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第66話 深部攻略 3
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手本と称した桜が有り得ない方法でオーガやシルバーウルフを倒した件で、美鈴は聡史に助けを求めている。
「聡史君、桜ちゃんの遣り方なんてサッパリ参考にならないから、もっと具体的な倒し方のヒントを教えてくれないかしら?」
「ハハハ、確かに桜の遣り方なんて俺にもマネが出来ないから無理もない」
聡史は苦笑した表情を美鈴へと向けている。聡史すらマネが出来ないなんて桜という存在はどこまで突き抜けているのだろうか?
「そんな笑っていないで早く教えてよ!」
「そうだな。基本的にはオークと一緒だ。まずは足を止めてからトドメを刺す。最初に美鈴の魔法を飛ばしてから、仕上げは明日香ちゃんに任せるのがいいだろう。ただし…」
「ただし?」
「オーガの皮膚は頑丈だ。並みの威力の魔法では弾き返されてしまう。今までの2倍程度の魔力を込めて発動するのが良さそうだな」
聡史から具体的なアドバイスを受けた美鈴は真剣な表情で頷いている。最初の魔法の一撃が決まって有効打になるかどうかでパーティーとして優位に戦いを進められるかどうかという重責を担うだけに、オーガが相手にどの程度の威力の魔法を撃ち出そうかと考えているよう。
そして…
「この先に大きな影が見えますね。オーガがいますよ。反対側を注意を向けているので、私たちには気が付いていません」
「私から行くわね」
隙だらけのオーガに向かって美鈴のファイアーボールが飛び出していく。魔力を倍にしているだけあって、これまでとは燃え上がる炎が目に見えて大きい。
グガァァァァ!
ファイアーボールはオーガの背中に着弾して通路を揺るがす爆発音を上げる。熱風の残滓がこちらにも届いて顔面が火照ってくるような熱量が伝わってくる。
「美鈴ちゃん、ちょっと威力が高すぎましたね。オーガが一撃でバラバラになっていますよ」
「どうやら美鈴のスキルが働いているようだな」
「私のスキル?」
桜がオーガの状態を確認すると、なぜ魔力を倍にしただけでこのような高威力になったかという事象に関して聡史が原因の解説を始める。
「美鈴のスキルの中に〔魔力ブースト〕があっただろう。魔力を込めれば込めるほど威力にブーストが掛かるんだ。だから2倍の魔力量のはずが3倍の効果を上げるという現象が発生する。これほどまでに魔法の効果が上昇するということは、どうやら美鈴のブーストに関するスキルは相当優秀なんだろうな」
「美鈴さん、凄いスキルですね」
カレンが美鈴のスキルを褒めている。魔法使いにとっては魔法の威力が上昇するというのは最も喜ばしい出来事。それを美鈴は所持しているスキルで簡単に実現するなんて、あまりにもその能力が魔法使いとして恵まれている点に素直に脱帽している。魔法ブーストがあれば少ない魔力でより強力な魔法を放てるという利点が、何よりも大きい。
「カレン、ありがとう。でも、威力を慎重に制御しないと思わぬ事故を招きそうでちょっと怖いわね」
「そうだな、美鈴は自分で魔力の量を調整して上手く加減してもらえるか?」
「ええ、わかったわ。次は1.5倍程度に抑えておきましょうか」
ということで、美鈴はオーガを相手にして適切な威力を何度か試していく。その結果、当たり所にも左右されるが、オーク相手の1.4倍の魔力で最も効率よくダメージを与えることが可能という結論に落ち着く。従来ゴブリン相手の時には込める魔力は3、オークでは8で、オーガに対しては11~12でよいという結論。美鈴の魔法の前では、いかに皮膚が頑丈で魔法が効きにくいオーガも所詮は敵ではなかったよう。
美鈴の魔法がオーガに対しても依然有効であると確認できたので、パーティーは前進を再開する。これで問題は無くなったと思いきや、もうひとつ大きな壁が立ちはだかっている。それはもちろん、言わずと知れた明日香ちゃん。
美鈴の魔法で両足を吹き飛ばされて動けなくなったオーガに明日香ちゃんがトライデントを構えて突進する。だが…
ヘブッ!
上半身だけで必死の抵抗をするオーガの怪力に明日香ちゃんは吹き飛ばされて通路の壁に激突するというアクシデントが発生。
「明日香ちゃん、今助けます!」
壁に叩き付けられて身動きできなくなった明日香ちゃんにカレンが駆け寄ろうとする。その時、カレンの真横から小柄な影が動きを開始して、あっという間に手負いのオーガの前に立っている。
「私の親友の明日香ちゃんが、いくらヘタレの怠け者で甘い物の食べ過ぎでブクブク太っているからって、よくもやってくれましたね!」
「桜ちゃん、本当に明日香ちゃんを庇う気持ちがあるの?」
「日常の実態に近いとはいえ、もうちょっとオブラートに包まないと…」
桜の明日香ちゃんに対するあまりの言い草に、美鈴とカレンがそこまで言わなくても… という表情を浮かべている。ただし彼女たちも決して否定はしていない点を聡史は見逃してはいない。
(大体合っている)
聡史は心の中で呟いている。
手負いのオーガは、目の前に立つ桜に向けてその剛腕を振るう。だが桜にあっさりと躱されると、やや前のめりになっている上半身に目にも留まらない前蹴りを食らって、通路の端まで転がってから壁にぶつかってようやく停止する。もちろんそのままご臨終の模様。
オーガを排除してから美鈴とカレンが明日香ちゃんの元に駈け寄る。壁際に倒れている明日香ちゃんを二人掛りで抱きかかえると、明日香ちゃんはうわ言のように呟く。
「美鈴さん、カレンさん、どうもお世話になりました。私はもうダメです。このまま天国で幸せに…」
「おでこをぶつけて鼻血が出ているだけでしょうがぁぁぁ!」
「はい、回復魔法ですよ。早く立ち上がってくださいね」
カレンの右手から発せられる白い光が明日香ちゃんを包み込む。すると、明日香ちゃんは何事もないように立ち上がる。
「はぁ~… 痛くて死ぬかと思いましたよ~。でも桜ちゃんの訓練に比べたら全然可愛いものです」
「明日香ちゃん、一体どういう訓練をこれまでに経てきたのかしら?」
美鈴がジトーっとした視線を桜へと向けている。桜は吹けもしない口笛を吹く真似をして視線を宙に泳がせている。カレンは桜の訓練の一端を理解しているだけに「ああ、なるほど!」という納得顔。
「明日香ちゃんのレベルでは、どうやらまだオーガ相手に力負けするようだな」
聡史が原因を冷静に分析している。明日香ちゃんのレベルは現在27で異世界の冒険者に例えるとDランク成りたての中堅クラスに相当する。対してオーガの討伐推奨ランクはCランク以上と定められており、現在の明日香ちゃんが力負けしてしまうのも頷ける話。
「そうなると、明日香ちゃんはオーガが出てきたらしばらくは様子見ですかねぇ~」
桜の一言に俄然明日香ちゃんが乗っかってくる。
「そうですよ、桜ちゃん。しばらく私はお休みということで、桜ちゃんに任せますよ~」
だが、この明日香ちゃんの都合のいい申し出に待ったを掛ける人物登場。
「明日香ちゃん、どうか安心してください。私が攻撃力アップの魔法を掛けます。明日香ちゃんなら必ずオーガを倒せます!」
「いやいや、カレンさん。貴重な魔力を私の為に使うのは申し訳ないですから」
「大丈夫ですよ。私が全力で明日香ちゃんを支援しますから大船に乗った気持ちでオーガに立ち向かってください」
明日香ちゃん的には「そうじゃない! カレンの気持ちはありがたいけど、そうじゃないんだぁぁ!」と心の底から叫びたいのだが、カレンにしては珍しくまったく空気を読もうとはしない。今の明日香ちゃんは、カレンによってグラグラと煮え立つ熱湯風呂へ飛び込まざるを得なくなっている。
こうして明日香ちゃんは、否応なくオーガとの再戦に無理やり挑む定めとなる。本人は全力で回避したいところであるが、後ろを進むカレンはすでにいつでも補助魔法が発動可能な準備を整えている。ありがた迷惑この上ない。
しばらく進むと通路の向こう側には大柄なシルエットが浮かび上がる。もちろんその正体は巨大な棍棒を手にするオーガで間違いない。獲物を狙う獰猛な目をこちらに向けて大股で接近していくる。
「ファイアーボール」
美鈴の魔法は胴体の真ん中で炸裂してオーガの腹部に傷を作ると同時に片手を吹き飛ばす。その様子を見た明日香ちゃんは、しぶしぶトライデントを手にして接近を開始する。
「攻撃力上昇」
明日香ちゃんの背中にカレンの補助魔法が飛んでいく。いつのまにかカレンのスキルレベルが上昇した成果で攻撃力を30パーセント上昇させる優れた効果を発揮してくれる。
槍を構えた明日香ちゃんは、オーガに慎重に近づきながら隙を探す。オーガは傷を負ってもなおもその闘志は止むことなく、爛々と輝く目で明日香ちゃんを睨み付けている
ウガガガァァァ!
膝を突いた姿勢のままで咆哮を上げるオーガ。だが、明日香ちゃんは怯まずに向かっていく。オーガは迫りくる明日香ちゃんに向かって無事な右手で棍棒を振るう。
ガキッ!
先ほどは明日香ちゃんの体ごと吹き飛ばされた棍棒の一振りであったが、今度はトライデントががっしりと受け止めている。カレンのおかげでオーガと互角に渡り合うだけのパワーを明日香ちゃんは得ているよう。
「えい!」
棍棒をいなすと、明日香ちゃんはオーガの肩口にトライデントを突き刺していく。いかに固いオーガの皮膚であっても、神槍の切れ味には抗することは不可能。さらに突き刺された傷口から電流が流れ込んでオーガは絶命する。
「ふひぃ~… 何とか仕留めました」
こうして明日香ちゃんのオーガ討伐は、無事に成功する。
この調子で13階層を抜けて、14階層へと降り立っていく。ここでも登場する魔物はさして変わらぬラインナップで、特に何事もなく通過するといよいよ15階層へと降りていく。
15階層では、オーガジェネラルという上位種が登場したが、カレンの補助魔法に助けられた明日香ちゃんは毎回ギリギリの戦いぶりで討伐に成功。おかげで相当命の遣り取りを学んでいるよう。もっとも安全第一がモットーの明日香ちゃん本人はこんな危険は一番避けたいと思っているだろうが…
こうしてパーティーは、ついに15階層のボス部屋の前に立つ。
「お兄様、考えられるこの部屋の主は、オーガキングですね」
「おそらくそうなるだろうな。さて、誰が倒すか決めておこうか」
聡史の呼び掛けに真っ先に反応したのは桜。
「お兄様、どうかこの場は私にお任せを! 一撃で倒して見せますわ」
「桜ちゃん、私と明日香ちゃんのコンビに任せてよ。相手がオーガキングでも絶対に負けないから」
「美鈴さん、いよいよこの場は私の神聖魔法の出番です。跡形もなく吹き飛ばしますから」
桜、美鈴、カレンの自信ありげな表情が並んでいる。ここで聡史も釣られるように…
「そうか、みんな頼もしいな。まあこの場は、俺がやってもいいぞ」
「「「「どうぞ、どうぞ、どうぞ!」」」」
「ダチョウ倶楽部かぁぁぁぁ! いつの間に打合せしていたんだぁぁぁぁ!」
こうして聡史がボス部屋にいるオーガキングの討伐役を押し付けられる。すかさず桜が…
「お兄様、この刀を試してみてください。銘は〔鬼斬り〕と申します、鬼を相手にするならばこれ以上の切れ味はない刀です」
「ああ、例の刀か」
桜がアイテムボックスから取り出した一振りの見事な刀を聡史に手渡す。この鬼斬りと銘打たれた刀は、桜が異世界にて討伐した皇帝オーガの角をドワーフの名工が研ぎだして刀に仕立てた、切れ味と刃毀れ一つしない頑丈さは折り紙つきの逸品。
こうして鬼斬りを手にする聡史を先頭にしてボス部屋へと踏み込んでいくと、そこには予想通りオーガキングに率いられた20体のオーガ軍団が待ち受けている。
「刀の錆びになれ!」
キンという音を立てて聡史が鯉口を切って刀を抜くと、黒光りする見事な刀身が現れる。漆黒の刀身に浮かぶ刃紋も鮮やかに、波打った美しい芸術のような造形を描いている。
グオ?
聡史が手にする鬼斬りを見て、オーガキングの顔にはて?… という表情が浮かぶ。やがて刀の材質が何に由来するのか理解したオーガキングは、憤怒の形相へと変貌していく。同族の角を太刀に変えられていると、どうやら理解したよう。
オーガキングの怒りに後押しされて、配下のオーガ軍団が一斉に聡史へ突進する。手にする棍棒を振り上げて、こちらも怒りに満ちた形相で迫りくる。
「遅いな」
聡史はそう一言呟くと、鬼斬りを手に上段に構える。20体に及ぶオーガの軍団に真一文字に鬼斬りを振るうと、空間を斬撃の刃が駆けていく。
グギャァァァ!
ウガァァァ!
宙を飛ぶ斬撃を正面から食らったオーガたちは、たちまちのうちに切り伏せられて床に骸を晒していく。すでに一面は血の海という惨状。
「さあ、サシの果し合いだぞ」
ウガァァァ!
ニヤリと笑みを浮かべる聡史の挑発にまんまと乗ったオーガキングは咆哮を上げながら聡史に向かってくる。手にするのは差し渡し2メートルに及ぶ大剣、大上段からオーガキングの剣が聡史に迫ってくる。
キンッ!
だが聡史は、その怪力などものともせずに大剣を片手で受け止める。軽く力を込めてオーガキングの巨体を後方に撥ね飛ばしては、再び剣を構える。
「次で決着をつけてやる」
聡史は鬼斬りを正眼に構えて、オーガキングは再び大上段に構えて突進する。二つの影が交錯したのちに再び離れていく。
バタ~ン!
床が揺れるほどの大音響を立てて倒れたのは、オーガキング。その胴体の半分以上が切断されてすでに虫の息。対する聡史は刀の血を振り払って鞘に戻している。
「さすがはお兄様です」
鬼の王であっても、レベル400近い聡史が相手では如何せん分が悪かったよう。勝負は呆気なく片が付く。
こうしてドロップアイテムを拾ってから、聡史たちは新たなる階層へと向かっていくのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! 皆様の応援を心よりお待ちしております。
「聡史君、桜ちゃんの遣り方なんてサッパリ参考にならないから、もっと具体的な倒し方のヒントを教えてくれないかしら?」
「ハハハ、確かに桜の遣り方なんて俺にもマネが出来ないから無理もない」
聡史は苦笑した表情を美鈴へと向けている。聡史すらマネが出来ないなんて桜という存在はどこまで突き抜けているのだろうか?
「そんな笑っていないで早く教えてよ!」
「そうだな。基本的にはオークと一緒だ。まずは足を止めてからトドメを刺す。最初に美鈴の魔法を飛ばしてから、仕上げは明日香ちゃんに任せるのがいいだろう。ただし…」
「ただし?」
「オーガの皮膚は頑丈だ。並みの威力の魔法では弾き返されてしまう。今までの2倍程度の魔力を込めて発動するのが良さそうだな」
聡史から具体的なアドバイスを受けた美鈴は真剣な表情で頷いている。最初の魔法の一撃が決まって有効打になるかどうかでパーティーとして優位に戦いを進められるかどうかという重責を担うだけに、オーガが相手にどの程度の威力の魔法を撃ち出そうかと考えているよう。
そして…
「この先に大きな影が見えますね。オーガがいますよ。反対側を注意を向けているので、私たちには気が付いていません」
「私から行くわね」
隙だらけのオーガに向かって美鈴のファイアーボールが飛び出していく。魔力を倍にしているだけあって、これまでとは燃え上がる炎が目に見えて大きい。
グガァァァァ!
ファイアーボールはオーガの背中に着弾して通路を揺るがす爆発音を上げる。熱風の残滓がこちらにも届いて顔面が火照ってくるような熱量が伝わってくる。
「美鈴ちゃん、ちょっと威力が高すぎましたね。オーガが一撃でバラバラになっていますよ」
「どうやら美鈴のスキルが働いているようだな」
「私のスキル?」
桜がオーガの状態を確認すると、なぜ魔力を倍にしただけでこのような高威力になったかという事象に関して聡史が原因の解説を始める。
「美鈴のスキルの中に〔魔力ブースト〕があっただろう。魔力を込めれば込めるほど威力にブーストが掛かるんだ。だから2倍の魔力量のはずが3倍の効果を上げるという現象が発生する。これほどまでに魔法の効果が上昇するということは、どうやら美鈴のブーストに関するスキルは相当優秀なんだろうな」
「美鈴さん、凄いスキルですね」
カレンが美鈴のスキルを褒めている。魔法使いにとっては魔法の威力が上昇するというのは最も喜ばしい出来事。それを美鈴は所持しているスキルで簡単に実現するなんて、あまりにもその能力が魔法使いとして恵まれている点に素直に脱帽している。魔法ブーストがあれば少ない魔力でより強力な魔法を放てるという利点が、何よりも大きい。
「カレン、ありがとう。でも、威力を慎重に制御しないと思わぬ事故を招きそうでちょっと怖いわね」
「そうだな、美鈴は自分で魔力の量を調整して上手く加減してもらえるか?」
「ええ、わかったわ。次は1.5倍程度に抑えておきましょうか」
ということで、美鈴はオーガを相手にして適切な威力を何度か試していく。その結果、当たり所にも左右されるが、オーク相手の1.4倍の魔力で最も効率よくダメージを与えることが可能という結論に落ち着く。従来ゴブリン相手の時には込める魔力は3、オークでは8で、オーガに対しては11~12でよいという結論。美鈴の魔法の前では、いかに皮膚が頑丈で魔法が効きにくいオーガも所詮は敵ではなかったよう。
美鈴の魔法がオーガに対しても依然有効であると確認できたので、パーティーは前進を再開する。これで問題は無くなったと思いきや、もうひとつ大きな壁が立ちはだかっている。それはもちろん、言わずと知れた明日香ちゃん。
美鈴の魔法で両足を吹き飛ばされて動けなくなったオーガに明日香ちゃんがトライデントを構えて突進する。だが…
ヘブッ!
上半身だけで必死の抵抗をするオーガの怪力に明日香ちゃんは吹き飛ばされて通路の壁に激突するというアクシデントが発生。
「明日香ちゃん、今助けます!」
壁に叩き付けられて身動きできなくなった明日香ちゃんにカレンが駆け寄ろうとする。その時、カレンの真横から小柄な影が動きを開始して、あっという間に手負いのオーガの前に立っている。
「私の親友の明日香ちゃんが、いくらヘタレの怠け者で甘い物の食べ過ぎでブクブク太っているからって、よくもやってくれましたね!」
「桜ちゃん、本当に明日香ちゃんを庇う気持ちがあるの?」
「日常の実態に近いとはいえ、もうちょっとオブラートに包まないと…」
桜の明日香ちゃんに対するあまりの言い草に、美鈴とカレンがそこまで言わなくても… という表情を浮かべている。ただし彼女たちも決して否定はしていない点を聡史は見逃してはいない。
(大体合っている)
聡史は心の中で呟いている。
手負いのオーガは、目の前に立つ桜に向けてその剛腕を振るう。だが桜にあっさりと躱されると、やや前のめりになっている上半身に目にも留まらない前蹴りを食らって、通路の端まで転がってから壁にぶつかってようやく停止する。もちろんそのままご臨終の模様。
オーガを排除してから美鈴とカレンが明日香ちゃんの元に駈け寄る。壁際に倒れている明日香ちゃんを二人掛りで抱きかかえると、明日香ちゃんはうわ言のように呟く。
「美鈴さん、カレンさん、どうもお世話になりました。私はもうダメです。このまま天国で幸せに…」
「おでこをぶつけて鼻血が出ているだけでしょうがぁぁぁ!」
「はい、回復魔法ですよ。早く立ち上がってくださいね」
カレンの右手から発せられる白い光が明日香ちゃんを包み込む。すると、明日香ちゃんは何事もないように立ち上がる。
「はぁ~… 痛くて死ぬかと思いましたよ~。でも桜ちゃんの訓練に比べたら全然可愛いものです」
「明日香ちゃん、一体どういう訓練をこれまでに経てきたのかしら?」
美鈴がジトーっとした視線を桜へと向けている。桜は吹けもしない口笛を吹く真似をして視線を宙に泳がせている。カレンは桜の訓練の一端を理解しているだけに「ああ、なるほど!」という納得顔。
「明日香ちゃんのレベルでは、どうやらまだオーガ相手に力負けするようだな」
聡史が原因を冷静に分析している。明日香ちゃんのレベルは現在27で異世界の冒険者に例えるとDランク成りたての中堅クラスに相当する。対してオーガの討伐推奨ランクはCランク以上と定められており、現在の明日香ちゃんが力負けしてしまうのも頷ける話。
「そうなると、明日香ちゃんはオーガが出てきたらしばらくは様子見ですかねぇ~」
桜の一言に俄然明日香ちゃんが乗っかってくる。
「そうですよ、桜ちゃん。しばらく私はお休みということで、桜ちゃんに任せますよ~」
だが、この明日香ちゃんの都合のいい申し出に待ったを掛ける人物登場。
「明日香ちゃん、どうか安心してください。私が攻撃力アップの魔法を掛けます。明日香ちゃんなら必ずオーガを倒せます!」
「いやいや、カレンさん。貴重な魔力を私の為に使うのは申し訳ないですから」
「大丈夫ですよ。私が全力で明日香ちゃんを支援しますから大船に乗った気持ちでオーガに立ち向かってください」
明日香ちゃん的には「そうじゃない! カレンの気持ちはありがたいけど、そうじゃないんだぁぁ!」と心の底から叫びたいのだが、カレンにしては珍しくまったく空気を読もうとはしない。今の明日香ちゃんは、カレンによってグラグラと煮え立つ熱湯風呂へ飛び込まざるを得なくなっている。
こうして明日香ちゃんは、否応なくオーガとの再戦に無理やり挑む定めとなる。本人は全力で回避したいところであるが、後ろを進むカレンはすでにいつでも補助魔法が発動可能な準備を整えている。ありがた迷惑この上ない。
しばらく進むと通路の向こう側には大柄なシルエットが浮かび上がる。もちろんその正体は巨大な棍棒を手にするオーガで間違いない。獲物を狙う獰猛な目をこちらに向けて大股で接近していくる。
「ファイアーボール」
美鈴の魔法は胴体の真ん中で炸裂してオーガの腹部に傷を作ると同時に片手を吹き飛ばす。その様子を見た明日香ちゃんは、しぶしぶトライデントを手にして接近を開始する。
「攻撃力上昇」
明日香ちゃんの背中にカレンの補助魔法が飛んでいく。いつのまにかカレンのスキルレベルが上昇した成果で攻撃力を30パーセント上昇させる優れた効果を発揮してくれる。
槍を構えた明日香ちゃんは、オーガに慎重に近づきながら隙を探す。オーガは傷を負ってもなおもその闘志は止むことなく、爛々と輝く目で明日香ちゃんを睨み付けている
ウガガガァァァ!
膝を突いた姿勢のままで咆哮を上げるオーガ。だが、明日香ちゃんは怯まずに向かっていく。オーガは迫りくる明日香ちゃんに向かって無事な右手で棍棒を振るう。
ガキッ!
先ほどは明日香ちゃんの体ごと吹き飛ばされた棍棒の一振りであったが、今度はトライデントががっしりと受け止めている。カレンのおかげでオーガと互角に渡り合うだけのパワーを明日香ちゃんは得ているよう。
「えい!」
棍棒をいなすと、明日香ちゃんはオーガの肩口にトライデントを突き刺していく。いかに固いオーガの皮膚であっても、神槍の切れ味には抗することは不可能。さらに突き刺された傷口から電流が流れ込んでオーガは絶命する。
「ふひぃ~… 何とか仕留めました」
こうして明日香ちゃんのオーガ討伐は、無事に成功する。
この調子で13階層を抜けて、14階層へと降り立っていく。ここでも登場する魔物はさして変わらぬラインナップで、特に何事もなく通過するといよいよ15階層へと降りていく。
15階層では、オーガジェネラルという上位種が登場したが、カレンの補助魔法に助けられた明日香ちゃんは毎回ギリギリの戦いぶりで討伐に成功。おかげで相当命の遣り取りを学んでいるよう。もっとも安全第一がモットーの明日香ちゃん本人はこんな危険は一番避けたいと思っているだろうが…
こうしてパーティーは、ついに15階層のボス部屋の前に立つ。
「お兄様、考えられるこの部屋の主は、オーガキングですね」
「おそらくそうなるだろうな。さて、誰が倒すか決めておこうか」
聡史の呼び掛けに真っ先に反応したのは桜。
「お兄様、どうかこの場は私にお任せを! 一撃で倒して見せますわ」
「桜ちゃん、私と明日香ちゃんのコンビに任せてよ。相手がオーガキングでも絶対に負けないから」
「美鈴さん、いよいよこの場は私の神聖魔法の出番です。跡形もなく吹き飛ばしますから」
桜、美鈴、カレンの自信ありげな表情が並んでいる。ここで聡史も釣られるように…
「そうか、みんな頼もしいな。まあこの場は、俺がやってもいいぞ」
「「「「どうぞ、どうぞ、どうぞ!」」」」
「ダチョウ倶楽部かぁぁぁぁ! いつの間に打合せしていたんだぁぁぁぁ!」
こうして聡史がボス部屋にいるオーガキングの討伐役を押し付けられる。すかさず桜が…
「お兄様、この刀を試してみてください。銘は〔鬼斬り〕と申します、鬼を相手にするならばこれ以上の切れ味はない刀です」
「ああ、例の刀か」
桜がアイテムボックスから取り出した一振りの見事な刀を聡史に手渡す。この鬼斬りと銘打たれた刀は、桜が異世界にて討伐した皇帝オーガの角をドワーフの名工が研ぎだして刀に仕立てた、切れ味と刃毀れ一つしない頑丈さは折り紙つきの逸品。
こうして鬼斬りを手にする聡史を先頭にしてボス部屋へと踏み込んでいくと、そこには予想通りオーガキングに率いられた20体のオーガ軍団が待ち受けている。
「刀の錆びになれ!」
キンという音を立てて聡史が鯉口を切って刀を抜くと、黒光りする見事な刀身が現れる。漆黒の刀身に浮かぶ刃紋も鮮やかに、波打った美しい芸術のような造形を描いている。
グオ?
聡史が手にする鬼斬りを見て、オーガキングの顔にはて?… という表情が浮かぶ。やがて刀の材質が何に由来するのか理解したオーガキングは、憤怒の形相へと変貌していく。同族の角を太刀に変えられていると、どうやら理解したよう。
オーガキングの怒りに後押しされて、配下のオーガ軍団が一斉に聡史へ突進する。手にする棍棒を振り上げて、こちらも怒りに満ちた形相で迫りくる。
「遅いな」
聡史はそう一言呟くと、鬼斬りを手に上段に構える。20体に及ぶオーガの軍団に真一文字に鬼斬りを振るうと、空間を斬撃の刃が駆けていく。
グギャァァァ!
ウガァァァ!
宙を飛ぶ斬撃を正面から食らったオーガたちは、たちまちのうちに切り伏せられて床に骸を晒していく。すでに一面は血の海という惨状。
「さあ、サシの果し合いだぞ」
ウガァァァ!
ニヤリと笑みを浮かべる聡史の挑発にまんまと乗ったオーガキングは咆哮を上げながら聡史に向かってくる。手にするのは差し渡し2メートルに及ぶ大剣、大上段からオーガキングの剣が聡史に迫ってくる。
キンッ!
だが聡史は、その怪力などものともせずに大剣を片手で受け止める。軽く力を込めてオーガキングの巨体を後方に撥ね飛ばしては、再び剣を構える。
「次で決着をつけてやる」
聡史は鬼斬りを正眼に構えて、オーガキングは再び大上段に構えて突進する。二つの影が交錯したのちに再び離れていく。
バタ~ン!
床が揺れるほどの大音響を立てて倒れたのは、オーガキング。その胴体の半分以上が切断されてすでに虫の息。対する聡史は刀の血を振り払って鞘に戻している。
「さすがはお兄様です」
鬼の王であっても、レベル400近い聡史が相手では如何せん分が悪かったよう。勝負は呆気なく片が付く。
こうしてドロップアイテムを拾ってから、聡史たちは新たなる階層へと向かっていくのであった。
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迷宮アドバイザーと歩む現代ダンジョン探索記~ブラック会社を辞めた俺だが可愛い後輩や美人元上司と共にハクスラに勤しんでます
秋月静流
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俺、臥龍臼汰(27歳・独身)はある日自宅の裏山に突如できた洞窟を見つける。
語り掛けてきたアドバイザーとやらが言うにはそこは何とダンジョン!?
で、探索の報酬としてどんな望みも叶えてくれるらしい。
ならば俺の願いは決まっている。
よくある強力無比なスキルや魔法? 使い切れぬ莫大な財産?
否! 俺が望んだのは「君の様なアドバイザーにず~~~~~っとサポートして欲しい!」という願望。
万全なサポートを受けながらダンジョン探索にのめり込む日々だったのだが…何故か元居た会社の後輩や上司が訪ねて来て…
チート風味の現代ダンジョン探索記。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
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朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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