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第105話 学院への帰還
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大山ダンジョンを攻略して異世界経由でなぜだか阿蘇に戻ってきたデビル&エンジェルの面々。受付カウンターの前でしばし呆然としたのちにようやく現実を認識し始める。
「てっきり大山ダンジョンだと思ったけど、まさか阿蘇に来ていたなんて…」
「1階層や出入り口の造りまでソックリだったから、全然区別がつかなかったわ」
カレンと美鈴が顔を見合わせている。かと思えば…
「桜ちゃん、晩ご飯はいつ食べられるのでしょうか?」
「明日香ちゃん、私もかなりお腹が空いてきて大ピンチを迎えています」
明日香ちゃんと桜は何はなくとも夕食の心配をしている。この二人には最も重大な問題なのだから仕方がない。二人に違いがあるとすれば、桜は単に空腹を満たしたいのに対して、明日香ちゃんは食後のデザートで頭がいっぱいという点だろう。
ここで聡史が…
「カレン、学院長と連絡はとれるか?」
「ああ、そうでした。ひとまず母に連絡してみます」
聡史の申し出にカレンがハッとした顔でスマホを取り出すと登録番号をプッシュ。
「もしもし、お母さん。カレンです」
「どこに行っていたんだ?! 3日も連絡なしで」
「ええぇぇぇぇ! 3日って何ですか?」
「お前たちのパーティーがダンジョンに入ったのが先週の土曜日だ。そして今日は月曜日。3日消息不明だったせいで学院とダンジョン管理事務所は大騒ぎだったんだぞ」
デビル&エンジェルの誰もが感覚的には今朝ダンジョンに入って最下層を攻略したのちに異世界を偵察して戻ってきたと捉えている。それが3日も経過しているというのは一体どういう話だとカレンはポカンとする。今日は驚きの連続であったが、その中でも最後の極め付きのビックリで間違いない。おそらくは転移の際に次元を超えたとか、時間の流れが違うとか、そんな影響が生じたのだと考えられる。異世界から戻ってきて3日程度ならば、まあまあ誤差の範囲内と考えていいだろう。
「お母さん、実は大山ダンジョンのラスボスを倒しまして… というわけで、現在阿蘇ダンジョンにいます」
「そうか… ずいぶん派手に暴れまわったな。自衛隊の高遊原分屯地に迎えを手配してもらうから、今晩はそちらに宿泊して明日戻ってくるんだ」
「はい、わかりました」
「戻ってきたらゆっくり話を聞かせてくれ」
こうして通話を終えると、カレンは学院長からの話を全員に伝える。
「それでは迎えが来るまでこの場で待っていようか」
ダンジョンを攻略するという世界初の偉業を達成した割には特に大した歓迎もなく、聡史たちはダンジョン管理事務所に置かれたベンチに腰掛けて迎えを待つ。
30分後にワゴン車が到着して、パーティーメンバーは阿蘇ダンジョンにほど近い高遊原分屯地へ向かうのであった。
◇◇◇◇◇
翌朝一番の飛行機でデビル&エンジェルは羽田空港に戻ってくる。そこには市ヶ谷のダンジョン対策室から寄越されたワゴン車が待ち受けており、彼らの身柄は一旦市ヶ谷駐屯地に迎え入れられる。
応接室で待っている一行だが、明日香ちゃんはなぜか憮然とした表情で腰掛けている。
「桜ちゃん、なんで昨日はデザートが用意されていないんですかぁぁぁ! ダンジョンを攻略したご褒美をとっても楽しみにしていたのに」
「明日香ちゃん、いくら何でも自衛隊の駐屯地でデザートまで要求するのは無理ですよ。その分空港で色々食べたから、それで我慢してください」
「飛行機の時間が迫っていたせいで食べ足りませんよ~。学院に戻ったら何を置いても食堂に向かいますからね」
甘~いデザートに対する明日香ちゃんの欲求は留まる所を知らないよう。
このような他愛もない話題を交わしている間に、応接室にダンジョン対策室のお偉方が入ってくる。
「お待たせしたね、私はダンジョン対策室長の岡山だ。この度はダンジョン完全攻略という偉業を成し遂げた君たちに対策室の責任者として感謝を申し上げる。本当によくやってくれた」
「いえ、それほど大したことではありませんから、そんなに褒めないでください。まだまだ他のダンジョンも攻略する予定ですし」
「それは頼もしい。ぜひとも君たちの能力を存分に発揮してもらいたい。今後の活躍に期待を寄せているよ。もちろん自衛隊も君たちをバックアップするから、何かあったら頼っってもらいたい」
こうして一通りの挨拶とダンジョン攻略に関する祝辞が贈られると、いよいよ本題に入る。
「それで、当初の予想通りにダンジョンの最下層は異世界と繋がってたというのかね?」
「はい、実際に向こう側の世界をこの目で見てきました」
「単に見てきただけかね?」
「こちらに手出しするなという警告を発しておきましたが、魔族側がどのように受け取るかは全くの未知数です」
その他、魔族の社会に関するいくつかの話題を聡史が報告する。その内容は、魔王を中心とする貴族支配体制だとか、人族を見下して支配を目論んでいるとか、庶民は人間と大差ない中世レベルの暮らしを送っているなどといった話が中心となっている。
「最後にだが、君たちはなぜ阿蘇に転移したと考えているか聞かせてもらいたい」
岡山室長から聡史に対して転移の謎に関する質問が投げ掛けられる。これに関しては、聡史に何らかの思うところがあるよう。
「以前第10魔法学院のある生徒から『日本に点在するダンジョンにはある種の類似性がある』という話を聞いたことがあります。その話によると、ダンジョンは離れた場所にある2か所がひとつのペアになっているという興味深い考察でした」
「それは面白いな。続きを聞かせてくれるかね」
「これはあくまでも私見ですが、自分なりになぜ阿蘇ダンジョンに転移してきた理由を考えていました。その原因は地球に魔力が少ない点にあるかと思います」
「魔力が少ない… なるほど、それで?」
「転移するゲートを維持するには膨大な魔力が必要です。ですが地球には魔力が少ない。したがって、一箇所のダンジョンでは往復可能なゲートを構築できなかったのではないでしょうか。ダンジョンを創ったのが何者かは知りませんが」
「そこで行きと帰りのゲートを分けざるを得なかったという説か… なるほど、それは説得力があるな。何よりもそのゲートを潜った本人が言っているんだから信憑性が高いと言わざるを得ない」
「これは仮説ですから、この先もっと調査が必要でしょう。仮にこれが事実であるならば、魔族がこちらに侵攻可能なダンジョンは半数の六か所となります。それに、あちら側の貴族に吐かせた情報によるとまだ魔族たちも攻略できていないダンジョンがあるようです」
「あちらが未攻略ということは、そこから魔物が溢れ出てくる可能性が低いということになるのかな?」
「その通りだと思います。逆に過去に集団暴走を起こしたダンジョンは、いつでも魔族が通路に使用可能ということではないでしょうか」
岡山室長は、手元のタブレットで過去に魔物の集団暴走が起こった個所をすぐに調べる。それによると…
「なるほど… 出羽、那須、葛城の三か所は今後とも魔族の侵攻ルートとして使用される可能性が高いというわけだな。この三か所を重点的に監視すれば、ある程度は魔族の動きを防げそうだ。貴重な情報を得られたよ。君たちには心から感謝する」
こうして聡史たちの事情聴取は終わりを迎える。
デビル&エンジェルの大山ダンジョン完全攻略に関しては、ダンジョン管理事務所で再度綿密な聞き取りを行った上で政府を通じて公表される旨が聡史たちに伝えられており、それまでは口外しないように念押しされている。
昼食を市谷駐屯地で取った後に、デビル&エンジェルはダンジョン対策室が用意したワゴン車に乗って魔法学院へと向かう。車中では依然として明日香ちゃんが不機嫌だったのは言うまでもない。
◇◇◇◇◇
「師匠! 無事でよかったぁぁぁ!」
「師匠! 本当に心配したんですよ!」
