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第73話 個人戦トーナメント準決勝
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八高戦は3日目を迎えて、個人トーナメントは3回戦が開始されている。
デビル&エンジェルの面々は、トーナメントを順調に勝ち上がって当然のように3回戦に進出。個人戦トーナメントは出場者が16名なので、この対戦が準決勝となる。
その準決勝にトップを切って登場したカレンは圧倒的なパワーで押し切って決勝一番乗りを果たす。もちろんダウンして立ち上がれない対戦者を回復魔法で治癒してから悠々と控室へと戻っていく。
その姿はすでにスタンドで観戦する生徒にもお馴染みの光景となっており、カレンの魔法の存在を実際に目にした彼らは、ゆくゆくはもっと回復魔法が一般的になってダンジョン攻略が優位に進められる未来に希望を抱いているよう。とはいえいまだに回復魔法の使い手はカレンしかいないのが現状となっている。
続いてフィールドに登場したのは明日香ちゃん。派手さと気負いとヤル気はまったく感じられないが、観衆が思わず見惚れてしまうほどの槍捌きでまたまた不本意にも勝ち上がっていく。当然ながらこの準決勝も相手を寄せ付けないままに勝利したのはいうまでもない。
この結果、近接戦闘部門の1学年トーナメントは第1魔法学院同士の戦いとなって9月に行われた模擬戦週間の再現という運びが繰り広げられる。当然ながら前回同様にカレンから明日香ちゃんに真剣勝負の申し出が行われたのは言うまでもない。
かくして決勝戦は、模擬戦週間のリベンジに燃えるカレンとしぶしぶ本気で臨む明日香ちゃんとの対戦となるのであった。
◇◇◇◇◇
1学年トーナメントの魔法部門はどうかというと…
「ただいまから1学年トーナメント準決勝第2試合、第4魔法学院マリア=ブロビッチ対第2魔法学院安藤薫の対戦を行います」
「「「「「「「「「ウオォォォォォォ!」」」」」」」」
スタンドに詰めかけた観衆からは会場全体が揺れるような大歓声が湧き起こる。
1年生の魔法部門のトーナメントでは第1魔法学院の生徒は3回戦までに姿を消している。変わって注目を集めているのは第4魔法学院に留学しているマリア。たった今彼女の試合が開始されている。
「ファイアーボール!」
「防御シールドですぅぅ!」
マリアは、対戦者の魔法が飛んでくる前に体の周りに瞬時に安全地帯を構築して防ぎとめるとすぐに反撃に移る。
「アイスバレットですぅ!」
シールドの小さな穴から指先だけ突き出したマリアの手から無数の氷の弾丸が飛び出して、そのまま一方的に相手を破る。
しゃべり方は何とも頼りないが、マリアの魔法技術は目を見張るものがある。強固なシールドと一帯を制圧して逃げ場をなくす氷魔法で、この大会においても圧倒的な勝利を挙げている。
「これはもう優勝は決まったな」
「攻守ともにまったくスキがないなんて、どうやって攻略するのか思いつかないぞ」
「あんな魔法使いが存在するなんて世界は広いな」
スタンドで観戦している他校の生徒たちは、そのあまりのレベルの高さにため息をついている。中には…
「第1魔法学院の魔法使いとどっちが上なんだ?」
「いい勝負になるんじゃないかな」
マリアと美鈴を比較する生徒の姿がそこら中に見られるのであった。
◇◇◇◇◇
魔法部門のオープントーナメントに関しても、美鈴と並んで注目を集めているのは留学生のフィオレーヌ。彼女の洗練の粋を極めた魔法の数々は美鈴すら上回る豊富な種類を誇っており、魔法属性の宝箱のようにあるゆる属性を思うがままに操る姿はあたかも異世界の賢者や大魔法使いを思わせる。
「オープントーナメントの魔法部門は第1と第4の一騎打ちだな」
「あの二人の間に割り込むのは難しいだろう」
「最近魔法のレベルが一気に上がっている気がするぞ」
「俺たちも新しい術式をドンドン取り入れていかないと置いていかれるな」
マリアの魔法を目撃した生徒と同様にスタンドの生徒たちは世界の広さを実感しているのであった。
◇◇◇◇◇
この日の前日までのオープントーナメント近接戦闘部門でも留学生旋風が吹き荒れている。トーナメントに出場しているマギーが次々に対戦相手を瞬殺していく。
桜と同様に武器を手にすることなく徒手空拳で戦う姿は一片の芸術を思わせる華麗にして力強い動きを感じさせる。
「留学生は揃いも揃ってヤバい連中だな」
「レベルが高すぎて、俺たちじゃ相手にもならないだろう」
「第1魔法学院の双子とどっちが強いんだ?」
「そんなのわかるはずないだろうが! どっちもレベルが違いすぎて俺たちでは判別なんかつかないんだよ」
どうやらスタンドで見ている生徒の大半は予想すらも不可能と匙を投げているようであった。
◇◇◇◇◇
午前中に学年別トーナメントの準決勝が終了すると、午後からは近接戦闘部門のオープントーナメント準決勝が開始される。
ちなみに第1魔法学院ですでに何名か決勝進出者が決まっており、その名前を以下に挙げておく。
近接戦闘部門1年生トーナメント…… 二宮明日香、神崎カレン
近接戦闘部門3年生トーナメント…… 近藤勇人
魔法部門3年生トーナメント …… 有栖川鳴海
魔法部門オープントーナメント …… 西川美鈴
第1魔法学院では1年生と3年生が活躍を見せているが、2年生はやや劣勢の感が否めない。間に挟まれた谷間の世代というのはどこにもある話だから、部分的にこのような現象が起きるのはいた仕方がないのかもしれない。
そしてこれから行われる近接戦闘部門準決勝で第1魔法学院6人目の決勝進出者が決定する。なぜかといえば準決勝の第2試合は兄妹の対戦となっているから。
八高戦のトーナメントは全種目シード枠は設けておらず、すべて純粋なクジ引きで決定される。場合によっては初戦から同一校同士の対戦もあり得る。運も実力のうちという観点から、このような制度が運営委員会で決定されている。
準決勝第1試合では、大方の予想通りマギーが圧勝して決勝進出を早々と決定する。勝ち進んだマギーと対戦するのは兄か妹か… この点に大きな注目が集まっているのは言うまでもない。
「ただいまから近接戦闘部門オープントーナメント準決勝第2試合、第1魔法学院楢崎聡史対第1魔法学院楢崎桜の対戦を行います」
「「「「「「「「「ウオォォォォォォ!」」」」」」」」
スタンド全体が揺れるような大歓声が湧き起こる。青い入場門から桜が、赤い入場門から聡史がフィールドに入場してくる。
ここまで兄妹は当初の打ち合わせ通りに実力をひた隠しにして模擬戦を勝ち抜いてきている。一見その戦い振りは地味に映るが、他の生徒を圧倒し続けているのは誰の目にも明らか。
「お兄様、この場でどちらが上か白黒つけて差し上げますわ」
「桜、ずいぶん大きく出たな。勝ち残るのは強いほうだぞ」
開始線上では自信に満ちた両者の舌戦が開始されている。兄妹双方にはひとカケラも譲る気はなさそう。そして…
「準決勝、開始ぃぃ!」
審判の手が掲げられて、いよいよ八高戦の待ちに待ったメインイベントが開始。
「お兄様、ご覚悟を」
瞬時に桜が加速を開始する。誰の目にも捉え切れない速度で聡史に接近すると挨拶代わりの1発を放つ。真正面からの強烈なストレートが聡史に向かって空気を切り裂いていく。
「甘い!」
だが聡史は桜のパンチ速度に負けない素早さで巧みに体を開いて直撃を避けると、その体に向けて手にする剣を振り下ろしていく。
当然桜はこのような反撃が来ることなど最初から予測済み。これまた瞬時にサイドステップで剣の軌道の範囲から外れると、再び聡史の側方からフック気味のパンチを繰り出していく。さらに聡史の剣がパンチの軌道を見切って薙ぎ払いに出てくると見るや、桜は一歩退いて剣が通り過ぎてから再び聡史に向かって踏み込んでいく。
「そう来ると思っていたぜ」
剣を戻しても間に合わないとみるや、聡史は突っ込んでくる桜に向かって前蹴りを放つ。桜のストレートと聡史の蹴りがフィールドの中央でぶつかり合う。
ドッパーーーン!
生身の肉体同士が放ったとは思えない破裂音が会場全体に広がる。パンチと蹴りの勢いで圧縮された空気同士の波紋が合成された結果、巨大な疑似的爆発音が発生したらしい。当初は聡史と桜の間には爆発と衝撃波禁止という申し合わせがあったのだが、まさか圧縮された空気の波紋が合成されて爆発音を轟かせる事態はさすがに予想外。
だが会場は…
「これだぁぁぁ! この派手なブッ放し合いを待っていたんだぁぁぁ!」
「盛り上がってきたぞぉぉぉ!」
どうやら模擬戦週間での聡史と桜の戦い振りは、八校戦参加生徒の間ではかなり噂が広まっているよう。誰もがこの派手な爆発を期待しているのは言うまでもない。
聡史と桜にもこの会場の盛り上がりは伝わっているが、今回はフィールドの周囲に結界を展開していないので、これ以上技をヒートアップさせるわけにはいかない。互いの間で相殺される規模の衝撃波で何とか留めて、被害が周辺に及ばないようにする点に気を使わないとならないので、技の威力を抑えるのもなかなか骨が折れると言った具合。
だがフィールド上での二人はスタンドから見る限りは目にも留まらぬ速さで動き回っては、外野からはよくわからない攻撃を打ち合っている。そのたびに派手な破裂音が響き渡るので、スタンドの生徒たちはまるでアトラクションを見ているかの如くに楽しんでいる。対戦している二人が威力を懸命に抑えている苦労など全く知らないままに…
そしてついに両者の対戦は決着を迎える。模擬戦週間ではジャンケンという締まりのない方法であったが、今回こそはもっとキッチリした決着をつけてもらいたい。
「フフフ、お兄様も中々やりますわね」
「妹の後塵を拝してばかりでは兄としての面目が立たないからな」
「その面目を跡形もなく叩き潰して差し上げますわ」
「潰せるものなら潰してみるんだな。兄としてのプライドを賭けてやるぞ」
開始線付近で睨み合う兄妹はいよいよ最後の決着に向かって突き進んでいく覚悟を決める。
「参りますわ」
「行くぞ」
両者が一気に間合いを詰めると、フィールドの中央で重心を低くして構える。
「「せーのっ! ジャンケンポン!」」
桜がグーで聡史がチョキ。
「あっち向いてホイっ!」
桜が左を指さして聡史は下を向く。一度では決着がつかずに、再度ジャンケンを開始する二人。
「「せーのっ! ジャンケンポン!」」
桜がパーで聡史はチョキ…
「あっち向いてホイっ!」
聡史は右を指さすが、桜は上を向いている。
こうして決着がつかずに3回目が始まる。だがここから先は、あっち向いてホイの常識を覆す恐るべき対戦がスタートする。漫画のような話ではあるが、超次元あっち向いてホイをスタンドの観衆は目撃ことになる。
3回目のジャンケンで勝った桜はありとあらゆるフェイントを用いて、最後には聡史の顔面を殴りつけるように右を示す。むしろ完全に聡史の顔面を狙っていたのかもしれない。
だが聡史は、桜の最後の腕全体の動きを見極めて体を沈めながら飛んでくるフックのような強烈な指先を避けている。桜の右手が通った跡には一陣の猛烈な強風が吹き抜けていく。
「さすがはお兄様ですわね。次こそは打ち取って見せますわ」
「今度は俺が勝つ番だからな」
こうして4回目が始まる。今度は聡史がジャンケンで勝つ。
聡史は剣を握りながら桜と同様にありとあらゆるフェイントを掛けながら目にも留まらぬ速さで剣を振りぬく。剣を握る右手の人差し指が一本だけ立っているので、これでもれっきとしたあっち向いてホイだと主張するのだろう。
「あっち向いてホイッ!」
だが桜も聡史の動きなど完全に見切っている。身を屈めて剣を軽く避けると不敵な笑みを浮かべている。
「そのような甘い攻撃では私を引っ掛けることなど不可能ですわ」
「クソッ! 裏をかいたつもりだったのに」
そしてついに迎えた5回目、今度はジャンケンで桜が勝利。
「お兄様、参りますわ。あっち向いてホイッ」
様々なフェイントを掛けたのちに、桜は右手を振るうフリをして最後の最後に左手をフック気味に振るっていく。
「しまったぁぁぁぁ!」
見事に桜のフェイントに引っかかった聡史は、その顔面にまともに桜のパンチを食らってフィールドの30メートル先まで吹き飛んでから3回バウンドして倒れる。濛々とした土煙の中で地面に這いつくばる聡史が姿がある。
スタンドで見ている観衆からは果たして大丈夫なのかと息を飲んで見つめているが、聡史はピクリとも動かない。
「い、今、お兄さんは桜ちゃんのパンチをまともに食らいましたよ~」
「だ、大丈夫なのかしら? まさか死んでいないわよね」
明日香ちゃんと美鈴が不安げな表情を向けている中で、カレンはすでに席から立ち上がっている。
「わ、私が回復魔法で聡史さんを助けてきます!」
今にもカレンはスタンドの最前列からフィールドの飛び込もうという勢い。だが、その時…
「いや~、久しぶりに桜のパンチを食らったけど、効いたな~。今回も俺の負けか~… これで4連敗だよ」
ムクっと起き上がった聡史は頭を掻きながら何事もない表情で立ち上がる。その表情からして、大したダメージを負ってはいないよう。
「勝者、青?」
審判の右手が上がってこの試合の勝敗が決する。だが審判自身「こんな形で試合が決まっていいのか?」という表情をしている。とはいえ聡史本人が負けを認めているのだから、他に判定の出しようがなかったのであろう。
色々と納得しかねる部分はあるものの、準決勝の勝敗はこれで決する。これ以上派手にやらかすとスタンドで観戦している生徒たちに被害が及びかねないのだから仕方がない。その結果として決勝に進出したのは桜で、先の試合で勝利したマギーとの対戦が決定する。
ただしあれだけ盛り上がっていたスタンドでは、今一つ締まらない決着に微妙な雰囲気が漂うのは否めなかった。
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デビル&エンジェルの面々は、トーナメントを順調に勝ち上がって当然のように3回戦に進出。個人戦トーナメントは出場者が16名なので、この対戦が準決勝となる。
その準決勝にトップを切って登場したカレンは圧倒的なパワーで押し切って決勝一番乗りを果たす。もちろんダウンして立ち上がれない対戦者を回復魔法で治癒してから悠々と控室へと戻っていく。
その姿はすでにスタンドで観戦する生徒にもお馴染みの光景となっており、カレンの魔法の存在を実際に目にした彼らは、ゆくゆくはもっと回復魔法が一般的になってダンジョン攻略が優位に進められる未来に希望を抱いているよう。とはいえいまだに回復魔法の使い手はカレンしかいないのが現状となっている。
続いてフィールドに登場したのは明日香ちゃん。派手さと気負いとヤル気はまったく感じられないが、観衆が思わず見惚れてしまうほどの槍捌きでまたまた不本意にも勝ち上がっていく。当然ながらこの準決勝も相手を寄せ付けないままに勝利したのはいうまでもない。
この結果、近接戦闘部門の1学年トーナメントは第1魔法学院同士の戦いとなって9月に行われた模擬戦週間の再現という運びが繰り広げられる。当然ながら前回同様にカレンから明日香ちゃんに真剣勝負の申し出が行われたのは言うまでもない。
かくして決勝戦は、模擬戦週間のリベンジに燃えるカレンとしぶしぶ本気で臨む明日香ちゃんとの対戦となるのであった。
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1学年トーナメントの魔法部門はどうかというと…
「ただいまから1学年トーナメント準決勝第2試合、第4魔法学院マリア=ブロビッチ対第2魔法学院安藤薫の対戦を行います」
「「「「「「「「「ウオォォォォォォ!」」」」」」」」
スタンドに詰めかけた観衆からは会場全体が揺れるような大歓声が湧き起こる。
1年生の魔法部門のトーナメントでは第1魔法学院の生徒は3回戦までに姿を消している。変わって注目を集めているのは第4魔法学院に留学しているマリア。たった今彼女の試合が開始されている。
「ファイアーボール!」
「防御シールドですぅぅ!」
マリアは、対戦者の魔法が飛んでくる前に体の周りに瞬時に安全地帯を構築して防ぎとめるとすぐに反撃に移る。
「アイスバレットですぅ!」
シールドの小さな穴から指先だけ突き出したマリアの手から無数の氷の弾丸が飛び出して、そのまま一方的に相手を破る。
しゃべり方は何とも頼りないが、マリアの魔法技術は目を見張るものがある。強固なシールドと一帯を制圧して逃げ場をなくす氷魔法で、この大会においても圧倒的な勝利を挙げている。
「これはもう優勝は決まったな」
「攻守ともにまったくスキがないなんて、どうやって攻略するのか思いつかないぞ」
「あんな魔法使いが存在するなんて世界は広いな」
スタンドで観戦している他校の生徒たちは、そのあまりのレベルの高さにため息をついている。中には…
「第1魔法学院の魔法使いとどっちが上なんだ?」
「いい勝負になるんじゃないかな」
マリアと美鈴を比較する生徒の姿がそこら中に見られるのであった。
◇◇◇◇◇
魔法部門のオープントーナメントに関しても、美鈴と並んで注目を集めているのは留学生のフィオレーヌ。彼女の洗練の粋を極めた魔法の数々は美鈴すら上回る豊富な種類を誇っており、魔法属性の宝箱のようにあるゆる属性を思うがままに操る姿はあたかも異世界の賢者や大魔法使いを思わせる。
「オープントーナメントの魔法部門は第1と第4の一騎打ちだな」
「あの二人の間に割り込むのは難しいだろう」
「最近魔法のレベルが一気に上がっている気がするぞ」
「俺たちも新しい術式をドンドン取り入れていかないと置いていかれるな」
マリアの魔法を目撃した生徒と同様にスタンドの生徒たちは世界の広さを実感しているのであった。
◇◇◇◇◇
この日の前日までのオープントーナメント近接戦闘部門でも留学生旋風が吹き荒れている。トーナメントに出場しているマギーが次々に対戦相手を瞬殺していく。
桜と同様に武器を手にすることなく徒手空拳で戦う姿は一片の芸術を思わせる華麗にして力強い動きを感じさせる。
「留学生は揃いも揃ってヤバい連中だな」
「レベルが高すぎて、俺たちじゃ相手にもならないだろう」
「第1魔法学院の双子とどっちが強いんだ?」
「そんなのわかるはずないだろうが! どっちもレベルが違いすぎて俺たちでは判別なんかつかないんだよ」
どうやらスタンドで見ている生徒の大半は予想すらも不可能と匙を投げているようであった。
◇◇◇◇◇
午前中に学年別トーナメントの準決勝が終了すると、午後からは近接戦闘部門のオープントーナメント準決勝が開始される。
ちなみに第1魔法学院ですでに何名か決勝進出者が決まっており、その名前を以下に挙げておく。
近接戦闘部門1年生トーナメント…… 二宮明日香、神崎カレン
近接戦闘部門3年生トーナメント…… 近藤勇人
魔法部門3年生トーナメント …… 有栖川鳴海
魔法部門オープントーナメント …… 西川美鈴
第1魔法学院では1年生と3年生が活躍を見せているが、2年生はやや劣勢の感が否めない。間に挟まれた谷間の世代というのはどこにもある話だから、部分的にこのような現象が起きるのはいた仕方がないのかもしれない。
そしてこれから行われる近接戦闘部門準決勝で第1魔法学院6人目の決勝進出者が決定する。なぜかといえば準決勝の第2試合は兄妹の対戦となっているから。
八高戦のトーナメントは全種目シード枠は設けておらず、すべて純粋なクジ引きで決定される。場合によっては初戦から同一校同士の対戦もあり得る。運も実力のうちという観点から、このような制度が運営委員会で決定されている。
準決勝第1試合では、大方の予想通りマギーが圧勝して決勝進出を早々と決定する。勝ち進んだマギーと対戦するのは兄か妹か… この点に大きな注目が集まっているのは言うまでもない。
「ただいまから近接戦闘部門オープントーナメント準決勝第2試合、第1魔法学院楢崎聡史対第1魔法学院楢崎桜の対戦を行います」
「「「「「「「「「ウオォォォォォォ!」」」」」」」」
スタンド全体が揺れるような大歓声が湧き起こる。青い入場門から桜が、赤い入場門から聡史がフィールドに入場してくる。
ここまで兄妹は当初の打ち合わせ通りに実力をひた隠しにして模擬戦を勝ち抜いてきている。一見その戦い振りは地味に映るが、他の生徒を圧倒し続けているのは誰の目にも明らか。
「お兄様、この場でどちらが上か白黒つけて差し上げますわ」
「桜、ずいぶん大きく出たな。勝ち残るのは強いほうだぞ」
開始線上では自信に満ちた両者の舌戦が開始されている。兄妹双方にはひとカケラも譲る気はなさそう。そして…
「準決勝、開始ぃぃ!」
審判の手が掲げられて、いよいよ八高戦の待ちに待ったメインイベントが開始。
「お兄様、ご覚悟を」
瞬時に桜が加速を開始する。誰の目にも捉え切れない速度で聡史に接近すると挨拶代わりの1発を放つ。真正面からの強烈なストレートが聡史に向かって空気を切り裂いていく。
「甘い!」
だが聡史は桜のパンチ速度に負けない素早さで巧みに体を開いて直撃を避けると、その体に向けて手にする剣を振り下ろしていく。
当然桜はこのような反撃が来ることなど最初から予測済み。これまた瞬時にサイドステップで剣の軌道の範囲から外れると、再び聡史の側方からフック気味のパンチを繰り出していく。さらに聡史の剣がパンチの軌道を見切って薙ぎ払いに出てくると見るや、桜は一歩退いて剣が通り過ぎてから再び聡史に向かって踏み込んでいく。
「そう来ると思っていたぜ」
剣を戻しても間に合わないとみるや、聡史は突っ込んでくる桜に向かって前蹴りを放つ。桜のストレートと聡史の蹴りがフィールドの中央でぶつかり合う。
ドッパーーーン!
生身の肉体同士が放ったとは思えない破裂音が会場全体に広がる。パンチと蹴りの勢いで圧縮された空気同士の波紋が合成された結果、巨大な疑似的爆発音が発生したらしい。当初は聡史と桜の間には爆発と衝撃波禁止という申し合わせがあったのだが、まさか圧縮された空気の波紋が合成されて爆発音を轟かせる事態はさすがに予想外。
だが会場は…
「これだぁぁぁ! この派手なブッ放し合いを待っていたんだぁぁぁ!」
「盛り上がってきたぞぉぉぉ!」
どうやら模擬戦週間での聡史と桜の戦い振りは、八校戦参加生徒の間ではかなり噂が広まっているよう。誰もがこの派手な爆発を期待しているのは言うまでもない。
聡史と桜にもこの会場の盛り上がりは伝わっているが、今回はフィールドの周囲に結界を展開していないので、これ以上技をヒートアップさせるわけにはいかない。互いの間で相殺される規模の衝撃波で何とか留めて、被害が周辺に及ばないようにする点に気を使わないとならないので、技の威力を抑えるのもなかなか骨が折れると言った具合。
だがフィールド上での二人はスタンドから見る限りは目にも留まらぬ速さで動き回っては、外野からはよくわからない攻撃を打ち合っている。そのたびに派手な破裂音が響き渡るので、スタンドの生徒たちはまるでアトラクションを見ているかの如くに楽しんでいる。対戦している二人が威力を懸命に抑えている苦労など全く知らないままに…
そしてついに両者の対戦は決着を迎える。模擬戦週間ではジャンケンという締まりのない方法であったが、今回こそはもっとキッチリした決着をつけてもらいたい。
「フフフ、お兄様も中々やりますわね」
「妹の後塵を拝してばかりでは兄としての面目が立たないからな」
「その面目を跡形もなく叩き潰して差し上げますわ」
「潰せるものなら潰してみるんだな。兄としてのプライドを賭けてやるぞ」
開始線付近で睨み合う兄妹はいよいよ最後の決着に向かって突き進んでいく覚悟を決める。
「参りますわ」
「行くぞ」
両者が一気に間合いを詰めると、フィールドの中央で重心を低くして構える。
「「せーのっ! ジャンケンポン!」」
桜がグーで聡史がチョキ。
「あっち向いてホイっ!」
桜が左を指さして聡史は下を向く。一度では決着がつかずに、再度ジャンケンを開始する二人。
「「せーのっ! ジャンケンポン!」」
桜がパーで聡史はチョキ…
「あっち向いてホイっ!」
聡史は右を指さすが、桜は上を向いている。
こうして決着がつかずに3回目が始まる。だがここから先は、あっち向いてホイの常識を覆す恐るべき対戦がスタートする。漫画のような話ではあるが、超次元あっち向いてホイをスタンドの観衆は目撃ことになる。
3回目のジャンケンで勝った桜はありとあらゆるフェイントを用いて、最後には聡史の顔面を殴りつけるように右を示す。むしろ完全に聡史の顔面を狙っていたのかもしれない。
だが聡史は、桜の最後の腕全体の動きを見極めて体を沈めながら飛んでくるフックのような強烈な指先を避けている。桜の右手が通った跡には一陣の猛烈な強風が吹き抜けていく。
「さすがはお兄様ですわね。次こそは打ち取って見せますわ」
「今度は俺が勝つ番だからな」
こうして4回目が始まる。今度は聡史がジャンケンで勝つ。
聡史は剣を握りながら桜と同様にありとあらゆるフェイントを掛けながら目にも留まらぬ速さで剣を振りぬく。剣を握る右手の人差し指が一本だけ立っているので、これでもれっきとしたあっち向いてホイだと主張するのだろう。
「あっち向いてホイッ!」
だが桜も聡史の動きなど完全に見切っている。身を屈めて剣を軽く避けると不敵な笑みを浮かべている。
「そのような甘い攻撃では私を引っ掛けることなど不可能ですわ」
「クソッ! 裏をかいたつもりだったのに」
そしてついに迎えた5回目、今度はジャンケンで桜が勝利。
「お兄様、参りますわ。あっち向いてホイッ」
様々なフェイントを掛けたのちに、桜は右手を振るうフリをして最後の最後に左手をフック気味に振るっていく。
「しまったぁぁぁぁ!」
見事に桜のフェイントに引っかかった聡史は、その顔面にまともに桜のパンチを食らってフィールドの30メートル先まで吹き飛んでから3回バウンドして倒れる。濛々とした土煙の中で地面に這いつくばる聡史が姿がある。
スタンドで見ている観衆からは果たして大丈夫なのかと息を飲んで見つめているが、聡史はピクリとも動かない。
「い、今、お兄さんは桜ちゃんのパンチをまともに食らいましたよ~」
「だ、大丈夫なのかしら? まさか死んでいないわよね」
明日香ちゃんと美鈴が不安げな表情を向けている中で、カレンはすでに席から立ち上がっている。
「わ、私が回復魔法で聡史さんを助けてきます!」
今にもカレンはスタンドの最前列からフィールドの飛び込もうという勢い。だが、その時…
「いや~、久しぶりに桜のパンチを食らったけど、効いたな~。今回も俺の負けか~… これで4連敗だよ」
ムクっと起き上がった聡史は頭を掻きながら何事もない表情で立ち上がる。その表情からして、大したダメージを負ってはいないよう。
「勝者、青?」
審判の右手が上がってこの試合の勝敗が決する。だが審判自身「こんな形で試合が決まっていいのか?」という表情をしている。とはいえ聡史本人が負けを認めているのだから、他に判定の出しようがなかったのであろう。
色々と納得しかねる部分はあるものの、準決勝の勝敗はこれで決する。これ以上派手にやらかすとスタンドで観戦している生徒たちに被害が及びかねないのだから仕方がない。その結果として決勝に進出したのは桜で、先の試合で勝利したマギーとの対戦が決定する。
ただしあれだけ盛り上がっていたスタンドでは、今一つ締まらない決着に微妙な雰囲気が漂うのは否めなかった。
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うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
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5/6_18:00完結!
迷宮アドバイザーと歩む現代ダンジョン探索記~ブラック会社を辞めた俺だが可愛い後輩や美人元上司と共にハクスラに勤しんでます
秋月静流
ファンタジー
俺、臥龍臼汰(27歳・独身)はある日自宅の裏山に突如できた洞窟を見つける。
語り掛けてきたアドバイザーとやらが言うにはそこは何とダンジョン!?
で、探索の報酬としてどんな望みも叶えてくれるらしい。
ならば俺の願いは決まっている。
よくある強力無比なスキルや魔法? 使い切れぬ莫大な財産?
否! 俺が望んだのは「君の様なアドバイザーにず~~~~~っとサポートして欲しい!」という願望。
万全なサポートを受けながらダンジョン探索にのめり込む日々だったのだが…何故か元居た会社の後輩や上司が訪ねて来て…
チート風味の現代ダンジョン探索記。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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