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本編
40.生徒会ライフ!5 Side 朝比奈朔人 その1
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誰もが見惚れる美貌の持ち主。
それが私、朝比奈朔人という人間の世間での認識らしい。
十人いれば十人が綺麗だと称する自分の顔のことが大嫌いだった私は、見た目だけに惹かれて近寄ってくる人間のことを最も信用できない人間だと思っていた。
古い伝統を受け継ぐ家に生まれた私は、幼少の頃より厳しい教育を施されてきており、言葉遣いから立ち振舞い、教養や礼儀作法、そして自分の身を護るための武道に至るまで、必要と思われることはなんでも身に付けてきたつもりだ。
それ故、私は容姿だけでなく、全ての面において他者より優れていると自負できるほどの人間になったつもりでいた。
しかし、他人から見た私という人間の評価は、私の努力の結果から判断されるものではなく、常に私の容姿が前提にあるものだった。
それは容姿から受けるイメージどおりの言動をしているか、容姿に相応しい能力であるかという事が中心であり、本当の私のことなど見ようともしないものだとしか思えなかった。
表面上しか見ていない連中が、『朝比奈 朔人』という人間を好き勝手に偶像化していくことに嫌悪感すら覚えていた私は、そんな奴ら対しては常に笑顔を張り付かせた仮面を被ったままで接し、心の中では上っ面しか見れない愚かな人間だと嘲笑うことで、幼いながらも必死に自分の心を護ってきたのだ。
中学になって山奥の全寮制男子校である紅鸞学園に入学すると、私は益々自分の容姿嫌いに拍車がかかっていく。
決して男らしいとは言い難い私の見た目は、思春期の男子ばかりが集まる空間では必然的に性的な対象として見られがちになる。
その結果、この私と付き合いたい、または抱きたいというふざけた輩が多く現れ、元々人間嫌いの気があった私は益々他人と接触することが苦痛になっていった。
元凶であるこの顔がある限りこの苦痛は続く。それがわかっているからこそ、自分の容姿を好きになれる要素など微塵も感じられない。
幼少期から交流のあった竜造寺 清雅や、中学入学後に何かと行動を共にすることが多くなった佐伯 伊織は、私と同じように視線を向けられる側であったせいか、一緒にいてもそれほど苦痛に感じるということはなかったが、山奥の全寮制の学校という閉鎖された空間で、常に他人の歪んだ好意の的にされるということに中々慣れることが出来なかった私は、表面上は平静を装ってはいたが、徐々に心は荒んでいった。
その頃の私と清雅はこの学園生活で溜まりに溜まった鬱憤を晴らすため、週末ごとに寮を抜け出しては夜の繁華街に繰り出し、適当な相手を見繕って遊んでいた。
清雅の遊び相手は性的な関係が絡む相手がほとんどであったが、私の場合はそんな関係になる相手はごく稀で、大抵の場合、私の見た目をナメてかかってくる相手と積極的に拳で語り合うということになることがほとんどだった。
今考えれば、そんな無茶な真似をするなんてどうかしてたとしか思えないのだが、この時の私は、他人が勝手に押し付けてきたイメージからかけ離れたことをすることで、自分なりに心のバランスを保とうと必死だったのだと思う。
やがて成長と共に自分の中で色んなことに折り合いがつけられるようになってくると、清雅と共に夜の繁華街に繰り出す回数も減っていき、『皆の理想どおりの朝比奈 朔人』の仮面も自分の武器のひとつとして使いこなせるようになっていった。
高等部に入ってからの私は比較的平穏な日々を過ごせるようになっていた。
以前から顔見知りだった先輩がすぐに私の親衛隊を発足してくれたお陰で、高等部に入ってからは不用意に私に近付いてくる人間もいなくなり、私の学園生活は楽しいとまではいえないものの、最初の頃に比べたら随分と息がしやすいものになっていた。
そして高等部一年の秋、私と清雅と伊織は揃って生徒会役員に選ばれた。
正直面倒だとしか思えなかった生徒会ではあったが、選ばれた側に拒否権などないため、私は仕方なく副会長という大役に就くことになった。
生徒会役員というのは正直多忙だ。
時にはプライベートの時間もほとんど無くなるくらいの仕事量をこなさなければならないこともある。
そんな中で我々生徒会役員は息抜き、または暇潰しと称して、ある『ゲーム』を行っていた。
毎回誰の親衛隊にも入っていない生徒の中から役員の誰かが興味を持った人間をターゲットとして選び、誰が一番最初に口説き落とせるかということを競うというものだ。
特に誰かに対して興味を持ったこともなければ、少々人間嫌いの気がある私もこの『ゲーム』にほぼ毎回参加していた。
これまでの私ならばまず興味を示すことなどなかった『ゲーム』に参加しているのには理由がある。
普段言い寄られることはあっても、自分のほうから言い寄ることのない私にとってこの『ゲーム』は、自分を誰かに好きになってもらうという目的の他に、自分から誰かを好きなるという人間らしい感情が私の中に存在するのかどうかということを確認する作業でもあったのだ。
ところが毎回ちょっと声を掛けただけで、どの役員にも簡単に靡いていくターゲット達に、私の失望は募っていく。
しかしその一方で誰かを好きになるという未知の感情を知らずに済んでいることに安堵する自分もいることも確かだった。
──知りたいのに知りたくない。
その複雑な気持ちが、私が恋というものに対してずっと抱いていた感情だった。
