マドンナからの愛と恋

山田森湖

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星の下に生まれた日

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星の下に生まれた日

おれ、コウジ。37歳の会社員。
街コンで、同じ高校・同じ水泳部だったレナと再会した。
当時、彼女はマドンナ的な存在。でも今は少しぽっちゃりしていて──それでも、可愛さは変わっていなかった。

それがきっかけで、レナと週に一度ウォーキングを始めた。やがて一緒にプールにも通うようになり、自然と距離が縮まっていった。
そして俺たちは結婚し、子宝にも恵まれた。

レナはずっと子どもを望んでいたから、妊娠がわかったときは本当に嬉しかった。
日に日に大きくなるレナのお腹とともに、俺たちの期待も膨らんでいく。

「コウジ、これ食べたーい」
「わかった、買ってくるね」

妊婦は急に特定のものが食べたくなるって聞くけど、うちの場合はフライドポテトだった。
お腹の子のために栄養をしっかり取ってもらって、元気になってくれればそれでいい。

ウォーキングは続けていた。もちろん、無理のない範囲で。それでもレナは体を動かしたいみたいだった。
公園のベンチで休んでいると、近くで遊んでいた子どもがレナに話しかけてきた。
子どもの目線に合わせて会話をするレナを見て、「本当に子どもが好きなんだな」と思った。

レナの体を気づかい、俺たちは布団を別にして寝るようにした。どうしても一緒だと、俺が寝返りをうってしまうから。

「コウジ、名前、決めた?」
「いやー、まだ決めてないよ」
「可愛い名前がいいな」
「キラキラネーム?」
「違うよー。女の子っぽい漢字の名前がいいなって思って」
「レナに似て、きっと可愛い子だからな」
「もう、やめてよ」

そんなやりとりも、毎日が楽しい。

「そういえば、この前お母さんが来て、いろいろやってくれたよ。でもね、コウジくんは?って何度も聞かれたの」
「ははは、照れ隠しだろ」
「違うよ、まだ狙ってるんじゃない?」
「狙ってるって……」

冗談みたいだけど、お義母さんが来てくれるとやっぱり安心する。

そして、予定日が近づくにつれ、俺の方がそわそわしてきた。
こういうとき、女性のほうが肝が据わっている。だからこそ、俺はいつも通り仕事をしていた方が落ち着いた。
お義母さんが付き添ってくれるというし、安心して任せることにした。

そして当日。仕事を終えて産婦人科に向かうと、レナはすでに入院していた。
夜になっても、分娩室からはまだ出てこない。

「お義母さん、こんばんは」
「あら、コウジくん。お仕事お疲れ様」

俺は買ってきたお茶を差し出した。

「ありがとう。コウジくんはほんとに優しいのね。惚れ直しちゃうわ」
「ははは……ありがとうございます。レナは大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。初産だし、時間がかかるのは仕方ないわ」

俺もお茶で一息ついた。

「そろそろ出産かしら。じゃあ私は帰るわね」
「えっ、いいんですか?」
「いいのよ。これから1ヶ月は家にいるんだから、その時にたっぷりお世話するわ」

ペットボトルを受け取った俺に、お義母さんがふと真顔で言った。

「コウジくん、お願いがあるの。レナに、優しくしてあげてね」
「はい、もちろんです」
「レナ、少し男性不信なの。前の結婚でも、いい思い出がなかったみたい。それに離婚後も、変な男に言い寄られて。私が言うのもなんだけど、あの子は綺麗だから、それ目当てで近づいてくる男が多かったの。男って、女の顔と体ばっかり見てるものよ」

俺はレナの言動に、思い当たる節があった。

「でもね、コウジくんは違うと思ったの。優しくて、レナを本当に大切にしてくれてるって感じたから。だから、私たち家族はコウジくんのことが好きなのよ」

その言葉に、胸が熱くなった。
レナの言わなかった過去。親が子を思う気持ち。
全部が心に染みた。

そのとき──分娩室のドアが開いた。

「あー、お父さんですか? 生まれましたよ」

「見られちゃったわね。じゃあね」と、お義母さんはそそくさと帰っていった。

元気に泣いている娘を見て、俺は心から安心した。

「元気に生まれてきてくれて、ありがとう」

看護師に案内され、病室に入ると、レナが静かに寝ていた。

「レナ、お疲れ様」
「コウジ……あれ、お母さんは?」
「家に帰ったよ。退院したらお世話してくれるってさ」
「そっか。……良かった、無事に生まれて」
「ほんとに、お疲れ様。ありがとう」
「うん……私、眠くなっちゃった」
「ゆっくり休んで。明日また来るから。母さんにも伝えとくね」
「うん……帰ったら一緒に寝ようね」

目を閉じたレナを見つめ、そっと病室を後にする。

外に出ると、空には星が瞬いていた。
つい勝手に星を繋げて、レナと娘の顔を思い浮かべてしまう。

……浮かれてるな、俺。
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