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第68話 八校戦に向けて
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聡史たちが20階層を攻略したことによって生じたダンジョンの構造的な変容は、学院生、殊に5階層を主戦場としている3年生の間で持ち切りの話題となっている。
「おい、聞いたか? 入り口付近に発生した魔法陣であっという間に5階層まで移動できるそうだ」
「俺が耳にしたところによると、どうやら5層刻みで転移可能らしい」
「便利になるよなぁ。今まで各階層を通り抜けないと5階層まで行けなかったのが、これからは直行できるなんて」
最も恩恵を受ける3年生は諸手を挙げての歓迎ぶり。5階層で活動する時間が延びるだけでなくて、活動を終えたらすぐに1階層に戻れるのだから、体力が続く限りギリギリまで粘れるようになったのは言うまでもなく、彼らにとってその恩恵は計り知れない。
だが3年生たちには如何なる理由でダンジョンの構造的な変化が起こったかは知らされてはいない。ダンジョン管理事務所は、聡史たちの20階層到達や階層ボスであるリッチの討伐などをいまだ公表してはいない。
その理由は「あまりに並み外れた聡史たちの活躍が明るみに出るのは好ましくない」という政府の意向が働いているのは言うまでもないだろう。すでに外国政府から聡史たちが狙われているという事実がある限り、今後とも彼らの活躍が表沙汰にされる可能性は限りなく低いと言わざるを得ない。
◇◇◇◇◇
9月の間中、聡史たちはダンジョンの6階層と12階層を中心に探索をしている。6階層は桜が契約を結んでいる言わずと知れたオーク肉の納入で日々必要量を確保するために必ず立ち寄るというルーティーンが確立されている。
それから12階層のフィールドエリアであるが、広大なこのエリアを隅々まで探索するのには相当な時間が必要であり、聡史たちは時間をかけて丹念に回っていた。おかげでロングホーンブルの肉の在庫が積み上がっており、その処分のために桜は学生食堂と新たな契約を結ぶに至る。
それだけならまだしも、森に生息している鳥の魔物であるコカトリスも大量に討伐しており、こちらの肉も食堂に納入が開始されている。ダンジョン産の牛肉、豚肉、鶏肉の供給契約がこの時点で成立している。
しかもこのコカトリスの肉には秘密があって、食べるだけでわずかずつではあるが魔力が上昇する効果が確認されており、学生たちの間では奪い合いになる大人気を博している。おかげで桜に舞い込む納入量が日々増加して、コカトリス狩りに追われる日々が何日も続くこととなる。それでもかなり割高の値段で引き取ってもらえるので、パーティーの財政はこの所潤う一方となっている。
◇◇◇◇◇
毎日をダンジョン攻略に明け暮れていた9月はあっという間に過ぎ去って、秋が深まる10月を迎えている。
この時期になると殊更忙しくなるのは生徒会。美鈴は放課後に生徒会室にやってきて重要会議に出席している。
出席者が全員揃ってから、司会を務める生徒会長が本日の案件について説明を開始する。
「本日は3週間後に迫っている八校戦のエントリーメンバーを確定したいと考えている。最大エントリー人数は各学年32名と開催要項で決まっている。我が校から各種目に出場する生徒を補欠も含めてこの場で選出したい」
八校戦の運営全般に関して教員は表立って口を出さずに生徒の自主性に任せられている。したがって、出場選手の選考やエントリー種目の振り分けなどに関して全て生徒会に一任されている。
「それではまずは1年生から32名を選考しよう。副会長、意見はあるかい?」
1年生の選考に関しては美鈴の意見が最も大きな影響を持っている。生徒会長は美鈴が推薦する人物を無条件でエントリー選手に選出しようと考えているようで、彼の求めに応じて美鈴が発言をする。
「まずは模擬戦週間の全学年トーナメント決勝に進んだ特待生の2名は確定と考えております。それから学年トーナメントのベスト4に進出した生徒も絶対に外せません」
ここまでは常識的な範囲の意見なので、美鈴の考えに異論を差し挟む余地はない。
「それから、1年Aクラスの浜川茂樹ですが、模擬戦では1回戦で敗れたとはいえ相手が優勝者でしたからその実力は正当に評価するべきでしょう」
