立ち込めるオーラが彼女たちを包んでいるかのよう。殊に絵美が背にするロンギヌスの存在感が尋常ではない。よくぞ彼女はこんな神話級の槍を手にしようと考えたものだ。それを言うと「フォークみたいでカワイイ」という理由でトライデントを選んだ明日香ちゃんも大概なのだが…
入場手続きを終えると、聡史が全体に向かって本日の予定の最終確認を始める。
「俺はブルーホライズンを引き連れて1階層を回る。可能だったら2階層に足を運ぶかもしれない。桜たちはどうする?」
聡史が不在のため、本日臨時でリーダを務めるのは当然桜となっている。一応行動の予定を確認しておかないと「このまま10階層を目指す」などと言いかねない。
「お兄様、今日は5階層でオーク狩りをいたしますわ。食堂に納入するオーク肉を集めないといけませんので」
桜は学生食堂の仕入れ担当と交渉の結果、オーク肉10キロあたり6500円で引き取ってもらう契約を結んでいる。魔石よりも10倍近い価格で引き取ってもらえるのはパーティーの財政に大きな寄与をもたらす。食堂側も豚肉の相場と比べて2割以上安いのでお互いにウィン‐ウィンの関係らしい。
ということで、入り口をくぐったらすぐに別行動を開始。桜に率いられたパーティーは下層へ向かい、ブルーホライズンはこのまま1階層に残って行動開始。
「渚が斥候役か?」
「はい、気配察知のスキルがあるのでいつも先頭を務めています」
本来槍持ちは一列下がった場所に控えているほうが咄嗟の場合に対処しやすい。斥候役は短剣やナイフを持った身軽な人間に任せたいのだが、彼女しか適任がいないのでこの際仕方がない。
隊列は渚を先頭にして、大型の盾を手にする美晴、小型の盾と短剣を手にするほのか、ロンギヌスを手にする絵美、一番後ろにリーダーの真美という布陣。さらに聡史がその後ろについて全体の様子を観察している。
「それでは、渚が一番適切だと思う方向に向かってくれ」
「はい」
こうしてパーティーは、ひとまずは1階層の東側に向かって歩き出す。こちらの方向はゴブリンの出現頻度が比較的低いので初心者にはお勧めのコースとなっている。もちろん1階層をほとんど素通りしていた聡史は東側に足を踏み入れるのは初めて。
「前方でゴブリンと他のパーティーが戦っています」
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「おわぁぁぁ!」
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「助けに行くわよ」
真美の指示が飛ぶが、他のメンバーは不安そうな表情を浮かべる。
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美晴がいち早く真美の意見に賛同する。その声に合わせて全員が頷いて救援の手を差し伸べることに意見がまとまったよう。
「それじゃあみんな、いくわよ!」
「「「「はい!」」」」
こうして苦戦している学院生の元に向かうブルーホライズン。聡史はその後ろ姿を頼もしく眺めつつ、万一の場合にはすぐに介入できるように万全の態勢をとるのだった。
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