なかなか私の気持ちを動かしてくれる相手にも出会えず、『ゲーム』にも飽き始めていた頃、私は運命の相手とも云える季節外れの転校生、『中里 光希』と出会ったのだった。
それが私、朝比奈朔人という人間の世間での認識らしい。
十人いれば十人が綺麗だと称する自分の顔のことが大嫌いだった私は、見た目だけに惹かれて近寄ってくる人間のことを最も信用できない人間だと思っていた。
古い伝統を受け継ぐ家に生まれた私は、幼少の頃より厳しい教育を施されてきており、言葉遣いから立ち振舞い、教養や礼儀作法、そして自分の身を護るための武道に至るまで、必要と思われることはなんでも身に付けてきたつもりだ。
それ故、私は容姿だけでなく、全ての面において他者より優れていると自負できるほどの人間になったつもりでいた。
しかし、他人から見た私という人間の評価は、私の努力の結果から判断されるものではなく、常に私の容姿が前提にあるものだった。
それは容姿から受けるイメージどおりの言動をしているか、容姿に相応しい能力であるかという事が中心であり、本当の私のことなど見ようともしないものだとしか思えなかった。
表面上しか見ていない連中が、『朝比奈 朔人』という人間を好き勝手に偶像化していくことに嫌悪感すら覚えていた私は、そんな奴ら対しては常に笑顔を張り付かせた仮面を被ったままで接し、心の中では上っ面しか見れない愚かな人間だと嘲笑うことで、幼いながらも必死に自分の心を護ってきたのだ。
中学になって山奥の全寮制男子校である紅鸞学園に入学すると、私は益々自分の容姿嫌いに拍車がかかっていく。
決して男らしいとは言い難い私の見た目は、思春期の男子ばかりが集まる空間では必然的に性的な対象として見られがちになる。
その結果、この私と付き合いたい、または抱きたいというふざけた輩が多く現れ、元々人間嫌いの気があった私は益々他人と接触することが苦痛になっていった。
元凶であるこの顔がある限りこの苦痛は続く。それがわかっているからこそ、自分の容姿を好きになれる要素など微塵も感じられない。
幼少期から交流のあった竜造寺 清雅や、中学入学後に何かと行動を共にすることが多くなった佐伯 伊織は、私と同じように視線を向けられる側であったせいか、一緒にいてもそれほど苦痛に感じるということはなかったが、山奥の全寮制の学校という閉鎖された空間で、常に他人の歪んだ好意の的にされるということに中々慣れることが出来なかった私は、表面上は平静を装ってはいたが、徐々に心は荒んでいった。
その頃の私と清雅はこの学園生活で溜まりに溜まった鬱憤を晴らすため、週末ごとに寮を抜け出しては夜の繁華街に繰り出し、適当な相手を見繕って遊んでいた。
清雅の遊び相手は性的な関係が絡む相手がほとんどであったが、私の場合はそんな関係になる相手はごく稀で、大抵の場合、私の見た目をナメてかかってくる相手と積極的に拳で語り合うということになることがほとんどだった。
今考えれば、そんな無茶な真似をするなんてどうかしてたとしか思えないのだが、この時の私は、他人が勝手に押し付けてきたイメージからかけ離れたことをすることで、自分なりに心のバランスを保とうと必死だったのだと思う。
やがて成長と共に自分の中で色んなことに折り合いがつけられるようになってくると、清雅と共に夜の繁華街に繰り出す回数も減っていき、『皆の理想どおりの朝比奈 朔人』の仮面も自分の武器のひとつとして使いこなせるようになっていった。
高等部に入ってからの私は比較的平穏な日々を過ごせるようになっていた。
以前から顔見知りだった先輩がすぐに私の親衛隊を発足してくれたお陰で、高等部に入ってからは不用意に私に近付いてくる人間もいなくなり、私の学園生活は楽しいとまではいえないものの、最初の頃に比べたら随分と息がしやすいものになっていた。
そして高等部一年の秋、私と清雅と伊織は揃って生徒会役員に選ばれた。
正直面倒だとしか思えなかった生徒会ではあったが、選ばれた側に拒否権などないため、私は仕方なく副会長という大役に就くことになった。
生徒会役員というのは正直多忙だ。
時にはプライベートの時間もほとんど無くなるくらいの仕事量をこなさなければならないこともある。
そんな中で我々生徒会役員は息抜き、または暇潰しと称して、ある『ゲーム』を行っていた。
毎回誰の親衛隊にも入っていない生徒の中から役員の誰かが興味を持った人間をターゲットとして選び、誰が一番最初に口説き落とせるかということを競うというものだ。
特に誰かに対して興味を持ったこともなければ、少々人間嫌いの気がある私もこの『ゲーム』にほぼ毎回参加していた。
これまでの私ならばまず興味を示すことなどなかった『ゲーム』に参加しているのには理由がある。
普段言い寄られることはあっても、自分のほうから言い寄ることのない私にとってこの『ゲーム』は、自分を誰かに好きになってもらうという目的の他に、自分から誰かを好きなるという人間らしい感情が私の中に存在するのかどうかということを確認する作業でもあったのだ。
ところが毎回ちょっと声を掛けただけで、どの役員にも簡単に靡いていくターゲット達に、私の失望は募っていく。
しかしその一方で誰かを好きになるという未知の感情を知らずに済んでいることに安堵する自分もいることも確かだった。
──知りたいのに知りたくない。
その複雑な気持ちが、私が恋というものに対してずっと抱いていた感情だった。
なかなか私の気持ちを動かしてくれる相手にも出会えず、『ゲーム』にも飽き始めていた頃、私は運命の相手とも云える季節外れの転校生、『中里 光希』と出会ったのだった。
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