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第60話 再び隠し通路
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6階層にできた隠し通路と思しき個所に入り込んでいく桜、他の三人も仕方なしにその後についていく。通路は思いのほか短くて、約20メートル進むと大きな扉が彼女たちの目の前に現れる。
「桜ちゃん! いかにも危険なニオイが立ち込めていますよ~。こんな扉の中に入ると碌な目に遭わない気がします」
「明日香ちゃんは相変わらず気が小さいですねぇ~。せっかく発見したんですからキッチリ中を調べるのが冒険者というものですわ」
不安げな明日香ちゃんに対して桜は自信満々で扉の前に立っている。美鈴とカレンも明日香ちゃん同様に不安な表情を浮かべているが、桜は一向に躊躇する様子はない。
「それでは中に入ってみます」
桜が扉に両手を掛けて一気に押し開くと内部はガランとした空間で、最奥にただ一つだけ木製の宝箱が置かれているだけ。
「危険がなくて良かったですよ~」
「明日香ちゃん、まだまだ油断は禁物ですわ」
桜が単独で宝箱に近づいて何か怪しい点はないかと調べ始めていく。箱の側面や上部を叩いたり、耳を当てて内部から異音が聞こえてこないか確認する。そして…
「どうやらこの宝箱はちょっとおかしいですね。迂闊に開けると罠が仕掛けられている可能性があります」
数多のダンジョンを制覇した経験からか、桜が三人に振り向きながらドヤ顔で調査結果を説明し始める。
その時、誰も手を触れてない宝箱の蓋がわずかに開いて桜の手に噛み付こうと口を開いく。
「桜ちゃん! 後ろ後ろ!」
美鈴が宝箱の動きに気が付いて桜に注意する。だがその時には宝箱は元通りに蓋を閉じてじっとその場に留まっている。
「美鈴ちゃんは大袈裟ですねぇ~。ほら、こちらから手を出さなければ大丈夫ですわ」
桜が振り向くと宝箱は身動きひとつしないでそのまま床に置かれてじっとしている。桜はその蓋をポンポン叩きながら、だと自信ありげな顔で三人を見ている。
「みなさん、こういう怪しい宝箱はしばらく様子見するのが肝心ですの」
再び桜が三人に向き合うと、宝箱は蓋をわずかに持ち上げる。
「桜ちゃん! 後ろですぅぅ!」
明日香ちゃんの声に桜が振り向くと、宝箱は蓋をピッタリ閉じて元の姿で何の変哲もなくその場に佇んでいるだけ。
「明日香ちゃん、なにもそんなにビビる必要はないですよわ。ほれこの通り、刺激しないければ何もしてきませんから」
桜は一向に気にした素振りも見せずに箱をポンポン叩いている。宝箱から目をそらして三人に向かってニコニコ笑っている。
「桜ちゃん! ほら、蓋が!」
「カレンさんは大袈裟ですねぇ~。全然大丈夫ですよ」
桜が振り向くと宝箱はピッタリと蓋を閉じる。
「ほらね! 何の異常もありませんから」
「桜ちゃん! そんなことを言っている場合じゃないから~! 後ろ! 後ろだってば!」
クルっと桜が振り向くと宝箱は身じろぎもせずにそこにある。
「美鈴ちゃん、この通り何も危険はありません」
再び桜は宝箱に背を向ける。だが今度は…
「桜ちゃん! 手がぁぁ!」
「明日香ちゃん、一体何を言っているんですか? ほれこの通り… なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」
驚くことに桜の左手に宝箱が噛み付いている。オリハルコンの小手に覆われた手首の部分にパックリと口を開けて凶暴な牙を剥き出しにして齧りついている状況に桜は漸く気が付いたよう。
だが桜はここで一旦気を取り直す。
「このように宝箱には罠が仕掛けられている場合がありますから、皆さんどうか気を付けてください」
「説得力がないからぁぁぁぁ!」
「手に噛み付かれたままで、そんなことを言われても…」
「は、早く何とかしたほうがいいんじゃないですか?」
敢えてニコやかな表情で解説する桜に三人から突っ込みが殺到する。宝箱に噛み付かれた状態で何をそんな余裕を持っているんだと、逆に三人のほうが慌てている。
「これはミミックといって宝箱に住み着く魔物ですわ。箱を壊せば問題なく討伐可能ですの」
桜は宝箱に噛み付かれている左手を思いっ切り壁に叩き付ける。
グシャーーン!
木製の宝箱は勢いよく壁にぶつかって粉々に砕け散る。ミミックは体の部分に相当する箱を壊されてそのまま絶命した模様。
「こんな感じでミミックを討伐できますから、皆さんは覚えておいてください」
「誰がやるかぁぁぁ!」
「なんで腕一本差し出さないといけないんですかぁぁぁ!」
「怪しいと思ったら先に箱を壊せばいいんじゃないでしょうか?」
美鈴と明日香ちゃんは再び桜に突っ込んでいるが、カレンは冷静な意見を述べている。
「そうですわね。カレンさんの意見を採用しましょう。これからは怪しいと思ったら箱ごと壊してしまいましょうか」
「桜ちゃん、今までどうやっていたんですか?」
「明日香ちゃん、よくぞ聞いてくれましたわ。今まではわざと隙を見せて食い付かせていました」
「そこまで体を張る必要はないんじゃないですか?」
「そ、そうですね、言われてみれば確かに… 今回は皆さんに悪い例をお見せするためにわざとやってみたんですの。どうかその点は覚えておいてください」
あくまでもわざとやったと強弁する桜に対して、三人からジトーっとした視線が集まっている。先程までの自信満々な態度とは打って変わって、桜の視線は泳ぎまくっている。水飛沫を盛大に上げてバタフライで遠くまで泳ぎ去っていくかのように、遥か彼方に視線を泳がせまくっている。
ここで明日香ちゃんがハッとした表情に。
「桜ちゃん、確か5階層のボス部屋の前で私の失敗を大笑いしてくれましたよね。今回の桜ちゃんの失敗をいつか嘲笑ってあげますよ~」
「明日香ちゃんは大きな誤解をしていますわ。これは皆さんにお見せするためにわざとやったという点をどうかしっかりと理解してください」
「失敗だったんですよね?」
「見本ですわ」
「やっちまったんですよね?」
「悪い見本ですから、どうか安心してください」
明日香ちゃんの追及にも桜は頑として首を縦に振らない。このまま有耶無耶にしてこの件はなかったことにするつもりのよう。
「さて、邪魔なミミックは片付けましたから、お宝を探しましょう!」
「桜ちゃん、この部屋には何もないですよ~」
「明日香ちゃん、お言葉ですが、一見何もない場所にお宝が隠されているんですの。ちょっと調べてみますから待っていてください」
話題の転換に成功した桜は壁や床を調べ出す。その結果壁のとある部分にひとつだけ色違いのレンガを発見。桜のドヤ顔が鮮やかに復活する。これ以上ないほどに胸を張って色違いのレンガを指差している。
「このレンガをこうやって押すとお宝が…」
レンガを壁の奥に向かって押し込む桜の手にカキンという手応えが伝わってくる。そして完全に壁の内部にレンガが姿を消すと…
「さ、桜ちゃん、なんだか魔物がいっぱい湧き出してきましたぁぁぁ!」
「桜ちゃん、どうすればいいのよぉぉぉ!」
明日香ちゃんと美鈴は大慌てだが、カレンだけは冷静に神聖魔法の発動を準備している。
「これはこれは。こんな浅い階層でミノタウロスが出てきましたよわ。こいつらは伊豆の旅行で食べたステーキ肉よりも高級な肉をドロップしてくれますのよ」
「そんなに落ち着いていないで早く倒してくださいよ~」
明日香ちゃんの切羽詰まった声が響く。いきなり現れた人身牛頭の10体以上のミノタウロスに相当ビビっているよう。だが明日香ちゃんの態度を誰も笑えない。そもそもミノタウロスは異世界ではAランク相当の手強い敵で、異世界の例では通常はダンジョンの20階層から下でしか登場しない魔物となっている。
「美鈴ちゃん、今こそ闇魔法です。一気に倒してください。カレンさんは追撃の準備を」
「わ、わかったわ。全てを焼き尽くす闇の炎を食らってみなさい。ダークフレイム!」
美鈴の右手から黒い炎が迸っていく。あたかも火炎放射器のように迫りくるミノタウロスに向かってダークフレイムが迫っていく。
イギャァァァァァ!
剣や斧を振り上げてズシズシと床を踏みしめて歩いていたミノタウロスたちは、あっという間に黒い炎に巻かれて体を焼かれる熱さに身悶えしながら倒れていく。普通の炎とは違って闇をまとった炎は対象を燃やし尽くすまで止むことがない。
やがてフロアーには消し炭になったミノタウロスの残骸が転がっているだけとなる。だが……
ウガァァァァ!
1体だけ美鈴の魔法から逃れたミノタウロスが残っていたよう。巨大な斧を振り上げてこちらに向かってくる。
「ホーリーアロー!」
そこへカレンの魔法が飛び出していく。
ドドドゴーーン!
