曖昧な距離で愛している

山田森湖

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第6話「それぞれの欲求」

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第6話「それぞれの欲求」


水曜日の午後、みなみが俺のデスクに来た。

「田中さん、ちょっといいですか?」

「どうした?」

「この資料、チェックしてもらえますか?」

俺は資料を受け取り、目を通す。

「うん、いいんじゃない?よくできてる」

「本当ですか!」

みなみは嬉しそうに笑う。

その笑顔を見ると、俺も自然と笑顔になる。

「桜井さん、成長したね」

「田中さんのおかげです」

「そんなことないよ」

「いえ、本当です。田中さんがいなかったら、私、ここまでできませんでした」

その言葉が、俺の心を満たす。

夕方、佐藤が俺に話しかけてきた。

「田中さん、桜井さんと仲良いよね」

「まあ、教育係だからな」

「いいなあ。俺も桜井さんと仲良くなりたいわ」

「お前、いつもそんなことばっか言ってるな」

「だって可愛いじゃん」

佐藤は軽い調子で言うが、俺は少し不快になる。

みなみは、そういう目で見る対象じゃない。

少なくとも、俺にとっては。

その夜、帰宅すると、美咲はいなかった。

テーブルにメモが置いてある。

『友達と会ってる。夕飯は適当に食べて』

友達。千晶だろう。

俺はコンビニで弁当を買って、一人で食べる。

テレビをつける。バラエティ番組。

一人で笑う。

でも、何だか虚しい。

夜十時過ぎ、美咲が帰ってきた。

「おかえり」

「ただいま。ごめん、遅くなって」

「千晶と飲んでたの?」

「うん」

美咲は少し酔っているようだ。頬が赤い。

「楽しかった?」

「うん、楽しかった」

美咲はそのまま寝室へ向かった。

俺はソファに座ったまま、携帯を見る。

LINEを開くと、みなみからメッセージが入っていた。

『今日もありがとうございました!明日もよろしくお願いします』

スタンプ付き。笑顔の猫。

俺は返信する。

『こちらこそ。明日も頑張ろう』

送信して、画面を閉じる。

寝室に入ると、美咲はすでに眠っていた。

俺はベッドに入り、彼女の寝顔を見る。

この人と、どれくらい会話してないだろう。

ちゃんとした会話。

最近、美咲は俺に興味がない気がする。

それとも、俺が美咲に興味を失っているのか。

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