62 / 131
第62話 殲滅者の本領
しおりを挟む
バスと電車を乗り継いで聡史たちはお目当ての街に到着する。
「師匠! まずはボーリングで軽く体を解しましょう!」
どうやら活動的な美晴の希望らしい。6人が隣り合った2つのレーンに席を取ってボールを投げていく。さすがにレベルが上がっただけあって、ブルーホライズンのメンバーたちはパワフルな球を投げてはストライクを連発する。
だが聡史は……
(ヤバい! ボーリングなんて数えるほどしかやっていないぞ。どうしよう?)
聡史のボーリング歴は中学時代に友達に誘われてほんの2、3回経験したのみ。もちろんスコアなどボロボロで他人に教えるのも恥ずかしい。
(まあいいか… 取り敢えず投げてみよう)
聡史はボールを手にしてアプローチに立つ。ブルーホライズンのメンバーの注目を一身に集めているのは、背中に感じる彼女たちの視線で百も承知。
「師匠、格好いいところを見せてください!」
「師匠、ストライクでキメてぇ~!」
聡史に向かって無邪気に声援を送る美晴と渚… ほぼ初心者の聡史には重たすぎるプレッシャーが圧し掛かってくる。
「よし、いくぞ!」
意を決して助走に入る聡史、だが思わず体に力が入る。そして手から離れたボールは有り余るスピードで一直線に… 溝に転がり落ちていく。初っ端のあまりに恥ずかしい豪快なガーターが炸裂。
「師匠はさすがだな。私たちにハンデを与える意味でわざと溝に落としたな!」
「師匠だったらここから鮮やかな逆転を見せてくれますよ!」
人の気も知らない美晴と渚が第2投に期待する目を向けているが、聡史はすでにこの場から逃げ出したい気分を味わっている。両肩に掛かるプレッシャーが尋常ではない。
そして迎えた第2投… 再びボールは溝を転がっていく。この辺からブルーホライズンのメンバーたちの空気が変わっていく。
「し、師匠… もしかしてボーリングが苦手とか?」
「そんなことはないぞ! まだ体が温まっていないだけだ!」
聡史は桜から「女の子たちをガッカリさせるな!」と固く言いつけられている。ボーリングといえどもこのままむざむざとガーターを連発するわけにはいかない。
そして迎えた第2フレーム、ついに聡史は封印していた奥の手を使用する。
(スキル、投擲発動!)
投げた物体は絶対に目標に当たるという、反則スキルの使用に踏み切った聡史。そして投げると…
パッカーン!
「師匠、やったぜ! やっぱり実力を隠していたんだな!」
「さすがは師匠ね! 格好いい!」
投げ終わって戻ってきた聡史を美晴と渚がハイタッチで迎える。隣のレーンからも盛大な拍手が沸き起こる。だがスキルまで使用している聡史はどうにも素直に喜べない。
こうして1フレームは連続ガーターをマークしたものの、それ以降は順調にストライクを積み重ねて聡史はボーリングを終える。もちろん彼が成績トップ。
「師匠は何をやらせても凄いね!」
「運動神経抜群ね!」
絵美と真美から褒められても、どうにも気まずい聡史。なんだか彼女たちを騙しているような気がしてならない。
ボーリングを終えると、同じビルの1階にあるゲームセンターが次の目的地。絵美の希望で聡史とプリクラを撮ることとなっている。5人全員がカップル用という機種を選択して順番に聡史とペアになって撮影する。
もちろんプリクラなど初体験の聡史は機械の操作など全く理解不能。女子に言われるままにお揃いの逆ピースのポーズを強要されたりしながらも、何とか全員分撮り切っている。撮影中は何かと密着する状況で、殊に真美のフカフカが聡史の体に押し付けられてちょっと得した気分の聡史。
昼食は桜が探して予約を入れた洒落たイタリアンレストランに入っていく。
「なんだか高級そうな店じゃない」
「師匠は奮発したなぁ~!」
そんな会話を交わしながらシェフのおすすめランチコースを注文する。もちろん女子五人はちょっとした大人の雰囲気に大喜び。
