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第4話「何も起きない日常」
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第4話「何も起きない日常」
日曜日の朝。俺は昨日の疲れで昼近くまで寝ていた。
リビングに行くと、美咲はソファでパソコンを開いていた。休日でも仕事をしている。いつものことだ。
「おはよう」
「おはよう。もう昼だよ」
「悪い、疲れてて」
美咲は画面から目を離さずに返事をする。
俺は冷蔵庫を開けて、牛乳を飲む。朝食を作る気力もない。
「昼、何食べる?」
「適当でいいよ」
適当。
最近、この言葉ばかりだ。
俺はカップラーメンを作って、ダイニングテーブルに座る。美咲はまだパソコンの前だ。
「仕事?」
「うん。締め切りが近いの」
「そっか」
それ以上、会話は続かない。
午後、俺はゲームを始めた。オンラインで知らない誰かと協力するゲーム。画面の中では、俺は英雄だ。
美咲は相変わらずパソコンの前。
たまにため息が聞こえる。
「大丈夫?」
「うん、ちょっと煮詰まってて」
「コーヒー淹れようか?」
「ありがと」
俺はコーヒーを淹れて、美咲のそばに置く。
「ありがとう」
美咲は一瞬だけ俺を見て、微笑む。
その笑顔が、なぜか遠く感じた。
夜、一緒にテレビを見る。
バラエティ番組。芸人が大げさに騒いでいる。美咲は笑っている。俺も笑う。
でも、何を見ているのか、頭に入ってこない。
「今週も仕事忙しそう?」
美咲が訊いてくる。
「まあ、新しいプロジェクトが始まったからな」
「大変だね」
「美咲も締め切りあるんだろ?」
「うん。今週中には終わらせないと」
「頑張れよ」
「うん」
また沈黙。
テレビの笑い声だけが響く。
俺たち、何を話せばいいんだろう。
月曜日。また仕事が始まる。
会社に着くと、みなみが明るく挨拶してきた。
「おはようございます!」
「おはよう」
「田中さん、今日もよろしくお願いします」
彼女の笑顔を見ると、少し元気になる。
午前中、みなみと一緒にミーティングに出席した。彼女は真剣にメモを取っている。
ミーティングが終わって、二人でデスクに戻る。
「桜井さん、さっきのミーティング、理解できた?」
「はい。でも、ちょっと難しかったです」
「分からないことあったら聞いて」
「ありがとうございます。田中さんって、本当に優しいですよね」
またその言葉。
「そんなことないよ」
「いえ、本当です。私、田中さんみたいな先輩がいてくれて、すごく心強いです」
みなみは真っ直ぐに俺を見て言う。
その視線が、少し眩しかった。
ランチタイム。佐藤と社食に向かう途中、みなみが一人で歩いているのが見えた。
「桜井さん、一緒にランチ行く?」
俺が声をかけると、彼女は嬉しそうに振り返った。
「いいんですか?」
「もちろん」
三人で社食へ。
佐藤が調子に乗って、みなみにいろいろ質問している。
「桜井さん、彼氏いるの?」
「いないです」
「マジで?可愛いのに」
みなみは照れくさそうに笑う。
「佐藤さん、からかわないでください」
「からかってないって。田中さんもそう思うでしょ?」
急に話を振られて、俺は戸惑う。
「まあ、可愛いとは思うけど」
「田中さんまで!」
みなみは頬を赤らめる。
その顔を見て、俺の心臓が少しだけ跳ねた。
午後、みなみが俺のデスクに来た。
「田中さん、今日帰り、時間ありますか?」
「どうした?」
「ちょっと相談したいことがあって…仕事のことなんですけど」
「ああ、いいよ。どこかで話そうか」
「ありがとうございます!」
仕事が終わって、みなみと会社近くのカフェに入った。
「何を相談したいの?」
「実は、次のプロジェクトのこと、ちょっと不安で…」
みなみは真剣な顔で話し始める。
俺は彼女の話を聞きながら、アドバイスをする。
「桜井さんなら大丈夫だよ。真面目だし、飲み込みも早いし」
「本当ですか?」
「本当」
みなみは安心したように微笑む。
「田中さんがそう言ってくれると、自信が持てます」
その言葉が、俺を嬉しくさせる。
美咲は最近、俺を頼ってくれない。
でも、みなみは違う。俺の言葉を真剣に聞いてくれる。
カフェを出て、駅まで一緒に歩く。
「今日はありがとうございました」
「いや、大したことしてないよ」
「いえ、すごく助かりました。また相談、乗ってください」
「いつでも」
みなみは嬉しそうに笑って、手を振って去っていった。
俺はその後ろ姿を見送る。
携帯を見ると、美咲からLINEが入っていた。
『夕飯いる?』
『今から帰る。いらない』
『分かった』
それだけ。
帰宅すると、美咲はまたソファでパソコンを開いていた。
「おかえり」
「ただいま」
「遅かったね」
「ちょっと仕事で」
嘘じゃない。でも、全部の真実でもない。
美咲は特に追及してこない。
「シャワー浴びてくる」
「うん」
シャワーを浴びながら、今日のことを思い返す。
みなみの笑顔。「また相談乗ってください」という言葉。
別に、何も考えてない。
ただの後輩だ。
でも、彼女といると、何だか自分が必要とされている気がする。
美咲といると、そう感じることが少なくなった。
寝室に入ると、美咲はすでにベッドにいた。
「疲れた?」
「まあまあ」
電気を消す。
暗闇の中で、美咲の気配を感じる。
今日は抱く気にならなかった。
ただ、眠りたかった。
「おやすみ」
「おやすみ」
そして、俺は目を閉じた。
日曜日の朝。俺は昨日の疲れで昼近くまで寝ていた。
リビングに行くと、美咲はソファでパソコンを開いていた。休日でも仕事をしている。いつものことだ。
「おはよう」
「おはよう。もう昼だよ」
「悪い、疲れてて」
美咲は画面から目を離さずに返事をする。
俺は冷蔵庫を開けて、牛乳を飲む。朝食を作る気力もない。
「昼、何食べる?」
「適当でいいよ」
適当。
最近、この言葉ばかりだ。
俺はカップラーメンを作って、ダイニングテーブルに座る。美咲はまだパソコンの前だ。
「仕事?」
「うん。締め切りが近いの」
「そっか」
それ以上、会話は続かない。
午後、俺はゲームを始めた。オンラインで知らない誰かと協力するゲーム。画面の中では、俺は英雄だ。
美咲は相変わらずパソコンの前。
たまにため息が聞こえる。
「大丈夫?」
「うん、ちょっと煮詰まってて」
「コーヒー淹れようか?」
「ありがと」
俺はコーヒーを淹れて、美咲のそばに置く。
「ありがとう」
美咲は一瞬だけ俺を見て、微笑む。
その笑顔が、なぜか遠く感じた。
夜、一緒にテレビを見る。
バラエティ番組。芸人が大げさに騒いでいる。美咲は笑っている。俺も笑う。
でも、何を見ているのか、頭に入ってこない。
「今週も仕事忙しそう?」
美咲が訊いてくる。
「まあ、新しいプロジェクトが始まったからな」
「大変だね」
「美咲も締め切りあるんだろ?」
「うん。今週中には終わらせないと」
「頑張れよ」
「うん」
また沈黙。
テレビの笑い声だけが響く。
俺たち、何を話せばいいんだろう。
月曜日。また仕事が始まる。
会社に着くと、みなみが明るく挨拶してきた。
「おはようございます!」
「おはよう」
「田中さん、今日もよろしくお願いします」
彼女の笑顔を見ると、少し元気になる。
午前中、みなみと一緒にミーティングに出席した。彼女は真剣にメモを取っている。
ミーティングが終わって、二人でデスクに戻る。
「桜井さん、さっきのミーティング、理解できた?」
「はい。でも、ちょっと難しかったです」
「分からないことあったら聞いて」
「ありがとうございます。田中さんって、本当に優しいですよね」
またその言葉。
「そんなことないよ」
「いえ、本当です。私、田中さんみたいな先輩がいてくれて、すごく心強いです」
みなみは真っ直ぐに俺を見て言う。
その視線が、少し眩しかった。
ランチタイム。佐藤と社食に向かう途中、みなみが一人で歩いているのが見えた。
「桜井さん、一緒にランチ行く?」
俺が声をかけると、彼女は嬉しそうに振り返った。
「いいんですか?」
「もちろん」
三人で社食へ。
佐藤が調子に乗って、みなみにいろいろ質問している。
「桜井さん、彼氏いるの?」
「いないです」
「マジで?可愛いのに」
みなみは照れくさそうに笑う。
「佐藤さん、からかわないでください」
「からかってないって。田中さんもそう思うでしょ?」
急に話を振られて、俺は戸惑う。
「まあ、可愛いとは思うけど」
「田中さんまで!」
みなみは頬を赤らめる。
その顔を見て、俺の心臓が少しだけ跳ねた。
午後、みなみが俺のデスクに来た。
「田中さん、今日帰り、時間ありますか?」
「どうした?」
「ちょっと相談したいことがあって…仕事のことなんですけど」
「ああ、いいよ。どこかで話そうか」
「ありがとうございます!」
仕事が終わって、みなみと会社近くのカフェに入った。
「何を相談したいの?」
「実は、次のプロジェクトのこと、ちょっと不安で…」
みなみは真剣な顔で話し始める。
俺は彼女の話を聞きながら、アドバイスをする。
「桜井さんなら大丈夫だよ。真面目だし、飲み込みも早いし」
「本当ですか?」
「本当」
みなみは安心したように微笑む。
「田中さんがそう言ってくれると、自信が持てます」
その言葉が、俺を嬉しくさせる。
美咲は最近、俺を頼ってくれない。
でも、みなみは違う。俺の言葉を真剣に聞いてくれる。
カフェを出て、駅まで一緒に歩く。
「今日はありがとうございました」
「いや、大したことしてないよ」
「いえ、すごく助かりました。また相談、乗ってください」
「いつでも」
みなみは嬉しそうに笑って、手を振って去っていった。
俺はその後ろ姿を見送る。
携帯を見ると、美咲からLINEが入っていた。
『夕飯いる?』
『今から帰る。いらない』
『分かった』
それだけ。
帰宅すると、美咲はまたソファでパソコンを開いていた。
「おかえり」
「ただいま」
「遅かったね」
「ちょっと仕事で」
嘘じゃない。でも、全部の真実でもない。
美咲は特に追及してこない。
「シャワー浴びてくる」
「うん」
シャワーを浴びながら、今日のことを思い返す。
みなみの笑顔。「また相談乗ってください」という言葉。
別に、何も考えてない。
ただの後輩だ。
でも、彼女といると、何だか自分が必要とされている気がする。
美咲といると、そう感じることが少なくなった。
寝室に入ると、美咲はすでにベッドにいた。
「疲れた?」
「まあまあ」
電気を消す。
暗闇の中で、美咲の気配を感じる。
今日は抱く気にならなかった。
ただ、眠りたかった。
「おやすみ」
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そして、俺は目を閉じた。
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