「なかなか帰ってこないから、心配で寿命が縮まりましたよ!」
「みんな、もっと師匠を信じないとダメだぞ! 私のように絶対に帰ってくるとデンと構えていないとな」
「美晴が一番オロオロしていたじゃないのよ! 毎日に神社まで行って手を合わせていたのを今更なかったことにするんじゃないわよ!」
「いいじゃないか! 心配だったんだよ~」
車から降りて校舎へと向かう聡史の姿を目敏く見つけたブルーホライズンたちが駆け寄ってくる。彼女たちは口々に聡史たちの無事な帰還を喜んでいる。やや遅れて、桜が面倒を見ている男子たちもダッシュで駆けつける。
「ボス、お勤めご苦労さんです」
「ボス、さぞかしご活躍だったんでしょう! 一同ボスの土産話を楽しみにして待っておりました」
「もしかしてダンジョンを攻略したんですか?」
「バカ野郎! ボスなら攻略なんて当たり前だ! きっとコンビニに行くような感覚で最下層のラスボスをシメてきたに違いないぜ!」
脳筋共なのに、なぜか揃いも揃って勘がいい。彼らの脳内ではすでに桜がダンジョンを攻略したという既成事実が出来上がっているよう。本当は異世界の魔公爵までシメてきたのだが、その話はまだ口外できない。
「その話はあとでゆっくりするから、今はちょっと休ませてもらいたい。色々とあったから、さすがに今日一日休養させてもらうぞ」
パーティーを代表して聡史が答えると、出迎えメンバーたちは無理もないという表情で一歩下がる。聡史たちが一旦寮に入るところまで見送ってから、自主練の続きへと戻っていく。
桜と明日香ちゃんは、着替えを終えるなり学生食堂に一直線に突進する。ようやくホームグラウンドに戻ってきた解放感に浸りながら、食べ慣れた食事と甘いデザートを満喫するつもりのよう。
その後姿を見送ってから、聡史、美鈴、カレンの三人は学院長室へと向かう。学院に戻ったら顔を出せと、あらかじめ伝えられていた。
「失礼します」
聡史を先頭にして学院長室へと入っていくと、そこには書類から顔を上げたカレンの母親がこちらを見つめている。
「よく帰ってきてくれた。どうやら私の想像以上の収穫を得たようだな」
厳しい表情は相変わらずであるが、その目は娘の無事な姿を確認出来て普段よりも若干細められている。だがこの学院長は、そのような私用ではなくて公務を優先する人物でだと定評がある。まずは、今回の事実確認を真っ先に済ませておきたいのだろう。
「……ということで、魔族の世界をこの目で見てきました」
「そうか、ご苦労だった。しばらく休んで英気を養ってもらいたい」
市ヶ谷で説明した内容を聡史がもう一度繰り返すと、学院長は定型文的な慰労の言葉を発して何かを考える様子でしばらくは無言となる。やがて考えがまとまったのか、視線を聡史たちに向け直す。
「すまなかったな、魔族の侵攻に対する戦力配置を考えていた。幸いにして宇都宮の部隊が先日の魔物の反乱を鎮圧した結果、大幅なレベルアップを果たしている。彼らは現在那須ダンジョンの中層に入り込んで、更なるレベルアップを図っているらしい。この部隊を教導役にして全国の部隊を今後さらに鍛えていく方針だ。これでダンジョンの防衛は何とかなると思うが、諸君たちには引き続きダンジョン攻略に力を発揮してもらいたい」
「わかりました。俺たちが何もしなくても妹が勝手に動き出しますから、その点はどうぞご安心ください」
「ああ、そうだったな。あれは適当にストレス発散させないととんでもない事件を引き起こしそうだ。楢崎准尉、しっかり手綱を握っておいてもらいたい」
「准尉? 聡史君、どういう話なのかしら?」
学院長が聡史の階級に言及した点を美鈴は聞き逃さない。聡史は学院長に目で合図を送ってから美鈴に正直に答える。
「ああ、俺と桜は予備役の自衛隊員だ。学院長の指揮下に入っている」
聡史が説明すると学院長の目が光る。
「西川美鈴だったな。生徒会副会長として活動しながらダンジョン攻略を成し遂げるとは見上げたものだ。さて、楢崎准尉と同様に自衛隊に所属する気がないか?」