カレンの魔法が炸裂してミノタウロスの上半身は吹き飛ばされている。わずか2発の魔法でAランクの魔物10体以上を仕留めたのだから、この美鈴とカレンの魔法は相当なレベルといえよう。これだけ高レベルの魔物を倒すと当然大量の経験値を獲得できる。その結果美鈴と明日香ちゃんが1ランク、カレンが2ランクレベルが上昇している。
「美鈴ちゃんとカレンさんの魔法はさすがですわ。どうやらこれで罠もお仕舞のようです」
桜が言い終わると、ちょうどそのタイミングで宝箱が出現する。どうやらこの宝箱は本物のよう。
いつもよりも慎重に桜が宝箱の安全を確かめている。やはり先程のミミックの出現を気にしているらしい。
「桜ちゃん、やっぱりさっきのは失敗だったんですね! 今回はずいぶん慎重になっているじゃないですか」
「明日香ちゃんは何の話をしているの、かよくわかりませんわ。私はいつでも慎重ですの」
ジトーっとした視線再び。桜の目も彼方に向かって泳ぎだす。鬼の首を取ったかのような表情の明日香ちゃんがそこにいる。
だが今回は無事に宝箱は開いて中からは赤い魔石が取り付けられてある指輪が出てくる。
「どうやらマジックアイテムのようですね。私は詳しくないのでお兄様に見てもらいましょう」
「桜ちゃん、聡史君が話していたけど、赤い石を用いたマジックアイテムは火属性に対応しているそうよ。千里ちゃんにあげたら彼女は魔法スキルを獲得できるかもしれないわね」
「まあ美鈴ちゃん、そうなんですか。ますますお兄様に見てもらう必要がありそうですね。これは私が預かっておきますわ」
こうしてお宝をゲットした桜たちは床に散らばっているドロップアイテムを拾い集める。超高級肉をゲットした桜はホクホク顔で20キロもありそうなブロック肉を次々にアイテムボックスに収納。そのほかにも大剣や斧などといったミノタウロスが手にしていた武器まで落ちているから、これは相当な買取額になりそうな予感。
こうして隠し通路の攻略が終わって桜たちは扉から出て通路へと戻っていく。再び6階層に戻ってからは魔物狩りをしばらく続けて、この日のダンジョン探索を終えるのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
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「桜ちゃん! いかにも危険なニオイが立ち込めていますよ~。こんな扉の中に入ると碌な目に遭わない気がします」
「明日香ちゃんは相変わらず気が小さいですねぇ~。せっかく発見したんですからキッチリ中を調べるのが冒険者というものですわ」
不安げな明日香ちゃんに対して桜は自信満々で扉の前に立っている。美鈴とカレンも明日香ちゃん同様に不安な表情を浮かべているが、桜は一向に躊躇する様子はない。
「それでは中に入ってみます」
桜が扉に両手を掛けて一気に押し開くと内部はガランとした空間で、最奥にただ一つだけ木製の宝箱が置かれているだけ。
「危険がなくて良かったですよ~」
「明日香ちゃん、まだまだ油断は禁物ですわ」
桜が単独で宝箱に近づいて何か怪しい点はないかと調べ始めていく。箱の側面や上部を叩いたり、耳を当てて内部から異音が聞こえてこないか確認する。そして…
「どうやらこの宝箱はちょっとおかしいですね。迂闊に開けると罠が仕掛けられている可能性があります」
数多のダンジョンを制覇した経験からか、桜が三人に振り向きながらドヤ顔で調査結果を説明し始める。
その時、誰も手を触れてない宝箱の蓋がわずかに開いて桜の手に噛み付こうと口を開いく。
「桜ちゃん! 後ろ後ろ!」
美鈴が宝箱の動きに気が付いて桜に注意する。だがその時には宝箱は元通りに蓋を閉じてじっとその場に留まっている。
「美鈴ちゃんは大袈裟ですねぇ~。ほら、こちらから手を出さなければ大丈夫ですわ」
桜が振り向くと宝箱は身動きひとつしないでそのまま床に置かれてじっとしている。桜はその蓋をポンポン叩きながら、だと自信ありげな顔で三人を見ている。
「みなさん、こういう怪しい宝箱はしばらく様子見するのが肝心ですの」
再び桜が三人に向き合うと、宝箱は蓋をわずかに持ち上げる。
「桜ちゃん! 後ろですぅぅ!」
