曖昧な距離で愛している

山田森湖

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第14話「揺れる心、確かめたい気持ち」

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第14話「揺れる心、確かめたい気持ち」


木曜日、私は健人と会う約束をしていた。

朝、鏡の前で身支度をする。

メイクも、服も、いつもより丁寧に。

これは、何なんだろう。

健人に会うのが、楽しみになっている。

それが、怖い。

午後一時、代官山のカフェで健人と待ち合わせた。

「久しぶり」

「久しぶり。って、先週も会ったけど」

健人は笑う。

「そうだね」

私も笑う。

健人といると、自然と笑顔になる。

カフェでコーヒーを飲みながら、話す。

「美咲、最近、表情が明るくなった気がする」

健人が言う。

「そう?」

「うん。久しぶりに会った時より、今のほうが生き生きしてる」

その言葉が、私の心を揺さぶる。

生き生き。

拓海は、私のことをそんな風に見てくれない。

「健人といると、昔の自分を思い出すから」

「昔の自分?」

「うん。もっと自由で、もっと軽やかだった頃の」

「美咲は今、自由じゃないの?」

健人が訊く。

「分からない。結婚して、安定したけど、何かを失った気がする」

「何を?」

「自分自身、かな」

その言葉を口にして、私は少し驚く。

自分でも、そう思っていたんだ。

カフェを出て、二人で公園を歩く。

「美咲、旦那さんとは、ちゃんと話してる?」

健人が訊く。

「話してない。最近、会話が減った」

「それ、まずくない?」

「まずいと思う。でも、どうすればいいか分からない」

「美咲は、旦那さんのこと、まだ愛してる?」

その質問に、私は答えられない。

愛している。

でも、その愛が、どんな愛なのか、もう分からない。

公園のベンチに座って、二人で沈黙する。

「健人は、私のこと、どう思ってる?」

私は思い切って訊く。

健人は少し驚いたように、私を見る。

「どうって?」

「友達?それとも…」

「それとも、何?」

健人は笑う。

「分からない。でも、健人といると、心が揺れる」

その言葉を口にして、私は少し後悔する。

「美咲」

健人が真剣な顔で言う。

「俺も、美咲といると、心が揺れる」

その言葉に、私の心臓が跳ねる。

「でも、美咲は結婚してる」

「うん」

「だから、俺たちは、これ以上、近づいちゃいけない」

健人の言葉が、私を現実に引き戻す。

「そうだね」

「でも、美咲といる時間は、楽しい」

「私も」

二人で笑う。

でも、その笑顔の裏には、寂しさがある。

夕方、健人と別れる。

「また会おうね」

「うん、でも、少し間を空けたほうがいいかも」

健人が言う。

「そうだね」

私は頷く。

健人は手を振って去っていく。

私はその場に立ち尽くす。

胸の中が、締め付けられる。

帰宅すると、拓海はまだ帰っていなかった。

私は一人でソファに座り、携帯を見る。

健人からLINEが入っていた。

『今日は楽しかった。でも、美咲、自分の気持ちをちゃんと整理したほうがいいよ』

私は返信する。

『ありがとう。私も、そう思う』

送信して、画面を閉じる。

そして、涙が溢れてくる。

私は、何がしたいんだろう。

拓海を愛しているのか。

健人に惹かれているのか。

それとも、ただ刺激が欲しいだけなのか。

夜九時過ぎ、拓海が帰ってきた。

「おかえり」

「ただいま」

拓海は私の顔を見て、少し驚く。

「泣いてた?」

「ううん、何でもない」

「本当?」

拓海が近づいてくる。

「本当」

私は笑顔を作る。

でも、拓海は納得していないようだ。

「何かあったら、言ってよ」

「うん」

拓海は私の頭を撫でる。

その優しさが、私をさらに苦しめる。

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