マドンナからの愛と恋

山田森湖

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君を抱きしめる理由が増えた

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君を抱きしめる理由が増えた

おれ、コウジ。37歳の会社員。
街コンで、同じ高校・同じ水泳部だったレナと再会した。
当時、彼女はマドンナ的な存在。でも今は少しぽっちゃりしていて──それでも、可愛さは変わっていなかった。

それがきっかけで、レナと週に一度ウォーキングを始めた。やがて一緒にプールにも通うようになり、自然と距離が縮まっていった。
そして俺たちは結婚し、レナは女の子を出産した。

出産後、レナは実家に1ヶ月ほど戻ることになり、俺は毎週会いに行っては、オムツ替えやミルクの作り方、赤ちゃんの抱き方までレクチャーされた。

「コウジくん、もっと優しく優しく。レナを抱くときみたいに優しくよ」
「お母さん、何言ってんのよ」
「ふふふ、その方がわかりやすいでしょ」
「は、はい……」

お義母さんの冗談交じりの説明には肝を冷やすことも多い。でも、なんだか楽しんでいるようでもあった。何も言われないよりはいいか。

そして1ヶ月が過ぎた今日、新居に赤ちゃんを迎え入れることになった。
レナに言われて準備しておいた赤ちゃんの寝床もばっちりだ。

「お義母さん、ありがとうございました」
「あら、もう終わりなのね。寂しくなるわ」
「お母さん、ありがとう。また来るね」
「そのときはコウジくんも来てよ」

お義母さんは手を振って送り出してくれた。

さて、ここからが本番だ。
普段の生活に、赤ちゃんとの暮らしが加わる。
帰りに買い物へ寄ると、ベビーカーに赤ちゃんを乗せての買い物は初めてのことばかりで戸惑うことも多い。
赤ちゃんの寝起きにすぐ反応してしまう俺に対して、レナは落ち着いていた。これに慣れていかなくては。

家に帰ると、レナは早速赤ちゃんの寝床を整え始めた。生活は完全に赤ちゃん中心になる。
3時間おきに寝たり起きたりを繰り返すので、ゆっくりと話す時間もなかなか取れない。
「夜なら」と思うものの、レナは赤ちゃんと一緒に寝ているため、それも難しかった。

「コウジ、赤ちゃんが夜中起きちゃうから、別の部屋で寝よっか。仕事もあるし、疲れてるでしょ」
「でも、何か手伝えることは……」
「大丈夫。心配しないで」

心配よりも、レナとの時間が減ることのほうが寂しかった。

3ヶ月くらい経った頃だろうか。赤ちゃん中心の生活に、俺も慣れ始めた。
レナの疲れを気遣いながら、一人で寝る夜が続いていた。

暗い部屋で、スマホを手にしていたとき──

「ねえ、何見てるの?」

レナが俺に後ろから抱きついてきた。

「レナ、あれ? ユキは?」
「寝てるよ、ぐっすり」
「大丈夫なの?」
「うん。コウジ、ごめんね。あんまり話せなかったよね」
「いや、しょうがないよ」
「私は、しょうがなくない。コウジと話したい。ちゃんと、触れたい」

レナはユキのことではなく、自分の気持ちをたくさん話した。
もしかしたら、俺以上にストレスが溜まっていたのかもしれない。

「あー、それ……コウジ、エッチなの見てたでしょ」
「いや、それはさ、その……」

するとレナは俺の手を取り、自分の胸に置いた。

「ねえ、今日は私を見て。久しぶりに、愛してほしい」

久しぶりに感じたレナの温もり。
強く抱きしめ合い、互いの愛を確かめ合った。

添い寝していると、隣の部屋からユキの泣き声が聞こえてきた。
レナは布団を抜け、部屋へ向かう。

「レナ、俺も何か──」
「コウジ、ありがとう。大丈夫だよ。おやすみ」

レナは、俺以上に何かを我慢しているのかもしれない。
まだまだ俺、ダメだな。

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