「お母さん、私も所属したいと考えています」
美鈴が返事をする前に、カレンが横から割り込んで意思を表明する。幼い頃から自衛隊に勤務する母親の背中を見て育った彼女は、いつかは自分もと常々考えていたよう。
「いいだろう。西川はどうするんだ?」
「はい、私も入隊します。今回のダンジョン攻略でカレンと並ぶ強力な力を得ましたので、今後の魔族との戦いにも役立てそうです」
「楢崎准尉、どういうことだ?」
「えーと、詳細は俺の口から言いにくいんですが、美鈴の中に眠っていた途轍もない魂が覚醒しました」
聡史は言葉を濁しながらも、美鈴の身に起きた出来事を学院長に説明している。これには学院長も大いに興味を惹かれた様子。
「カレンの天使の力に匹敵するとは、西川の中には何者が眠っていたんだ?」
「当人はルシファーと名乗っています。銀河の暗黒と闇の支配者らしいです」
「ほう、これは益々面白いな。ぜひとも日本の、ひいては地球の未来を守るために役立ててもらいたい」
学院長は美鈴の内部で覚醒したのがルシファーだと聞いても平然とした態度を崩さない。天使を生み出した張本人でもあるのだから当然といえば当然か。
こうして2名の予備役自衛官入隊が決まったところで、美鈴が最後に口を開く。
「学院長、ルシファーが覚醒した際に私の魔法に関する解析能力が大幅にレベルアップしました。これまで少しずつ解析していたものと合わせて、既存の魔法術式を全生徒に公開したいと思っているんですが、いかがでしょうか?」
「西川本人は、それでいいのか?」
「はい、私には他人がおいそれとは使用できない属性がありますから、それ以外の属性魔法に関しては公開しても構わないと考えています。それによって日本全体の魔法のレベルが上昇すれば、ダンジョン攻略や魔族に対する防衛力が強化されると期待しています」
「いいだろう。まずは何かしらの形でまとめたものを私の所へ持ってきてもらいたい。それを見てから、公開するものと非公開にしておくものを選別させてもらう」
「はい、よろしくお願いします」
美鈴も中々凄いことを考えている。闇魔法以外の他の属性魔法の術式を魔法学院生に公開しようという大胆なプラン。陰陽師をはじめとした日本の術者や中世ヨーロッパの宗教団体を源泉とする魔法結社が身内で秘術として術式を伝えてきたのとは対照的ともいえる発想ではないだろうか。
秘術の公開とは自らの手の内を晒すことに繋がる。だからこそ、各地の術者は自らの優位を保つために一族の秘伝として代々に渡り術式を秘匿してきたし、現在でも可能な限り表に出さないようにしている。それを美鈴は大々的に公開するというのだから、これは日本だけでなくて地球における魔法の革命となるだろう。
その後いくつかの話題を話し合って聡史たちは学院長室を辞していく。次にダンジョン管理事務所への事情説明が待っているので、あまりゆっくりと時間は取れなかった。
その頃、学生食堂では…
「桜ちゃん、やっとご褒美のデザートにありつけますよ~」
「明日香ちゃん、あまり調子に乗って食べ過ぎないでくださいね。お友達がダルマ体型になり果ててしまうのは、隣で見ていて居た堪れない気持ちですから」
「桜ちゃん、大丈夫ですよ~。ちゃんと運動もしますから」
「全然信用できないんですが…」
忙しく説明して回る聡史たちとは対照的にお気楽ぶり全開の明日香ちゃんであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「面白かった」
「続きが気になる」
「早く投稿して!」
と感じていただいた方は是非とも【お気に入り登録】や【いいねボタン】などをポチッとしていただくと作者のモチベーションに繋がります! いいねボタンにつきましては連打してもらえると大喜びしますのでどうぞよろしくお願いいたします。皆様の応援を心よりお待ちしております。
「てっきり大山ダンジョンだと思ったけど、まさか阿蘇に来ていたなんて…」