午後はカラオケをしたり、ウインドウショッピングを楽しんで過ごしていく。途中で聡史は「ちょっと買いたいものがある」と言って女子たちを5分くらい待たせて戻ってくる。
そろそろ夕暮れが近付いてきた頃に、聡史が五人に申し出る。
「もしよかったらこの近くの河原に行こうか」
街の中心部から歩いてすぐの場所には結構大きな川が流れている。聡史は女子五人をそこに連れて行こうとしているよう。
「し、師匠、まだ心の準備がぁぁ!」
「わ、私はまだファーストキスもしていないし…」
女子たちはあらぬ誤解をしている。話が飛躍しすぎのように思われてならない。
「まだ蚊がいるからスプレーしておけよ!」
アイテムボックスから取り出した虫除けスプレーを真美に渡して、五人は順番に体に吹き付けていく。わざわざ河原にきて一体何をするつもりだろうと思いつつも、彼女たちはスプレーを互いの体に吹き付ける。
そして河原に到着すると、聡史はアイテムボックスから花火セットを取り出す。
「もう夏は終わりだけど、夏の最後の思い出だ。さっきこっそり買っておいたんだ」
「師匠はさすがよね。夏を惜しみながらの花火なんていい感じじゃないの」
「まさか今日の最後にこんなサプライズがあるとは思いませんでした。みんなで花火なんて最高です!」
女子たちは聡史の予想以上の大喜びをしてくれている。
まだ少々薄暗い時間で花火をやるにしてはちょっと早かったが、遅くとも8時までには学院に戻らないといけないので、このまま花火大会開始となる。
子供に戻ったようにはしゃぎながら花火に興じるブルーホライズンのメンバーたち。
だが聡史は、午前中からずっと自分たちを尾行している存在に注意の大半を向けている。伊豆では理事長派の陰陽師に命を狙われたが、理事長自身が様々な容疑で逮捕されてもうその懸念はなくなっているはず。
とはいえ何者か正体を明かさないまま遠巻きに聡史たちを監視している連中の存在ははっきり言って鬱陶しい。この際実力行使に出て目的を吐かせてもいいかと聡史は考えている。花火を口実にこうして人目に付きにくい河原に女子たちを連れてきたのも、尾行者が何かチョッカイを掛けてこないかという聡史の思惑が隠されている。
そろそろ用意した花火も底をついて最後の線香花火をみんなで囲んでいるちょうどその時、河川敷の沿道に3台の黒塗りのワゴン車が停止する。
「どうやらお迎えが来たようだな。ここからは俺が対処するから全員俺が展開する結界の中に入れ!」
「師匠、一体何があったんですか?」
「今は黙って指示に従うんだ!」
「「「「「はい!」」」」」」
五人はまだ燃え残っている線香花火の火を消すと、ひと塊になって待機する。聡史が真剣な表情で出す指示には絶対服従と教育されているので、彼女たちの行動に乱れはない。
聡史は即座に結界を構築して彼女たちの安全を確保する。あまり彼女たちに刺激の強い殺戮場面を見せたくはないので、視認疎外の効果を結界に追加しておく。こうしておけば直接人が死ぬ場面が見えないであろうという、聡史のわずかばかりの配慮が働いている。
聡史が視線を送った先には川沿いの道路に路上停車したワゴン車のドアが開いて、わらわらと降りてくる迷彩服姿の男たちが映る。ワゴン車1台について5名ずつ、合計15名の怪しげな男たちが聡史を半円形に取り囲む。中にはサイレンサー付きのサブマシンガンを手にする人物がまで混ざっている。
「何の用件だ?」
聡史から口を開くが、男たちは無言のまま。サブマシンガンを手にする三人はすでに聡史に向けて照準を合わせている。
「黙って我々についてこい」
「イヤだと言ったらどうするんだ?」
「そこの五人の女が死ぬ!」
「ほう、どうやら本格的な戦争をお好みのようだな。そんなに死にたいのか?」
聡史の目がスッと細められていく。これこそが彼の称号である〔星告の殲滅者〕の人格が表に出てきた証。敵対する者には一切容赦しない、絶対的な破壊をもたらす恐怖の覇王が降臨している。
聡史の右手が小さく動く。
シュッ!