明日香ちゃんの声に桜が振り向くと、宝箱は蓋をピッタリ閉じて元の姿で何の変哲もなくその場に佇んでいるだけ。
「明日香ちゃん、なにもそんなにビビる必要はないですよわ。ほれこの通り、刺激しないければ何もしてきませんから」
桜は一向に気にした素振りも見せずに箱をポンポン叩いている。宝箱から目をそらして三人に向かってニコニコ笑っている。
「桜ちゃん! ほら、蓋が!」
「カレンさんは大袈裟ですねぇ~。全然大丈夫ですよ」
桜が振り向くと宝箱はピッタリと蓋を閉じる。
「ほらね! 何の異常もありませんから」
「桜ちゃん! そんなことを言っている場合じゃないから~! 後ろ! 後ろだってば!」
クルっと桜が振り向くと宝箱は身じろぎもせずにそこにある。
「美鈴ちゃん、この通り何も危険はありません」
再び桜は宝箱に背を向ける。だが今度は…
「桜ちゃん! 手がぁぁ!」
「明日香ちゃん、一体何を言っているんですか? ほれこの通り… なんじゃこりゃぁぁぁぁ!」
驚くことに桜の左手に宝箱が噛み付いている。オリハルコンの小手に覆われた手首の部分にパックリと口を開けて凶暴な牙を剥き出しにして齧りついている状況に桜は漸く気が付いたよう。
だが桜はここで一旦気を取り直す。
「このように宝箱には罠が仕掛けられている場合がありますから、皆さんどうか気を付けてください」
「説得力がないからぁぁぁぁ!」
「手に噛み付かれたままで、そんなことを言われても…」
「は、早く何とかしたほうがいいんじゃないですか?」
敢えてニコやかな表情で解説する桜に三人から突っ込みが殺到する。宝箱に噛み付かれた状態で何をそんな余裕を持っているんだと、逆に三人のほうが慌てている。
「これはミミックといって宝箱に住み着く魔物ですわ。箱を壊せば問題なく討伐可能ですの」
桜は宝箱に噛み付かれている左手を思いっ切り壁に叩き付ける。
グシャーーン!
木製の宝箱は勢いよく壁にぶつかって粉々に砕け散る。ミミックは体の部分に相当する箱を壊されてそのまま絶命した模様。
「こんな感じでミミックを討伐できますから、皆さんは覚えておいてください」
「誰がやるかぁぁぁ!」
「なんで腕一本差し出さないといけないんですかぁぁぁ!」
「怪しいと思ったら先に箱を壊せばいいんじゃないでしょうか?」
美鈴と明日香ちゃんは再び桜に突っ込んでいるが、カレンは冷静な意見を述べている。
「そうですわね。カレンさんの意見を採用しましょう。これからは怪しいと思ったら箱ごと壊してしまいましょうか」
「桜ちゃん、今までどうやっていたんですか?」
「明日香ちゃん、よくぞ聞いてくれましたわ。今まではわざと隙を見せて食い付かせていました」
「そこまで体を張る必要はないんじゃないですか?」
「そ、そうですね、言われてみれば確かに… 今回は皆さんに悪い例をお見せするためにわざとやってみたんですの。どうかその点は覚えておいてください」
あくまでもわざとやったと強弁する桜に対して、三人からジトーっとした視線が集まっている。先程までの自信満々な態度とは打って変わって、桜の視線は泳ぎまくっている。水飛沫を盛大に上げてバタフライで遠くまで泳ぎ去っていくかのように、遥か彼方に視線を泳がせまくっている。
ここで明日香ちゃんがハッとした表情に。
「桜ちゃん、確か5階層のボス部屋の前で私の失敗を大笑いしてくれましたよね。今回の桜ちゃんの失敗をいつか嘲笑ってあげますよ~」
「明日香ちゃんは大きな誤解をしていますわ。これは皆さんにお見せするためにわざとやったという点をどうかしっかりと理解してください」
「失敗だったんですよね?」
「見本ですわ」
「やっちまったんですよね?」
「悪い見本ですから、どうか安心してください」
明日香ちゃんの追及にも桜は頑として首を縦に振らない。このまま有耶無耶にしてこの件はなかったことにするつもりのよう。
「さて、邪魔なミミックは片付けましたから、お宝を探しましょう!」
「桜ちゃん、この部屋には何もないですよ~」
「明日香ちゃん、お言葉ですが、一見何もない場所にお宝が隠されているんですの。ちょっと調べてみますから待っていてください」
話題の転換に成功した桜は壁や床を調べ出す。その結果壁のとある部分にひとつだけ色違いのレンガを発見。桜のドヤ顔が鮮やかに復活する。これ以上ないほどに胸を張って色違いのレンガを指差している。