「1階層や出入り口の造りまでソックリだったから、全然区別がつかなかったわ」
カレンと美鈴が顔を見合わせている。かと思えば…
「桜ちゃん、晩ご飯はいつ食べられるのでしょうか?」
「明日香ちゃん、私もかなりお腹が空いてきて大ピンチを迎えています」
明日香ちゃんと桜は何はなくとも夕食の心配をしている。この二人には最も重大な問題なのだから仕方がない。二人に違いがあるとすれば、桜は単に空腹を満たしたいのに対して、明日香ちゃんは食後のデザートで頭がいっぱいという点だろう。
ここで聡史が…
「カレン、学院長と連絡はとれるか?」
「ああ、そうでした。ひとまず母に連絡してみます」
聡史の申し出にカレンがハッとした顔でスマホを取り出すと登録番号をプッシュ。
「もしもし、お母さん。カレンです」
「どこに行っていたんだ?! 3日も連絡なしで」
「ええぇぇぇぇ! 3日って何ですか?」
「お前たちのパーティーがダンジョンに入ったのが先週の土曜日だ。そして今日は月曜日。3日消息不明だったせいで学院とダンジョン管理事務所は大騒ぎだったんだぞ」
デビル&エンジェルの誰もが感覚的には今朝ダンジョンに入って最下層を攻略したのちに異世界を偵察して戻ってきたと捉えている。それが3日も経過しているというのは一体どういう話だとカレンはポカンとする。今日は驚きの連続であったが、その中でも最後の極め付きのビックリで間違いない。おそらくは転移の際に次元を超えたとか、時間の流れが違うとか、そんな影響が生じたのだと考えられる。異世界から戻ってきて3日程度ならば、まあまあ誤差の範囲内と考えていいだろう。
「お母さん、実は大山ダンジョンのラスボスを倒しまして… というわけで、現在阿蘇ダンジョンにいます」
「そうか… ずいぶん派手に暴れまわったな。自衛隊の高遊原分屯地に迎えを手配してもらうから、今晩はそちらに宿泊して明日戻ってくるんだ」
「はい、わかりました」
「戻ってきたらゆっくり話を聞かせてくれ」
こうして通話を終えると、カレンは学院長からの話を全員に伝える。
「それでは迎えが来るまでこの場で待っていようか」
ダンジョンを攻略するという世界初の偉業を達成した割には特に大した歓迎もなく、聡史たちはダンジョン管理事務所に置かれたベンチに腰掛けて迎えを待つ。
30分後にワゴン車が到着して、パーティーメンバーは阿蘇ダンジョンにほど近い高遊原分屯地へ向かうのであった。
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翌朝一番の飛行機でデビル&エンジェルは羽田空港に戻ってくる。そこには市ヶ谷のダンジョン対策室から寄越されたワゴン車が待ち受けており、彼らの身柄は一旦市ヶ谷駐屯地に迎え入れられる。
応接室で待っている一行だが、明日香ちゃんはなぜか憮然とした表情で腰掛けている。
「桜ちゃん、なんで昨日はデザートが用意されていないんですかぁぁぁ! ダンジョンを攻略したご褒美をとっても楽しみにしていたのに」
「明日香ちゃん、いくら何でも自衛隊の駐屯地でデザートまで要求するのは無理ですよ。その分空港で色々食べたから、それで我慢してください」
「飛行機の時間が迫っていたせいで食べ足りませんよ~。学院に戻ったら何を置いても食堂に向かいますからね」
甘~いデザートに対する明日香ちゃんの欲求は留まる所を知らないよう。
このような他愛もない話題を交わしている間に、応接室にダンジョン対策室のお偉方が入ってくる。
「お待たせしたね、私はダンジョン対策室長の岡山だ。この度はダンジョン完全攻略という偉業を成し遂げた君たちに対策室の責任者として感謝を申し上げる。本当によくやってくれた」
「いえ、それほど大したことではありませんから、そんなに褒めないでください。まだまだ他のダンジョンも攻略する予定ですし」
「それは頼もしい。ぜひとも君たちの能力を存分に発揮してもらいたい。今後の活躍に期待を寄せているよ。もちろん自衛隊も君たちをバックアップするから、何かあったら頼っってもらいたい」