これに関しても、役員の間からは異論は出ない。
それから美鈴はAクラスの格闘系と魔法使いの生徒数人の名を上げる。これもまた順当なメンバーが挙がっているので、誰も異論をはさまない。そして最後に…
「残った6名ですが、Eクラスのブルーホライズンを推薦します。彼女たちならばチーム戦で必ず上位に食い込んでくれるはずです」
「Eクラスの生徒だって! 頼りない気がするけど、大丈夫なのか?」
2年生で書記を務める生徒が声を上げる。Eクラスと聞いて役員の誰もが怪訝な表情を浮かべている。だが副会長が闇雲にEクラスの生徒の名前を上げるはずはないと、役員全員が知っているのもまた事実。
「副会長、そのパーティーを推薦する根拠を教えてもらえるかい?」
「はい、会長。彼女たちは模擬戦の記録上は目立った結果を残してはおりません。6名のうち1名が3回戦まで進んだのみで、残りは1回戦で姿を消しています。ですがそのうち二名はAクラスの上位男子との引き分けで、二名は接戦の末に敗退しました。これだけでも相応の実力を理解していただけると思いますが?」
「うーん、まだ根拠としては弱い気がするな」
「ではさらなる根拠を述べさせていただきます。彼女たちはすでにダンジョンの4階層に到達しておりまして、間もなく5階層を目指しています」
「「「「なんだってぇぇぇ!」」」」
役員全体から驚愕の声が上がる。1年生のこの時期に4階層に到達するなどこれまでの学院の常識を覆すとんでもない偉業なのだから、それも当然だろう。
「9月から魔法使いの生徒が加入して彼女たちのパーティーの陣容が整いました。私たちのパーティーに続くのはブルーホライズン以外には存在しません!」
美鈴の意見に誰も反論できない。4階層の魔物と戦える実力というのは聡史たちを除くと1学年のトップということ。美鈴の意見を黙って聞いていた生徒会長は大きく頷く。
「いいだろう。Eクラスの生徒とはいえ、それだけの実績があるのならエントリー資格は十分だ。ところで副会長、君たちは何階層まで攻略しているのかな?」
「それは秘密です」
おいそれとは明かせない機密に関しては完全黙秘をする美鈴であった。
◇◇◇◇◇
「第48回、パーティー会議ぃぃぃ!」
「48回って… 毎日ただのお茶会だったよな」
特待生寮に集まった5人は、いつのもようにリビングのテーブルに着いている。もちろん桜と明日香ちゃんの前には季節の果物が豪華に並んだフルーツパフェが置かれている。
今までの会議は桜が司会を務めていたが、今回の会議は美鈴の申し出によって開催されており、彼女が司会をしている。
「来たるべき八校戦が3週間後に迫ってきました。当然この場にいる全員は参加します」
「桜ちゃん、大阪の甘い物食べ歩きがとっても楽しみですよ~」
「まあまあ、明日香ちゃん。楽しみは先にとっておくのがいいんですよ。ワクワク感が続いた方がその分幸せですからね」
司会の美鈴が口火を切ると、すかさず明日香ちゃんが乗ってくる。今から大阪行きが楽しみでたまらない様子。食べ歩きの機会を心待ちにしている。もっと他に真剣に取り組むべきことがあるだろうに…
「八校戦では、学年別のトーナメントと学年に関係ないオープントーナメントが行われます。その他にもチーム戦が開催されます」
「チーム戦なんて実施されるんですか。なんだか面白そうですわ」
桜が身を乗り出している。これまでの模擬戦は全て個人戦だったので、パーティーメンバーと一緒フィールドに立てるのが楽しみな様子。
「そこでひとつの問題が発生しました」
「はて、何でしょうか?」
ダンジョンの攻略は順調だし、メンバーの体調やレベルの上昇具合も良好。美鈴が指摘する問題が何を指すのか、桜にはてんで理解が及ばないよう。
「チーム戦ではパーティー名を登録する必要があるんだけど、私たちのパーティーはいまだに名前が決まっていないのよ」
「ああ、確かに。管理事務所に登録する時もパーティー名は空欄のままでしたわ」
思い出したかのような桜の発言。あとから決めようと先延ばしにして、ついついここまで来た結果が現在の事態を招いている。
「パーティーの名称でいいアイデアはないかしら?」
「それは決まっていますわ! 〔天才桜様と脇役のダイコン役者〕がよろしいです」
「「「「却下!」」」」
桜以外の全員の声が揃う。どれだけ自分が目立ちたいのかと呆れた視線が一斉に桜へと向かっている。バカも休み休み言え!
「〔聖坂魔法少女〕がいいですよ~」
「明日香ちゃん、お兄様を魔法少女と言い張るには無理がありそうですよ。しかもどこかのアイドルグループをパクっていますよね?」
「パクっていませんから!」
せっかくの明日香ちゃんの意見も評判は今一つ。そもそも魔法少女がこの場にはひとりもいない。
中々いいアイデアが浮かばずに一同が頭を抱えている。いざこうしてパーティー名を決めるとなると、急に浮かばないもののよう。
「うーん…」
「何かないですかねぇ~」
頭の中身を搾るかの如くに考え込んではみるものの、これといった決め手のあるネーミングが浮かんでこない。だがここで聡史が何の気なしに呟く。
「闇魔法と神聖魔法だからなぁ…」
「お兄様ぁぁぁぁぁ! それですわぁぁぁ! 〔デビル&エンジェル〕でいきましょう」
桜の意見に全員が満更でもないという表情に変わる。ちょっと某格闘ゲームぽいのは勘弁してもらおうか。
「パーティー名として中々いいんじゃないのかしら」
「格好いい名前ですよね」
美鈴とカレンの二人は好感触な表情。聡史もいいんじゃないかという表情で頷いている。更に美鈴とカレンの会話は続く。
「私がデビルでカレンがエンジェルかしら?」
「美鈴さん、最大の悪魔はおそらく桜ちゃんですよ!」
「ああ…」(遠い目)
ここで、コックリコックリ舟を漕ぎ出した明日香ちゃんの額にマジックで「肉」の文字を書こうとしていた桜が、急に自分の名前が呼ばれたことに気が付く。
「美鈴ちゃん、私がどうかしましたか?」
「えっ、全然何でもないから! 気にしないで大丈夫よ」
桜から疑うような視線を向けられているが、美鈴はすっとぼけてなんとか誤魔化そうという態度。桜はなおも疑いの目を向けるが、美鈴は桜に顔を向けないようにしてカレンと適当に話をするフリで必死に追及を躱そうとしている。
そして明日香ちゃんは… パフェを食べ終わってしばらくしてから舟を漕ぎ出したが、ついに力尽きてグースカ寝ている。美鈴のおかげで「肉」の文字が額に描かれることはなかったのだが、この件に関する発言権をすでに全面的に放棄している。
「それじゃあ、私たちのパーティー名は〔デビル&エンジェル〕に決定ね」
「「「賛成!」」」
寝ている明日香ちゃん以外の3人の声が揃って、ついにパーティー名が決定する。
これで終わりではなくて、更に美鈴が話を続ける。
「それからブルーホライズンの6人も八校戦にエントリーされたから、彼女たちにも頑張ってもらわないといけないわね」
「そうなんですか。お兄様、ぜひとも私が直々に鍛え上げましょう」
「いや、俺がトレーニングに当たる。桜は時々協力してくれればいいから」
聡史的には「桜の犠牲者は明日香ちゃんだけでいい」という考えのよう。ブルーホライズンの女子たちを桜の魔の手から守るために聡史が陣頭指揮で訓練に当たると宣言している。だが「美晴だけは桜に預けてもいいかな」と聡史はコッソリ考えている。脳筋は脳筋に任せるのが最も手っ取り早いかもしれないと企む聡史であった。
◇◇◇◇◇
翌日の基礎実習の時間、聡史はブルーホライズンのメンバーの前に立っている。
「この場にいる全員が八校戦のメンバーに選ばれたぞ」
「「「「「「ええぇぇぇぇ! 師匠、本当ですかぁぁ?」」」」」」
全員驚きの声を上げている。殊に千里は学内トーナメント本戦の出場さえ叶わなかった身だったこともあって、1年生の代表として八校戦の舞台に臨むなど夢のまた夢という表情。
「ということで、今日から5階層に降りていくから覚悟を決めろよ。オークとの戦いに慣れれば対人戦など怖くなくなるからな」
「「「「「「はい、師匠! どうぞよろしくお願いします」」」」」」
こうしてブルーホライズンの六人は聡史に率いられてこの日から5階層へ足を踏み込んでいくのであった。
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「おい、聞いたか? 入り口付近に発生した魔法陣であっという間に5階層まで移動できるそうだ」
「俺が耳にしたところによると、どうやら5層刻みで転移可能らしい」
「便利になるよなぁ。今まで各階層を通り抜けないと5階層まで行けなかったのが、これからは直行できるなんて」
最も恩恵を受ける3年生は諸手を挙げての歓迎ぶり。5階層で活動する時間が延びるだけでなくて、活動を終えたらすぐに1階層に戻れるのだから、体力が続く限りギリギリまで粘れるようになったのは言うまでもなく、彼らにとってその恩恵は計り知れない。
だが3年生たちには如何なる理由でダンジョンの構造的な変化が起こったかは知らされてはいない。ダンジョン管理事務所は、聡史たちの20階層到達や階層ボスであるリッチの討伐などをいまだ公表してはいない。
その理由は「あまりに並み外れた聡史たちの活躍が明るみに出るのは好ましくない」という政府の意向が働いているのは言うまでもないだろう。すでに外国政府から聡史たちが狙われているという事実がある限り、今後とも彼らの活躍が表沙汰にされる可能性は限りなく低いと言わざるを得ない。
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9月の間中、聡史たちはダンジョンの6階層と12階層を中心に探索をしている。6階層は桜が契約を結んでいる言わずと知れたオーク肉の納入で日々必要量を確保するために必ず立ち寄るというルーティーンが確立されている。
それから12階層のフィールドエリアであるが、広大なこのエリアを隅々まで探索するのには相当な時間が必要であり、聡史たちは時間をかけて丹念に回っていた。おかげでロングホーンブルの肉の在庫が積み上がっており、その処分のために桜は学生食堂と新たな契約を結ぶに至る。
それだけならまだしも、森に生息している鳥の魔物であるコカトリスも大量に討伐しており、こちらの肉も食堂に納入が開始されている。ダンジョン産の牛肉、豚肉、鶏肉の供給契約がこの時点で成立している。
しかもこのコカトリスの肉には秘密があって、食べるだけでわずかずつではあるが魔力が上昇する効果が確認されており、学生たちの間では奪い合いになる大人気を博している。おかげで桜に舞い込む納入量が日々増加して、コカトリス狩りに追われる日々が何日も続くこととなる。それでもかなり割高の値段で引き取ってもらえるので、パーティーの財政はこの所潤う一方となっている。
◇◇◇◇◇
毎日をダンジョン攻略に明け暮れていた9月はあっという間に過ぎ去って、秋が深まる10月を迎えている。
この時期になると殊更忙しくなるのは生徒会。美鈴は放課後に生徒会室にやってきて重要会議に出席している。
出席者が全員揃ってから、司会を務める生徒会長が本日の案件について説明を開始する。
「本日は3週間後に迫っている八校戦のエントリーメンバーを確定したいと考えている。最大エントリー人数は各学年32名と開催要項で決まっている。我が校から各種目に出場する生徒を補欠も含めてこの場で選出したい」
八校戦の運営全般に関して教員は表立って口を出さずに生徒の自主性に任せられている。したがって、出場選手の選考やエントリー種目の振り分けなどに関して全て生徒会に一任されている。
「それではまずは1年生から32名を選考しよう。副会長、意見はあるかい?」
1年生の選考に関しては美鈴の意見が最も大きな影響を持っている。生徒会長は美鈴が推薦する人物を無条件でエントリー選手に選出しようと考えているようで、彼の求めに応じて美鈴が発言をする。
「まずは模擬戦週間の全学年トーナメント決勝に進んだ特待生の2名は確定と考えております。それから学年トーナメントのベスト4に進出した生徒も絶対に外せません」
ここまでは常識的な範囲の意見なので、美鈴の考えに異論を差し挟む余地はない。
「それから、1年Aクラスの浜川茂樹ですが、模擬戦では1回戦で敗れたとはいえ相手が優勝者でしたからその実力は正当に評価するべきでしょう」
これに関しても、役員の間からは異論は出ない。
それから美鈴はAクラスの格闘系と魔法使いの生徒数人の名を上げる。これもまた順当なメンバーが挙がっているので、誰も異論をはさまない。そして最後に…
「残った6名ですが、Eクラスのブルーホライズンを推薦します。彼女たちならばチーム戦で必ず上位に食い込んでくれるはずです」
「Eクラスの生徒だって! 頼りない気がするけど、大丈夫なのか?」
2年生で書記を務める生徒が声を上げる。Eクラスと聞いて役員の誰もが怪訝な表情を浮かべている。だが副会長が闇雲にEクラスの生徒の名前を上げるはずはないと、役員全員が知っているのもまた事実。
「副会長、そのパーティーを推薦する根拠を教えてもらえるかい?」
「はい、会長。彼女たちは模擬戦の記録上は目立った結果を残してはおりません。6名のうち1名が3回戦まで進んだのみで、残りは1回戦で姿を消しています。ですがそのうち二名はAクラスの上位男子との引き分けで、二名は接戦の末に敗退しました。これだけでも相応の実力を理解していただけると思いますが?」
「うーん、まだ根拠としては弱い気がするな」
「ではさらなる根拠を述べさせていただきます。彼女たちはすでにダンジョンの4階層に到達しておりまして、間もなく5階層を目指しています」
「「「「なんだってぇぇぇ!」」」」
役員全体から驚愕の声が上がる。1年生のこの時期に4階層に到達するなどこれまでの学院の常識を覆すとんでもない偉業なのだから、それも当然だろう。
「9月から魔法使いの生徒が加入して彼女たちのパーティーの陣容が整いました。私たちのパーティーに続くのはブルーホライズン以外には存在しません!」
美鈴の意見に誰も反論できない。4階層の魔物と戦える実力というのは聡史たちを除くと1学年のトップということ。美鈴の意見を黙って聞いていた生徒会長は大きく頷く。
「いいだろう。Eクラスの生徒とはいえ、それだけの実績があるのならエントリー資格は十分だ。ところで副会長、君たちは何階層まで攻略しているのかな?」
「それは秘密です」
おいそれとは明かせない機密に関しては完全黙秘をする美鈴であった。
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「第48回、パーティー会議ぃぃぃ!」
「48回って… 毎日ただのお茶会だったよな」
特待生寮に集まった5人は、いつのもようにリビングのテーブルに着いている。もちろん桜と明日香ちゃんの前には季節の果物が豪華に並んだフルーツパフェが置かれている。
今までの会議は桜が司会を務めていたが、今回の会議は美鈴の申し出によって開催されており、彼女が司会をしている。
「来たるべき八校戦が3週間後に迫ってきました。当然この場にいる全員は参加します」
「桜ちゃん、大阪の甘い物食べ歩きがとっても楽しみですよ~」
「まあまあ、明日香ちゃん。楽しみは先にとっておくのがいいんですよ。ワクワク感が続いた方がその分幸せですからね」
司会の美鈴が口火を切ると、すかさず明日香ちゃんが乗ってくる。今から大阪行きが楽しみでたまらない様子。食べ歩きの機会を心待ちにしている。もっと他に真剣に取り組むべきことがあるだろうに…
「八校戦では、学年別のトーナメントと学年に関係ないオープントーナメントが行われます。その他にもチーム戦が開催されます」
「チーム戦なんて実施されるんですか。なんだか面白そうですわ」
桜が身を乗り出している。これまでの模擬戦は全て個人戦だったので、パーティーメンバーと一緒フィールドに立てるのが楽しみな様子。
「そこでひとつの問題が発生しました」
「はて、何でしょうか?」
ダンジョンの攻略は順調だし、メンバーの体調やレベルの上昇具合も良好。美鈴が指摘する問題が何を指すのか、桜にはてんで理解が及ばないよう。
「チーム戦ではパーティー名を登録する必要があるんだけど、私たちのパーティーはいまだに名前が決まっていないのよ」
「ああ、確かに。管理事務所に登録する時もパーティー名は空欄のままでしたわ」
思い出したかのような桜の発言。あとから決めようと先延ばしにして、ついついここまで来た結果が現在の事態を招いている。
「パーティーの名称でいいアイデアはないかしら?」
「それは決まっていますわ! 〔天才桜様と脇役のダイコン役者〕がよろしいです」
「「「「却下!」」」」
桜以外の全員の声が揃う。どれだけ自分が目立ちたいのかと呆れた視線が一斉に桜へと向かっている。バカも休み休み言え!
「〔聖坂魔法少女〕がいいですよ~」
「明日香ちゃん、お兄様を魔法少女と言い張るには無理がありそうですよ。しかもどこかのアイドルグループをパクっていますよね?」
「パクっていませんから!」
せっかくの明日香ちゃんの意見も評判は今一つ。そもそも魔法少女がこの場にはひとりもいない。
中々いいアイデアが浮かばずに一同が頭を抱えている。いざこうしてパーティー名を決めるとなると、急に浮かばないもののよう。
「うーん…」
「何かないですかねぇ~」
頭の中身を搾るかの如くに考え込んではみるものの、これといった決め手のあるネーミングが浮かんでこない。だがここで聡史が何の気なしに呟く。
「闇魔法と神聖魔法だからなぁ…」
「お兄様ぁぁぁぁぁ! それですわぁぁぁ! 〔デビル&エンジェル〕でいきましょう」
桜の意見に全員が満更でもないという表情に変わる。ちょっと某格闘ゲームぽいのは勘弁してもらおうか。
「パーティー名として中々いいんじゃないのかしら」
「格好いい名前ですよね」
美鈴とカレンの二人は好感触な表情。聡史もいいんじゃないかという表情で頷いている。更に美鈴とカレンの会話は続く。
「私がデビルでカレンがエンジェルかしら?」
「美鈴さん、最大の悪魔はおそらく桜ちゃんですよ!」
「ああ…」(遠い目)
ここで、コックリコックリ舟を漕ぎ出した明日香ちゃんの額にマジックで「肉」の文字を書こうとしていた桜が、急に自分の名前が呼ばれたことに気が付く。
「美鈴ちゃん、私がどうかしましたか?」
「えっ、全然何でもないから! 気にしないで大丈夫よ」
桜から疑うような視線を向けられているが、美鈴はすっとぼけてなんとか誤魔化そうという態度。桜はなおも疑いの目を向けるが、美鈴は桜に顔を向けないようにしてカレンと適当に話をするフリで必死に追及を躱そうとしている。
そして明日香ちゃんは… パフェを食べ終わってしばらくしてから舟を漕ぎ出したが、ついに力尽きてグースカ寝ている。美鈴のおかげで「肉」の文字が額に描かれることはなかったのだが、この件に関する発言権をすでに全面的に放棄している。
「それじゃあ、私たちのパーティー名は〔デビル&エンジェル〕に決定ね」
「「「賛成!」」」
寝ている明日香ちゃん以外の3人の声が揃って、ついにパーティー名が決定する。
これで終わりではなくて、更に美鈴が話を続ける。
「それからブルーホライズンの6人も八校戦にエントリーされたから、彼女たちにも頑張ってもらわないといけないわね」
「そうなんですか。お兄様、ぜひとも私が直々に鍛え上げましょう」
「いや、俺がトレーニングに当たる。桜は時々協力してくれればいいから」
聡史的には「桜の犠牲者は明日香ちゃんだけでいい」という考えのよう。ブルーホライズンの女子たちを桜の魔の手から守るために聡史が陣頭指揮で訓練に当たると宣言している。だが「美晴だけは桜に預けてもいいかな」と聡史はコッソリ考えている。脳筋は脳筋に任せるのが最も手っ取り早いかもしれないと企む聡史であった。
◇◇◇◇◇
翌日の基礎実習の時間、聡史はブルーホライズンのメンバーの前に立っている。
「この場にいる全員が八校戦のメンバーに選ばれたぞ」
「「「「「「ええぇぇぇぇ! 師匠、本当ですかぁぁ?」」」」」」
全員驚きの声を上げている。殊に千里は学内トーナメント本戦の出場さえ叶わなかった身だったこともあって、1年生の代表として八校戦の舞台に臨むなど夢のまた夢という表情。
「ということで、今日から5階層に降りていくから覚悟を決めろよ。オークとの戦いに慣れれば対人戦など怖くなくなるからな」
「「「「「「はい、師匠! どうぞよろしくお願いします」」」」」」
こうしてブルーホライズンの六人は聡史に率いられてこの日から5階層へ足を踏み込んでいくのであった。
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