異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節

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第62話 殲滅者の本領

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 バスと電車を乗り継いで聡史たちはお目当ての街に到着する。


「師匠! まずはボーリングで軽く体を解しましょう!」

 どうやら活動的な美晴の希望らしい。6人が隣り合った2つのレーンに席を取ってボールを投げていく。さすがにレベルが上がっただけあって、ブルーホライズンのメンバーたちはパワフルな球を投げてはストライクを連発する。

 だが聡史は……

(ヤバい! ボーリングなんて数えるほどしかやっていないぞ。どうしよう?)

 聡史のボーリング歴は中学時代に友達に誘われてほんの2、3回経験したのみ。もちろんスコアなどボロボロで他人に教えるのも恥ずかしい。

(まあいいか… 取り敢えず投げてみよう)

 聡史はボールを手にしてアプローチに立つ。ブルーホライズンのメンバーの注目を一身に集めているのは、背中に感じる彼女たちの視線で百も承知。


「師匠、格好いいところを見せてください!」

「師匠、ストライクでキメてぇ~!」

 聡史に向かって無邪気に声援を送る美晴と渚… ほぼ初心者の聡史には重たすぎるプレッシャーが圧し掛かってくる。


「よし、いくぞ!」

 意を決して助走に入る聡史、だが思わず体に力が入る。そして手から離れたボールは有り余るスピードで一直線に… 溝に転がり落ちていく。初っ端のあまりに恥ずかしい豪快なガーターが炸裂。


「師匠はさすがだな。私たちにハンデを与える意味でわざと溝に落としたな!」

「師匠だったらここから鮮やかな逆転を見せてくれますよ!」

 人の気も知らない美晴と渚が第2投に期待する目を向けているが、聡史はすでにこの場から逃げ出したい気分を味わっている。両肩に掛かるプレッシャーが尋常ではない。

 そして迎えた第2投… 再びボールは溝を転がっていく。この辺からブルーホライズンのメンバーたちの空気が変わっていく。


「し、師匠… もしかしてボーリングが苦手とか?」

「そんなことはないぞ! まだ体が温まっていないだけだ!」

 聡史は桜から「女の子たちをガッカリさせるな!」と固く言いつけられている。ボーリングといえどもこのままむざむざとガーターを連発するわけにはいかない。

 そして迎えた第2フレーム、ついに聡史は封印していた奥の手を使用する。

(スキル、投擲発動!)

 投げた物体は絶対に目標に当たるという、反則スキルの使用に踏み切った聡史。そして投げると…

 パッカーン!

「師匠、やったぜ! やっぱり実力を隠していたんだな!」

「さすがは師匠ね! 格好いい!」

 投げ終わって戻ってきた聡史を美晴と渚がハイタッチで迎える。隣のレーンからも盛大な拍手が沸き起こる。だがスキルまで使用している聡史はどうにも素直に喜べない。

 こうして1フレームは連続ガーターをマークしたものの、それ以降は順調にストライクを積み重ねて聡史はボーリングを終える。もちろん彼が成績トップ。


「師匠は何をやらせても凄いね!」

「運動神経抜群ね!」

 絵美と真美から褒められても、どうにも気まずい聡史。なんだか彼女たちを騙しているような気がしてならない。

 ボーリングを終えると、同じビルの1階にあるゲームセンターが次の目的地。絵美の希望で聡史とプリクラを撮ることとなっている。5人全員がカップル用という機種を選択して順番に聡史とペアになって撮影する。

 もちろんプリクラなど初体験の聡史は機械の操作など全く理解不能。女子に言われるままにお揃いの逆ピースのポーズを強要されたりしながらも、何とか全員分撮り切っている。撮影中は何かと密着する状況で、殊に真美のフカフカが聡史の体に押し付けられてちょっと得した気分の聡史。