こうして一通りの挨拶とダンジョン攻略に関する祝辞が贈られると、いよいよ本題に入る。
「それで、当初の予想通りにダンジョンの最下層は異世界と繋がってたというのかね?」
「はい、実際に向こう側の世界をこの目で見てきました」
「単に見てきただけかね?」
「こちらに手出しするなという警告を発しておきましたが、魔族側がどのように受け取るかは全くの未知数です」
その他、魔族の社会に関するいくつかの話題を聡史が報告する。その内容は、魔王を中心とする貴族支配体制だとか、人族を見下して支配を目論んでいるとか、庶民は人間と大差ない中世レベルの暮らしを送っているなどといった話が中心となっている。
「最後にだが、君たちはなぜ阿蘇に転移したと考えているか聞かせてもらいたい」
岡山室長から聡史に対して転移の謎に関する質問が投げ掛けられる。これに関しては、聡史に何らかの思うところがあるよう。
「以前第10魔法学院のある生徒から『日本に点在するダンジョンにはある種の類似性がある』という話を聞いたことがあります。その話によると、ダンジョンは離れた場所にある2か所がひとつのペアになっているという興味深い考察でした」
「それは面白いな。続きを聞かせてくれるかね」
「これはあくまでも私見ですが、自分なりになぜ阿蘇ダンジョンに転移してきた理由を考えていました。その原因は地球に魔力が少ない点にあるかと思います」
「魔力が少ない… なるほど、それで?」
「転移するゲートを維持するには膨大な魔力が必要です。ですが地球には魔力が少ない。したがって、一箇所のダンジョンでは往復可能なゲートを構築できなかったのではないでしょうか。ダンジョンを創ったのが何者かは知りませんが」
「そこで行きと帰りのゲートを分けざるを得なかったという説か… なるほど、それは説得力があるな。何よりもそのゲートを潜った本人が言っているんだから信憑性が高いと言わざるを得ない」
「これは仮説ですから、この先もっと調査が必要でしょう。仮にこれが事実であるならば、魔族がこちらに侵攻可能なダンジョンは半数の六か所となります。それに、あちら側の貴族に吐かせた情報によるとまだ魔族たちも攻略できていないダンジョンがあるようです」
「あちらが未攻略ということは、そこから魔物が溢れ出てくる可能性が低いということになるのかな?」
「その通りだと思います。逆に過去に集団暴走を起こしたダンジョンは、いつでも魔族が通路に使用可能ということではないでしょうか」
岡山室長は、手元のタブレットで過去に魔物の集団暴走が起こった個所をすぐに調べる。それによると…
「なるほど… 出羽、那須、葛城の三か所は今後とも魔族の侵攻ルートとして使用される可能性が高いというわけだな。この三か所を重点的に監視すれば、ある程度は魔族の動きを防げそうだ。貴重な情報を得られたよ。君たちには心から感謝する」
こうして聡史たちの事情聴取は終わりを迎える。
デビル&エンジェルの大山ダンジョン完全攻略に関しては、ダンジョン管理事務所で再度綿密な聞き取りを行った上で政府を通じて公表される旨が聡史たちに伝えられており、それまでは口外しないように念押しされている。
昼食を市谷駐屯地で取った後に、デビル&エンジェルはダンジョン対策室が用意したワゴン車に乗って魔法学院へと向かう。車中では依然として明日香ちゃんが不機嫌だったのは言うまでもない。
◇◇◇◇◇
「師匠! 無事でよかったぁぁぁ!」
「師匠! 本当に心配したんですよ!」
「なかなか帰ってこないから、心配で寿命が縮まりましたよ!」
「みんな、もっと師匠を信じないとダメだぞ! 私のように絶対に帰ってくるとデンと構えていないとな」
「美晴が一番オロオロしていたじゃないのよ! 毎日に神社まで行って手を合わせていたのを今更なかったことにするんじゃないわよ!」
「いいじゃないか! 心配だったんだよ~」
