曖昧な距離で愛している

山田森湖

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第7話「再会の温度」

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第7話「再会の温度」


水曜日、私は健人と会う約束をしていた。

拓海には何も言わなかった。

言う必要もない。ただの友達だから。

でも、朝、鏡の前で少し長く身支度をしている自分に気づいた。

メイクも、いつもより丁寧にする。

服も、何度か着替える。

これは、何なんだろう。

午後三時、代官山のカフェで健人と待ち合わせた。

彼は先に来ていて、窓際の席に座っていた。

「久しぶり」

「久しぶり。座って」

私は彼の向かいに座る。

健人は相変わらず、ラフな格好。でも、どこか洗練されている。

「元気だった?」

「うん、元気。健人は?」

「俺も。最近、仕事が忙しくてさ」

健人はコーヒーを一口飲んで、微笑む。

「美咲、今日も綺麗だね」

その言葉に、私の心臓が跳ねる。

綺麗。

拓海は最近、私にそんなこと言わない。

「ありがとう」

健人と話していると、時間を忘れる。

仕事のこと。趣味のこと。昔の友人のこと。

そして、結婚生活のこと。

「美咲、幸せ?」

健人が訊く。

「まあ、普通かな」

「普通か。それって、幸せなのか、不幸なのか、分からないよね」

「そうかもね」

私は自分のコーヒーを見つめる。

「健人は、結婚しないの?」

「しないと思う。俺、一人のほうが楽だから」

「寂しくない?」

「たまにね。でも、自由のほうが大事」

健人は笑う。

その笑顔が、昔と変わっていなくて、少し切なくなる。

カフェを出て、二人で代官山を歩く。

「美咲、覚えてる?ここ、昔よく来たよね」

「覚えてる」

大学時代、私たちはよくこの街を歩いた。

手を繋いで、何でもない話をして、笑い合って。

「あの頃は楽しかったな」

健人が呟く。

「うん」

私もそう思う。

あの頃は、毎日がキラキラしていた。

駅まで歩いて、健人と別れる。

「また会おうね」

「うん、また」

健人は手を振って、去っていった。

私はその場に立ち尽くす。

胸の中が、ざわざわする。

これは、何なんだろう。

帰宅すると、拓海はまだ帰っていなかった。

私は一人でソファに座り、携帯を見る。

健人からLINEが入っていた。

『今日は楽しかった。美咲と話せて、昔を思い出したよ』

私は返信する。

『私も楽しかった。ありがとう』

送信して、画面を閉じる。

罪悪感。

でも、同時に、心地よさもある。

夜九時過ぎ、拓海が帰ってきた。

「おかえり」

「ただいま」

拓海はいつも通り、シャワーを浴びに行く。

私は夕飯を温めて、テーブルに並べる。

「今日、何してた?」

拓海が訊いてくる。

「仕事してた」

嘘だ。

でも、言えない。

「そっか」

拓海は特に追及してこない。

私たち、いつからこんなに無関心になったんだろう。

その夜、ベッドに入る。

拓海はすでに眠っている。

私は彼の背中を見つめる。

この人は、私の夫だ。

でも、最近、その実感が薄れている。

私は目を閉じる。

でも、頭の中には健人の顔が浮かぶ。

そして、少しだけ、心が揺れる。

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