異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節

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第72話 トーナメント進行中

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 オープントーナメント第8試合には聡史が登場してくる。入場門から姿を現すと、スタンドに陣取るブルーホライズンが声をからして応援を開始。


「師匠! 頑張ってくださ~い!」

「師匠! 期待していますよ~!」

 この程度の黄色い声援を送るのならまだしも、美晴はスタンド席から立ちあがってド派手な大漁旗を大きく左右に振っている。彼女の実家は静岡で漁業を営んでおり、わざわざ聡史の応援のために以前使用していた古い大漁旗を送ってもらっていたらしい。

 スタンドの一角から響き渡るブルーホライズンの歓声と左右に大きくはためいている大漁旗をフィールドから見やっている聡史は思わず苦笑している。


「あいつらの期待に応えないといけないな」

 独り言のようにしてそう呟くと、聡史はスタンドに向かって軽く手を振る。

 そんな聡史に一斉に反応したブルーホライズンは両手を頭上に挙げて手を振り返す。まるで打ち合わせをしていたかのような一糸乱れぬきれいに揃った行動といえよう。さらにその背後では大漁旗がブンブンと勢いを増して左右に振られている。聡史はどれだけ彼女たちに愛されているのだろうか?


「ただいまからオープントーナメント第8試合、第1魔法学院楢崎聡史対第6魔法学院桂義男の対戦を行います」


 入場門から登場した第6魔法学院の桂という選手は近藤勇人に匹敵する巨漢。だがそれだけではない。この選手は昨年のこの大会の決勝で勇人に敗れて、この一年間その借りを返すためだけにひたすら剣の腕を磨いてきた経緯がある。

 相手選手が聡史の姿を見て、大音声で問うてくる。


「おい、なぜこの場に貴様が立っている? 近藤はなぜいないんだ?」

 まるで見下ろされるが如くの高い位置からフィールドに響き渡る声が聡史の耳に届いてくる。その問いに対して「何を聞くまでもないことをわざわざ聞くのだろうか?」と心の中で呟くが、聡史は敢えて表情には出さずにポーカーフェイスのまま。


「俺が学内トーナメントで近藤先輩を破ったからですが何か?」

「そうか… ならば貴様を打ち破ることこそが、俺が近藤を上回っているという証明になるな」

 不敵に笑う桂に対して、聡史は一片たりとも表情を崩さずに静かに開始の合図を待つ。ひとりの人間に勝ちたいと望むこと自体は間違いではない。だがその欲求のみに囚われるのは妄執に繋がる。その意味が理解できるかどうかはわからないが、聡史は相手にひと言だけ短い言葉を残す。


「残念ながら俺は近藤先輩ではない。あの人の代理として見られるのは不本意だ」

「貴様の意見など無用だ! 俺は近藤だけを目指してこの一年をひたすら剣技の向上に費やしてきたんだからな」

 どうやら聡史の思いは伝わらなかったよう。煌々と輝く目を聡史に向けて、ひたすら打倒を誓っているかの態度は改まる気配はない。

 こうしている間に審判からの注意も終わって、両者が睨み合っているまま試合の開始が宣言される。


「オープントーナメント第8試合、開始ぃぃ!」

 その合図が終わるや否や、桂は大上段に剣を振り上げて聡史に襲い掛かってくる。

 ガキーン!

 頭ひとつ高い位置から振り下ろされた剣を聡史は片手で軽々と受け止める。そのまま鍔迫り合いに持ち込むと、聡史はニヤリとして桂に言葉を投げつける。


「近藤先輩のほうが明らかに剣の勢いが勝っているな。その程度の腕では先輩に返り討ちに合うのが関の山だ」

「なんだとぉぉぉぉぉ!」

 桂はさらに大剣を握る両手に力を込めて上から押し潰そうとするが、片手で剣を支えている聡史は微動だにしない。むしろ逆に下から大剣を押し返している。

 
「ほれ、懐がガラ空きだぞ」

 そう言うと片手で大剣を支えたままで聡史は前蹴りを放つ。


「グホッ!」

 防具の上からの蹴りであっても、たったその一撃だけで桂の巨体は後方に吹き飛ばされていく。聡史が放ったパワフルな蹴りは一撃で相手の戦闘力の大半を奪っている。


「ひ、卑怯な… 剣のみで決着をつける試合を小バカにしやがって…」

 手にする剣を杖の代わりにしてようやく立ち上がった桂は聡史の前蹴りをなじるようなセリフを吐くが、このセリフは聡史をカチンとさせる。


「バカはお前だ! 魔物相手に剣のみで決着をつける試合だと説得できるのか?」

「なんだと! そ、それは…」

 聡史の正論に桂はぐうの音も出ないよう。ダンジョンで魔物を倒すために剣の技を磨いているはずなのに、桂にとってはいつの間にか剣技そのものが目的と化していたことにいまさら気付かされたよう。剣はあくまでも魔物を倒すための手段のはずが、近藤勇人に対するライバル意識が高じるあまりに目的と取り違えていることにハッとさせられている。


「お前は近藤先輩の足元にも及ばない人間だ! 背伸びしないで己の器に合わせた生き方をしろ!」

 桂は聡史の突き付けた言葉にガックリと項垂れている。だが思い直したように大剣を両手で握り締めると、体に残っている力を振り絞って立ち上がる。


「どうやら俺が間違っていたようだ。もう近藤のことはどうでもいい! この場は貴様との決着をつけるまでだ!」

「少しはいい目になったな。掛かってこい」

 聡史が指をクイクイと動かすと、再び桂は剣を振り上げて向かってくる。

 だが、気持ちは前を向いてはいても、フラ付く足取りでは聡史の相手にはなるはずもない。

 ズバッ!

 聡史の踏み込みが圧倒的に早くて、手にする剣が横薙ぎに桂の胴に食い込んでいる。


「み、見事だ… 大した腕だ…」

 それだけを言い残すと桂は白目を剥いて意識を手放す。


「勝者、青!」

 これ以上ないほどの完璧な一本に対して審判の判定が下される。これにはもちろんスタンドの一部から黄色い歓声が上がる。


「師匠ぉぉぉ! さすがですぅぅぅ!」

「師匠はやっぱり格好いい!」

 そして黄色い声の背後では、大漁旗がさらに勢いを増してバタバタと振られているのであった。




   ◇◇◇◇◇



 翌日になると、各トーナメントの2回戦がスタートする。第1魔法学院のトップを切って登場したのはカレン。もちろんパワフルな棒術の威力をいかんなく発揮して準決勝進出を決めている。

 カレンに続いて登場したのは明日香ちゃん。入場を待っている間に明日香ちゃんはひとりで何かブツブツ呟いている。


「うう… ますますプロテクターがきつくなってきましたよ~。夕食に出されたデザートが全部悪いんです」

 さすがは明日香ちゃん。食べた自分が悪いのではなくて、無料のデザートがそこに置いてあるのが悪いと見事な責任転嫁をしている。

 それはともかくとして、現在の明日香ちゃんはステータスのレベルが33。カレンの補助魔法を得ているとはいえ、ダンジョンの中層でオーガまで倒しているという実績は1学年トーナメント参加者の中でも群を抜いている。というよりも、魔法学院の全生徒の間に入ってもナンバーワンの実績といえよう。もちろんこの場合は聡史兄妹の二人は例外として勘定している。

 これでもっと精神面で成長してくれたら立派な冒険者になれるのだが、モチベーション維持にはあま~いデザートが欠かせないという致命的な欠陥を明日香ちゃん自身が抱えている。実に困ったものだ…

 とはいえ大阪に来てから無料のデザートに事欠かない明日香ちゃんは、体調とご機嫌に関しては至極上々。唯一の心配事は、すでにレッドゾーンを軽く突破している体重だけ。


「さあて、今日こそは心置きなく負けますよ~」

 すでに学年トーナメントで1勝を挙げているので、明日香ちゃんはノルマを果たしたと考えている。これ以上無駄な試合など1戦もしたくないというのが本音で、この日も朝から負ける気満々で試合時間を迎えている。

 

「ただいまから1学年トーナメント2回戦の第4試合、第1魔法学院二宮明日香対第4魔法学院北村英二の対戦を行います」

 ポッコリと膨らんだお腹を日を追うごとにきつくなってくるプロクターで誤魔化しながら明日香ちゃんが入場してくる。槍を手にしてはいるものの、いつものようにヤル気に欠ける表情。

 対する相手は、1回戦を苦戦しながらも勝ち抜いた第4魔法学院の男子生徒。彼はもちろん明日香ちゃんが1回戦で鮮やかな槍捌きを見せて楽勝した事実を知っている。事前に明日香ちゃんの戦いぶりを見てしまったがゆえに、彼は必要以上に警戒している様子が窺える。明日香ちゃん自身はこれっぽっちも勝つ気などないとも知らずに…

(どう見てもヤル気がない様子だが、俺の油断を誘う作戦に違いないぞ)

 いやいや、実際に明日香ちゃんにはヤル気がないんだから、そのまま見た通りに受け取ればいいだろうと外野は考える。だが実際に試合前の緊張感と1回戦の明日香ちゃんの鮮やかな勝ちっぷりによって彼自身が疑心暗鬼に陥っているので、このような考えに囚われるのも仕方がない。


「第4試合、始めぇぇ!」

 審判の右手が上がって明日香ちゃんの2回戦が開始。

(どんな相手か全然知りませんが、痛くないように負けますよ~)

 どこにも力が入らないユルユルの姿勢で槍を握る明日香ちゃんではあるが、見ようによっては肩の力を抜いてリラックスして試合に臨んでいるようにも映る。この様子を目にした対戦者といえば…

(な、なんだかどこにも気負いがない自然体の極致を見ているようだぞ)

 彼は大きな誤解をしている。格闘術において自然体で臨めるようになるには相応の期間の修練が必要で、明日香ちゃんのレベルでは到底そこまで達してはいない。ただ単に力を抜いて負けようとしているだけだというのに…

 とはいえこんな誤解は無理もない。八校戦という真剣勝負の場で、まさか明日香ちゃんが率先して負けようなどと考えているとは夢にも思わないだろう。そのせいもあってさらに警戒を強めて、迂闊に打ち掛からないようにして防御に徹する姿勢を保っている。

(一体何ですか? そんなに離れた場所で殻に閉じこもっていないで早くガンガン攻撃してきてくださいよ~。こっちは手っ取り早く負けたいんですから)

 防御に徹する相手の様子を見て、明日香ちゃんは早く来てくれと考えている。さらに…

(もう、いつまでそんな所で固まっているんですか! こうなったら軽く槍を振って相手をつり出してみますよ~)

 明日香ちゃんは徐々に接近すると、細かく槍を突き出しながら牽制を開始。この明日香ちゃんの姿を見て相手は慌て始める。

(あっちから前に出てきたぞ! それにしてもなんて素早い槍の動きだ。やはり最初のあの態度は油断を誘う罠だったんだな)

 徐々に接近してくる明日香ちゃんの様子を見た相手はますます防御を固めていく。

(もう! これだけ接近して誘っているんですから早く掛かってきてください! 仕方ないからもうちょっと槍を大きく動かしてワザと隙を作って誘ってみますよ~)

 明日香ちゃんの槍はすでに相手に届きそうな位置まできている。やや大きく動かす槍の先端は何度も相手の剣とぶつかり合う。そして…

 カキーン!

 ひと際強く当たった明日香ちゃんの槍が相手の剣を大きく撥ね飛ばすと、握っていた剣がすっぽ抜けて彼方に飛んでいく。


「ま、まいった!」

 剣を失った相手はそこで勝負を諦めている。勝手に作り上げた明日香ちゃんの虚像に惑わされて自分を見失った結果、何も攻めないうちに明日香ちゃんの軍門に下ってしまったよう。


「ええええええ! な、なんでこの程度で諦めるんですかぁぁぁ!」

 明日香ちゃんとしては、相手が剣を拾って再び試合の再開を待っているつもりだった模様。それが急に相手が「まいった」をしてしまって、完全に梯子を外された格好。


「勝者、青!」

 こうしてまたまた明日香ちゃんは、本人の希望とは裏腹に勝ち残ってしまう。ガックリと項垂れてため息をつきながら控室へとトボトボ戻っていく。そう、それはまるで明日香ちゃんが敗者のように周囲には映っている。


「誰かぁぁぁ! 早く私を負けさせてくださいぃぃぃ!」

 誰もいない控室には、明日香ちゃんの虚しい叫び声だけが響くのであった。



     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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