マドンナからの愛と恋

山田森湖

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彼女を守るって決めた日

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彼女を守るって決めた日

おれ、コウジは34歳の会社員。
街コンで、同じ高校・同じ水泳部だったレナと再会した。

当時、彼女はマドンナ的な存在だった。でも今は、少しぽっちゃりした体型に変わっていた。
それでも、おれにはレナが眩しく見えた。

再会をきっかけに、レナと一緒にウォーキングを始めた。週に一度は会うようになって、一緒に水泳も再開した。
距離はどんどん縮まり、気づけば俺たちは付き合うようになった。

付き合って半年ほどたったある日のこと。仕事中にレナからメッセージが来た。
「今日さ、何時に帰る?相談があるんだ」

そんな文面は初めてで、胸がざわついた。
「たぶん定時で帰るよ」
「じゃあ、駅で待ってる」
「わかった」

絵文字ひとつないメッセージが、妙に不安を煽った。

駅に着くと、レナが少し周囲を気にしながら待っていた。駅近くのファミレスに入り、席についたレナは、開口一番に言った。

「あのさ、ちょっと相談があるんだ」
「どうしたの?」

レナはスマホを取り出し、写真を見せてきた。夜のレナ宅の窓から外を撮った写真だった。暗くて、最初は何も見えない。

「これ……どうしたの?」
「よく見て」

拡大してよく見ると、建物の影に“人影”があった。

「見えた?」
「うん……確かに、人影が」
「この人、つけてくるの」
「えっ、それって……」
「たぶんね、水泳部の人だと思う」

写真をさらに拡大して見てみる。
「あっ……こいつ……」

間違いなかった。高校時代の同級生。同じ水泳部にいた、俺と同じような陰キャの男だった。昔、そいつが「レナのことが好きだった」って言ってたのを思い出した。

「この人、3年前にもいたんだ。そのときは警察に相談して、いなくなったんだけど……また現れたの」

これは……正直、警察に相談するレベルの話だ。
でも、知ってる相手を警察に突き出すのは、俺としても気が引ける。

「コウジ、どうしよう。怖くて……」
「そうだよね……じゃあさ、今度“偶然を装って”会ってみるよ。話してみたら、なんとかなるかもしれない」

その夜、ファミレスでの食事を終えて、レナを自宅まで送った。確かにあの道は、暗がりもあって、女性一人じゃ不安だろう。

レナによれば、そいつは不定期に現れるらしい。でも、駅のあたりからつけてきていることが多いという。
俺はレナの帰宅時間に合わせて、見張ることにした。

そして──いた。
明らかに離れた距離からレナを尾行している。レナがわざと迂回したり引き返しても、やつはついてきた。

俺は決めた。

「おー、久しぶり」

驚いた顔をしたそいつが、振り返った。

「えっ、あ、あー……コウジじゃん。久しぶり……」
「何年ぶりだろうな。そうだ、一緒に飲もうよ」
「えっ、あ、えーっと……」

そいつの視線は、まだレナを追っていた。

「駅前にいい居酒屋あるんだ。行こうぜ。奢るからさ」

そう言ってレナを見えなくさせ、やつを居酒屋に連れていった。
酒が進むと、やっぱり話題はレナだった。

「レナちゃん、いたじゃん。高校時代のマドンナ。あの子、この辺に住んでるんだよ」
「へぇ……そうなんだ」
「ちょっと前に見たらさ、太ってて幻滅したんだけど、最近痩せてきてて……ムチムチでちょうどいいんだよ」
「……」
「一回でもいいから、大人の関係にならないかな~」
「でもレナちゃん、彼氏いるんじゃない?」
「いてもいいんだよ。そういうのはさ」

──思考が危ない。これは見過ごせない。
けれど、事件として立証するには弱い……警察がどこまで動いてくれるかはわからない。

次の日、俺はレナにすべてを話した。
レナは怖がっていた。

だから、俺は思い切って言った。

「もし良かったら、一緒に住まない? いまの場所、引っ越して……どうかな」

突然の提案だった。

「私が……コウジと……?」
「ごめん、急だったよね」
「ちょっと考えさせて。ごめんね」

ファミレスを出た後、うつむきがちなレナの表情が気になった。

家に帰る途中、ふと思い出した。
レナは以前、結婚していたときに男性と一緒に住んでいて、あまり良い思い出がなかったという話をしていた。

しまった……嫌な記憶を呼び起こしてしまったかもしれない。

俺はすぐにメッセージを送った。

「さっきのこと、気にしないで。無理ならそれで大丈夫。もしそのままでも、俺はレナを守るから。嫌なこと思い出させたなら、ごめん」

けれど、レナからの返信はなかった。
次の日も、そのまた次の日も。

俺からは、連絡できなかった。
その間も、俺はレナの家の周りを見回っていた。

そして──2日後。
レナからメッセージが届いた。

「仕事終わり、会える?」

俺は、社会人生活史上最速で仕事を終わらせた。
定時のチャイムと同時に会社を飛び出し、駅でレナを待った。

「コウジ、おまたせ」
「レナ、おつかれさま」
「……またファミレスで」

曇った表情のまま、レナは席に座った。
俺は黙って、彼女が話し出すのを待った。

「コウジ……一緒に住む話なんだけど」
「うん」
「……私、一緒に住みたい。コウジとなら、住みたい」

胸がじんと熱くなった。

「そうか。……わかった」

それしか言えなかった。
“やった!”って気持ちはあったのに、言葉が出てこない。大事な時に、語彙力のなさが出る。

「明日さ、ウォーキング終わったら……家、探しに行こう」
「うん、行こう」
「レナと俺の……愛の巣だね」
「なにそれ~!」

レナが笑った。
その顔が見られただけで、何もかもが報われた気がした。

……ってか、愛の巣って。
我ながら、だめだこりゃ。

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