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第100話 手加減無用
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4倍界王拳の使い手となった明日香ちゃん、この娘は調子に乗ると手が付けられない。相棒ともいえるトライデントを手にして縦横無尽にレッサードレイクを次々に駆逐していく。
26階層ともなると、魔物を討伐した際に得られる経験値が高い。この階層で1時間経過すると美鈴と明日香ちゃんはレべルが2つ上昇している。ちなみに天使になったカレンには人間に与えられたステータスレベルは通用しない仕組みとなっているらしい。
「皆さんいい感じにレベルが上がっていますわね」
「桜ちゃんに比べたら、まだ全然赤ちゃんのようなものですよ~」
「明日香ちゃん、それは当然ですわ。私のレベルは600オーバー、この領域に到達するまでには、まだまだ数えるのが嫌になる程の試練がありますからね」
「いやいや、誰もそんな所までレベルを上げたいなんて考えていますんから。試練なんて真っ平ですよ~」
どうやら桜としては親友の明日香ちゃんを自分と同じ立ち位置にしたいらしい。対する明日香ちゃんは首をブンブン振って思いっ切り否定している。冒険者を志すのならレベルを上げたいのは当然だが、誰も600オーバーなど目指そうとは考えないのが普通だろう。桜の感覚が3年間の異世界生活であまりに常識からぶっ飛びすぎている。
レベルに関する話題となって桜がふと気づく。
「そういえば… 手加減しているつもりなのに、なんだかパンチの威力が上がっているような気がするんですよね。ちょっとステータスを確認してみましょうか。さあ、開きなさい!」
【楢崎 桜】 16歳 女
職業 覇者を凌駕せし者
称号 神に向けられし刃 天啓の虐殺者
レベル 645
体力 9999
魔力 9999
敏捷性 9999
精神力 9999
知力 100
所持スキル 記載不能
ダンジョン記録 踏破レベル11
「ムムッ! レベルが22も上昇していますわ」
「桜、ちょっと待つんだ! 俺のレベルも確認してみるから。ステータス、オープン!」
【楢崎 聡史】 16歳 男
職業 異世界に覇を唱えし者
称号 神に向けられし刃 星告の殲滅者
レベル 401
体力 9999
魔力 9999
敏捷性 9999
精神力 9999
知力 100
所持スキル 記載不能
ダンジョン記録 踏破レベル6
「なんだってぇ! ついに俺も400台に足を踏み込んでいるぞぉ!」
聡史もさすがに驚いている。ここへきて急激にレベルが上がるなんて俄かには考えられない話。
「お兄様、パーティーでダンジョンに入る時には私たちが得るはずの経験値をカットしていますよね」
「そうだよな。俺たちが得る経験値が他のメンバーに振り分けられるようにしてあるはずだ」
兄妹が首を捻っている。二人ともレベルが上昇した原因が思いつかない表情だが、ここでカレンが何かに気が付いた様子。
「那須ダンジョンの魔物との戦いが原因なのではないですか?」
「ああ… 言われてみればそうでした。あの時は経験値カットのスキルを発動しないままで魔物を倒しまくりましたから、ドカンとまとめてレベルが上がったんですね」
「そうだったのか… 今更こんなにレベルが上がるとは思ってもみなかったな」
ダンジョンから溢れ出した魔物の正確な数字はいまだに判明していないが、およその感覚では10万程度ではないかと考えられている。大量の魔物を討伐した経験値が加えられた結果、兄妹のレベルが大幅に上昇したのであろう。もちろんこの二人だけではなくて、戦いに参加した自衛隊員も大量の経験値を得て大幅にレベルアップしているに違いない。宇都宮駐屯地の隊員の中にはレベル50を超える猛者がゴロゴロしている状態が発生しているだろう。掛け値なしの最強部隊が一夜にして出来上がってしまったよう。
ステータス上の数値はカンストしているが、それは表示ができないだけで実際には体力や攻撃力が上昇している。ただでさえアホみたいな攻撃力なのに、それがさらに上昇するなんて… ダンジョンで遭遇する魔物が気の毒すぎる。合掌、南無南無…
「まあいいでしょう。慎重に加減すれば問題はないはずですわ」
「桜ちゃんは手加減が一番苦手じゃないですか。いつも失敗して、とんでもない結果を招いていますよ~」
「そんなはずはありませんわ! ジャパネット館並みの安心安全な手加減ぶりと世間では評判ですから」
「あっちからレッサードレイクが来ましたよ」
「なにぃぃぃ!」
バコーン!
