84 / 131
第84話 チーム戦オープントーナメン決勝
しおりを挟む
1回戦を突破したデビル&エンジェルは午後3時半から行われる準決勝に臨む。対戦相手は第8魔法学院のチーム。
開始戦の手前に並ぶ聡史たちに相手のリーダーと思しき人物が話し掛けてくる。
「第1魔法学院に隣接する大山ダンジョンというのは一般冒険者が寄り付かない閑古鳥が鳴くダンジョンと聞いている。実際のところはどうなっているんだ?」
試合前だというのに意外な話題を振られた聡史だが、相手の目を見ながら生真面目に答える。
「ほとんど学院生しか立ち入らない。いわば学院の貸し切り状態だ」
「そうなのか… 実は第8魔法学院に隣接する阿蘇ダンジョンもどういうわけだか閑古鳥が鳴いているんだ。よかったら明日の交流晩餐会で話をさせてもらえないか?」
「ああ、特に問題はない。俺たちが役に立つとは思わないが、話を聞くだけなら聞いても構わない」
変な相談を持ち掛けられたなと首を捻っている聡史だが、頭を切り替えて準決勝に専念する。
結果からすると第8魔法学院のチームもデビル&エンジェルの相手ではなく、簡単にリーダーを討ち取って勝利という形で終わる。
試合後の挨拶では念を押すように第8魔法学院のチームリーダーが先程の話題を持ち出してくる。
「見事だった。我々の完敗だ。君たちの決勝での活躍を祈っている。それから交流晩餐会ではぜひとも話を聞いてくれ」
「ああ、わかった。第1魔法学院の生徒が固まっている場所にいるだろうから気軽に話しかけてもらえるか」
こうして明日の再会を約束してそれぞれの控室へと戻っていくのであった。
準決勝第2試合では予想通り第4魔法学院が勝ち上がって、いよいよ明日両校が雌雄を決する目が離せない対戦カードが決定を見る。決勝開始は午後2時となっており、その後には表彰式が予定されている。
◇◇◇◇◇
この日の夕方、決勝に残った第4魔法学院のチームは空き部屋を借りてミーティングを行っている。留学生三人に男子生徒二人が加わった即席チームで、明日の決勝に備えてフォーメーションの確認や戦術を考えている。
「やはり第1魔法学院の特待生がいるチームが出てきたわね」
「俺たちで勝てるだろうか?」
話を切り出したマギーにひとりの男子生徒が話し掛けてくる。
「もし今日のフォーメーションのままだったら、1パーセントの確率で勝つ方法があるわね。ただし決勝戦で相手がフォーメーションを変更したら、もう絶望だわ」
「フォーメーションの変更? どういうことだ?」
「鈍いわね! 特待生のどちらかがリーダーを務めたらその時点で私たちはアウトよ。私たちにはリーダーを倒す手段がなくなるわ」
マギーの分析に部屋に集まっている全員のテンションが下がる。確かにあの怪物兄妹を倒す手段など存在しないも同然。
「第1魔法学院はフォーメーションの変更を行うだろうか?」
「その確率は低いと考えているわ。戦術を決定しているのは特待生の兄のほうだと思うけど、彼がそんなガチガチの安全策に出るとは考えにくいし」
男子生徒が再びマギーに質問するが、マギー自身の聡史に対するプロファイルではフォーメーションの変更を否定する結果が出ている。聡史の性格からして、この大会の勝敗に拘るのではなくてメンバーの成長の機会に活用するであろうと見抜いているよう。この点はマギーの慧眼を褒めるべきであろう。
「ということは、第1魔法学院が今日見せたフォーメーションを基にして戦術を考えるしかないのですね」
この場に来て初めてフィオレーヌが口を開くと、マギーはその言葉を肯定する。
「その通りよ。考えても無駄なものは考える必要ないわ。相手が今日と同様のフォーメーションを組むことを前提に考えましょう」
だが戦術の組み立ては全米一の天才的頭脳を誇るマギーをもってしても大きな困難を伴う作業となるのは言うまでもない。戦力比で圧倒的に分がある相手に立ち向かおうというのだから、まともな作戦では勝利など覚束ない。こうして二時間にも及ぶ様々な意見から最も可能性の高い戦術が選ばれていく。とはいっても存在する勝利の可能性は贔屓目に見て一桁であろうと、マギー自身も認めている。
だが他に手がない以上は、第4魔法学院チームとしてはこの戦術に賭けるしかなかった。
◇◇◇◇◇
その頃、デビル&エンジェルのメンバーたちは、早めの夕食を取っている。
「桜ちゃん、今夜も美味しそうなデザートがいっぱい並んでいますよ~」
「明日香ちゃん、そろそろいい加減にしないと、とっても不味い事態が既に発生していますよ。特に脇腹に周辺に」
「桜ちゃん、今夜は無礼講ですから細かいことは気にしないでくださいよ~」
「誰が無礼講だと決めたんですかぁぁぁぁぁ!」
甘いデザートの誘惑に最初から抗う気などてんで持っていない明日香ちゃん。後から後悔しても遅いのに…
桜たちからやや離れた場所では、席に着いている聡史の右には美鈴が左にはカレンが座って和やかな雰囲気で食事が進んでいる。その周囲はブルーホライズンが取り巻いて、隙あらば美鈴とカレンに割り込もうと虎視眈々という表情。
こんな感じで明日の決勝に関しては一言もないままにこの夜を終えるのであった。深刻な表情で戦術を話し合っている第4魔法学院のチームとは対照的な姿だといえよう。
◇◇◇◇◇
そして八校戦はついに最終日を迎える。チーム戦の勝敗で総合優勝の行方が決まるとあって、第1魔法学院と第4魔法学院の生徒が陣取る席では試合前から自チームを応援する声が盛んに上がっている。
控室で試合開始時間を待っているデビル&エンジェルは、昨日となんら変化のない態度で思い思いに過ごす。桜と明日香ちゃんはスマホの画面を開いて大阪のお土産サイトを眺めるというお気楽ぶり。昨夜深刻な表情をしながら戦術会議を行っていたマギーたちとは明らかに対照的。
「桜ちゃん、お土産は何がいいですかねぇ~」
「明日香ちゃんは食べ物にしか興味がないんですね。伝統的なペナントとか木刀とか買わないんですか?」
「京都の修学旅行じゃないんですからね! それよりも桜ちゃん、このお菓子は美味しそうですよ~」
サイトを見ながら二人で盛り上げっているよう。そこに聡史から声がかかる。
「戦術で変更したい点があるから全員聞いてくれ」
「お兄様、いきなりなんですか?」
桜はスマホ画面から目を離して聡史が座っている場所へと向かう。だが明日香ちゃんは画面に並ぶお土産の数々をウットリと眺めたままで、その場から全く動こうとはしない。
「相手が勝つ可能性、若しくは互角に戦おうとする可能性を逆算すると選択しうる戦術は限られてくる。したがって、今までとの戦い方を若干変更したい。桜は試合開始直後にこんな感じで動いてもらえるか」
「なるほど… いいですわ」
「それからフォーメーションをこんな感じにしたい」
三人が頷くと聡史の話は終わり。こんな簡単な打ち合わせだけでいいのだろうかと美鈴とカレンが首を捻っている。だが聡史は二人に笑い掛けながら答える。
「心配するな。桜が全部上手くやってくれる」
「そうね、桜ちゃんに任せましょうか」
「桜ちゃん、お願いしますよ。明日香ちゃんには私から伝えておきますから」
「フフフフ、すべてこの桜様にお任せですわ」
自信満々の桜の様子に美鈴とカレンはこれ以上何を話しても無駄だと悟る。その頃、明日香ちゃんはまだスマホに見入っている。そんなにお土産が大事なのか?
こうして装備を整えると、普段と何も変わらない様子でデビル&エンジェルは開始時刻を待つのであった。
◇◇◇◇◇
「ただいまからチーム戦オープントーナメント決勝戦、第1魔法学院対第4魔法学院の試合を開始いたします」
アナウンスとともに赤と青の入場門から両校のチームが入場を開始する。スタンドが熱気に包まれる中、両校の選手は開始戦に並んで審判からの注意を受ける。
「準備はよろしいか? それでは両校は位置につけ」
デビル&エンジェルの五人は聡史から指示を受けた位置に散っていく。これまでと同様に美鈴がリーダーとして陣地に立つ。桜のワントップは相変わらず変化なしだが、カレンと明日香ちゃんはやや引き気味の位置で、代わって聡史がこれまでよりも数歩前に出ている。この時点ではほんのわずかな変更なのでパッと見では全体としては大きな変化はないように映る。
(やはり安全策ではなくてオーソドックスな戦術を選択したわね)
このフォーメーションを見てマギーはひとまず安心した表情。これで苦心して練った戦術が生かせる可能性が出てきたと考えているよう。彼女は少し離れた斜め後方に並んで立っているフィオレーヌとマリアにチラリと視線を向ける。彼女たちもすでに打ち合わせ通りにスタンバイを終えているのが確認できる。
この一戦に賭ける第4魔法学院の戦術をぶっちゃけると、マギー自らが犠牲になる作戦といえる。マギー自身どれだけ考えを巡らしてもこの案しかないという結論しか出せなかったようで、捨て身の戦術に一か八か賭けるしかなかったよう。
その内容は、最前線に単独で位置するマギーが突進してくるであろう桜を食い止めている間に、フィオレーヌとマリアが広域制圧魔法を放ってリーダーを打ち取るという本当に綱渡りの戦術。どこか一箇所でも破綻すると作戦全体が瓦解する危険を孕んだギャンブルのような作戦といえる。
マギーが持ち堪えられなくなるのが先か、フィオレーヌとマリアの魔法がデビル&エンジェルを制圧するのが先かの勝負に賭けるしかない第4魔法学院の苦しい状況が窺える。
「試合開始ぃぃ!」
審判の合図があると、誰もが予想する通りに桜が真っ先に動き出す。
(はやり来た!)
一直線に向かってくる桜を警戒するマギーは何があってもその突進を止めると決意して身構える。
その間にカレンと明日香ちゃんはズルズルと後退して美鈴が立っている陣地の手前まで引いていく。聡史は徐々に前進してマギーをいつでも捕捉できる位置まで接近する。その間に第4魔法学院の魔法使いの二人が…
「我が命に応えて地に降り落ちよ! 氷の流星群!」
「アイスバレット!」
フィオレーヌとマリアが魔法を発動すると、空の上から降り注ぐ氷の礫と地面と平行に飛んでいく氷弾が第1魔法学院の陣地へと襲い掛かる。
「物理シールド!」
美鈴が展開したシールドは陣地の手前まで下がったカレンと明日香ちゃんをスッポリと覆っている。氷の礫と弾丸はこの二人にはまったく届いてはいない。当然聡史は自力でシールドを展開しているので、第4魔法学院の二人の魔法使いが繰り出す氷魔法の影響はない。
どうやら聡史は開始直後の第4魔法学院の出方を見通したうえで、味方にフォーメーションの指示を出していたよう。
そしてマギーに一直線に向かう桜といえば、あと2、3歩で手が届く位置までやってきてから突然方向転換して彼女を右脇を通り抜けると、盛んに魔法を放っている二人の魔法使いへと向かっていく。
(しまった!)
一瞬桜の姿を見失ったマギーが振り返ると、もうその時にはフィオレーヌに襲い掛かる直前という状況。慌ててフィオレーヌがいる場所に向かおうとするマギーだが、その背後に迫る巨大な気配感じる。
「すまないな、桜が魔法使いを片付けるまで俺の相手をしてもらえるか」
「シット! 完全にこちらの手の内を読んでいたのね」
悔しそうな表情で聡史に顔を向けるマギー、すでに自分たちの戦術が聡史によって破綻させらたのは明らかだと覚悟を決める。その時彼女の後方では…
「キャァァァ!」
「嫌ぁぁぁ!」
背後で立て続けに悲鳴が上がる。フィオレーヌとマリアが桜に討ち取られたに違いない。
「こうなったら、あなたを破って単独で敵陣に迫るしかないわね」
魔法使い二人が桜によって気絶させられたので、いつの間にか彼女たちによる魔法の氷の嵐は止まっている。相当追い込まれた形のマギーは、覚悟を決めて聡史に向かって拳を振り上げる。
「いっけぇぇぇぇぇ!」
マギー渾身のストレートが聡史に向かう。だが聡史は剣を抜かずに左手でその一撃を掴み取る。
「なんで剣を抜かないのよ!」
「女子には剣を向けにくいだろう」
聡史は笑いながら掴み取ったマギーの右手を離す。
「バカにするんじゃないわよぉぉ!」
「おっと危ない危ない」
聡史はスピードに乗ったマギーのパンチをヒョイと避ける。桜のパンチに比べたら聡史としては避けるのはかなりイージーモード。しかもまったく反撃しようという動作を見せないのは、まともに相手にするつもりはないという意思を示しているようにも映る。そして聡史は自軍陣地に待機しているカレンと明日香ちゃんに指で合図。
「明日香ちゃん、行きますよ!」
「これで本当に終わりですよ~」
聡史とマギーが立ち会っている場所を迂回した二人は、フィールドの端を通って敵陣へと向かう。その間にもマギーは聡史に翻弄されつつフィールド中央で釘づけにされており、自陣の危機に駆け付けられない状況にある。
「さあ、チェックメートの時間ですわ」
桜と合流したカレンと明日香ちゃんは、三人で第4魔法学院陣地へと迫っていく。陣地を守っている男子生徒をカレンがメイスで吹き飛ばすと、明日香ちゃんが台の上に登って相手のリーダーに槍を向ける。
聡史に懸命にパンチを振るうマギーは、その光景を横目にしても何もできないままで悔しそうに唇を噛み締めるしかない。
カキーン、カキーン、ガキッ!
わずか2合の打ち合いで明日香ちゃんの槍が男子生徒の剣を叩き落すと、そのまま首元に槍の穂先を突き付ける。
「そこまでぇぇ! 勝者、青!」
審判が判定を告げる。誰の目にも明らかな第1魔法学院の完勝劇にスタンドの観衆からは大歓声が沸き起こる。
聡史に翻弄されていたマギーはガックリしてその場で膝をつく。桜の攻撃によって気絶しているフィオレーヌとマリアは、カレンの回復魔法によって意識を取り戻す。
「フフフ、これこそが最強の証ですわ!」
桜が応援席に向かって勝利のVサインを送っている。こうして八校戦の最後のトーナメントはデビル&エンジェルの勝利で幕を引く。個々の能力もあるが、聡史の分析と読みが冴え渡った一戦といえよう。
4年連続で総合優勝を決めた第1魔法学院の応援席では肩を叩き合って喜び合う生徒たちの背後では、デビル&エンジェルの勝利を祝して大漁旗が左右に振られているのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! いいねボタンにつきましては連打してもらえると大喜びしますのでどうぞよろしくお願いいたします。皆様の応援を心よりお待ちしております。
開始戦の手前に並ぶ聡史たちに相手のリーダーと思しき人物が話し掛けてくる。
「第1魔法学院に隣接する大山ダンジョンというのは一般冒険者が寄り付かない閑古鳥が鳴くダンジョンと聞いている。実際のところはどうなっているんだ?」
試合前だというのに意外な話題を振られた聡史だが、相手の目を見ながら生真面目に答える。
「ほとんど学院生しか立ち入らない。いわば学院の貸し切り状態だ」
「そうなのか… 実は第8魔法学院に隣接する阿蘇ダンジョンもどういうわけだか閑古鳥が鳴いているんだ。よかったら明日の交流晩餐会で話をさせてもらえないか?」
「ああ、特に問題はない。俺たちが役に立つとは思わないが、話を聞くだけなら聞いても構わない」
変な相談を持ち掛けられたなと首を捻っている聡史だが、頭を切り替えて準決勝に専念する。
結果からすると第8魔法学院のチームもデビル&エンジェルの相手ではなく、簡単にリーダーを討ち取って勝利という形で終わる。
試合後の挨拶では念を押すように第8魔法学院のチームリーダーが先程の話題を持ち出してくる。
「見事だった。我々の完敗だ。君たちの決勝での活躍を祈っている。それから交流晩餐会ではぜひとも話を聞いてくれ」
「ああ、わかった。第1魔法学院の生徒が固まっている場所にいるだろうから気軽に話しかけてもらえるか」
こうして明日の再会を約束してそれぞれの控室へと戻っていくのであった。
準決勝第2試合では予想通り第4魔法学院が勝ち上がって、いよいよ明日両校が雌雄を決する目が離せない対戦カードが決定を見る。決勝開始は午後2時となっており、その後には表彰式が予定されている。
◇◇◇◇◇
この日の夕方、決勝に残った第4魔法学院のチームは空き部屋を借りてミーティングを行っている。留学生三人に男子生徒二人が加わった即席チームで、明日の決勝に備えてフォーメーションの確認や戦術を考えている。
「やはり第1魔法学院の特待生がいるチームが出てきたわね」
「俺たちで勝てるだろうか?」
話を切り出したマギーにひとりの男子生徒が話し掛けてくる。
「もし今日のフォーメーションのままだったら、1パーセントの確率で勝つ方法があるわね。ただし決勝戦で相手がフォーメーションを変更したら、もう絶望だわ」
「フォーメーションの変更? どういうことだ?」
「鈍いわね! 特待生のどちらかがリーダーを務めたらその時点で私たちはアウトよ。私たちにはリーダーを倒す手段がなくなるわ」
マギーの分析に部屋に集まっている全員のテンションが下がる。確かにあの怪物兄妹を倒す手段など存在しないも同然。
「第1魔法学院はフォーメーションの変更を行うだろうか?」
「その確率は低いと考えているわ。戦術を決定しているのは特待生の兄のほうだと思うけど、彼がそんなガチガチの安全策に出るとは考えにくいし」
男子生徒が再びマギーに質問するが、マギー自身の聡史に対するプロファイルではフォーメーションの変更を否定する結果が出ている。聡史の性格からして、この大会の勝敗に拘るのではなくてメンバーの成長の機会に活用するであろうと見抜いているよう。この点はマギーの慧眼を褒めるべきであろう。
「ということは、第1魔法学院が今日見せたフォーメーションを基にして戦術を考えるしかないのですね」
この場に来て初めてフィオレーヌが口を開くと、マギーはその言葉を肯定する。
「その通りよ。考えても無駄なものは考える必要ないわ。相手が今日と同様のフォーメーションを組むことを前提に考えましょう」
だが戦術の組み立ては全米一の天才的頭脳を誇るマギーをもってしても大きな困難を伴う作業となるのは言うまでもない。戦力比で圧倒的に分がある相手に立ち向かおうというのだから、まともな作戦では勝利など覚束ない。こうして二時間にも及ぶ様々な意見から最も可能性の高い戦術が選ばれていく。とはいっても存在する勝利の可能性は贔屓目に見て一桁であろうと、マギー自身も認めている。
だが他に手がない以上は、第4魔法学院チームとしてはこの戦術に賭けるしかなかった。
◇◇◇◇◇
その頃、デビル&エンジェルのメンバーたちは、早めの夕食を取っている。
「桜ちゃん、今夜も美味しそうなデザートがいっぱい並んでいますよ~」
「明日香ちゃん、そろそろいい加減にしないと、とっても不味い事態が既に発生していますよ。特に脇腹に周辺に」
「桜ちゃん、今夜は無礼講ですから細かいことは気にしないでくださいよ~」
「誰が無礼講だと決めたんですかぁぁぁぁぁ!」
甘いデザートの誘惑に最初から抗う気などてんで持っていない明日香ちゃん。後から後悔しても遅いのに…
桜たちからやや離れた場所では、席に着いている聡史の右には美鈴が左にはカレンが座って和やかな雰囲気で食事が進んでいる。その周囲はブルーホライズンが取り巻いて、隙あらば美鈴とカレンに割り込もうと虎視眈々という表情。
こんな感じで明日の決勝に関しては一言もないままにこの夜を終えるのであった。深刻な表情で戦術を話し合っている第4魔法学院のチームとは対照的な姿だといえよう。
◇◇◇◇◇
そして八校戦はついに最終日を迎える。チーム戦の勝敗で総合優勝の行方が決まるとあって、第1魔法学院と第4魔法学院の生徒が陣取る席では試合前から自チームを応援する声が盛んに上がっている。
控室で試合開始時間を待っているデビル&エンジェルは、昨日となんら変化のない態度で思い思いに過ごす。桜と明日香ちゃんはスマホの画面を開いて大阪のお土産サイトを眺めるというお気楽ぶり。昨夜深刻な表情をしながら戦術会議を行っていたマギーたちとは明らかに対照的。
「桜ちゃん、お土産は何がいいですかねぇ~」
「明日香ちゃんは食べ物にしか興味がないんですね。伝統的なペナントとか木刀とか買わないんですか?」
「京都の修学旅行じゃないんですからね! それよりも桜ちゃん、このお菓子は美味しそうですよ~」
サイトを見ながら二人で盛り上げっているよう。そこに聡史から声がかかる。
「戦術で変更したい点があるから全員聞いてくれ」
「お兄様、いきなりなんですか?」
桜はスマホ画面から目を離して聡史が座っている場所へと向かう。だが明日香ちゃんは画面に並ぶお土産の数々をウットリと眺めたままで、その場から全く動こうとはしない。
「相手が勝つ可能性、若しくは互角に戦おうとする可能性を逆算すると選択しうる戦術は限られてくる。したがって、今までとの戦い方を若干変更したい。桜は試合開始直後にこんな感じで動いてもらえるか」
「なるほど… いいですわ」
「それからフォーメーションをこんな感じにしたい」
三人が頷くと聡史の話は終わり。こんな簡単な打ち合わせだけでいいのだろうかと美鈴とカレンが首を捻っている。だが聡史は二人に笑い掛けながら答える。
「心配するな。桜が全部上手くやってくれる」
「そうね、桜ちゃんに任せましょうか」
「桜ちゃん、お願いしますよ。明日香ちゃんには私から伝えておきますから」
「フフフフ、すべてこの桜様にお任せですわ」
自信満々の桜の様子に美鈴とカレンはこれ以上何を話しても無駄だと悟る。その頃、明日香ちゃんはまだスマホに見入っている。そんなにお土産が大事なのか?