「このレンガをこうやって押すとお宝が…」
レンガを壁の奥に向かって押し込む桜の手にカキンという手応えが伝わってくる。そして完全に壁の内部にレンガが姿を消すと…
「さ、桜ちゃん、なんだか魔物がいっぱい湧き出してきましたぁぁぁ!」
「桜ちゃん、どうすればいいのよぉぉぉ!」
明日香ちゃんと美鈴は大慌てだが、カレンだけは冷静に神聖魔法の発動を準備している。
「これはこれは。こんな浅い階層でミノタウロスが出てきましたよわ。こいつらは伊豆の旅行で食べたステーキ肉よりも高級な肉をドロップしてくれますのよ」
「そんなに落ち着いていないで早く倒してくださいよ~」
明日香ちゃんの切羽詰まった声が響く。いきなり現れた人身牛頭の10体以上のミノタウロスに相当ビビっているよう。だが明日香ちゃんの態度を誰も笑えない。そもそもミノタウロスは異世界ではAランク相当の手強い敵で、異世界の例では通常はダンジョンの20階層から下でしか登場しない魔物となっている。
「美鈴ちゃん、今こそ闇魔法です。一気に倒してください。カレンさんは追撃の準備を」
「わ、わかったわ。全てを焼き尽くす闇の炎を食らってみなさい。ダークフレイム!」
美鈴の右手から黒い炎が迸っていく。あたかも火炎放射器のように迫りくるミノタウロスに向かってダークフレイムが迫っていく。
イギャァァァァァ!
剣や斧を振り上げてズシズシと床を踏みしめて歩いていたミノタウロスたちは、あっという間に黒い炎に巻かれて体を焼かれる熱さに身悶えしながら倒れていく。普通の炎とは違って闇をまとった炎は対象を燃やし尽くすまで止むことがない。
やがてフロアーには消し炭になったミノタウロスの残骸が転がっているだけとなる。だが……
ウガァァァァ!
1体だけ美鈴の魔法から逃れたミノタウロスが残っていたよう。巨大な斧を振り上げてこちらに向かってくる。
「ホーリーアロー!」
そこへカレンの魔法が飛び出していく。
ドドドゴーーン!
カレンの魔法が炸裂してミノタウロスの上半身は吹き飛ばされている。わずか2発の魔法でAランクの魔物10体以上を仕留めたのだから、この美鈴とカレンの魔法は相当なレベルといえよう。これだけ高レベルの魔物を倒すと当然大量の経験値を獲得できる。その結果美鈴と明日香ちゃんが1ランク、カレンが2ランクレベルが上昇している。
「美鈴ちゃんとカレンさんの魔法はさすがですわ。どうやらこれで罠もお仕舞のようです」
桜が言い終わると、ちょうどそのタイミングで宝箱が出現する。どうやらこの宝箱は本物のよう。
いつもよりも慎重に桜が宝箱の安全を確かめている。やはり先程のミミックの出現を気にしているらしい。
「桜ちゃん、やっぱりさっきのは失敗だったんですね! 今回はずいぶん慎重になっているじゃないですか」
「明日香ちゃんは何の話をしているの、かよくわかりませんわ。私はいつでも慎重ですの」
ジトーっとした視線再び。桜の目も彼方に向かって泳ぎだす。鬼の首を取ったかのような表情の明日香ちゃんがそこにいる。
だが今回は無事に宝箱は開いて中からは赤い魔石が取り付けられてある指輪が出てくる。
「どうやらマジックアイテムのようですね。私は詳しくないのでお兄様に見てもらいましょう」
「桜ちゃん、聡史君が話していたけど、赤い石を用いたマジックアイテムは火属性に対応しているそうよ。千里ちゃんにあげたら彼女は魔法スキルを獲得できるかもしれないわね」
「まあ美鈴ちゃん、そうなんですか。ますますお兄様に見てもらう必要がありそうですね。これは私が預かっておきますわ」
こうしてお宝をゲットした桜たちは床に散らばっているドロップアイテムを拾い集める。超高級肉をゲットした桜はホクホク顔で20キロもありそうなブロック肉を次々にアイテムボックスに収納。そのほかにも大剣や斧などといったミノタウロスが手にしていた武器まで落ちているから、これは相当な買取額になりそうな予感。
こうして隠し通路の攻略が終わって桜たちは扉から出て通路へと戻っていく。再び6階層に戻ってからは魔物狩りをしばらく続けて、この日のダンジョン探索を終えるのであった。
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