マドンナからの愛と恋

山田森湖

文字の大きさ
1 / 26

高校時代のマドンナ

しおりを挟む
高校時代のマドンナ

俺、コウジは高校生の頃、水泳部に所属していた。
うちの水泳部には“マドンナ”と呼ばれる同級生・レナがいた。スタイルは抜群で胸も大きく、性格も明るく優しいと評判だった。
レナに惚れていた男子はたくさんいて、俺もその一人だった。

でも、レナの隣にはいつも誰かがいた。野球部のエース、バスケ部のキャプテン……。
そんな強敵たちには敵わないと思った俺は、アプローチすることもできず、ただ同じ部活でレナの水着姿を見られることだけを小さな喜びにしていた。
そんなほろ苦い、いや苦いだけの高校生活が終わった。

それから時が過ぎて、今の俺は33歳の会社員。役職はついているが名ばかり。金はあるが、時間はない。
休日も寝て起きて酒を飲むだけの繰り返し。

そんなある日、同僚が街コンに誘ってきた。彼は彼女探しが目的だったけれど、俺はというと、
「3000円で飲み食いできるならまあいいか」と参加することに。

当日、小綺麗な格好で会場へ。
ぽっちゃり好きな同僚は、すぐに二人組の女性に声をかけた。
俺も後から合流し、近くの喫茶店に入ることになった。

向かい合わせに座ったとき、女性のひとりが小さく「えっ」とつぶやいた。
俺もその顔を見て「……あっ」と声を漏らした。

その女性は、レナだった。

首元のほくろ。間違いない。高校時代、何度も目にした。
だけど目の前のレナは、当時の面影とは違っていた。

「ごめんなさい、ねぇ、こっちの席行こう。邪魔しちゃ悪いから」
そう言ってレナが俺の手を引き、離れた席に移動する。

「ねぇ、なんでここにいるの?」
「そっちこそ……ってか、びっくりだよ」

「コウジくんも彼女探し?」
「えっ……まぁね」
食事目当てとは言えなかった。

「レナちゃんってモテモテだったのに、なんで?」
「ねぇ、聞いてよ。大学卒業してすぐに結婚したの。でもさ、そこから少し太っちゃって。そしたら“もう無理”って言われてさ、浮気されたの」
「……へぇ、そんなことが」
「その後、大学時代の元カレから“やり直そう”って言われて会ってみたけど、やっぱり“違う”って……もう最悪」

確かに容姿は変わっていた。
でも俺の中のレナは、あの頃のまま、明るくてみんなを笑顔にする“マドンナ”だった。

「ねぇ、あそこの焼肉屋でご飯食べようよ。いいでしょ?」
「う、うん。いいよ」

俺は同僚と別れて、レナと二人で焼肉屋へ。

そこでのレナは、見事な食べっぷりだった。
大盛りごはんにカルビ、ロース、牛タン、ハラミ……次々に平らげていく。

「おいしいね。はい、コウジくんの分」
そう言って俺の皿に肉をのせるレナの笑顔に、思わずドキッとする。
かつて声すらかけられなかったレナが、こんなふうに接してくれるなんて、夢みたいだった。

街コンが終わる頃には、レナと連絡先を交換していた。

「コウジくん、今日はありがとう。またご飯行こうね?」
「うん、行こうか」

その夜、レナから電話がかかってきた。

「今日はありがとう。ちょっと聞いてもいい?」
「うん、どうしたの?」
「私さ……こんなに太っちゃって、みんな離れていくんだよ……」

少し泣きそうな声だった。

「俺はなんとも思わないよ。俺にとっては、高校のときのレナちゃんと変わらないよ。
かわいくて、優しくて、笑顔が素敵だよ」

「……ありがとう、ほんとにありがとう。絶対また会おうね?」
「もちろん。俺でよければ、いつでも」

久々に、心が満たされた。
ぐうたらな週末は終わりだ。

よし、明日は久しぶりに市民プールでも行って泳いでくるか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

夫婦交錯

山田森湖
恋愛
同じマンションの隣の部屋の同い年の夫婦。思いの交錯、運命かそれとも・・・・。 少しアダルトなラブコメ

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】幼なじみと一緒

山田森湖
恋愛
実家に戻ったショウコは、隣に住む幼なじみトオルと再会。 再会した幼なじみとの時間が、心に新しい灯をともしていく

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...