異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節

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第106話 新たな誘い

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 聡史たちが学院に戻った翌日…


「お兄様、大変です! コカトリスの納入がこのままでは間に合いそうもありません」

 桜が焦った表情で聡史の元に詰め掛けている。週末から月曜日にかけて3日間学院を不在にしていたおかげで、学生食堂のコカトリスの肉の在庫が底をつきそうという緊急事態を迎えているらしい。何しろ生徒たちの一番人気の食材だけに、このまま放置はできない。下手をすると暴動が発生する可能性すらある。食べ物の恨みはどこの世界においても最も恐ろしいと言わざるを得ない。


「オークのほうは大丈夫なのか?」

「はい、あちらは下請けに丸投げしてありますので問題ありません」

 どうやらブルーホライズンと頼朝たちがオーク肉の確保に精を出してくれているらしい。食堂への納入は順調に継続されている。オーク討伐を繰り返したおかげで、各自のレベルが結構な勢いで上昇していると小耳にはさんでいる。


「仕方がないから今日の午後は12階層でコカトリス狩りをしてもらうか。俺はブルーホライズンと一緒に5階層のダンジョンボスを突破してくるから、あとは桜に任せるぞ」

「承知しましたわ。このところ明日香ちゃんが何もしていないので精々頑張ってもらいます」

 階層ボスやラスボス戦を繰り返した前回の攻略では、さすがに明日香ちゃんの出番は最初しか回ってこなかったのも致し方ない。今日は森林階層を歩き回って、ぜひともカロリーを消費してもらいたい。


 

 こうしてこの日の午後は、聡史ひとりがブルーホライズンと一緒にダンジョンの5階層に入っていく。


「やったぜ! 師匠と一緒にダンジョンに入るのは久しぶりだな」

「美晴ちゃんが毎日神社にお参りしたご利益かしら?」

「そ、その話は恥ずかしいからもうやめてくれ~」

 聡史たちの不在の間、美晴が一番狼狽していた件を真美にからかわれている。今ではこうして笑い話にできるが、あの3日間は美晴だけではなくてブルーホライズンのメンバーは気が気ではなかったのは前述した通り。


「それよりも今日は初めて階層ボスに挑むから、なんだか緊張するわね」

「いよいよ私たちもここまで来たかという気がするわ」

 渚とほのかは表情を若干強張らせ気味の様子。だが美晴はここぞとばかりに強気に出る。


「ガハハハハ! 相手はゴブリンキングなんだろう。どっちみちゴブリンに毛が生えたようなものだぜ。私が一捻りにしてやるから」

 階層ボスをバカにしたような美晴の態度に、このパーティーのリーダーを務める真美が彼女を諫めにかかる。しっかり者の真美のおかげで聡史が口をはさむ手間は必要ないよう。


「美晴、師匠の教えをしっかり守りなさい。どんな相手でも過小評価は禁物よ」

「サーセンでした。調子に乗りました」

 素直に反省するのが美晴の長所だろう。真美の注意に改めて気を引き締めている。

 こうして聡史に付き添われたブルーホライズンは、ダンジョン入り口付近にある転移魔法陣に乗って5階層に降り立っていく。そのまま一直線にボス部屋がある場所に向かうと、美晴を先頭にして内部へと踏み込む。


「想像よりもデカいんだな」

「しかも手下まで引き連れているわね」

 事前に聞いてはいたが、こうして目の当たりにするとゴブリンキングの大きさにブルーホライズンは圧倒される思いを感じている。

 ウガガガァァ!

 立ち止まって動きを見せないブルーホライズンに対して、ゴブリンキングはその間に配下のゴブリンに命令を下す。その命に従って、合計10体の配下がブルーホライズンに向かって牙を剥き出して迫りくる。


「千里、魔法を放って!」

「ファイアーボール!」

 ドゴーン!

 こちらに向かってこようとするゴブリン集団の一歩手前で炸裂した千里の魔法は効果的にゴブリンたちを足止めしている。10体が爆風に煽られて尻もちをついており、まさに討ち取るチャンスと言わんばかりの情けない醜態を晒す。


「今よ! 前衛は打ち掛かって」

「行くぜぇ!」

 盾を構えた美晴を先頭にして、渚、ほのか、絵美の三人が槍と剣を構えてゴブリンたちに殺到。その間に千里は立ち位置を変えて、ボス部屋の奥に立っているゴブリンキングにファイアーボールを放つ。

 ザシュッ! ザシュッ! ガキン! ドカーン!

 剣と槍が次々にゴブリンの体に突き刺さって血の海に沈めていく。立ち上がろうとするゴブリンは美晴がシールドバッシュで吹き飛ばす。

 前衛があらかた配下のゴブリンを片付けたと見るや、真美は千里にもう一発ゴブリンキングに向けて魔法を指示する。


「ファイアーボール!」

 ドカーン!

 2発のファイアーボールは明らかにゴブリンキングにダメージを与えている。顔や肩から血を流して、動きそのものが大幅に鈍っている様子。


「私が斬り込むから、後に続いて」

 真美は2本の細剣を握り締めると、ゴブリンキングに向かってダッシュしていく。

 ウガガガァァァ!

 接近を図る真美に対してゴブリンキングには手にする剣を振り下ろしてくる。だが魔法によるダメージによってその動きは明らかに鈍い。

 カキーン!

 真美の右手の剣が軽々とゴブリンキングの剣を受け止めている。そして残った左手の剣を魔物の心臓付近に突き刺す。その直後には、やや遅れて駆け付けた渚と絵美が左右から胴体に槍を突き入れる。

 ズシーン!

 魔物の巨体がゆっくりと前方に倒れていく。こうしてゴブリンキングはブルーホライズンによって討伐される。聡史の目から見ても、その戦いぶりに危なげな点は見当たらない。


「よし、合格だな」

「やったぜぇぇ! 師匠からお墨付きをもらったぞ」

「私たちの手で階層ボスを倒したのね」

「師匠についてきて、本当に良かったぁぁ!」

 ブルーホライズンの面々は感無量という表情をしながら床に吸収されていく魔物の姿を見つめている。これまでの彼女たちの努力を考えると、その感慨は他人には計り知れないものがあるかもしれない。


 そしてブルーホライズンの目の前にはダンジョンに入って初めて目にする宝箱が出現す。


「ど、どうする? 宝箱なんて初めて見たぞ」

「美晴ちゃん、ちょっと落ち着きなさいってば」

「渚、宝箱を調べてみてよ」

 急に現れた宝箱に気が動転しまくっている美晴をほのかが宥めている。脳筋の割には突発的な出来事に慌てふためく美晴。対して渚は宝箱に異常がないか調べている。


「大丈夫みたい。開けてみるからちょっと離れていて」

 渚が宝箱の蓋を開けると、そこには…


「腕輪みたいだな… 師匠、これは何でしょうか?」

「ちょっと貸してもらえるか」

 聡史は渚から腕輪を受け取ると、一旦アイテムボックスに仕舞い込む。そしてインデックスを見てみると…


「どうやら防御力をアップする腕輪のようだな。誰が身に着けるんだ?」

「美晴ちゃんでいいでしょう。いつも一番前で頑張ってくれているから」

「そうよね、美晴は常に体を張っているから、防御力が上がればその分危険がが減るわ」

 どうやら意見が一致している模様なので、聡史は美晴に腕輪を手渡す。


「な、なんだか悪いな。皆さん、ありがとうございます」

 素直に頭を下げてから、美晴は聡史から腕輪を受け取る。階層ボス討伐のご褒美を得て美晴は喜色満面の様子。


「よし、それでは6階層に降りてみようか」

 こうしてブルーホライズンは、初の6階層へと降りていくのであった。

 


   ◇◇◇◇◇




 夕方になって、一足先にダンジョンを出た聡史とブルーホライズンは桜たちが出てくるのを待っている。

 今日は5階層のボスを倒しただけでなくて、6階層でもオークを中心にリザード系の魔物を相手にしてかなりの収穫を得ている。

 しばらく待っていると、買取カウンターに持ち込んだドロップアイテムの査定結果が出る。


「お待たせしました、ブルーホライズンの皆さん。ドロップアイテムの買い取り代金はこちらになります」

 真美がカウンターに顔を出すと、係員が買取金額の詳細を説明しだす。


「ブラックリザードの革が6千円、オークの魔石が6百円、ブラックウルフの毛皮が3千円、ブラッディバッドの魔石が8百円、ゴブリンキングの魔石が2万4千円、それぞれに数を掛けますと〆て5万円で、源泉徴収10パーセントを差し引いて4万5千円となります」

「す、すごい金額…」

 この他にもオーク肉を80キロ相当獲得しているので、こちらも5万円近い収入となる。午後からの半日でこの収穫は、今まで5階層で活動していた時と比較して倍近い金額に相当する。真美が目を丸くするのも頷ける話。


 買い取り代金を真美が受け取っている頃、ちょうど桜たちが戻ってくる。


「お兄様、どうもお待たせいたしました」

「全員、お疲れさんだったな」

 どう見ても明日香ちゃんがバテバテの様子。前回の攻略では歩いているだけだったので、久しぶりのまともな戦闘が足腰にきているよう。もうちょっと根本から鍛え直さないとダメだぞ!

 その時、聡史のスマホが着信を告げる。


「もしもし、楢崎ですが」

 見慣れない番号表示に、誰だろうと訝しみながら聡史が出てみると…


「サトシ! 大山ダンジョンを攻略したのはあなたたちでしょう! 絶対に間違いないわ」

 聞き覚えのある声だが、聡史には声の主が誰であるのかピンとこない。まだ公式発表は行われていないにも拘らず、声の主は一体どこから情報を得ているのだろうと聡史は不審に思う。


「えーと、どちらさんですか?」

「もう、声だけでわかるでしょう! 私は第4魔法学院のマギーよ」

「ああ、やっと思い出したぞ。久しぶりだな」

 八校戦の後夜祭でマギーと連絡先を交換したのを聡史はすっかり忘れていたよう。マギーならばアメリカ政府に内通している日本政府高官から情報を得るのはたやすい話だと、聡史には合点がいく。


「それで、攻略者はあなたたちなんでしょう。今ここで白状なさい」

「ノーコメントだ」

「沈黙は肯定と見做すわよ」

 マギーも中々強引な論法を用いるものだと苦笑する聡史に、マギーはさらに続ける。


「それよりも、私たちは筑波ダンジョンの攻略に行き詰っているのよ。次の週末にでも手を貸してもらえないかしら?」

 どうやらこちらが本題のらしい。聡史ひとりでは決断できない案件がマギーから提示されてきている。


「その件はパーティーメンバーと相談させてもらう。学院からも外泊許可を得ないとまずいからな」

「いいわ、良い返事を待っているから、早めに連絡してもらえるかしら?」

「わかったよ、明日までには返事をする」

「それじゃあね」

 こうしてマギーとの通話を終えると、聡史の目の前にはオイシそうな話が舞い込んできたと目をキラキラさせている桜がいる。


「お兄様、どのようなお誘いですか?」

 桜は何らかの誘いがあったと勘付いているよう。この娘の勘の精度は尋常ではない。


「第4魔法学院のマギーが筑波ダンジョンの攻略を手伝ってもらいたいと言ってきた」

「お兄様、義を見てせざるはなんとやらと申します! 早速明日にでも出掛けましょう」

「授業をほっぽり出せるかぁ! 週末だ、週末まで待つんだ」

「待ち遠しいですわ」

 どうやら桜の意志は固いよう。こんなオイシイ話を見逃すなど、桜にとっては間違ってもあり得ない。というか、頼まれなくても自分から押し掛けていくのが桜という人間の恐るべき行動力。

 他のメンバーはどうかというと…


「いいんじゃないのかしら」

「他所のダンジョンも、もっと見ておきたいですね」

「桜ちゃん、オヤツはいくらまでですか?」

 約一名、遠足と勘違いしている人物がいるが、まあこの際いいとしよう。それよりも聡史の目には、桜同様に瞳をキラキラさせている集団が映っている。


「師匠! 私たちも初の遠征ですか」

「他のダンジョンがどうなっているか、この目でしっかり見てきます」

「同じ場所だけではなくて視野を広く持つのは大切ですよね」

 階層ボスを倒した勢いに駆られたブルーホライズンの面々までが、筑波ダンジョン行きを志願している。イケイケの女子たちの勢いに聡史は完全に押しまくられている。


「わ、分かったから。学院長の許可をもらったら全員連れていくから」

 これを聞いたカレンは、スッと自分のスマホを聡史に差し出す。そのスマホは手回しがいいことにすでに学院長と通話が繋がっている。


「学院長、楢崎です」

「カレンが急用だというから出てみれば、一体何の用件だ?」

「実は、第4魔法学院の留学生からダンジョン攻略の応援要請がありました」

「ああ、いいぞ。行ってこい。ついでに攻略してきても全然構わない。むしろラスボスを倒すまで帰ってくるな!」

 学院長らしい返答が返ってくる。「人使いが荒いにも程があるぞ」と聡史は抗議の一つも声を上げたい気分だろう。


「それから、ブルーホライズンも一緒に連れて行っていいでしょうか?」

「1年女子の生きのいい連中か。別にいいんじゃないか」

 こうして学院長はあっさりと彼女たちの同行も認める。もう聡史にはどこにも逃げ場はない。通話を終えると彼は全員に向き直る。


「来週末は、この場にいる全員で筑波ダンジョンに向かう。各自泊まり掛けの準備を整えておくように」

「「「「「「やったぁぁぁ!」」」」」」

 ブルーホライズンの歓声が、ダンジョン管理事務所に響くのであった。


     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

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