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第67話 深部攻略 4
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16階層に降りてきた聡史たち。この階層の特徴を一言で言い表すならば、爬虫類階層というネーミングがピッタリ。登場してくる魔物たちは恰もデパートで時々催される大爬虫類展のような趣がある。
最初に登場したのは、緑色の体をウネウネとくねらせて通路を進むグリーンバイバー。体長5メートルにも及ぶ長い体で獲物に巻きつく他、その牙には大型の哺乳類でも数秒で死に至らしめる強力な毒を秘めている。しかも口から常に紫色の毒の息を吐き出しており、接近するだけで猛毒が体に回ってしまう可能性がある厄介な相手といえよう。
だが…
「いや~! ヘビ嫌い~!」
美鈴の右手から反射的にダークフレイムが放れる。彼女は子供の頃から大のヘビ嫌い。主にその理由は、桜が近所の田んぼで捕まえてきたヘビをわざわざ美鈴に見せつけたおかげ。子供の頃から怖いものなしの桜に美鈴はヘビ嫌いというトラウマを植え付けられていたという過去がある。
とはいうものの、ヘビ嫌いな美鈴のおかげで危険なグリーンバイパーは漆黒の炎に包まれてのた打ち回りながら消し炭になっていく。燃え残った跡には緑色のヘビ革が落ちている。ハンドバッグにすれば裕福なご婦人方のコレクションとして人気が出るに違いない。
次に現れたのは大トカゲ。コモドドラゴンをもう一回りスケールアップしたような体長5メートルを超えるトカゲ型の魔物で、ジャイアントリザードと異世界では命名されている。こちらも牙に毒があって、噛みつかれると迅速な解毒が行われなければ命に関わる。大口を開いてこちらを威嚇するジャイアントリザードだが…
「アイスアロー!」
聡史が瞬時に放った氷の矢はその開いた口の中に向かっており、文字通りジャイアントリザードの体を串刺しにしていく。こちらも魔法の一撃で片が付いてしまう。
その後、ブラックアリゲーターといったワニの仲間やブラックアナコンダという10メートルを超える大蛇などを倒しながらパーティーは通路を突き進んでいく。その途中で美鈴、明日香ちゃん、カレンの3人は再三レベルアップを繰り返して、ついには全員レベル30を超える。
昨日ダンジョンに入る前から各々が4~5ランク上昇しているのは、いかに下の階層で得られる経験値が高いかという事実を物語っている。
「凄いですねぇ。あっという間にレベル30を超えるなんて、なんだか信じられませんよ~」
「明日香ちゃんの言う通りね。学院に在学中にここまでレベルが上がるなんて思ってもみなかったわ」
「本当ですね。聡史さんと桜ちゃんに出会ったおかげです」
明日香ちゃん、美鈴、カレンの3人が目を丸くしていると同時に、兄妹に向かって感謝をしている。クラスメートたちと比較してもすでに3倍のレベルに達するなどという出来事が彼女たちには中々現実として受け止められないよう。
続く17階層も爬虫類のオンパレードが展開されていく。こちらの階層も特に何事もなく通過して18階層へ降りていく階段を発見したところで、ようやく休息に入る。すでに時間は夜の9時を経過しており、ここまで昼食以外にさしたる休みも取らずに強行軍で進んできただけに、女子3人には疲労の色が濃くなってきた頃合い。
階段に最も近いセーフティーゾーンで食事を取ってから2泊目の一夜を明かしていくのであった。
◇◇◇◇◇
翌朝、時間の制約もあるのでここから先に進むか、それとも引き返すか相談しながら朝食を取る。
「学院に提出した届は今日の19時までには戻ると記入したからな。そろそろ上に引き返すことも視野に入れないと時間内には戻れなくなるぞ」
「お兄様、止むを得ない事情で時間までに戻れないケースもありますわ。心配を掛ける可能性はありますが、ここまで来たら20階層を目指すべきです」
結局桜の強引さが勝って、このまま午前中いっぱいは下に降りていこうという結論に達する。
ということで、一行は18階層に降り立つ。この階層は節足動物の宝庫と言える階層で、サソリやクモの仲間の魔物が不気味な姿を現してくる。しかもほとんどの魔物が毒を持っているので、中々タチが悪い階層といえる。時にはカマキリ型の魔物が4本ある鎌を振り下ろしながら迫ってくることもあり、美鈴の右手が次々に火を噴いては手早く倒していく。
19階層も同様な魔物は登場してくるので討伐は捗って、午前10時を回らないうちについに目標であった20階層へと降り立つ。だが…
「はぁ~… なんだか来るんじゃなかったですねぇ~」
明日香ちゃんは大きなため息をついている。その理由は、またもやアンデッド階層だったからに他ならない。
しかも下級のゾンビなどは一切登場せずに、ダークスケルトンやスケルトンナイト、時には実体のない幽霊のようなレイスなど、神聖魔法でないと倒せない厄介な相手が通路に出てくる。これだけレベルの高いアンデッドが次々登場となると、並みのパーティーではまったく歯が立たない。とはいえ…
「うう、幽霊よりはマシですが、ホネのお化けも怖いですよ~」
と言いながら、明日香ちゃんはトライデントを振るっている。相手は鎧姿のスケルトンナイトで剣と楯を巧みに操っては明日香ちゃんの槍を撥ね返してくる。最初のうちは死者とは思えない魔物の剣の扱いに苦戦していた明日香ちゃんだが、ある時を境にして俄然優位に立てるようになってくる。
その原因はついに槍術スキルがレベル5に上昇したおかげにある。初めてトライデントを手にしてからわずか2月半でここまで到達するとは、学年最下位でクラスのお荷物だったあの頃とは見違えるような進歩。凄いぞ、明日香ちゃん! 本当はやればできる子だ。
明日香ちゃんの神槍がスケルトンナイトの頭蓋骨に突き刺さる。槍からは聖なる魔力が放出されて、魔物は浄化されて消え去っていく。
「聖光(ホーリーライト)」
実体がないレイス相手にはカレンの神聖魔法が大活躍をする。あっという間にレイスを浄化しては、周辺の淀んだ空気まで新鮮な物へと変化させていく。
通路に湧き上がるアンデッドを討伐しながら、パーティーはついに20階層のボス部屋まで到達。
だがピッタリ閉じた扉のわずかな隙間から漏れ出してくる瘴気から考えると、この内部には相当強力なアンデッドが潜んでいるのは間違いなさそう。
「さて、思案のしどころだな。このまま内部に踏み込むか、それともボス部屋を確認したところで引き返すかだ」
「お兄様、何を眠たい事を言っているんですか! この場は突撃あるのみですわ」
「桜ちゃん、中にはお化けの親分がいますよ~。絶対いますよ~」
突撃を主張する桜と尻込みする明日香ちゃんだが、声が大きい者の意見に周囲が流されるのはままある事。結局ボス部屋を攻略してから引き返そうという意見でまとまる。
「カレン、頼りにしているぞ。それから美鈴は闇魔法は使用するなよ。アンデッドに魔力を供給しかねないからな」
「ええ、わかったわ」
アンデッドは闇属性で、闇魔法に耐性があるだけではなくて闇の魔力を自らの力に変えてしまう強者も存在する。美鈴の切り札がこの場合は逆効果になりうるので、聡史は使用を禁止している。
立ちはだかる扉を押し広げて内部に足を踏み入れると、最奥の一段高くなっている壇上には豪奢な椅子に腰掛けている黒い影。薄暗くて影の正体は入り口からではわからないが、更に中に足を運ぶと黒いローブをまとった魔法使いのような姿がそこにはある
だがその影は生きている魔法使いではないのが一目瞭然。一見豪華な刺繍や飾りのモールがあしらわれたローブは長い年月の果てに痛みが進んであちこちが擦り切れており、見るからにボロボロ。
それだけでなくて、ローブをまとう本体も骸骨に皮膚だけが張り付いたようなミイラを思わせる風貌で、落ち窪んだ眼窩にはすでに眼球は存在せず、ただただ赤い光を宿しているだけという有様。ローブに隠れている体も痩せ衰えて、おそらくは骨と皮だけの様相であろう。
「リッチのお出ましか」
聡史の呟き通り、玉座を思わせる豪奢な椅子に腰を下ろしているのは高名な魔法使いが死してなおその妄執ゆえに現世に未練を残して留まるアンデッド。
「聡史君、リッチというのは初めて聞くんだけど、どんな魔物なのかしら?」
「強力な魔法使いがアンデッドになった魔物だ。魔法攻撃には用心しろ」
「わかったわ。私の闇魔法は効果がないから、魔法シールドを展開するわね」
「頼んだぞ」
こうして聡史たちは、玉座に佇むリッチに向かって一歩一歩足を進めていく。ある程度の距離まで接近すると、突然リッチが立ち上がる。おそらく魔法が届く距離に入り込んだという証であろう。
リッチの骨だけになった右手が徐々に掲げられて、伸ばした人差し指の先から炎が噴き出してくる。パッと見ではその威力は美鈴のダークフレイムに匹敵する闇の炎。
「こんなものは、桜様には効きませんわ」
だがパーティーの最前線に仁王立ちしている桜は両手から夥しい数の衝撃波を飛ばしては、リッチが放つ炎を片っ端から消し去っていく。さらに炎を全て消し去ってからは、オマケの1発が桜の手から…
「大極破ぁぁ!」
ゴオォォォォ!
ズガガガガーーン!
リッチは咄嗟に魔法シールドを展開したようだが、桜の大極破の前には強風に晒される障子紙も同然。シールドを突き破った大極破はそのままリッチに直撃してその体を粉々に砕いていく。
だが…
「やぱり再生するのか」
聡史に呟き通りに、粉々になったリッチの体は徐々に元の姿を取り戻していく。
「カレン、1発お見舞いしてやるんだ」
「はい」
満を持してカレンが登場する。どうやらこれまでとは打って変わって一段階上の神聖魔法を放つ構えのよう。
「ホーリーアロー」
カレンの手からは白い光の矢がリッチに向かって飛翔する。
ドガガガーン!
煌めく光とともに生じる大爆発、これならば仕留めたかと一同が光と煙が晴れるのを待つ。だが…
「まだ復活するの?!」
さすがにこのしぶとさには美鈴も呆れた目を向けている。
「カレンさんの神聖魔法でも討伐できないとなると、さらに強い聖なる力をぶつけないといけませんね」
桜が見遣る先には、美鈴の陰に隠れて幽霊怖さに体を震わせている明日香ちゃんの姿が… だが用があるのは明日香ちゃんではない。明日香ちゃんが手にするトライデントこそが、桜の言うさらに強い力に他ならない。
「明日香ちゃん、借りますわ」
桜は明日香ちゃんの手から引っ手繰るようにトライデントを奪う。ご主人から引き離されたトライデントは「あ~れ~! なんとご無体なぁぁぁ!」と声にならない声を上げているが、元々桜にもダンジョンの宝箱から救い出してもらった恩があって逆らえなかった模様。
「そりゃぁぁぁぁ!」
気合一閃、桜は復活したリッチ目掛けてトライデントを思いっ切り投げつける。やめて~! と悲鳴を上げるトライデントは狙いを過たずにリッチの両目を貫いただけではなくて、その勢いのままにリッチの体を後方に飛ばして壁に縫い付ける。
哀れリッチは宙ぶらりんの姿でトライデントによって壁に吊るされている。
ウギャアァァァァァァ!
声にならないリッチの苦しみの波動がフロアーに響くが、トライデントの聖なる力によってその体は次第にボロボロと崩れていく。まとっていたローブも長い年月の経過が一気に訪れたかのように形が崩れてボロ布のように床に落ちる。
「あれがリッチのコアだな」
聡史の目は、心臓の位置に赤く光る魔石を発見している。
「桜、今一度鬼斬りを貸してくれ」
「どうぞ、お兄様」
桜から手渡された鬼斬りを手にして、聡史は一気に駆け出していく。
「貴様が本来いるべき地の底に堕ちていけ」
段差を駆け上がった聡史は、手にする鬼斬りでリッチのコアを貫く。
その瞬間、リッチの体は空気に溶けるかのように消え去って跡形もなくなっている。代わりにリッチが立っていた場所には宝箱と魔法陣が出現。
「お兄様、この魔法陣は何処へと通じているのでしょうか?」
「中に飛び込んでみないと何とも言えないな。可能性があるとすれば他の階層へワープできる魔法陣かな」
「仮にそうでしたら、1階層まで一気に戻れますね」
「宝箱を開けてから試してみようか」
フロアーに出現した宝箱の中からは5色の魔石が取り付けられているマジックリングが出てくる。おそらく千里が指に嵌めている炎の指輪と同様の効果があると思われる。火、水、風、土、雷の各属性魔法を容易に発動できるであろう。マジックアイテムとしてはかなり重宝しそう。
こうして宝箱の回収が終わると、残すは謎の魔法陣のみとなる。意を決して五人が内部に足を踏み入れると、陣全体が光に包まれる。そして光が止むと…
「どうやらここは、1階層のようですね」
予想通りに各階層をワープできる魔法陣だったよう。しかも1階層の入り口近くに出現しており、これから先この魔法陣を有効に活用すれば手軽に深い階層まで進むことが可能となる。今までのように帰りの時間を計算せずに魔物の討伐に臨めるとあって、ダンジョン攻略が格段に容易となるのは間違いなさそう。
現在時刻は午後1時半、聡史たちは魔法陣のおかげで予定を大幅に繰り上げて帰還する。各階層の特性や新たに出来上がった階層移動可能な魔法陣の説明などを管理事務所で行ってから、学院に戻っていく聡史たちであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! いいねボタンにつきましては連打してもらえると大喜びしますのでどうぞよろしくお願いいたします。皆様の応援を心よりお待ちしております。
最初に登場したのは、緑色の体をウネウネとくねらせて通路を進むグリーンバイバー。体長5メートルにも及ぶ長い体で獲物に巻きつく他、その牙には大型の哺乳類でも数秒で死に至らしめる強力な毒を秘めている。しかも口から常に紫色の毒の息を吐き出しており、接近するだけで猛毒が体に回ってしまう可能性がある厄介な相手といえよう。
だが…
「いや~! ヘビ嫌い~!」
美鈴の右手から反射的にダークフレイムが放れる。彼女は子供の頃から大のヘビ嫌い。主にその理由は、桜が近所の田んぼで捕まえてきたヘビをわざわざ美鈴に見せつけたおかげ。子供の頃から怖いものなしの桜に美鈴はヘビ嫌いというトラウマを植え付けられていたという過去がある。
とはいうものの、ヘビ嫌いな美鈴のおかげで危険なグリーンバイパーは漆黒の炎に包まれてのた打ち回りながら消し炭になっていく。燃え残った跡には緑色のヘビ革が落ちている。ハンドバッグにすれば裕福なご婦人方のコレクションとして人気が出るに違いない。
次に現れたのは大トカゲ。コモドドラゴンをもう一回りスケールアップしたような体長5メートルを超えるトカゲ型の魔物で、ジャイアントリザードと異世界では命名されている。こちらも牙に毒があって、噛みつかれると迅速な解毒が行われなければ命に関わる。大口を開いてこちらを威嚇するジャイアントリザードだが…
「アイスアロー!」
聡史が瞬時に放った氷の矢はその開いた口の中に向かっており、文字通りジャイアントリザードの体を串刺しにしていく。こちらも魔法の一撃で片が付いてしまう。
その後、ブラックアリゲーターといったワニの仲間やブラックアナコンダという10メートルを超える大蛇などを倒しながらパーティーは通路を突き進んでいく。その途中で美鈴、明日香ちゃん、カレンの3人は再三レベルアップを繰り返して、ついには全員レベル30を超える。
昨日ダンジョンに入る前から各々が4~5ランク上昇しているのは、いかに下の階層で得られる経験値が高いかという事実を物語っている。
「凄いですねぇ。あっという間にレベル30を超えるなんて、なんだか信じられませんよ~」
「明日香ちゃんの言う通りね。学院に在学中にここまでレベルが上がるなんて思ってもみなかったわ」
「本当ですね。聡史さんと桜ちゃんに出会ったおかげです」
明日香ちゃん、美鈴、カレンの3人が目を丸くしていると同時に、兄妹に向かって感謝をしている。クラスメートたちと比較してもすでに3倍のレベルに達するなどという出来事が彼女たちには中々現実として受け止められないよう。
続く17階層も爬虫類のオンパレードが展開されていく。こちらの階層も特に何事もなく通過して18階層へ降りていく階段を発見したところで、ようやく休息に入る。すでに時間は夜の9時を経過しており、ここまで昼食以外にさしたる休みも取らずに強行軍で進んできただけに、女子3人には疲労の色が濃くなってきた頃合い。
階段に最も近いセーフティーゾーンで食事を取ってから2泊目の一夜を明かしていくのであった。
◇◇◇◇◇
翌朝、時間の制約もあるのでここから先に進むか、それとも引き返すか相談しながら朝食を取る。
「学院に提出した届は今日の19時までには戻ると記入したからな。そろそろ上に引き返すことも視野に入れないと時間内には戻れなくなるぞ」
「お兄様、止むを得ない事情で時間までに戻れないケースもありますわ。心配を掛ける可能性はありますが、ここまで来たら20階層を目指すべきです」
結局桜の強引さが勝って、このまま午前中いっぱいは下に降りていこうという結論に達する。
ということで、一行は18階層に降り立つ。この階層は節足動物の宝庫と言える階層で、サソリやクモの仲間の魔物が不気味な姿を現してくる。しかもほとんどの魔物が毒を持っているので、中々タチが悪い階層といえる。時にはカマキリ型の魔物が4本ある鎌を振り下ろしながら迫ってくることもあり、美鈴の右手が次々に火を噴いては手早く倒していく。
19階層も同様な魔物は登場してくるので討伐は捗って、午前10時を回らないうちについに目標であった20階層へと降り立つ。だが…
「はぁ~… なんだか来るんじゃなかったですねぇ~」
明日香ちゃんは大きなため息をついている。その理由は、またもやアンデッド階層だったからに他ならない。
しかも下級のゾンビなどは一切登場せずに、ダークスケルトンやスケルトンナイト、時には実体のない幽霊のようなレイスなど、神聖魔法でないと倒せない厄介な相手が通路に出てくる。これだけレベルの高いアンデッドが次々登場となると、並みのパーティーではまったく歯が立たない。とはいえ…
「うう、幽霊よりはマシですが、ホネのお化けも怖いですよ~」
と言いながら、明日香ちゃんはトライデントを振るっている。相手は鎧姿のスケルトンナイトで剣と楯を巧みに操っては明日香ちゃんの槍を撥ね返してくる。最初のうちは死者とは思えない魔物の剣の扱いに苦戦していた明日香ちゃんだが、ある時を境にして俄然優位に立てるようになってくる。
その原因はついに槍術スキルがレベル5に上昇したおかげにある。初めてトライデントを手にしてからわずか2月半でここまで到達するとは、学年最下位でクラスのお荷物だったあの頃とは見違えるような進歩。凄いぞ、明日香ちゃん! 本当はやればできる子だ。
明日香ちゃんの神槍がスケルトンナイトの頭蓋骨に突き刺さる。槍からは聖なる魔力が放出されて、魔物は浄化されて消え去っていく。