車から降りて校舎へと向かう聡史の姿を目敏く見つけたブルーホライズンたちが駆け寄ってくる。彼女たちは口々に聡史たちの無事な帰還を喜んでいる。やや遅れて、桜が面倒を見ている男子たちもダッシュで駆けつける。
「ボス、お勤めご苦労さんです」
「ボス、さぞかしご活躍だったんでしょう! 一同ボスの土産話を楽しみにして待っておりました」
「もしかしてダンジョンを攻略したんですか?」
「バカ野郎! ボスなら攻略なんて当たり前だ! きっとコンビニに行くような感覚で最下層のラスボスをシメてきたに違いないぜ!」
脳筋共なのに、なぜか揃いも揃って勘がいい。彼らの脳内ではすでに桜がダンジョンを攻略したという既成事実が出来上がっているよう。本当は異世界の魔公爵までシメてきたのだが、その話はまだ口外できない。
「その話はあとでゆっくりするから、今はちょっと休ませてもらいたい。色々とあったから、さすがに今日一日休養させてもらうぞ」
パーティーを代表して聡史が答えると、出迎えメンバーたちは無理もないという表情で一歩下がる。聡史たちが一旦寮に入るところまで見送ってから、自主練の続きへと戻っていく。
桜と明日香ちゃんは、着替えを終えるなり学生食堂に一直線に突進する。ようやくホームグラウンドに戻ってきた解放感に浸りながら、食べ慣れた食事と甘いデザートを満喫するつもりのよう。
その後姿を見送ってから、聡史、美鈴、カレンの三人は学院長室へと向かう。学院に戻ったら顔を出せと、あらかじめ伝えられていた。
「失礼します」
聡史を先頭にして学院長室へと入っていくと、そこには書類から顔を上げたカレンの母親がこちらを見つめている。
「よく帰ってきてくれた。どうやら私の想像以上の収穫を得たようだな」
厳しい表情は相変わらずであるが、その目は娘の無事な姿を確認出来て普段よりも若干細められている。だがこの学院長は、そのような私用ではなくて公務を優先する人物でだと定評がある。まずは、今回の事実確認を真っ先に済ませておきたいのだろう。
「……ということで、魔族の世界をこの目で見てきました」
「そうか、ご苦労だった。しばらく休んで英気を養ってもらいたい」
市ヶ谷で説明した内容を聡史がもう一度繰り返すと、学院長は定型文的な慰労の言葉を発して何かを考える様子でしばらくは無言となる。やがて考えがまとまったのか、視線を聡史たちに向け直す。
「すまなかったな、魔族の侵攻に対する戦力配置を考えていた。幸いにして宇都宮の部隊が先日の魔物の反乱を鎮圧した結果、大幅なレベルアップを果たしている。彼らは現在那須ダンジョンの中層に入り込んで、更なるレベルアップを図っているらしい。この部隊を教導役にして全国の部隊を今後さらに鍛えていく方針だ。これでダンジョンの防衛は何とかなると思うが、諸君たちには引き続きダンジョン攻略に力を発揮してもらいたい」
「わかりました。俺たちが何もしなくても妹が勝手に動き出しますから、その点はどうぞご安心ください」
「ああ、そうだったな。あれは適当にストレス発散させないととんでもない事件を引き起こしそうだ。楢崎准尉、しっかり手綱を握っておいてもらいたい」
「准尉? 聡史君、どういう話なのかしら?」
学院長が聡史の階級に言及した点を美鈴は聞き逃さない。聡史は学院長に目で合図を送ってから美鈴に正直に答える。
「ああ、俺と桜は予備役の自衛隊員だ。学院長の指揮下に入っている」
聡史が説明すると学院長の目が光る。
「西川美鈴だったな。生徒会副会長として活動しながらダンジョン攻略を成し遂げるとは見上げたものだ。さて、楢崎准尉と同様に自衛隊に所属する気がないか?」
「お母さん、私も所属したいと考えています」
美鈴が返事をする前に、カレンが横から割り込んで意思を表明する。幼い頃から自衛隊に勤務する母親の背中を見て育った彼女は、いつかは自分もと常々考えていたよう。
「いいだろう。西川はどうするんだ?」
「はい、私も入隊します。今回のダンジョン攻略でカレンと並ぶ強力な力を得ましたので、今後の魔族との戦いにも役立てそうです」