 昼食は桜が探して予約を入れた洒落たイタリアンレストランに入っていく。


「なんだか高級そうな店じゃない」

「師匠は奮発したなぁ~!」

 そんな会話を交わしながらシェフのおすすめランチコースを注文する。もちろん女子五人はちょっとした大人の雰囲気に大喜び。



 午後はカラオケをしたり、ウインドウショッピングを楽しんで過ごしていく。途中で聡史は「ちょっと買いたいものがある」と言って女子たちを5分くらい待たせて戻ってくる。

 
 そろそろ夕暮れが近付いてきた頃に、聡史が五人に申し出る。


「もしよかったらこの近くの河原に行こうか」

 街の中心部から歩いてすぐの場所には結構大きな川が流れている。聡史は女子五人をそこに連れて行こうとしているよう。


「し、師匠、まだ心の準備がぁぁ!」

「わ、私はまだファーストキスもしていないし…」

 女子たちはあらぬ誤解をしている。話が飛躍しすぎのように思われてならない。


「まだ蚊がいるからスプレーしておけよ!」

 アイテムボックスから取り出した虫除けスプレーを真美に渡して、五人は順番に体に吹き付けていく。わざわざ河原にきて一体何をするつもりだろうと思いつつも、彼女たちはスプレーを互いの体に吹き付ける。


 そして河原に到着すると、聡史はアイテムボックスから花火セットを取り出す。


「もう夏は終わりだけど、夏の最後の思い出だ。さっきこっそり買っておいたんだ」

「師匠はさすがよね。夏を惜しみながらの花火なんていい感じじゃないの」

「まさか今日の最後にこんなサプライズがあるとは思いませんでした。みんなで花火なんて最高です!」

 女子たちは聡史の予想以上の大喜びをしてくれている。

 まだ少々薄暗い時間で花火をやるにしてはちょっと早かったが、遅くとも8時までには学院に戻らないといけないので、このまま花火大会開始となる。

 子供に戻ったようにはしゃぎながら花火に興じるブルーホライズンのメンバーたち。

 だが聡史は、午前中からずっと自分たちを尾行している存在に注意の大半を向けている。伊豆では理事長派の陰陽師に命を狙われたが、理事長自身が様々な容疑で逮捕されてもうその懸念はなくなっているはず。

 とはいえ何者か正体を明かさないまま遠巻きに聡史たちを監視している連中の存在ははっきり言って鬱陶しい。この際実力行使に出て目的を吐かせてもいいかと聡史は考えている。花火を口実にこうして人目に付きにくい河原に女子たちを連れてきたのも、尾行者が何かチョッカイを掛けてこないかという聡史の思惑が隠されている。

 そろそろ用意した花火も底をついて最後の線香花火をみんなで囲んでいるちょうどその時、河川敷の沿道に3台の黒塗りのワゴン車が停止する。


「どうやらお迎えが来たようだな。ここからは俺が対処するから全員俺が展開する結界の中に入れ!」

「師匠、一体何があったんですか?」

「今は黙って指示に従うんだ!」

「「「「「はい!」」」」」」

 五人はまだ燃え残っている線香花火の火を消すと、ひと塊になって待機する。聡史が真剣な表情で出す指示には絶対服従と教育されているので、彼女たちの行動に乱れはない。

 聡史は即座に結界を構築して彼女たちの安全を確保する。あまり彼女たちに刺激の強い殺戮場面を見せたくはないので、視認疎外の効果を結界に追加しておく。こうしておけば直接人が死ぬ場面が見えないであろうという、聡史のわずかばかりの配慮が働いている。

 聡史が視線を送った先には川沿いの道路に路上停車したワゴン車のドアが開いて、わらわらと降りてくる迷彩服姿の男たちが映る。ワゴン車1台について5名ずつ、合計15名の怪しげな男たちが聡史を半円形に取り囲む。中にはサイレンサー付きのサブマシンガンを手にする人物がまで混ざっている。


「何の用件だ?」

 聡史から口を開くが、男たちは無言のまま。サブマシンガンを手にする三人はすでに聡史に向けて照準を合わせている。


「黙って我々についてこい」

「イヤだと言ったらどうするんだ?」

「そこの五人の女が死ぬ!」

「ほう、どうやら本格的な戦争をお好みのようだな。そんなに死にたいのか?」

 聡史の目がスッと細められていく。これこそが彼の称号である〔星告の殲滅者〕の人格が表に出てきた証。敵対する者には一切容赦しない、絶対的な破壊をもたらす恐怖の覇王が降臨している。

 聡史の右手が小さく動く。

 シュッ!

「グッ!」

 一番右端にいたサブマシンガンを手にする男の喉からは、いつの間にかナイフが生えている。もちろんこれは聡史がわずかな動作でアイテムボックスから取り出して投擲したナイフで間違いない。

 気管まで達する穴を喉に開けられた男は呼吸困難になってチアノーゼを起こして倒れこむ。


「まずはひとりか… 投擲スキルというのはこうして使うものなんだな」

 ニッと聡史が笑みを漏らす。先程ボーリングで大人げなくスキルを行使した自分を自嘲気味に笑っているかのよう。


「抵抗する気かぁぁ! 女を撃て! ひとりだけ残して全員撃ち殺せ!」

 シュンシュンシュン!

 サイレンサーの効果によってくぐもった音を連続して発するサブマシンガン。だが連射された弾丸は何かに阻まれるかのように河原の石の上にバラバラと落ちていく。


「バカなのか? こちらが何の用意してないとでも? それではひとりだけ残して全員死んでもらおうか」

 聡史はアイテムボックスから魔剣オルバースを取り出すと疾風の如くに動き出す。その動きは当然並の人間の動体視力では捉え切れない速さを誇る。

 ズシュッ! ズシュッ! ズシュッ!

 三人を連続して斬り捨てた手応えが聡史に伝わってくる。だがなおも聡史の動きは止まらない。動きに合わせて剣を真横に振り切るたびに、迷彩服の男たちの胴体が断ち斬られていく。

 さながら久しく血に飢えた魔剣オルバースに生き血を与えるかの如くに聡史は剣を振るう。わずか三秒もかからずに、13名の男たちは河川敷に無残な躯を晒している。

 聡史は剣についた血糊を払いながら生き残った最後のひとりの顔に向かって魔剣を突き付ける。


「何が目的で俺の前に現れたか答えろ」

「た、助けてくれ! 俺は命令されただけだ!」

「誰の命令だ?」

「中国共産党政府」

「そうか、しばらく眠っていろ」

 聡史の前蹴りが水月を捉えると、迷彩服姿の男はそのまま後方に吹き飛ばされて河原に転がる石に後頭部を強かにぶつけて白目を剥く。

 男たちの始末を終えると、聡史はスマホを取り出す。


「こちら楢崎です。学院長、今大丈夫でしょうか?」

「どうした?」

「現在中国の工作員との戦闘を終えたところです。敵は15名中14名死亡、生き残りは1名です」

「目的を聞き出したか?」

「おそらく俺の身柄が狙いだと考えます。サブマシンガンを携帯している状況からして、相手政府の関与は間違いないものと思われます」

「わかった、すぐに伊勢原駐屯地から処理班を出動させる。私も出向くから、楢崎准尉はその場に留まってくれ」

「了解しました。それからEクラスの女子5名が現在同行中です。彼女たちの回収もお願いします」

「いいだろう、こちらで手配する。今回は遭遇戦ということで処理する。連絡を取る余裕がなかったんだろう?」

「はい、急に襲われまして連絡が事後になって申し訳ありませんでした」

「まあいい、急に襲い掛かるほうが悪い。このままその場に待機して私の到着を待て」

「了解しました」

 通話を終えると聡史は結界の一部に穴を空けて内部に入っていく。


「師匠、無事だったんですね!」

「ああ、まったく問題ないぞ。それよりも俺を信じて全員この首輪を着けてもらえるか?」

「はい! 師匠が言うんだったら私たちは黙って従います!」

 聡史が五人に手渡したのは隷属の首輪。現場を見ても何も考えないように一時的にブルーホライズンのメンバーたちの思考を停止する目的で聡史は首輪を手渡していく。

 直後、首輪を着けた女子たちの表情があたかも人形のように変化する。まるっきり感情が失われて聡史の命令にだけに忠実に従う意思を失った存在になっている。


「何も見るな、何も考えるな、黙って俺についてくるんだ」

 それだけ言い付けると、聡史は五人を引き連れて河原から道路に出ていく。そのまま彼女たちを誘導してコンビニに到着すると、ひとりずつ首輪を外していく。


「あれ? いつの間にかこんな場所にきている」

「何が起きたのかしら? なんだか不思議だよねぇ~」

 首輪の効力がなくなって意思を取り戻したブルーホライズンは目をパチクリして顔を見合わせている。


「しばらくここで待っていてくれるか。俺は用事ができたから、代わりに自衛隊員が学院まで送ってくれる。迎えが来るまでここにいてくれ」

「はい、わかりました!」

 こうして彼女たちを残して凄惨な殺戮現場へと戻っていく聡史であった。




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