「聖光(ホーリーライト)」
実体がないレイス相手にはカレンの神聖魔法が大活躍をする。あっという間にレイスを浄化しては、周辺の淀んだ空気まで新鮮な物へと変化させていく。
通路に湧き上がるアンデッドを討伐しながら、パーティーはついに20階層のボス部屋まで到達。
だがピッタリ閉じた扉のわずかな隙間から漏れ出してくる瘴気から考えると、この内部には相当強力なアンデッドが潜んでいるのは間違いなさそう。
「さて、思案のしどころだな。このまま内部に踏み込むか、それともボス部屋を確認したところで引き返すかだ」
「お兄様、何を眠たい事を言っているんですか! この場は突撃あるのみですわ」
「桜ちゃん、中にはお化けの親分がいますよ~。絶対いますよ~」
突撃を主張する桜と尻込みする明日香ちゃんだが、声が大きい者の意見に周囲が流されるのはままある事。結局ボス部屋を攻略してから引き返そうという意見でまとまる。
「カレン、頼りにしているぞ。それから美鈴は闇魔法は使用するなよ。アンデッドに魔力を供給しかねないからな」
「ええ、わかったわ」
アンデッドは闇属性で、闇魔法に耐性があるだけではなくて闇の魔力を自らの力に変えてしまう強者も存在する。美鈴の切り札がこの場合は逆効果になりうるので、聡史は使用を禁止している。
立ちはだかる扉を押し広げて内部に足を踏み入れると、最奥の一段高くなっている壇上には豪奢な椅子に腰掛けている黒い影。薄暗くて影の正体は入り口からではわからないが、更に中に足を運ぶと黒いローブをまとった魔法使いのような姿がそこにはある
だがその影は生きている魔法使いではないのが一目瞭然。一見豪華な刺繍や飾りのモールがあしらわれたローブは長い年月の果てに痛みが進んであちこちが擦り切れており、見るからにボロボロ。
それだけでなくて、ローブをまとう本体も骸骨に皮膚だけが張り付いたようなミイラを思わせる風貌で、落ち窪んだ眼窩にはすでに眼球は存在せず、ただただ赤い光を宿しているだけという有様。ローブに隠れている体も痩せ衰えて、おそらくは骨と皮だけの様相であろう。
「リッチのお出ましか」
聡史の呟き通り、玉座を思わせる豪奢な椅子に腰を下ろしているのは高名な魔法使いが死してなおその妄執ゆえに現世に未練を残して留まるアンデッド。
「聡史君、リッチというのは初めて聞くんだけど、どんな魔物なのかしら?」
「強力な魔法使いがアンデッドになった魔物だ。魔法攻撃には用心しろ」
「わかったわ。私の闇魔法は効果がないから、魔法シールドを展開するわね」
「頼んだぞ」
こうして聡史たちは、玉座に佇むリッチに向かって一歩一歩足を進めていく。ある程度の距離まで接近すると、突然リッチが立ち上がる。おそらく魔法が届く距離に入り込んだという証であろう。
リッチの骨だけになった右手が徐々に掲げられて、伸ばした人差し指の先から炎が噴き出してくる。パッと見ではその威力は美鈴のダークフレイムに匹敵する闇の炎。
「こんなものは、桜様には効きませんわ」
だがパーティーの最前線に仁王立ちしている桜は両手から夥しい数の衝撃波を飛ばしては、リッチが放つ炎を片っ端から消し去っていく。さらに炎を全て消し去ってからは、オマケの1発が桜の手から…
「大極破ぁぁ!」
ゴオォォォォ!
ズガガガガーーン!
リッチは咄嗟に魔法シールドを展開したようだが、桜の大極破の前には強風に晒される障子紙も同然。シールドを突き破った大極破はそのままリッチに直撃してその体を粉々に砕いていく。
だが…
「やぱり再生するのか」
聡史に呟き通りに、粉々になったリッチの体は徐々に元の姿を取り戻していく。
「カレン、1発お見舞いしてやるんだ」
「はい」
満を持してカレンが登場する。どうやらこれまでとは打って変わって一段階上の神聖魔法を放つ構えのよう。
「ホーリーアロー」
カレンの手からは白い光の矢がリッチに向かって飛翔する。
ドガガガーン!
煌めく光とともに生じる大爆発、これならば仕留めたかと一同が光と煙が晴れるのを待つ。だが…
「まだ復活するの?!」
さすがにこのしぶとさには美鈴も呆れた目を向けている。
「カレンさんの神聖魔法でも討伐できないとなると、さらに強い聖なる力をぶつけないといけませんね」
桜が見遣る先には、美鈴の陰に隠れて幽霊怖さに体を震わせている明日香ちゃんの姿が… だが用があるのは明日香ちゃんではない。明日香ちゃんが手にするトライデントこそが、桜の言うさらに強い力に他ならない。
「明日香ちゃん、借りますわ」
桜は明日香ちゃんの手から引っ手繰るようにトライデントを奪う。ご主人から引き離されたトライデントは「あ~れ~! なんとご無体なぁぁぁ!」と声にならない声を上げているが、元々桜にもダンジョンの宝箱から救い出してもらった恩があって逆らえなかった模様。
「そりゃぁぁぁぁ!」
気合一閃、桜は復活したリッチ目掛けてトライデントを思いっ切り投げつける。やめて~! と悲鳴を上げるトライデントは狙いを過たずにリッチの両目を貫いただけではなくて、その勢いのままにリッチの体を後方に飛ばして壁に縫い付ける。
哀れリッチは宙ぶらりんの姿でトライデントによって壁に吊るされている。
ウギャアァァァァァァ!
声にならないリッチの苦しみの波動がフロアーに響くが、トライデントの聖なる力によってその体は次第にボロボロと崩れていく。まとっていたローブも長い年月の経過が一気に訪れたかのように形が崩れてボロ布のように床に落ちる。
「あれがリッチのコアだな」
聡史の目は、心臓の位置に赤く光る魔石を発見している。
「桜、今一度鬼斬りを貸してくれ」
「どうぞ、お兄様」
桜から手渡された鬼斬りを手にして、聡史は一気に駆け出していく。
「貴様が本来いるべき地の底に堕ちていけ」
段差を駆け上がった聡史は、手にする鬼斬りでリッチのコアを貫く。
その瞬間、リッチの体は空気に溶けるかのように消え去って跡形もなくなっている。代わりにリッチが立っていた場所には宝箱と魔法陣が出現。
「お兄様、この魔法陣は何処へと通じているのでしょうか?」
「中に飛び込んでみないと何とも言えないな。可能性があるとすれば他の階層へワープできる魔法陣かな」
「仮にそうでしたら、1階層まで一気に戻れますね」
「宝箱を開けてから試してみようか」
フロアーに出現した宝箱の中からは5色の魔石が取り付けられているマジックリングが出てくる。おそらく千里が指に嵌めている炎の指輪と同様の効果があると思われる。火、水、風、土、雷の各属性魔法を容易に発動できるであろう。マジックアイテムとしてはかなり重宝しそう。
こうして宝箱の回収が終わると、残すは謎の魔法陣のみとなる。意を決して五人が内部に足を踏み入れると、陣全体が光に包まれる。そして光が止むと…
「どうやらここは、1階層のようですね」
予想通りに各階層をワープできる魔法陣だったよう。しかも1階層の入り口近くに出現しており、これから先この魔法陣を有効に活用すれば手軽に深い階層まで進むことが可能となる。今までのように帰りの時間を計算せずに魔物の討伐に臨めるとあって、ダンジョン攻略が格段に容易となるのは間違いなさそう。
現在時刻は午後1時半、聡史たちは魔法陣のおかげで予定を大幅に繰り上げて帰還する。各階層の特性や新たに出来上がった階層移動可能な魔法陣の説明などを管理事務所で行ってから、学院に戻っていく聡史たちであった。
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「面白かった」
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宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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