レッサードレイクの体が桜のパンチで爆発したかのようにコマ切れになって飛び散っていく。この状況を見た明日香ちゃんは鬼の首を取ったような顔。
「ほら、シッポを出しましたね! 桜ちゃんは咄嗟の場合は手加減できないんです。おまけに喋り方まで変わっているし! だんだん化けの皮が剥がれてきましたよ~」
「な、何の話でしょうか。私にはわかりません」
犯人を追い詰めるフナコシさんのような表情の明日香ちゃん。シラを切っているが、桜の額には一筋の汗が流れ落ちる。どうやら明日香ちゃんの指摘が図星を突いているよう。中学校からの長い付き合いなのだから、明日香ちゃんには桜の本性は色々とお見通しなのだろう。何かのはずみに桜が手加減が苦手という本性を覗かせる機会が今後あるかもしれない。
とまあ、このような話をしながらデビル&エンジェルの面々は余裕の戦いを繰り返しながら27階層に降りていく。この階層もレッサードレイクが群れを為して登場してくるが、時折より大型のエルダードレイクも姿をみせる。
「ダークフレイム!」
「ホーリーアロー!」
ドラゴンという名称では呼ばれていないが、ドレイクは小型とはいえれっきとした地竜の一族。そんな相手に対して美鈴とカレンの魔法はまさに猛威を振るっている。美鈴の闇魔法は禍々しい暗黒の力を如何なく発揮し、カレンの神聖魔法は神の祝福の光を放つ。対照的な二人の魔法であるが、その威力は甲乙つけがたい。天使として覚醒したカレンと互角の威力というのは、美鈴の闇属性魔法というのはある意味底が知れない。
27階層も難なく突破すると、パーティーは続く28階層に向かう。この階層ではエルダードレイクばかりが登場するが、絶好調の明日香ちゃんが4倍速のスピードとパワーを生かして次々に仕留める。凄いぞ、明日香ちゃん! 本当にヤレばデキる子だ。ただ気紛れが災いして、ご褒美が目の前にぶら下がるまではエンジンがかからないのが玉に瑕といえよう。
勢いに乗った明日香ちゃんのおかげで攻略はスムーズに進む。次の階層を目指して通路を進んでいるうちに、一行はこれまでと違うパターンが発生していることに気付かされる。
どうやら28階層にも階層ボスの部屋があるよう。どう考えてもこの扉の先に進まないと次の階層には行けないらしい。
「お兄様、これまでは5階層おきにボスが登場してきましたが、どうやらこの辺から3階層ごとにボスにアタックする必要だあるみたいですね」
「異世界でもこんなダンジョンがあったな。最後の5階層は、全てボスを倒さないと進めない凶悪なダンジョンだった」
「フフフ… お兄様、手強いダンジョンこそ冒険者魂が燃え上がるのです。攻略のし甲斐がありますわ」
桜の目が爛々と光って目の前に立ちはだかるドアを見つめている。この先に何が待っていようとも単身でも突破しようという構えの表情を浮かべている。
「どうせ桜ちゃんは止められないでしょうから、さっさと中に入りましょう」
「美鈴さん、さすがに階層ボスとなると相当な強敵が出てきそうですよ~」
「明日香ちゃん、諦めたほうがいいわよ。すでに桜ちゃんの手が大扉に掛かっているし」
そう、すでに桜は力を込めて扉を押し始めている。高さ5メートルもある巨大なドアは桜の手によって押し広げられていく。そしてパーティー全員が部屋に入ってそこで目にしたのは…
「いると思ったわ」
「美鈴さん、これはお約束の展開ですよ~」
美鈴と明日香ちゃんが顔を見合わせている。
五人が立っている部屋の入口、そこから100メートル奥にはティラノサウルスを彷彿させる体長30メートルに達しようかという大型の地竜が立っている。
凶暴な牙が生え揃った大きな口を開いて唸り声をあげながらこちらを威嚇している。ティラノサウルスとの違いは背中に小さな翼がある点であろうか。このような小さな翼では宙を飛ぶのは不可能であるが、やはりドラゴンの親戚である点は間違いない。
ギュオォォォォォン!
部屋の床が振動するかと勘違いするような地竜の咆哮が鳴り響く。その直後にその馬鹿デカい口をカッと開くと、開幕ブレスが猛烈な勢いで五人を襲う。鉄をも溶かす高温のブレスが五人に迫りくる。
「天界の領域!」
聡史が結界を張るよりも美鈴がシールドを展開するよりも、圧倒的に早く対処したのはカレンに他ならない。天使の能力を生かしてパーティーの周囲を神聖不可侵の領域に指定して、何人たりとも干渉不可能にしている。
「カレン、すまないな」
「聡史さん、どうか気にしないでください。那須での過ちを繰り返したくなかっただけですから」
カレンの脳裏には魔族の魔法で黒焦げの死体となった自衛隊員の姿がフラッシュバックしている。封印が解かれて天使の力を手に入れたからには、あのような悲劇を繰り返してはならないと決心しているよう。
「カレンさんが気を使ってくれて助かりましたわ。この手に集まっている闘気は地竜のブレスに向けて放つつもりでしたけど、このままぶつけて差し上げましょうか。太極破ぁぁ!」
当然ながら、桜は誰よりも素早くブレスに反応していた。太極破によってブレスを吹き飛ばそうと準備していたが、カレンが対処するのが分かった瞬間一時待機状態でホールドしていた模様。ブレスの猛威をカレンが跳ね返すと、桜が放った太極破は地竜に向かって真っ直ぐに進んでいく。レベルが22も上昇した威力マシマシで…
ドッパァァァァァン!
ブレスを吐いたばかりでまだ口を開きっ放しであった地竜は、開け放った口内にまともに太極破を食らったよう。爆発の轟音が鳴り止むと、地竜の首から上が無くなっている。その巨体がゆっくりと前に倒れる時には地竜は絶命やむなし状態。
「見掛け倒しでしたわね」
桜にしてみればつい先日那須で30メートル級のドラゴンを倒しているだけに地竜如きは可愛い部類に感じるのだろう。
「また桜ちゃんが一人で倒しましたよ~」
「明日香ちゃん、加減ができないから仕方がないのよ」
やはり美鈴も、明日香ちゃんと同様の見方をしているよう。桜の手加減などほとほとアテにならないという証明がなされた瞬間でもある。
「さあ、宝箱がありますから開けてみましょう!」
二人の会話は耳に入らないフリで桜はスルーしている。色んな意味で誤魔化すためにメンバーの注目を宝箱に誘導しているのだろう。実に分かりやすい。
「今回は特に罠が仕掛けてある気配はないようですね」
桜が蓋を引き上げると、中からは銀色に光る胸当てが出てくる。聡史がアイテムボックスに収納してインデックスを調べると…
「ミスリル製の胸当てだな。防御力を引き上げる効果があるかもしれないな」
「これも明日香ちゃんが身に着けるのがいいんじゃないかしら」
「私も美鈴さんと同意見です」
美鈴とカレンが明日香ちゃんが装備するのがいいと主張している。もちろん桜も同じ意見。
「それではこの胸当ては明日香ちゃんに差し上げますわ」
「なんだか悪いですねぇ~。それでは遠慮なくもらいますよ~」
桜から胸当てを受け取ると、明日香ちゃんはプロテクターを外して装着する。肩の動きを阻害しないように胸部と腹部の上半分だけを覆うデザインのピカピカの防具を身に着ける明日香ちゃん。だがその姿をまじまじと見た桜は…
「明日香ちゃん、とっても残念なお知らせですわ。胸周りはユルユルで、胸当ての下の部分がお腹の肉に食い込んでいます」
どうやらこの胸当ては、カレンのようなスタイルを想定して作られていたよう。残念体型の明日香ちゃんには絶望的にサイズが合わないという悲劇が発生するのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
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26階層ともなると、魔物を討伐した際に得られる経験値が高い。この階層で1時間経過すると美鈴と明日香ちゃんはレべルが2つ上昇している。ちなみに天使になったカレンには人間に与えられたステータスレベルは通用しない仕組みとなっているらしい。
「皆さんいい感じにレベルが上がっていますわね」
「桜ちゃんに比べたら、まだ全然赤ちゃんのようなものですよ~」
「明日香ちゃん、それは当然ですわ。私のレベルは600オーバー、この領域に到達するまでには、まだまだ数えるのが嫌になる程の試練がありますからね」
「いやいや、誰もそんな所までレベルを上げたいなんて考えていますんから。試練なんて真っ平ですよ~」
どうやら桜としては親友の明日香ちゃんを自分と同じ立ち位置にしたいらしい。対する明日香ちゃんは首をブンブン振って思いっ切り否定している。冒険者を志すのならレベルを上げたいのは当然だが、誰も600オーバーなど目指そうとは考えないのが普通だろう。桜の感覚が3年間の異世界生活であまりに常識からぶっ飛びすぎている。
レベルに関する話題となって桜がふと気づく。
「そういえば… 手加減しているつもりなのに、なんだかパンチの威力が上がっているような気がするんですよね。ちょっとステータスを確認してみましょうか。さあ、開きなさい!」
【楢崎 桜】 16歳 女
職業 覇者を凌駕せし者
称号 神に向けられし刃 天啓の虐殺者
レベル 645
体力 9999
魔力 9999
敏捷性 9999
精神力 9999
知力 100
所持スキル 記載不能
ダンジョン記録 踏破レベル11
「ムムッ! レベルが22も上昇していますわ」
「桜、ちょっと待つんだ! 俺のレベルも確認してみるから。ステータス、オープン!」
【楢崎 聡史】 16歳 男
職業 異世界に覇を唱えし者
称号 神に向けられし刃 星告の殲滅者
レベル 401
体力 9999
魔力 9999
敏捷性 9999
精神力 9999
知力 100
所持スキル 記載不能
ダンジョン記録 踏破レベル6
「なんだってぇ! ついに俺も400台に足を踏み込んでいるぞぉ!」
聡史もさすがに驚いている。ここへきて急激にレベルが上がるなんて俄かには考えられない話。
「お兄様、パーティーでダンジョンに入る時には私たちが得るはずの経験値をカットしていますよね」
「そうだよな。俺たちが得る経験値が他のメンバーに振り分けられるようにしてあるはずだ」
兄妹が首を捻っている。二人ともレベルが上昇した原因が思いつかない表情だが、ここでカレンが何かに気が付いた様子。
「那須ダンジョンの魔物との戦いが原因なのではないですか?」
「ああ… 言われてみればそうでした。あの時は経験値カットのスキルを発動しないままで魔物を倒しまくりましたから、ドカンとまとめてレベルが上がったんですね」
「そうだったのか… 今更こんなにレベルが上がるとは思ってもみなかったな」
ダンジョンから溢れ出した魔物の正確な数字はいまだに判明していないが、およその感覚では10万程度ではないかと考えられている。大量の魔物を討伐した経験値が加えられた結果、兄妹のレベルが大幅に上昇したのであろう。もちろんこの二人だけではなくて、戦いに参加した自衛隊員も大量の経験値を得て大幅にレベルアップしているに違いない。宇都宮駐屯地の隊員の中にはレベル50を超える猛者がゴロゴロしている状態が発生しているだろう。掛け値なしの最強部隊が一夜にして出来上がってしまったよう。
ステータス上の数値はカンストしているが、それは表示ができないだけで実際には体力や攻撃力が上昇している。ただでさえアホみたいな攻撃力なのに、それがさらに上昇するなんて… ダンジョンで遭遇する魔物が気の毒すぎる。合掌、南無南無…
「まあいいでしょう。慎重に加減すれば問題はないはずですわ」
「桜ちゃんは手加減が一番苦手じゃないですか。いつも失敗して、とんでもない結果を招いていますよ~」
「そんなはずはありませんわ! ジャパネット館並みの安心安全な手加減ぶりと世間では評判ですから」
「あっちからレッサードレイクが来ましたよ」
「なにぃぃぃ!」
バコーン!
レッサードレイクの体が桜のパンチで爆発したかのようにコマ切れになって飛び散っていく。この状況を見た明日香ちゃんは鬼の首を取ったような顔。
「ほら、シッポを出しましたね! 桜ちゃんは咄嗟の場合は手加減できないんです。おまけに喋り方まで変わっているし! だんだん化けの皮が剥がれてきましたよ~」
「な、何の話でしょうか。私にはわかりません」
犯人を追い詰めるフナコシさんのような表情の明日香ちゃん。シラを切っているが、桜の額には一筋の汗が流れ落ちる。どうやら明日香ちゃんの指摘が図星を突いているよう。中学校からの長い付き合いなのだから、明日香ちゃんには桜の本性は色々とお見通しなのだろう。何かのはずみに桜が手加減が苦手という本性を覗かせる機会が今後あるかもしれない。
とまあ、このような話をしながらデビル&エンジェルの面々は余裕の戦いを繰り返しながら27階層に降りていく。この階層もレッサードレイクが群れを為して登場してくるが、時折より大型のエルダードレイクも姿をみせる。
「ダークフレイム!」
「ホーリーアロー!」
ドラゴンという名称では呼ばれていないが、ドレイクは小型とはいえれっきとした地竜の一族。そんな相手に対して美鈴とカレンの魔法はまさに猛威を振るっている。美鈴の闇魔法は禍々しい暗黒の力を如何なく発揮し、カレンの神聖魔法は神の祝福の光を放つ。対照的な二人の魔法であるが、その威力は甲乙つけがたい。天使として覚醒したカレンと互角の威力というのは、美鈴の闇属性魔法というのはある意味底が知れない。
27階層も難なく突破すると、パーティーは続く28階層に向かう。この階層ではエルダードレイクばかりが登場するが、絶好調の明日香ちゃんが4倍速のスピードとパワーを生かして次々に仕留める。凄いぞ、明日香ちゃん! 本当にヤレばデキる子だ。ただ気紛れが災いして、ご褒美が目の前にぶら下がるまではエンジンがかからないのが玉に瑕といえよう。
勢いに乗った明日香ちゃんのおかげで攻略はスムーズに進む。次の階層を目指して通路を進んでいるうちに、一行はこれまでと違うパターンが発生していることに気付かされる。
どうやら28階層にも階層ボスの部屋があるよう。どう考えてもこの扉の先に進まないと次の階層には行けないらしい。
「お兄様、これまでは5階層おきにボスが登場してきましたが、どうやらこの辺から3階層ごとにボスにアタックする必要だあるみたいですね」
「異世界でもこんなダンジョンがあったな。最後の5階層は、全てボスを倒さないと進めない凶悪なダンジョンだった」
「フフフ… お兄様、手強いダンジョンこそ冒険者魂が燃え上がるのです。攻略のし甲斐がありますわ」
桜の目が爛々と光って目の前に立ちはだかるドアを見つめている。この先に何が待っていようとも単身でも突破しようという構えの表情を浮かべている。
「どうせ桜ちゃんは止められないでしょうから、さっさと中に入りましょう」
「美鈴さん、さすがに階層ボスとなると相当な強敵が出てきそうですよ~」
「明日香ちゃん、諦めたほうがいいわよ。すでに桜ちゃんの手が大扉に掛かっているし」
そう、すでに桜は力を込めて扉を押し始めている。高さ5メートルもある巨大なドアは桜の手によって押し広げられていく。そしてパーティー全員が部屋に入ってそこで目にしたのは…
「いると思ったわ」
「美鈴さん、これはお約束の展開ですよ~」
美鈴と明日香ちゃんが顔を見合わせている。
五人が立っている部屋の入口、そこから100メートル奥にはティラノサウルスを彷彿させる体長30メートルに達しようかという大型の地竜が立っている。
凶暴な牙が生え揃った大きな口を開いて唸り声をあげながらこちらを威嚇している。ティラノサウルスとの違いは背中に小さな翼がある点であろうか。このような小さな翼では宙を飛ぶのは不可能であるが、やはりドラゴンの親戚である点は間違いない。
ギュオォォォォォン!
部屋の床が振動するかと勘違いするような地竜の咆哮が鳴り響く。その直後にその馬鹿デカい口をカッと開くと、開幕ブレスが猛烈な勢いで五人を襲う。鉄をも溶かす高温のブレスが五人に迫りくる。
「天界の領域!」
聡史が結界を張るよりも美鈴がシールドを展開するよりも、圧倒的に早く対処したのはカレンに他ならない。天使の能力を生かしてパーティーの周囲を神聖不可侵の領域に指定して、何人たりとも干渉不可能にしている。
「カレン、すまないな」
「聡史さん、どうか気にしないでください。那須での過ちを繰り返したくなかっただけですから」
カレンの脳裏には魔族の魔法で黒焦げの死体となった自衛隊員の姿がフラッシュバックしている。封印が解かれて天使の力を手に入れたからには、あのような悲劇を繰り返してはならないと決心しているよう。
「カレンさんが気を使ってくれて助かりましたわ。この手に集まっている闘気は地竜のブレスに向けて放つつもりでしたけど、このままぶつけて差し上げましょうか。太極破ぁぁ!」
当然ながら、桜は誰よりも素早くブレスに反応していた。太極破によってブレスを吹き飛ばそうと準備していたが、カレンが対処するのが分かった瞬間一時待機状態でホールドしていた模様。ブレスの猛威をカレンが跳ね返すと、桜が放った太極破は地竜に向かって真っ直ぐに進んでいく。レベルが22も上昇した威力マシマシで…
ドッパァァァァァン!
ブレスを吐いたばかりでまだ口を開きっ放しであった地竜は、開け放った口内にまともに太極破を食らったよう。爆発の轟音が鳴り止むと、地竜の首から上が無くなっている。その巨体がゆっくりと前に倒れる時には地竜は絶命やむなし状態。
「見掛け倒しでしたわね」
桜にしてみればつい先日那須で30メートル級のドラゴンを倒しているだけに地竜如きは可愛い部類に感じるのだろう。
「また桜ちゃんが一人で倒しましたよ~」
「明日香ちゃん、加減ができないから仕方がないのよ」
やはり美鈴も、明日香ちゃんと同様の見方をしているよう。桜の手加減などほとほとアテにならないという証明がなされた瞬間でもある。
「さあ、宝箱がありますから開けてみましょう!」
二人の会話は耳に入らないフリで桜はスルーしている。色んな意味で誤魔化すためにメンバーの注目を宝箱に誘導しているのだろう。実に分かりやすい。
「今回は特に罠が仕掛けてある気配はないようですね」
桜が蓋を引き上げると、中からは銀色に光る胸当てが出てくる。聡史がアイテムボックスに収納してインデックスを調べると…
「ミスリル製の胸当てだな。防御力を引き上げる効果があるかもしれないな」
「これも明日香ちゃんが身に着けるのがいいんじゃないかしら」
「私も美鈴さんと同意見です」
美鈴とカレンが明日香ちゃんが装備するのがいいと主張している。もちろん桜も同じ意見。
「それではこの胸当ては明日香ちゃんに差し上げますわ」
「なんだか悪いですねぇ~。それでは遠慮なくもらいますよ~」
桜から胸当てを受け取ると、明日香ちゃんはプロテクターを外して装着する。肩の動きを阻害しないように胸部と腹部の上半分だけを覆うデザインのピカピカの防具を身に着ける明日香ちゃん。だがその姿をまじまじと見た桜は…
「明日香ちゃん、とっても残念なお知らせですわ。胸周りはユルユルで、胸当ての下の部分がお腹の肉に食い込んでいます」
どうやらこの胸当ては、カレンのようなスタイルを想定して作られていたよう。残念体型の明日香ちゃんには絶望的にサイズが合わないという悲劇が発生するのであった。
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