マドンナからの愛と恋

山田森湖

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もう一度、君と泳ぐ

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もう一度、君と泳ぐ

おれ、コウジ。35歳の会社員。

街コンで、同じ高校・同じ水泳部だったレナと再会した。
当時、彼女はマドンナ的な存在。でも今は少しぽっちゃりしていて──それでも、可愛さは変わってなかった。

それがきっかけで、レナと週に一度ウォーキングを始めた。やがて一緒にプールにも通うようになり、自然と距離が縮まっていった。
そして、俺たちは付き合うことになった。

ある日、レナが「夜道で誰かにつけられている気がする」と相談してきた。
俺は心配になり、同棲と引っ越しを提案した。バツイチのレナは迷いながらも「わかった」と頷いてくれた。

それから俺たちは、ウォーキングのあとに新居を探すのが日課になった。生活圏は少し変わるが、安全のためには仕方ない。
少し離れた場所の不動産屋にも足を運んだ。

新居なんて久しぶりだ。駅までの距離や、近くのスーパーをチェックしながら、ワクワクが止まらない。
それも、レナと一緒に住むことを想像するからだ。

けれど、俺の希望よりも大事なのはレナの暮らしやすさだ。
今日はいくつか物件を見て、一旦切り上げて俺の部屋で作戦会議。

「やっぱり、高い物件って綺麗だよね」
「そうそう。どこかで妥協しなきゃね」

駅チカで部屋が広くて、キッチンが綺麗で、しかも家賃も手頃──そんな理想物件は、そうそう見つからない。

翌日、ドライブを兼ねて物件探しへ。
ウォーキングやプールが近くにある場所を優先して探してみた。

そのとき、ふと気づいたことがある。
レナは、子供が好きなのだ。

ウォーキング中、公園で遊ぶ子供たちを優しい目で見つめ、転んだ子を助けたり、飛び出してきたボールを拾ってあげたり──
そのときのレナの表情が、なんとも優しかった。

俺たちは夜の営みもしているけど、避妊している。
レナから「子供がほしい」と言われたこともなかった。

もし──レナが本当は子供を望んでいたとしたら?

年齢のこともある。高齢出産は身体への負担が大きい。
レナが過去に子供を産んでいるかもわからない。

家に帰ってから、意を決して聞いてみた。

「なあ、レナって──子供、好き?」
「えっ……まあ、好きだけど。どうしたの?」

「……子供、欲しいと思ったこと、ある?」

レナは一瞬、黙り込んだ。そして、俺の目をまっすぐに見つめてきた。

「コウジは? 子供、欲しい?」
「うん、好きだよ」
「……それ、本当に? 嘘じゃない?」
「えっ?」

急にレナが詰め寄ってきた。何か、ただ事じゃない気迫を感じた。

「ご、ごめん。大きな声、出しちゃって……」
「ううん、何かあったの?」

レナは、初めての結婚のときの話をしてくれた。
当時の夫は「子供が好き」と言っていたのに、いざ妊娠の話になると「やっぱりいらない」と言い出したらしい。

そのときのショックがトラウマになっていて、今まで口にできなかったという。

「そうだったんだ……レナ、ごめんね」
「ううん、いいの。コウジには話しておかなきゃって思ってたから」

「俺はさ──レナとの子供が欲しいよ」

「えっ……でも私たち、まだ──」

「ああ、そっか。結婚してなかったな。……早とちりだった、ははは」

レナは、笑わなかった。

「ごめんね、レナ」
「ううん……大丈夫だよ」

俺はレナの手を握って言った。

「レナ、俺と結婚してくれないか?」

これは、賭けだったかもしれない。
でも、レナの不安を取り除いて、未来を一緒に描けるなら──それだけで十分だった。

「コウジ……私、バツイチだけど……いいの?」
「もちろん、いいよ」
「私、太ってるけど……いいの?」
「関係ないよ」
「私、甘えん坊だけど……いいの?」
「むしろ大歓迎」
「私、ちょっとエッチだけど……いいの?」
「そこも、いいよ」

レナは涙を浮かべて、微笑んだ。

「ありがとう、コウジ。私……結婚する」

俺たちは、強く抱きしめ合った。

憧れだった人と、人生を共にすることになるなんて。
嬉しさよりも、守っていきたいという使命感が溢れた。

その夜、初めて避妊をしなかった。
快楽ではなく、責任と未来への覚悟だった。

あのときのレナの顔──一生、忘れない。

「コウジ、ありがとう」
「こちらこそ。これからも、よろしくね」
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