「楢崎准尉、どういうことだ?」
「えーと、詳細は俺の口から言いにくいんですが、美鈴の中に眠っていた途轍もない魂が覚醒しました」
聡史は言葉を濁しながらも、美鈴の身に起きた出来事を学院長に説明している。これには学院長も大いに興味を惹かれた様子。
「カレンの天使の力に匹敵するとは、西川の中には何者が眠っていたんだ?」
「当人はルシファーと名乗っています。銀河の暗黒と闇の支配者らしいです」
「ほう、これは益々面白いな。ぜひとも日本の、ひいては地球の未来を守るために役立ててもらいたい」
学院長は美鈴の内部で覚醒したのがルシファーだと聞いても平然とした態度を崩さない。天使を生み出した張本人でもあるのだから当然といえば当然か。
こうして2名の予備役自衛官入隊が決まったところで、美鈴が最後に口を開く。
「学院長、ルシファーが覚醒した際に私の魔法に関する解析能力が大幅にレベルアップしました。これまで少しずつ解析していたものと合わせて、既存の魔法術式を全生徒に公開したいと思っているんですが、いかがでしょうか?」
「西川本人は、それでいいのか?」
「はい、私には他人がおいそれとは使用できない属性がありますから、それ以外の属性魔法に関しては公開しても構わないと考えています。それによって日本全体の魔法のレベルが上昇すれば、ダンジョン攻略や魔族に対する防衛力が強化されると期待しています」
「いいだろう。まずは何かしらの形でまとめたものを私の所へ持ってきてもらいたい。それを見てから、公開するものと非公開にしておくものを選別させてもらう」
「はい、よろしくお願いします」
美鈴も中々凄いことを考えている。闇魔法以外の他の属性魔法の術式を魔法学院生に公開しようという大胆なプラン。陰陽師をはじめとした日本の術者や中世ヨーロッパの宗教団体を源泉とする魔法結社が身内で秘術として術式を伝えてきたのとは対照的ともいえる発想ではないだろうか。
秘術の公開とは自らの手の内を晒すことに繋がる。だからこそ、各地の術者は自らの優位を保つために一族の秘伝として代々に渡り術式を秘匿してきたし、現在でも可能な限り表に出さないようにしている。それを美鈴は大々的に公開するというのだから、これは日本だけでなくて地球における魔法の革命となるだろう。
その後いくつかの話題を話し合って聡史たちは学院長室を辞していく。次にダンジョン管理事務所への事情説明が待っているので、あまりゆっくりと時間は取れなかった。
その頃、学生食堂では…
「桜ちゃん、やっとご褒美のデザートにありつけますよ~」
「明日香ちゃん、あまり調子に乗って食べ過ぎないでくださいね。お友達がダルマ体型になり果ててしまうのは、隣で見ていて居た堪れない気持ちですから」
「桜ちゃん、大丈夫ですよ~。ちゃんと運動もしますから」
「全然信用できないんですが…」
忙しく説明して回る聡史たちとは対照的にお気楽ぶり全開の明日香ちゃんであった。
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洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
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うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
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5/6_18:00完結!
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不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
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