「グッ!」
一番右端にいたサブマシンガンを手にする男の喉からは、いつの間にかナイフが生えている。もちろんこれは聡史がわずかな動作でアイテムボックスから取り出して投擲したナイフで間違いない。
気管まで達する穴を喉に開けられた男は呼吸困難になってチアノーゼを起こして倒れこむ。
「まずはひとりか… 投擲スキルというのはこうして使うものなんだな」
ニッと聡史が笑みを漏らす。先程ボーリングで大人げなくスキルを行使した自分を自嘲気味に笑っているかのよう。
「抵抗する気かぁぁ! 女を撃て! ひとりだけ残して全員撃ち殺せ!」
シュンシュンシュン!
サイレンサーの効果によってくぐもった音を連続して発するサブマシンガン。だが連射された弾丸は何かに阻まれるかのように河原の石の上にバラバラと落ちていく。
「バカなのか? こちらが何の用意してないとでも? それではひとりだけ残して全員死んでもらおうか」
聡史はアイテムボックスから魔剣オルバースを取り出すと疾風の如くに動き出す。その動きは当然並の人間の動体視力では捉え切れない速さを誇る。
ズシュッ! ズシュッ! ズシュッ!
三人を連続して斬り捨てた手応えが聡史に伝わってくる。だがなおも聡史の動きは止まらない。動きに合わせて剣を真横に振り切るたびに、迷彩服の男たちの胴体が断ち斬られていく。
さながら久しく血に飢えた魔剣オルバースに生き血を与えるかの如くに聡史は剣を振るう。わずか三秒もかからずに、13名の男たちは河川敷に無残な躯を晒している。
聡史は剣についた血糊を払いながら生き残った最後のひとりの顔に向かって魔剣を突き付ける。
「何が目的で俺の前に現れたか答えろ」
「た、助けてくれ! 俺は命令されただけだ!」
「誰の命令だ?」
「中国共産党政府」
「そうか、しばらく眠っていろ」
聡史の前蹴りが水月を捉えると、迷彩服姿の男はそのまま後方に吹き飛ばされて河原に転がる石に後頭部を強かにぶつけて白目を剥く。
男たちの始末を終えると、聡史はスマホを取り出す。
「こちら楢崎です。学院長、今大丈夫でしょうか?」
「どうした?」
「現在中国の工作員との戦闘を終えたところです。敵は15名中14名死亡、生き残りは1名です」
「目的を聞き出したか?」
「おそらく俺の身柄が狙いだと考えます。サブマシンガンを携帯している状況からして、相手政府の関与は間違いないものと思われます」
「わかった、すぐに伊勢原駐屯地から処理班を出動させる。私も出向くから、楢崎准尉はその場に留まってくれ」
「了解しました。それからEクラスの女子5名が現在同行中です。彼女たちの回収もお願いします」
「いいだろう、こちらで手配する。今回は遭遇戦ということで処理する。連絡を取る余裕がなかったんだろう?」
「はい、急に襲われまして連絡が事後になって申し訳ありませんでした」
「まあいい、急に襲い掛かるほうが悪い。このままその場に待機して私の到着を待て」
「了解しました」
通話を終えると聡史は結界の一部に穴を空けて内部に入っていく。
「師匠、無事だったんですね!」
「ああ、まったく問題ないぞ。それよりも俺を信じて全員この首輪を着けてもらえるか?」
「はい! 師匠が言うんだったら私たちは黙って従います!」
聡史が五人に手渡したのは隷属の首輪。現場を見ても何も考えないように一時的にブルーホライズンのメンバーたちの思考を停止する目的で聡史は首輪を手渡していく。
直後、首輪を着けた女子たちの表情があたかも人形のように変化する。まるっきり感情が失われて聡史の命令にだけに忠実に従う意思を失った存在になっている。
「何も見るな、何も考えるな、黙って俺についてくるんだ」
それだけ言い付けると、聡史は五人を引き連れて河原から道路に出ていく。そのまま彼女たちを誘導してコンビニに到着すると、ひとりずつ首輪を外していく。
「あれ? いつの間にかこんな場所にきている」
「何が起きたのかしら? なんだか不思議だよねぇ~」
首輪の効力がなくなって意思を取り戻したブルーホライズンは目をパチクリして顔を見合わせている。
「しばらくここで待っていてくれるか。俺は用事ができたから、代わりに自衛隊員が学院まで送ってくれる。迎えが来るまでここにいてくれ」
「はい、わかりました!」
こうして彼女たちを残して凄惨な殺戮現場へと戻っていく聡史であった。
【お知らせ】
いつも当作品をご愛読いただきましてありがとうございます。この度こちらの小説に加えまして新たに異世界ファンタジー作品を当サイトに掲載させていただきます。この作品同様に多くの方々に目を通していただけると幸いです。すでにたくさんのお気に入り登録もお寄せいただいておりまして、現在ファンタジーランキングの40位前後に位置しています。作品の詳細は下記に記載いたしております。またこの作品の目次のページ左下に新作小説にジャンプできるアイコンがありますので、どうぞこちらをクリックしていただけるようお願い申し上げます。
新小説タイトル 〔クラスごと異世界に召喚されたんだけどなぜか一人多い 浮いている俺はクラスの連中とは別れて気の合う仲間と気ままな冒険者生活を楽しむことにする〕
異世界召喚モノにちょっとだけSF要素を取り入れた作品となっておりますが、肩の力を抜いて楽しめる内容です。皆様この小説同様に第1話だけでも覗きに来てくださいませ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! 皆様の応援を心よりお待ちしております。
「師匠! まずはボーリングで軽く体を解しましょう!」
どうやら活動的な美晴の希望らしい。6人が隣り合った2つのレーンに席を取ってボールを投げていく。さすがにレベルが上がっただけあって、ブルーホライズンのメンバーたちはパワフルな球を投げてはストライクを連発する。
だが聡史は……
(ヤバい! ボーリングなんて数えるほどしかやっていないぞ。どうしよう?)
聡史のボーリング歴は中学時代に友達に誘われてほんの2、3回経験したのみ。もちろんスコアなどボロボロで他人に教えるのも恥ずかしい。
(まあいいか… 取り敢えず投げてみよう)
聡史はボールを手にしてアプローチに立つ。ブルーホライズンのメンバーの注目を一身に集めているのは、背中に感じる彼女たちの視線で百も承知。
「師匠、格好いいところを見せてください!」
「師匠、ストライクでキメてぇ~!」
聡史に向かって無邪気に声援を送る美晴と渚… ほぼ初心者の聡史には重たすぎるプレッシャーが圧し掛かってくる。
「よし、いくぞ!」
意を決して助走に入る聡史、だが思わず体に力が入る。そして手から離れたボールは有り余るスピードで一直線に… 溝に転がり落ちていく。初っ端のあまりに恥ずかしい豪快なガーターが炸裂。
「師匠はさすがだな。私たちにハンデを与える意味でわざと溝に落としたな!」
「師匠だったらここから鮮やかな逆転を見せてくれますよ!」
人の気も知らない美晴と渚が第2投に期待する目を向けているが、聡史はすでにこの場から逃げ出したい気分を味わっている。両肩に掛かるプレッシャーが尋常ではない。
そして迎えた第2投… 再びボールは溝を転がっていく。この辺からブルーホライズンのメンバーたちの空気が変わっていく。
「し、師匠… もしかしてボーリングが苦手とか?」
「そんなことはないぞ! まだ体が温まっていないだけだ!」
聡史は桜から「女の子たちをガッカリさせるな!」と固く言いつけられている。ボーリングといえどもこのままむざむざとガーターを連発するわけにはいかない。
そして迎えた第2フレーム、ついに聡史は封印していた奥の手を使用する。
(スキル、投擲発動!)
投げた物体は絶対に目標に当たるという、反則スキルの使用に踏み切った聡史。そして投げると…
パッカーン!
「師匠、やったぜ! やっぱり実力を隠していたんだな!」
「さすがは師匠ね! 格好いい!」
投げ終わって戻ってきた聡史を美晴と渚がハイタッチで迎える。隣のレーンからも盛大な拍手が沸き起こる。だがスキルまで使用している聡史はどうにも素直に喜べない。
こうして1フレームは連続ガーターをマークしたものの、それ以降は順調にストライクを積み重ねて聡史はボーリングを終える。もちろん彼が成績トップ。
「師匠は何をやらせても凄いね!」
「運動神経抜群ね!」
絵美と真美から褒められても、どうにも気まずい聡史。なんだか彼女たちを騙しているような気がしてならない。
ボーリングを終えると、同じビルの1階にあるゲームセンターが次の目的地。絵美の希望で聡史とプリクラを撮ることとなっている。5人全員がカップル用という機種を選択して順番に聡史とペアになって撮影する。
もちろんプリクラなど初体験の聡史は機械の操作など全く理解不能。女子に言われるままにお揃いの逆ピースのポーズを強要されたりしながらも、何とか全員分撮り切っている。撮影中は何かと密着する状況で、殊に真美のフカフカが聡史の体に押し付けられてちょっと得した気分の聡史。
昼食は桜が探して予約を入れた洒落たイタリアンレストランに入っていく。
「なんだか高級そうな店じゃない」
「師匠は奮発したなぁ~!」
そんな会話を交わしながらシェフのおすすめランチコースを注文する。もちろん女子五人はちょっとした大人の雰囲気に大喜び。
午後はカラオケをしたり、ウインドウショッピングを楽しんで過ごしていく。途中で聡史は「ちょっと買いたいものがある」と言って女子たちを5分くらい待たせて戻ってくる。
そろそろ夕暮れが近付いてきた頃に、聡史が五人に申し出る。
「もしよかったらこの近くの河原に行こうか」
街の中心部から歩いてすぐの場所には結構大きな川が流れている。聡史は女子五人をそこに連れて行こうとしているよう。
「し、師匠、まだ心の準備がぁぁ!」
「わ、私はまだファーストキスもしていないし…」
女子たちはあらぬ誤解をしている。話が飛躍しすぎのように思われてならない。
「まだ蚊がいるからスプレーしておけよ!」
アイテムボックスから取り出した虫除けスプレーを真美に渡して、五人は順番に体に吹き付けていく。わざわざ河原にきて一体何をするつもりだろうと思いつつも、彼女たちはスプレーを互いの体に吹き付ける。
そして河原に到着すると、聡史はアイテムボックスから花火セットを取り出す。
「もう夏は終わりだけど、夏の最後の思い出だ。さっきこっそり買っておいたんだ」
「師匠はさすがよね。夏を惜しみながらの花火なんていい感じじゃないの」
「まさか今日の最後にこんなサプライズがあるとは思いませんでした。みんなで花火なんて最高です!」
女子たちは聡史の予想以上の大喜びをしてくれている。
まだ少々薄暗い時間で花火をやるにしてはちょっと早かったが、遅くとも8時までには学院に戻らないといけないので、このまま花火大会開始となる。
子供に戻ったようにはしゃぎながら花火に興じるブルーホライズンのメンバーたち。
だが聡史は、午前中からずっと自分たちを尾行している存在に注意の大半を向けている。伊豆では理事長派の陰陽師に命を狙われたが、理事長自身が様々な容疑で逮捕されてもうその懸念はなくなっているはず。
とはいえ何者か正体を明かさないまま遠巻きに聡史たちを監視している連中の存在ははっきり言って鬱陶しい。この際実力行使に出て目的を吐かせてもいいかと聡史は考えている。花火を口実にこうして人目に付きにくい河原に女子たちを連れてきたのも、尾行者が何かチョッカイを掛けてこないかという聡史の思惑が隠されている。
そろそろ用意した花火も底をついて最後の線香花火をみんなで囲んでいるちょうどその時、河川敷の沿道に3台の黒塗りのワゴン車が停止する。
「どうやらお迎えが来たようだな。ここからは俺が対処するから全員俺が展開する結界の中に入れ!」
「師匠、一体何があったんですか?」
「今は黙って指示に従うんだ!」
「「「「「はい!」」」」」」
五人はまだ燃え残っている線香花火の火を消すと、ひと塊になって待機する。聡史が真剣な表情で出す指示には絶対服従と教育されているので、彼女たちの行動に乱れはない。
聡史は即座に結界を構築して彼女たちの安全を確保する。あまり彼女たちに刺激の強い殺戮場面を見せたくはないので、視認疎外の効果を結界に追加しておく。こうしておけば直接人が死ぬ場面が見えないであろうという、聡史のわずかばかりの配慮が働いている。
聡史が視線を送った先には川沿いの道路に路上停車したワゴン車のドアが開いて、わらわらと降りてくる迷彩服姿の男たちが映る。ワゴン車1台について5名ずつ、合計15名の怪しげな男たちが聡史を半円形に取り囲む。中にはサイレンサー付きのサブマシンガンを手にする人物がまで混ざっている。
「何の用件だ?」
聡史から口を開くが、男たちは無言のまま。サブマシンガンを手にする三人はすでに聡史に向けて照準を合わせている。
「黙って我々についてこい」
「イヤだと言ったらどうするんだ?」
「そこの五人の女が死ぬ!」
「ほう、どうやら本格的な戦争をお好みのようだな。そんなに死にたいのか?」
聡史の目がスッと細められていく。これこそが彼の称号である〔星告の殲滅者〕の人格が表に出てきた証。敵対する者には一切容赦しない、絶対的な破壊をもたらす恐怖の覇王が降臨している。
聡史の右手が小さく動く。
シュッ!
「グッ!」
一番右端にいたサブマシンガンを手にする男の喉からは、いつの間にかナイフが生えている。もちろんこれは聡史がわずかな動作でアイテムボックスから取り出して投擲したナイフで間違いない。
気管まで達する穴を喉に開けられた男は呼吸困難になってチアノーゼを起こして倒れこむ。
「まずはひとりか… 投擲スキルというのはこうして使うものなんだな」
ニッと聡史が笑みを漏らす。先程ボーリングで大人げなくスキルを行使した自分を自嘲気味に笑っているかのよう。
「抵抗する気かぁぁ! 女を撃て! ひとりだけ残して全員撃ち殺せ!」
シュンシュンシュン!
サイレンサーの効果によってくぐもった音を連続して発するサブマシンガン。だが連射された弾丸は何かに阻まれるかのように河原の石の上にバラバラと落ちていく。
「バカなのか? こちらが何の用意してないとでも? それではひとりだけ残して全員死んでもらおうか」
聡史はアイテムボックスから魔剣オルバースを取り出すと疾風の如くに動き出す。その動きは当然並の人間の動体視力では捉え切れない速さを誇る。
ズシュッ! ズシュッ! ズシュッ!
三人を連続して斬り捨てた手応えが聡史に伝わってくる。だがなおも聡史の動きは止まらない。動きに合わせて剣を真横に振り切るたびに、迷彩服の男たちの胴体が断ち斬られていく。
さながら久しく血に飢えた魔剣オルバースに生き血を与えるかの如くに聡史は剣を振るう。わずか三秒もかからずに、13名の男たちは河川敷に無残な躯を晒している。
聡史は剣についた血糊を払いながら生き残った最後のひとりの顔に向かって魔剣を突き付ける。
「何が目的で俺の前に現れたか答えろ」
「た、助けてくれ! 俺は命令されただけだ!」
「誰の命令だ?」
「中国共産党政府」
「そうか、しばらく眠っていろ」
聡史の前蹴りが水月を捉えると、迷彩服姿の男はそのまま後方に吹き飛ばされて河原に転がる石に後頭部を強かにぶつけて白目を剥く。
男たちの始末を終えると、聡史はスマホを取り出す。
「こちら楢崎です。学院長、今大丈夫でしょうか?」
「どうした?」
「現在中国の工作員との戦闘を終えたところです。敵は15名中14名死亡、生き残りは1名です」
「目的を聞き出したか?」
「おそらく俺の身柄が狙いだと考えます。サブマシンガンを携帯している状況からして、相手政府の関与は間違いないものと思われます」
「わかった、すぐに伊勢原駐屯地から処理班を出動させる。私も出向くから、楢崎准尉はその場に留まってくれ」
「了解しました。それからEクラスの女子5名が現在同行中です。彼女たちの回収もお願いします」
「いいだろう、こちらで手配する。今回は遭遇戦ということで処理する。連絡を取る余裕がなかったんだろう?」
「はい、急に襲われまして連絡が事後になって申し訳ありませんでした」
「まあいい、急に襲い掛かるほうが悪い。このままその場に待機して私の到着を待て」
「了解しました」
通話を終えると聡史は結界の一部に穴を空けて内部に入っていく。
「師匠、無事だったんですね!」
「ああ、まったく問題ないぞ。それよりも俺を信じて全員この首輪を着けてもらえるか?」
「はい! 師匠が言うんだったら私たちは黙って従います!」
聡史が五人に手渡したのは隷属の首輪。現場を見ても何も考えないように一時的にブルーホライズンのメンバーたちの思考を停止する目的で聡史は首輪を手渡していく。
直後、首輪を着けた女子たちの表情があたかも人形のように変化する。まるっきり感情が失われて聡史の命令にだけに忠実に従う意思を失った存在になっている。
「何も見るな、何も考えるな、黙って俺についてくるんだ」
それだけ言い付けると、聡史は五人を引き連れて河原から道路に出ていく。そのまま彼女たちを誘導してコンビニに到着すると、ひとりずつ首輪を外していく。
「あれ? いつの間にかこんな場所にきている」
「何が起きたのかしら? なんだか不思議だよねぇ~」
首輪の効力がなくなって意思を取り戻したブルーホライズンは目をパチクリして顔を見合わせている。
「しばらくここで待っていてくれるか。俺は用事ができたから、代わりに自衛隊員が学院まで送ってくれる。迎えが来るまでここにいてくれ」
「はい、わかりました!」
こうして彼女たちを残して凄惨な殺戮現場へと戻っていく聡史であった。
【お知らせ】
いつも当作品をご愛読いただきましてありがとうございます。この度こちらの小説に加えまして新たに異世界ファンタジー作品を当サイトに掲載させていただきます。この作品同様に多くの方々に目を通していただけると幸いです。すでにたくさんのお気に入り登録もお寄せいただいておりまして、現在ファンタジーランキングの40位前後に位置しています。作品の詳細は下記に記載いたしております。またこの作品の目次のページ左下に新作小説にジャンプできるアイコンがありますので、どうぞこちらをクリックしていただけるようお願い申し上げます。
新小説タイトル 〔クラスごと異世界に召喚されたんだけどなぜか一人多い 浮いている俺はクラスの連中とは別れて気の合う仲間と気ままな冒険者生活を楽しむことにする〕
異世界召喚モノにちょっとだけSF要素を取り入れた作品となっておりますが、肩の力を抜いて楽しめる内容です。皆様この小説同様に第1話だけでも覗きに来てくださいませ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! 皆様の応援を心よりお待ちしております。
82
あなたにおすすめの小説
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
迷宮アドバイザーと歩む現代ダンジョン探索記~ブラック会社を辞めた俺だが可愛い後輩や美人元上司と共にハクスラに勤しんでます
秋月静流
ファンタジー
俺、臥龍臼汰(27歳・独身)はある日自宅の裏山に突如できた洞窟を見つける。
語り掛けてきたアドバイザーとやらが言うにはそこは何とダンジョン!?
で、探索の報酬としてどんな望みも叶えてくれるらしい。
ならば俺の願いは決まっている。
よくある強力無比なスキルや魔法? 使い切れぬ莫大な財産?
否! 俺が望んだのは「君の様なアドバイザーにず~~~~~っとサポートして欲しい!」という願望。
万全なサポートを受けながらダンジョン探索にのめり込む日々だったのだが…何故か元居た会社の後輩や上司が訪ねて来て…
チート風味の現代ダンジョン探索記。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる