異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節

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第80話 チーム戦トーナメント

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 ここで八校戦の仕組みについて詳しく述べておくこととする。

 トーナメント上位進出者については、個人戦チーム戦共にベスト4以上の選手に関して個人及びチーム表彰が行われる。

 これとは別に、学校対抗の総合優勝争いが繰り広げられている。個人戦とチーム戦の上位に進出した生徒が所属する学校に所定のポイントが与えられて、その合計で総合優勝が決定する。

 そのポイントの振り分けであるが、個人戦の学年トーナメント優勝者には50点、準優勝者には30点、ベスト4進出者には10点が与えられている。

 オープントーナメントはポイントが2倍となっており、優勝者には100点、準優勝者には60点、ベスト4進出者には20点となる。

 チーム戦のポイントはすべて個人戦の2倍となっており、学年トーナメント優勝チームには100点、準優勝チームには60点、ベスト4進出チームには20点で、オープントーナメントに関してはさらに2倍となる。つまりオープントーナメント優勝チームには200点、準優勝チームには120点、ベスト4進出チームには40点が与えられる。


 個人戦終了時点での学校別得点争いでは第1魔法学院が420点でトップに立っており、2位の第4魔法学院が250点で追いかける展開。チーム戦の結果如何ではまだまだ逆転の可能性を残しているだけに、両校の争いの行方がどうなるか興味は尽きない。

 残念ながら3位以下の学校に関しては、オープントーナメントと学年種目を一つないしは二つ制した上で第1魔法学院と第4魔法学院の得点如何という状況なので、実質的に総合優勝争いには手が届かないと見做されている。

 なにしろ第1魔法学院と第4魔法学院が用意するであろうオープントーナメントに出てくるチームがあまりにも規格外すぎる。どちらか片方を破るのでも骨が折れるところにもってきて、両方を破らないことには優勝が見えてこないという、他校にとっては茨の道よりももっと険しい地獄のロードマップとなっている。


 さらにチーム戦について詳しく述べると、月曜日から水曜日までの3日間で学年別トーナメントを全て終える。この成績が出揃ったところで、オープントーナメントの組み合わせ抽選が行われて、木曜日に準決勝戦まで終えてから、最終日の金曜日にファイナルマッチとして決勝戦が行われるスケジュールとなっている。


 さて第3訓練場では、午前9時からすでに1年生の学年別トーナメントが幕を開けている。八校を代表する16チームが優勝の栄誉を巡って早くも第1試合から熱戦が繰り広げられる。

 チーム戦のルールは個人戦よりも二回り広いフィールドで1チーム5人以内で戦う規則となっており、各チームはあらかじめ一人だけリーダーを決定しておく。リーダーは陣地と呼ばれる5メートル×10メートルの台の上に乗っていて、この台から地面に落とされるか若しくはリーダーが戦闘不能に陥ったらそこで勝敗が決する。

 使用するのは武器でも魔法でも可能で、非致死性の攻撃であれば戦術に応じて柔軟に双方を使い分けて構わない。

 いかにリーダーを守りながら相手のリーダーを討ち取るかという、戦術とチームワークが試される試合となっている。


 このトーナメント第2試合で、早くも第1魔法学院の代表である〔勇者〕浜川茂樹が率いるパーティーが登場する。


「このトーナメントで何としてでもいい成績を残すんだ!」

 個人戦に出られなかった茂樹はもとより、他のチームメンバーも個人戦では目立った成績を残せなかっただけに、この戦いに懸ける意気込みは並大抵ではない。

 茂樹が率いるパーティー〔栄光の暁〕はメンバーの4人がレベル13~14でリーダーの茂樹のみがレベル17という、いわば勇者によるワンマンチームと言って差し支えない。

 その栄光の暁は試合が始まる前に簡単な打ち合わせを行っている。とはいってもほとんど茂樹が一人で作戦を決定してそれをパーティーメンバーに伝えるだけの、お世辞にも打ち合わせとは呼べない単なる伝達。


「リーダーは和也が務めてくれ。誠と宗司が和也を守るんだ。俺と健次が敵陣に突っ込んでいくから、相手の人数が減ったところで誠と宗司はタイミングを計って攻めに転じてもらいたい」

「わかったぞ」

「よし、その作戦でいこう」

 こうしてパーティーメンバー全員が頷くと、彼らは控室で装備を整え始める。そのまましばらく待ってから入場門の手前に整列。茂樹は今大会初めての出場になるので、やや緊張しているのかその表情は硬く映る。

 入場が終わると、審判の合図でいよいよ試合が始まる。栄光の暁に対するのは地元である第5魔法学院の1年生チームとなっている。


「いくぞぉぉぉ!」

 雄叫びのような掛け声を上げると、茂樹は敵陣に向かって一直線に突っ込んでいく。茂樹の援護で付き従う健次とともに、真っ向から相手の防衛ラインを強引に破ろうと剣を振るいながら進んでいく。

 だが茂樹が力任せに突進してくるであろうと第5魔法学院のチームもある程度予測を立てていたよう。茂樹たちを止めようとして前衛の3人が彼を取り囲むように立ちはだかる。

 2対3で前衛同士が乱戦に陥るとみるや、栄光の暁の後方に控えている誠が前に出ようとする。だがそこに、第5魔法学院の魔法使いが放ったファイアーボールが飛来。


「おっと、危ない!」

 慌てて誠がファイアーボールを避けると、彼の前進を阻もうとして繰り返しファイアーボールが放たれてくる。もちろんファイアーボールは誠のそばにいる宗司も狙ってくるので、彼らはその場に釘付けという状況。

 第5魔法学院は組み合わせが発表されてからチームとしての戦術をよく考えていたよう。殊に陣地に立っているリーダーが声を枯らして指示を出している。本来のリーダーが血気に早やって敵陣に攻め込んでしまった第1魔法学院チームが指示役を欠いて機能不全に陥っているのとは好対照。

 
「いいぞ、ノボル! その調子で相手の動きを止めるんだ」

「オーケー! 翔也も手伝ってくれよ」

「任せろ!」

 ノボルという名の第5魔法学院の魔法使いだけではなくて、リーダーまでがファイアーボールを撃ち始めて栄光の暁の後方にいる二人を牽制し始める。

 援軍が来ないままに茂樹は懸命に剣を振るうが、彼我のレベル差は数の不利を埋め合わせるのには不十分。今頃になって相手の戦力分析もしないままに無謀な突進を選択したことを茂樹は心の中で後悔している。1回戦だから大した相手ではないだろうと自分の実力を過信した結果がこの現状といえる。


「グアァァァァ!」

 背中から剣の一撃を叩き込まれた建次が倒れて戦闘不能となる。状況はさらに悪化して茂樹一人を第5魔法学院の剣士三人が取り囲んでフルボッコ状態が始まる。


「クソォォォォォ!」

 叫び声をあげて自らを鼓舞する茂樹だが、彼の技量ではまとめて三人を相手にするのは無理があるよう。勇者としてのプライドゆえに絶対にここでは引けない茂樹。だが次第に彼は追い詰められていく。

 三方向から振り下ろされる剣を懸命にしのいでいる茂樹だが、思うように試合が進まない苛立ちが高じて頭に血が上って冷静さを欠いていく。そしてついに彼は一発逆転を狙ってとんでもない暴挙に出る。


「ホーリーアロー!」

 敵のリーダーが立っている陣地に向かって直撃すれば命すら危ぶまれる威力が高い神聖魔法を放ってしまっている。

 ドガガガーン!

 ホーリーアローの直撃を受けた第5魔法学院の陣地は轟音と閃光に包まれる。光と煙がやむと、完全に破壊された陣地とそこに倒れこんでピクリとも動かない相手リーダーの姿がある。


「試合中断! 救護ぉぉ!」

 審判が慌てて試合を止めて担架を抱えた救護係が飛び出してくる。あまりの惨状に会場は水を打ったような静けさに包まれる。

 その中で一人だけフェンスを乗り越えてフィールドに飛び出していく影がある。その姿こそ第1魔法学院の制服に身を包みブロンドのロングヘアが眩しく映るカレン。


「容体はどうですか? 私の回復魔法を役立ててください!」

 担架に乗せられた第5魔法学院のリーダーは重篤ではあるものの辛うじて息が残っている。だがこのままでは病院に搬送する間にも心臓の鼓動が止まりそうな危険な状況。


「何とかなるのか?!」

「ベストを尽くします」

 それだけ言うとカレンは口を真一文字に結んで一旦精神を集中する。レベルが30を超えたおかげで、従来よりも上級の回復魔法を用いることが可能となっているのがこの場では心強い。


「ハイ・ヒール」

 カレンの手から勢いよく純白の光が放出されるとリーダーの体全体を優しく包み込む。頭と手足から流れている出血はあっという間に止まって、呼吸と心臓の鼓動が規則正しさを取り戻していく。

 相当量の血を流したため顔色は青白いままだが、その表情は見るからに落ち着いたものへと変わる。


「これで容体は安定したと思います。私も同行しますからこのまま病院へ」

「すまない、助かった」

 偶然にも救護を担当しているのは意識を失っている生徒のクラス担任。目の前で自らのクラスの生徒が一歩間違うと命を落とす危機を迎えていただけに、カレンに対して大きな感謝の気持ちを胸にしながらも短い言葉を残してひとまずは救護所へ急ぐ。カレンもその後に続いて救護所へと向かって姿を消していく。


「よかった… 一時はどうなるかと思った」

「奇跡だな」

「人間一人の命を救うなんて天使の再来か?」

「いや、女神じゃないのか」

 スタンドには第5魔法学院の生徒が大勢詰めかけている。その中で生徒の命を救ったカレンの評判は急上昇どころではない。本物の天使か女神のように熱心な信者ファンを大増殖させている。天使でも女神でも教祖様でもないと本人は否定するだろうが、カレンに対する好感はもはや信仰レベルにまで高まっている状況がスタンドに広がっていく。

 フィールドとスタンドの喧騒が落ち着くと、茫然自失の体で立っている存在が誰の目にも飛び込んでくる。スタンドからの視線を一心にその身に受けるのはどう見ても致死性の危険な魔法を放った茂樹。


「なんてことをするんだぁぁぁ!」

 第5魔法学院の席から一人の生徒が声を上げると、茂樹を非難する声はスタンド全体に広がっていく。それは第1魔法学院の生徒といえども例外ではない。今や彼を庇おうとする者はこの会場には一人も見当たらない。

 八校戦は殺し合いではない。各校の代表生徒が純粋に技術を競う場として設けられている。茂樹の行為はそのルールをはるかに逸脱しているのは誰の目にも明らか。この点をスタンドの生徒たちは問題視している。本来なら声援が湧き起こるはずの会場は茂樹に対する非難の嵐で埋め尽くされていく。


 審判が本部席の運営委員と何かを協議している。しばらくして会場には本部で試合の裁定を務める教員によるアナウンスが流れだす。


「ただいま中断した第2試合の裁定を報告します。致死性が高い危険な魔法を放った第1魔法学院のチームは失格処分といたします。なお魔法を放った本人に対しては八校戦実行委員会から別途処分が下ります」

 茂樹は棒立ちのままそのアナウンスを聞いている。彼に向かって猛烈なブーイングが湧き起こる中で、控室から一人の影が茂樹の元へと向かって歩み出す。その大きなシルエットは誰かと思えば近藤勇人。


「浜川、すぐに戻れ」

「お、俺は、なんということを…」

「自分の心がどれだけ弱いか見つめ直す機会にしろ。俺から言えるのはそれだけだ」

 茂樹は勇人に連れられて、ブーイングの雨が収まらない中を控室に向かって消えていくのであった。




     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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