21 / 26
星の下に生まれた日
しおりを挟む
星の下に生まれた日
おれ、コウジ。37歳の会社員。
街コンで、同じ高校・同じ水泳部だったレナと再会した。
当時、彼女はマドンナ的な存在。でも今は少しぽっちゃりしていて──それでも、可愛さは変わっていなかった。
それがきっかけで、レナと週に一度ウォーキングを始めた。やがて一緒にプールにも通うようになり、自然と距離が縮まっていった。
そして俺たちは結婚し、子宝にも恵まれた。
レナはずっと子どもを望んでいたから、妊娠がわかったときは本当に嬉しかった。
日に日に大きくなるレナのお腹とともに、俺たちの期待も膨らんでいく。
「コウジ、これ食べたーい」
「わかった、買ってくるね」
妊婦は急に特定のものが食べたくなるって聞くけど、うちの場合はフライドポテトだった。
お腹の子のために栄養をしっかり取ってもらって、元気になってくれればそれでいい。
ウォーキングは続けていた。もちろん、無理のない範囲で。それでもレナは体を動かしたいみたいだった。
公園のベンチで休んでいると、近くで遊んでいた子どもがレナに話しかけてきた。
子どもの目線に合わせて会話をするレナを見て、「本当に子どもが好きなんだな」と思った。
レナの体を気づかい、俺たちは布団を別にして寝るようにした。どうしても一緒だと、俺が寝返りをうってしまうから。
「コウジ、名前、決めた?」
「いやー、まだ決めてないよ」
「可愛い名前がいいな」
「キラキラネーム?」
「違うよー。女の子っぽい漢字の名前がいいなって思って」
「レナに似て、きっと可愛い子だからな」
「もう、やめてよ」
そんなやりとりも、毎日が楽しい。
「そういえば、この前お母さんが来て、いろいろやってくれたよ。でもね、コウジくんは?って何度も聞かれたの」
「ははは、照れ隠しだろ」
「違うよ、まだ狙ってるんじゃない?」
「狙ってるって……」
冗談みたいだけど、お義母さんが来てくれるとやっぱり安心する。
そして、予定日が近づくにつれ、俺の方がそわそわしてきた。
こういうとき、女性のほうが肝が据わっている。だからこそ、俺はいつも通り仕事をしていた方が落ち着いた。
お義母さんが付き添ってくれるというし、安心して任せることにした。
そして当日。仕事を終えて産婦人科に向かうと、レナはすでに入院していた。
夜になっても、分娩室からはまだ出てこない。
「お義母さん、こんばんは」
「あら、コウジくん。お仕事お疲れ様」
俺は買ってきたお茶を差し出した。
「ありがとう。コウジくんはほんとに優しいのね。惚れ直しちゃうわ」
「ははは……ありがとうございます。レナは大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。初産だし、時間がかかるのは仕方ないわ」
俺もお茶で一息ついた。
「そろそろ出産かしら。じゃあ私は帰るわね」
「えっ、いいんですか?」
「いいのよ。これから1ヶ月は家にいるんだから、その時にたっぷりお世話するわ」
ペットボトルを受け取った俺に、お義母さんがふと真顔で言った。
「コウジくん、お願いがあるの。レナに、優しくしてあげてね」
「はい、もちろんです」
「レナ、少し男性不信なの。前の結婚でも、いい思い出がなかったみたい。それに離婚後も、変な男に言い寄られて。私が言うのもなんだけど、あの子は綺麗だから、それ目当てで近づいてくる男が多かったの。男って、女の顔と体ばっかり見てるものよ」
俺はレナの言動に、思い当たる節があった。
「でもね、コウジくんは違うと思ったの。優しくて、レナを本当に大切にしてくれてるって感じたから。だから、私たち家族はコウジくんのことが好きなのよ」
その言葉に、胸が熱くなった。
レナの言わなかった過去。親が子を思う気持ち。
全部が心に染みた。
そのとき──分娩室のドアが開いた。
「あー、お父さんですか? 生まれましたよ」
「見られちゃったわね。じゃあね」と、お義母さんはそそくさと帰っていった。
元気に泣いている娘を見て、俺は心から安心した。
「元気に生まれてきてくれて、ありがとう」
看護師に案内され、病室に入ると、レナが静かに寝ていた。
「レナ、お疲れ様」
「コウジ……あれ、お母さんは?」
「家に帰ったよ。退院したらお世話してくれるってさ」
「そっか。……良かった、無事に生まれて」
「ほんとに、お疲れ様。ありがとう」
「うん……私、眠くなっちゃった」
「ゆっくり休んで。明日また来るから。母さんにも伝えとくね」
「うん……帰ったら一緒に寝ようね」
目を閉じたレナを見つめ、そっと病室を後にする。
外に出ると、空には星が瞬いていた。
つい勝手に星を繋げて、レナと娘の顔を思い浮かべてしまう。
……浮かれてるな、俺。
おれ、コウジ。37歳の会社員。
街コンで、同じ高校・同じ水泳部だったレナと再会した。
当時、彼女はマドンナ的な存在。でも今は少しぽっちゃりしていて──それでも、可愛さは変わっていなかった。
それがきっかけで、レナと週に一度ウォーキングを始めた。やがて一緒にプールにも通うようになり、自然と距離が縮まっていった。
そして俺たちは結婚し、子宝にも恵まれた。
レナはずっと子どもを望んでいたから、妊娠がわかったときは本当に嬉しかった。
日に日に大きくなるレナのお腹とともに、俺たちの期待も膨らんでいく。
「コウジ、これ食べたーい」
「わかった、買ってくるね」
妊婦は急に特定のものが食べたくなるって聞くけど、うちの場合はフライドポテトだった。
お腹の子のために栄養をしっかり取ってもらって、元気になってくれればそれでいい。
ウォーキングは続けていた。もちろん、無理のない範囲で。それでもレナは体を動かしたいみたいだった。
公園のベンチで休んでいると、近くで遊んでいた子どもがレナに話しかけてきた。
子どもの目線に合わせて会話をするレナを見て、「本当に子どもが好きなんだな」と思った。
レナの体を気づかい、俺たちは布団を別にして寝るようにした。どうしても一緒だと、俺が寝返りをうってしまうから。
「コウジ、名前、決めた?」
「いやー、まだ決めてないよ」
「可愛い名前がいいな」
「キラキラネーム?」
「違うよー。女の子っぽい漢字の名前がいいなって思って」
「レナに似て、きっと可愛い子だからな」
「もう、やめてよ」
そんなやりとりも、毎日が楽しい。
「そういえば、この前お母さんが来て、いろいろやってくれたよ。でもね、コウジくんは?って何度も聞かれたの」
「ははは、照れ隠しだろ」
「違うよ、まだ狙ってるんじゃない?」
「狙ってるって……」
冗談みたいだけど、お義母さんが来てくれるとやっぱり安心する。
そして、予定日が近づくにつれ、俺の方がそわそわしてきた。
こういうとき、女性のほうが肝が据わっている。だからこそ、俺はいつも通り仕事をしていた方が落ち着いた。
お義母さんが付き添ってくれるというし、安心して任せることにした。
そして当日。仕事を終えて産婦人科に向かうと、レナはすでに入院していた。
夜になっても、分娩室からはまだ出てこない。
「お義母さん、こんばんは」
「あら、コウジくん。お仕事お疲れ様」
俺は買ってきたお茶を差し出した。
「ありがとう。コウジくんはほんとに優しいのね。惚れ直しちゃうわ」
「ははは……ありがとうございます。レナは大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。初産だし、時間がかかるのは仕方ないわ」
俺もお茶で一息ついた。
「そろそろ出産かしら。じゃあ私は帰るわね」
「えっ、いいんですか?」
「いいのよ。これから1ヶ月は家にいるんだから、その時にたっぷりお世話するわ」
ペットボトルを受け取った俺に、お義母さんがふと真顔で言った。
「コウジくん、お願いがあるの。レナに、優しくしてあげてね」
「はい、もちろんです」
「レナ、少し男性不信なの。前の結婚でも、いい思い出がなかったみたい。それに離婚後も、変な男に言い寄られて。私が言うのもなんだけど、あの子は綺麗だから、それ目当てで近づいてくる男が多かったの。男って、女の顔と体ばっかり見てるものよ」
俺はレナの言動に、思い当たる節があった。
「でもね、コウジくんは違うと思ったの。優しくて、レナを本当に大切にしてくれてるって感じたから。だから、私たち家族はコウジくんのことが好きなのよ」
その言葉に、胸が熱くなった。
レナの言わなかった過去。親が子を思う気持ち。
全部が心に染みた。
そのとき──分娩室のドアが開いた。
「あー、お父さんですか? 生まれましたよ」
「見られちゃったわね。じゃあね」と、お義母さんはそそくさと帰っていった。
元気に泣いている娘を見て、俺は心から安心した。
「元気に生まれてきてくれて、ありがとう」
看護師に案内され、病室に入ると、レナが静かに寝ていた。
「レナ、お疲れ様」
「コウジ……あれ、お母さんは?」
「家に帰ったよ。退院したらお世話してくれるってさ」
「そっか。……良かった、無事に生まれて」
「ほんとに、お疲れ様。ありがとう」
「うん……私、眠くなっちゃった」
「ゆっくり休んで。明日また来るから。母さんにも伝えとくね」
「うん……帰ったら一緒に寝ようね」
目を閉じたレナを見つめ、そっと病室を後にする。
外に出ると、空には星が瞬いていた。
つい勝手に星を繋げて、レナと娘の顔を思い浮かべてしまう。
……浮かれてるな、俺。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる