異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節

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第81話 ブルーホライズンの初戦

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 浜川茂樹が控え室に姿を消すと、場内にはアナウンスが響く。


「ただいま行われた第2試合で、第1魔法学院による失格を伴う反則行為がありましたので、大会規定に基づきまして同校の総合ポイントから100点を減点いたします」

 第1魔法学院にとっては手痛い判定が下される。だが大会規定で定められている以上は不服の申し立てもできない。なぜなら同校の生徒たちも口々に茂樹の行為を非難した事実が歴然と存在している。

 だがこの措置によって、これまで総合ポイント争いの断トツトップに立っていた第1魔法学院の生徒たちの間に大きな動揺が走る。


「いきなり100点の減点なんて、ちょっと厳しくないか?」

「ルールに明記されている以上は逆らえないだろう。それよりも、これで2位の第4魔法学院との差が一気に縮まってしまったな」

「点差は80点か… 依然リードしているとはいえ、何かあれば簡単に逆転を許す差だな」

 個人戦の成績で圧倒的に優位に立っていた余裕が一気に吹き飛んだ事態に殆どの生徒の表情が明らかに曇っている。この先の母校の戦いがまったく予断を許されない展開となっただけに、先行きを案じている生徒が大半なよう。

 その中で、1年生の生徒が固まって座っている一角がざわつき始める。


「浜川たちがいなくなって、残っているのはブルーホライズンというチームだけか…」

「ブルーホライズン? そう言えば聞いたことがないチームだよな」

「どこのクラスだ?」

「それが… どうも聞いたところによるとEクラスの女子で結成されたチームらしいぞ」

「なんだって! Eクラスの女子チームだと! おい、もう1学年トーナメントは絶望じゃないか!」

 ブルーホライズンは、これまで勇者チームの陰に隠れて誰からも注目を浴びていなかった。「どうせ勇者が優勝を決めてくれるから、もう1チームはどこでもいいだろう」といった具合で殆ど無視されているのも同様だったといえる。

 だが、その頼みの勇者たちが最悪の失格という危機的状況を機に、ブルーホライズンにこの学年トーナメントを委ねなければならない不安を訴える声が次第に高まっていく。そしてその責任を追及する矛先は出場チームを決定した生徒会に向かう。


「なぜこんなメチャクチャなチーム選考が行われたのか、生徒会の姿勢を正すべきだろう!」

「そうだ! もしこれが原因で総合優勝を逃したら生徒会はどう責任を取るのかはっきりさせるべきだ!」

 仲間内の話が次第に膨らんで、いつの間にか生徒会の責任を追及する集団に変わっている。どうやら元々彼ら自身が抱いていた自分たちが出場チームに選出されなかった不満も相まって生徒会の見解を質そうと、役員がまとまって陣取っている場所へと十人近い集団で向っていく。


「会長、なぜ今回Eクラスの女子がチーム戦に選出されたのか、その根拠を聞かせてもらいたい。このままでは我が校はみすみすトーナメントのポイントを放棄するようなものではないか!」

「そうだそうだ! 俺たちを差し置いて、なぜEクラスの女子なんか選んだんだ?! このままポイントを諦めるというのか、はっきりと答えてもらいたい!」

 仲間内で話をしている間に相当頭に血が上ったのか、かなり強硬な態度で生徒会役員に苦情を申し立てている。急に押し掛けて来た男子生徒の集団の不満を耳にして席から立ち上がったのは、たまたま勇者の失格を受けて善後策を話し合っていた美鈴。


「生徒会の決定に不服があるようでしたらこの場でお聞きします」

 毅然とした態度の美鈴に対して、男子生徒たちは一瞬気圧された表情になる。だが集団の数を頼みにしてなおも強気な態度で美鈴に捲し立てる。


「なんでEクラスの女子をチーム戦に出場させたのか、その理由を我々が理解できるように説明してもらいたい」

 その言い草に彼らは質問ではなくて苦情を申し立てに来たのだと美鈴は悟ったよう。


「それではお答えします。チーム戦の選手選考には明確な基準がありません。従来は模擬戦週間で個人戦上位の選手が所属するチームが出場していました」

「なぜその従来の慣行を破って、よりによってEクラスの女子なんかが出場するのか、その理由をはっきりしてもらいたい!」

「順にお話しますから、落ち着いてもらえますか」

 美鈴は余裕の態度を崩さない。その態度に頭に血が上っている集団もやや冷静さを取り戻す。


「確かに最終エントリーの段階で個人戦出場者や補欠を集めた他のチームを出場させる選択もありました」

「だったらなぜその選択をしなかったんだ?」

「仮にそのようなチームを作ったとして、浜川君が率いる〔栄光の暁〕よりも強力なチームが出来上がりますか?」

「そ、それは無理だろう。浜川のチームが一番レベルが高いんだし…」

 この点を美鈴に指摘されると集団の先頭に立っていた男子生徒の声が急にトーンダウンする。勇者が率いるパーティー以上の実力がないという点は、彼ら自身認めざるを得ないよう。


「率直に申し上げます。浜川君たちは失格に終わりましたが、あの試合の経過を分析すると明らかに彼らは押されていました。つまり、勇者パーティーでも楽には勝てない実力者たちがこのトーナメントには出場しています」

「だったらなぜEクラスの生徒なんだ?!」

「彼女たちブルーホライズンは浜川君たちの〔栄光の暁〕を上回っているチームです。選出した根拠はただそれだけです」

「そんなことを言われてもおいそれと信じられるか! Eクラスだぞ! しかも女子だけなんて、どうやって浜川たちを上回れるというんだ!」

「あら、今大会の1学年トーナメントを制したのは確か本校のEクラス女子ではなかったかと思いますが」

 美鈴にこの点を指摘されると男子生徒は反論できずにグギギという表情を浮かべる。だがその隣の生徒がなおも美鈴に食って掛かる。 


「優勝したEクラスの女子とブルーホライズンを同じ土俵で比較するには無理があるぞ! 俺たちはまだチーム戦にブルーホライズンが選ばれた具体的な理由を知らされていない!」

「具体的な理由は個人のステータス上の秘密に属しますのでこの場では答えられません。でもその代わりに彼女たちが1回戦で敗退したら責任を取って私が生徒会役員を辞職いたします。私はそのくらいの強い確信を持って彼女たちを推薦しておりますから、結果がどうあろうと全てを受け入れます」

「その言葉は、覚えておくからな」

 事態は美鈴の生徒会副会長としての進退まで懸かるという大事に発展している。自らの職を賭すという美鈴の態度に男子生徒たちはこれ以上の反論のしようはなく一旦元の席に戻っていく。

 この遣り取りを比較的役員席の近くで聞いていた桜は…


「美鈴ちゃんたら、副会長の座まで賭けてしまいましたわ。私にひと言いってくれればもっと簡単に解決しましたのに…」

「桜、一応聞いておくが、その解決策というのはどんな内容だ?」

「お兄様、それは決まっておりますわ! 校舎裏に連れ込んでボコボコにすれば二度と生意気な口を叩けなくなります」

「却下だ! せっかくの美鈴の配慮を台無しにするつもりか!」

「もう、相変わらずお兄様は手緩いですねぇ… 仕方がありませんから今回は見逃して差し上げますわ」

 桜が矛を収めた結果、彼ら1年男子生徒グループは一命を取り留めた模様。一歩間違うととんでもない地獄を見る崖っぷちに立たされているのを彼ら自身全く気が付いていない。知らぬが仏という諺通りかもしれない…


 このような遣り取りを目撃した他の生徒の反応だが、聡史たちとは別の場所に座る上級生たちは生徒会役員に捻じ込んだ1年生グループの態度とは全く違う反応をしている。


「おい、あの1年の撥ねっ返り共は生徒会に文句をつけているぞ」

「バカも休み休み言えってところだな。ブルーホライズンといえば、あの楢崎兄が時々引き連れて5階層に入ってくる女子たちだろう」

「最近では、彼女たち単独で5階層を荒らし回っているからな」

「特にヤバいのは盾を手にする女子だよな。この前体当たりでオークを吹っ飛ばしていたぞ」

「あんなの食らったら俺は立っていられる自信が無いな」

「バカ言え! 俺もお前も一溜まりもなく吹っ飛ばされるのが目に見えている。近藤ですら持ち堪えられるかどうかという強烈なシールドバッシュだったからな」

 ブルーホライズンと同じ階層で活動する上級生たちは、時折彼女たちの活躍を目にする機会があったよう。聡史の引率があるとはいえ、1年生が5階層で当然のような表情でオークを相手にする光景は上級生である彼らからしてもいまだに信じられない出来事らしい。


「ということは、生徒会の意図としては勇者は勝ち抜けばラッキーで、本命はブルーホライズンということだったんだな」

「当て馬にされた勇者は気の毒だな」

 結局騒ぎ出したのは1年生の一部だけで終わったよう。むしろ上級生は生暖かく跳ねっ返りの1年生を見ている。こうして動揺した一部の生徒と生徒会の押し問答は一旦静まって、第1魔法学院の生徒が席を埋める一角は試合の進行を見つめるのであった。




 ◇◇◇◇◇




 午前中の最後の試合にブルーホライズンは出場する。彼女たちは第1魔法学院の席で美鈴の進退まで懸かるような遣り取りが起こっているとも知らずに、至って平常運転で試合前の打ち合わせに入っている。


「第1試合の最前線はいつも通りに美晴に任せるわ」

「オッシャァァ! 全員ブッ飛ばして見せるぜぇ!」

「ちょっとは落ち着きなさい! まずは防御重視で慎重に試合に入るのよ。初撃は千里の魔法でなるべく人がいない場所を狙って爆風で牽制してもらえるかしら」

「はい、わかりました」

「千里の魔法に紛れて美晴と渚が接近して相手を抑え込みにかかって、最後に絵美が突入するのが理想だけど、相手もいることだしこの辺は臨機応変に対処しましょう。とにかく私の指示に耳を傾けるのと仲間内のコミュニケーションを忘れないで」

「オーケー!」

「状況判断はリーダーに任せます」

「美晴、咄嗟の場合は私の指示に従ってよ!」

「もう、渚は心配性だなぁ! ちゃんと分かっているって!」

 前衛組の中で指示を出すのは渚の役割。彼女も重要な役割を担っているだけに、暴走しがちな美晴に色々と注意を行っている。こうしてそれぞれが思い付いたことを話し合って試合前の打ち合わせを終えると、彼女たちは防具の装着に取り掛かる。

 そのまま試合時間が来るまで彼女たちは控え室で待機する。ちなみにこの試合にほのかは人数の関係で出場しない。彼女は2回戦に備えて対戦相手のデータ収集を務めており、スタンドで他校の試合を観戦している。


 そして午前中の最後の試合が開始される時間となる。ブルーホライズンのメンバーは赤の入場門からフィールドに入って開始戦に並ぶ。


「各自位置につけ!」

 チーム戦は個人戦とは違って、最初に各自が立つ位置がチームとしてのフォーメーションとなる。ブルーホライズンは相手が意外に感じるくらいに自陣に引き籠った位置に各自が立っている。

 具体的に説明すると、縦60メートルのフィールドの中でリーダーがいる陣地から15メートルの位置に全員が立っている。しかもその先頭にいるのは魔法使いの千里で、その斜め後方の右に美晴、左に渚という隊形。絵美は千里の真後ろに待機して、リーダーを務める真美は陣地の台に乗って盛んに声を掛けている。

 この様子を見た相手の第6魔法学院のチームは完全に勘違いをしたよう。


「おい、相手は女子ばかりで、どうやら引き籠って守りに徹するようだぞ」

「一気に攻めかかってリーダーがいる陣地を落とせるな」

 小声でこのような声を交わすと、前衛の三人が開始戦ギリギリに立って開始早々にブルーホライズンの陣地に攻め込もうという様子で構える。


「試合開始ぃぃ!」

 審判の合図とともに、第6魔法学院の3人が前進を開始。すると…


「ファイアーボール!」

 先頭に立っている千里の声が響くと、前進を企てる3人の手前10メートルの位置に計ったように炎の塊が着弾する。

 ズガーーン!

「「「うわぁぁぁぁ!」」」」

 ファイアーボールは直撃しなかったものの、美鈴直伝の爆裂術式によって前進開始していた3人は真正面から爆風を浴びて体勢を崩す。そのうちの一人は大きくバランスを崩して転倒している。


「前進開始!」

 真美からの指示が伝わると美晴と渚が突進を開始する。美晴がやや前に出て、その直後を渚が駆けていく。

 千里が放ったファイアーボールで前衛が足止めされた第6魔法学院チームではあるが、被害を受けなかった後方の魔法使いが突進を開始した美晴に向けて魔法を撃ち出していく。


「ファイアーボール!」

「こんな魔法なんか目じゃないせぇ!」

 飛んでくる炎を手にする盾で叩き落とすと、なおも前進を続ける。なんとか体勢を立て直そうとしている男子生徒に正面から迫ると、盾を前面に押し出してシールドバッシュを敢行。


「おりゃぁぁぁぁ!」

 ドスーン!

 重たい響きをを立てると、美晴のシールドバッシュは相手の男子生徒を簡単に吹き飛ばしている。ぶつけられた勢いのまま後方に飛んで芝生に背中から落ちた男子生徒は一撃でノックダウンされたよう。

 その頃には、美晴の背後から姿を現した渚が槍を手にして一人の生徒の間近へ接近。上手く気配を消したまま打ち掛かっていく。


「えいっ!」

 一撃で相手が手にする剣を叩き落とすと、渚は首元に槍を突き付ける。


「ま、まいった!」

 これで第6魔法学院の選手の二人が戦闘不能に陥る。さらに美晴は、魔法の威力に煽られて転倒して立ち上がったばかりのもう1人の前衛に猛スピードで接近すると、ドスンと音を立てて吹き飛ばす。これで呆気なく第6魔法学院チームの前衛3人が片付くという誰もが予想外の展開に。

 
「ファイアーボール!」

 なおも残った魔法使いが渚に向かって魔法を放つが、彼女は身軽に右に避けてから右手を構える。


「ウインドストーム!」

 右手の薬指に嵌めた透明な魔石が取り付けられた指輪がキラメキを放つと、渚の右手から台風並みの強風が飛び出す。レベルが20を超えて、彼女は風魔法のスキルを入手済み。千里と美鈴に教えを乞うて、この日のために魔法の精度を磨いてきた。


「まさか!」

 相手の魔法使いは完全に虚を突かれた格好。前衛で槍を振るう渚の手から風魔法が放たれるなど想像の埒外の出来事。何も対処できぬままに魔法使いは突風に煽られてフィールドの外まで押し出されていく。


「美晴! 絵美と合流しろ!」

「オーケーだぜ!」

 相手の前衛が片付いたのを見て取った絵美は、絶妙のタイミングで美晴の近くに走り込んでくる。盾を掲げる美晴と一緒になって敵陣に乗り込むと、相手のリーダーを追い詰めていく。さらに遅れて渚も駆け付ける。

 
「死にさらせぇぇぇ!」

 最初に美晴が盾でぶつかると、相手のリーダーはなす術なくしりもちをつく。最後は絵美が剣を突き付けると、リーダーは両手を上げて降参の意志を示す。


「勝者、赤!」

 審判の声が響くと、ここにブルーホライズンの勝利が決定する。終始相手を上回る堂々とした勝ちっぷり。


「師匠! やりましたぁぁぁぁ!」

 スタンド最前列に陣取る聡史に向かって駆け寄ると、満面の笑みを浮かべて彼女たちは両手を振る。


「いい戦いだったぞ」

 聡史の言葉に大きく頷いて、五人は胸を張って控え室に向かって戻っていくのであった。


     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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