こうして装備を整えると、普段と何も変わらない様子でデビル&エンジェルは開始時刻を待つのであった。
◇◇◇◇◇
「ただいまからチーム戦オープントーナメント決勝戦、第1魔法学院対第4魔法学院の試合を開始いたします」
アナウンスとともに赤と青の入場門から両校のチームが入場を開始する。スタンドが熱気に包まれる中、両校の選手は開始戦に並んで審判からの注意を受ける。
「準備はよろしいか? それでは両校は位置につけ」
デビル&エンジェルの五人は聡史から指示を受けた位置に散っていく。これまでと同様に美鈴がリーダーとして陣地に立つ。桜のワントップは相変わらず変化なしだが、カレンと明日香ちゃんはやや引き気味の位置で、代わって聡史がこれまでよりも数歩前に出ている。この時点ではほんのわずかな変更なのでパッと見では全体としては大きな変化はないように映る。
(やはり安全策ではなくてオーソドックスな戦術を選択したわね)
このフォーメーションを見てマギーはひとまず安心した表情。これで苦心して練った戦術が生かせる可能性が出てきたと考えているよう。彼女は少し離れた斜め後方に並んで立っているフィオレーヌとマリアにチラリと視線を向ける。彼女たちもすでに打ち合わせ通りにスタンバイを終えているのが確認できる。
この一戦に賭ける第4魔法学院の戦術をぶっちゃけると、マギー自らが犠牲になる作戦といえる。マギー自身どれだけ考えを巡らしてもこの案しかないという結論しか出せなかったようで、捨て身の戦術に一か八か賭けるしかなかったよう。
その内容は、最前線に単独で位置するマギーが突進してくるであろう桜を食い止めている間に、フィオレーヌとマリアが広域制圧魔法を放ってリーダーを打ち取るという本当に綱渡りの戦術。どこか一箇所でも破綻すると作戦全体が瓦解する危険を孕んだギャンブルのような作戦といえる。
マギーが持ち堪えられなくなるのが先か、フィオレーヌとマリアの魔法がデビル&エンジェルを制圧するのが先かの勝負に賭けるしかない第4魔法学院の苦しい状況が窺える。
「試合開始ぃぃ!」
審判の合図があると、誰もが予想する通りに桜が真っ先に動き出す。
(はやり来た!)
一直線に向かってくる桜を警戒するマギーは何があってもその突進を止めると決意して身構える。
その間にカレンと明日香ちゃんはズルズルと後退して美鈴が立っている陣地の手前まで引いていく。聡史は徐々に前進してマギーをいつでも捕捉できる位置まで接近する。その間に第4魔法学院の魔法使いの二人が…
「我が命に応えて地に降り落ちよ! 氷の流星群!」
「アイスバレット!」
フィオレーヌとマリアが魔法を発動すると、空の上から降り注ぐ氷の礫と地面と平行に飛んでいく氷弾が第1魔法学院の陣地へと襲い掛かる。
「物理シールド!」
美鈴が展開したシールドは陣地の手前まで下がったカレンと明日香ちゃんをスッポリと覆っている。氷の礫と弾丸はこの二人にはまったく届いてはいない。当然聡史は自力でシールドを展開しているので、第4魔法学院の二人の魔法使いが繰り出す氷魔法の影響はない。
どうやら聡史は開始直後の第4魔法学院の出方を見通したうえで、味方にフォーメーションの指示を出していたよう。
そしてマギーに一直線に向かう桜といえば、あと2、3歩で手が届く位置までやってきてから突然方向転換して彼女を右脇を通り抜けると、盛んに魔法を放っている二人の魔法使いへと向かっていく。
(しまった!)
一瞬桜の姿を見失ったマギーが振り返ると、もうその時にはフィオレーヌに襲い掛かる直前という状況。慌ててフィオレーヌがいる場所に向かおうとするマギーだが、その背後に迫る巨大な気配感じる。
「すまないな、桜が魔法使いを片付けるまで俺の相手をしてもらえるか」
「シット! 完全にこちらの手の内を読んでいたのね」
悔しそうな表情で聡史に顔を向けるマギー、すでに自分たちの戦術が聡史によって破綻させらたのは明らかだと覚悟を決める。その時彼女の後方では…
「キャァァァ!」
「嫌ぁぁぁ!」
背後で立て続けに悲鳴が上がる。フィオレーヌとマリアが桜に討ち取られたに違いない。
「こうなったら、あなたを破って単独で敵陣に迫るしかないわね」
魔法使い二人が桜によって気絶させられたので、いつの間にか彼女たちによる魔法の氷の嵐は止まっている。相当追い込まれた形のマギーは、覚悟を決めて聡史に向かって拳を振り上げる。
「いっけぇぇぇぇぇ!」
マギー渾身のストレートが聡史に向かう。だが聡史は剣を抜かずに左手でその一撃を掴み取る。
「なんで剣を抜かないのよ!」
「女子には剣を向けにくいだろう」
聡史は笑いながら掴み取ったマギーの右手を離す。
「バカにするんじゃないわよぉぉ!」
「おっと危ない危ない」
聡史はスピードに乗ったマギーのパンチをヒョイと避ける。桜のパンチに比べたら聡史としては避けるのはかなりイージーモード。しかもまったく反撃しようという動作を見せないのは、まともに相手にするつもりはないという意思を示しているようにも映る。そして聡史は自軍陣地に待機しているカレンと明日香ちゃんに指で合図。
「明日香ちゃん、行きますよ!」
「これで本当に終わりですよ~」
聡史とマギーが立ち会っている場所を迂回した二人は、フィールドの端を通って敵陣へと向かう。その間にもマギーは聡史に翻弄されつつフィールド中央で釘づけにされており、自陣の危機に駆け付けられない状況にある。
「さあ、チェックメートの時間ですわ」
桜と合流したカレンと明日香ちゃんは、三人で第4魔法学院陣地へと迫っていく。陣地を守っている男子生徒をカレンがメイスで吹き飛ばすと、明日香ちゃんが台の上に登って相手のリーダーに槍を向ける。
聡史に懸命にパンチを振るうマギーは、その光景を横目にしても何もできないままで悔しそうに唇を噛み締めるしかない。
カキーン、カキーン、ガキッ!
わずか2合の打ち合いで明日香ちゃんの槍が男子生徒の剣を叩き落すと、そのまま首元に槍の穂先を突き付ける。
「そこまでぇぇ! 勝者、青!」
審判が判定を告げる。誰の目にも明らかな第1魔法学院の完勝劇にスタンドの観衆からは大歓声が沸き起こる。
聡史に翻弄されていたマギーはガックリしてその場で膝をつく。桜の攻撃によって気絶しているフィオレーヌとマリアは、カレンの回復魔法によって意識を取り戻す。
「フフフ、これこそが最強の証ですわ!」
桜が応援席に向かって勝利のVサインを送っている。こうして八校戦の最後のトーナメントはデビル&エンジェルの勝利で幕を引く。個々の能力もあるが、聡史の分析と読みが冴え渡った一戦といえよう。
4年連続で総合優勝を決めた第1魔法学院の応援席では肩を叩き合って喜び合う生徒たちの背後では、デビル&エンジェルの勝利を祝して大漁旗が左右に振られているのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! いいねボタンにつきましては連打してもらえると大喜びしますのでどうぞよろしくお願いいたします。皆様の応援を心よりお待ちしております。
111
あなたにおすすめの小説
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
迷宮アドバイザーと歩む現代ダンジョン探索記~ブラック会社を辞めた俺だが可愛い後輩や美人元上司と共にハクスラに勤しんでます
秋月静流
ファンタジー
俺、臥龍臼汰(27歳・独身)はある日自宅の裏山に突如できた洞窟を見つける。
語り掛けてきたアドバイザーとやらが言うにはそこは何とダンジョン!?
で、探索の報酬としてどんな望みも叶えてくれるらしい。
ならば俺の願いは決まっている。
よくある強力無比なスキルや魔法? 使い切れぬ莫大な財産?
否! 俺が望んだのは「君の様なアドバイザーにず~~~~~っとサポートして欲しい!」という願望。
万全なサポートを受けながらダンジョン探索にのめり込む日々だったのだが…何故か元居た会社の後輩や上司が訪ねて来て…
チート風味の現代ダンジョン探索記。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる