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本編
41.生徒会ライフ!5 Side 朝比奈朔人 その2
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新年度最初のイベントである新入生歓迎会を終え、業務に少しだけ余裕が出てきた五月の終わり。
私は生徒会顧問である東條先生からの依頼で、理事長の血縁者だという転校生を正門まで迎えに行くことになった。
そこで私は出会ったのだ。
色んな意味で私の予想を大きく裏切る人物。
季節外れの転校生、──中里 光希に。
とにかく光希は第一印象からして変わっていた。
この学園は、家柄もさることながら見た目も重要視される傾向が強い。
にもかかわらず、本当にあの御堂理事長と血の繋がりがあるのかと疑いたくなるような冴えない見た目のままやってきた光希は、それを少しも気にした様子も見せないどころか、私の外見でさえも興味を示さないという、今までにない反応を見せたのだ。
なんとなくその態度が気に障り、ならば興味をもってもらおうと半ば無理矢理キスしたものの、返ってきた反応は全く以て予想外のものだった。
キスして喜ばれたことはあっても、問答無用で腹に一発食らわせてくる人間は今までひとりもいなかったし、油断していたとはいえ、喧嘩慣れしているはずの私に膝を付くほどのダメージを与えてくる人間は初めてで、私は光希が慌てて離れていく足音を聞きながら、何故か楽しい気分になってしまい、自然と笑いが込み上げてきてしまった。
その後、生徒会室に戻った私がその話をしたことで興味を持った壱琉先輩が、光希を次のゲームのターゲットにと提案したのだ。
私はいつものようにゲームに参加する意向を示したが、せっかく見つけた興味を惹かれる相手が今までのターゲット達と同じような反応を見せるようになるのではないかと思ったら、妙に気持ちがざわついてしまった。
ところが、その日の昼休み、私達役員がターゲットである光希と接触を図ってみたところ、当の本人の反応はあからさまに迷惑そうだとわかるようなもので、嬉しそうな素振りは微塵も見られない。
学園でナンバーワンのモテ男である清雅に対しても、少しも関心を示すことなく、無視され続けることに苛立った清雅が無理矢理キスを仕掛けても、不快そうな態度を崩さなかった。
その様子を見た私は益々光希に興味を惹かれていき、初めて自分から積極的にゲームに参加したい、もっと欲を言えば光希に選ばれて勝者になりたいと思ったのものだった。
しかし、その日の接触以来、我々生徒会役員は光希に徹底的に避けられる羽目になった。
いくら私がやる気を出しても向こうがこちらに興味を示さないのでは話にならない。
ゲームが始まって約一ヶ月が経とうとしているのに、本人と接触すらできないゲームは初めてで、さすがに清雅も焦れ始めてきたこともあり、やや強引な手段ではあるが、光希が私達と積極的に関わらなければならないよう一計を案じることにした。
今までどんなに忙しく、猫の手も借りたいという状況でもそれを上回る煩わしさを考えたら絶対に御免だと思っていた生徒会役員補佐に光希を任命することにしたのだ。
早速生徒会顧問の東條先生に要望を出してみたところ、『話はしてみるが無理強いはできない』と言われてしまった。
それはすなわち、本人の意思を尊重するということであり、ほぼ100%の確率で断られるということに他ならない。
このままではまた光希と接触できないまま、多忙な時期を迎えてゲーム自体が有耶無耶になってしまう。
私はなにがなんでもこの計画を実行するために、まずは本人と直接話せるチャンスを得られるよう、東條先生に協力を仰ぎに行くことに決めた。
因みに東條先生はこの紅鸞学園の卒業生だ。
しかも、伝説の生徒会と語り継がれるほどの実績を残した時の生徒会長だった人物で、本人は日本でも有数の大財閥である東條財閥の御曹司である。
現在使われているこの学園のシステムを導入したのも東條先生達の生徒会であり、それまで曖昧だった親衛隊設立に関する規則を明文化し、制度を整えたのもその生徒会の実績だ。
あの俺様ぶって他人のことなど気にしたことがない風の清雅が、実は密かに意識しているくらい凄い人なのだが、何の気紛れかはわからないが何故か今は母校で教鞭をとっている。
噂によると、親友である御堂理事長の要請だということだが、いずれ東條財閥のトップに立つ人間ならば、片手間に母校の教師をやるくらいのことは容易いのかもしれない。
一見適当な態度で生徒と接しているように見えるが、実は結構生徒のことをよく見て、鋭い指摘をしてくるところはさすが伝説の生徒会を率いていた生徒会長だけのことはある。
皆に計画を話した日の放課後、私は光希と直接話す機会を設定してもらうために、東條先生が使っている準備室を訪れた。
ところが、約束もなしに訪れた東條先生の準備室には、偶然にも光希がいたのだ。
おそらく私の出した要望について先生から説明されていたのだろう。
私は突然訪れた絶好の機会を逃すまいと、必死に光希を引き留めた。
色んな意味で百戦錬磨と名高い、東條 響夜からすれば、すぐに部屋から出ていこうとした光希を形振り構わず引き留めようとした私の姿はさぞ滑稽に映っただろう。
光希に対して新たな提案をした時も、その欠点と私の甘い目論見を見破られ、一蹴されてしまった。
だが、私のその無様な足掻きは、それまで私に見向きもしなかった光希によって無駄にならずに済んだのだ。
光希は生徒会役員補佐を受ける交換条件として、私が提案した『今後一切光希に迷惑かけないよう徹底する』というものの他に、生徒会役員補佐というポジションを光希と接触するためだけの手段で終わらせず、今後も優秀な人材発掘のための制度として継続して欲しいと言い出したのだ。
正直そんな発想がなかった私にとって、目から鱗の提案だった。
将来を見据えた視野の広さと、自分の置かれている現状を理解して咄嗟に機転を利かせて自分で最善の状況を作り出そうとする頭の回転の速さに、正直驚かされた。
元々光希を不利な立場に追いやったのは我々だというのに、それを利用してこちらの都合で物事を考えて、傲慢にも救ってやる気になっていた自分を恥じた。
しかしそれと同時に、私の今までの経験がそんなことは無理だと待ったをかける。
確かにそんなことが出来るのなら、光希とも一緒に仕事が出来るし、今後も多忙を極める生徒会としては大助かりだろう。
だが、私達生徒会役員は、単に生徒の代表という訳ではなく、全生徒の中から人気投票で選ばれた人間だ。
光希はともかくとして後に続く人間が、我々と一緒に仕事をすることに下心を抱かないはずはない。
「──そんな人間なんてこの学園にいるのでしょうか……?私達に下心を抱かずに仕事を手伝ってくれる人間なんて……」
思わず不安を口にすると、光希は無言になってしまった。
長い前髪と眼鏡でその表情までは窺い知れないが、何か思うところはあるようだった。
私は格好悪いところを晒してしまった自分を恥ながらも、心のどこかで光希なら私が長年抱いてきた苦悩をわかってくれるのではないかと思い、つい本音を口にしてしまった。
「私のこの容姿を見て、今まで冷静でいられた人間はほとんどと言っていいほどいませんでした」
ところが。
「先輩の顔が滅多にお目にかかれないくらい綺麗だから、思わず見惚れちゃっただけで、そのまま下心を抱いた人間はそう多くはないと思います。先輩達に心酔しているような人間じゃなければ、慣れれば案外普通に接してくれると思いますよ。美人は三日で飽きるっていうでしょ?」
光希は私を長年苦しめてきたコンプレックスの原因を、たったそれだけの言葉で片付けてしまったのだ。
三日で飽きる……。
綺麗だと称賛されることはあっても、初めて言われたその言葉に衝撃を受けた私は暫し固まった。
光希の衝撃発言は尚も続く。
「先輩は確かに綺麗だと思います。でもそれが好きとか付き合いたいとかって感情に直結するかは別問題ですよね?きっとそういう考え方する人、俺以外にも結構いると思いますよ。先輩達が知ろうとしなかっただけで。──そういう人間が補佐に付けば色んな意味で負担も減ると思うんですが……」
私の外見ではなく私自身を見ようとしてくれているのがわかる光希の言葉に、私は柄にもなく照れてしまった。
それと同時にどうしようもないほどの歓喜の気持ちが湧いてきて、自然と顔が綻んでしまう。
そんな私につられるように、光希の表情も柔らかに綻んだのを見て、私の胸に何かがツキンと刺さった気がした。
それは微かな痛みを伴うものだったのだが、決して不快な痛みではなく、どこか甘く感じるような痛みとなって私の心に広がっていった。
私はついに出会ってしまったのかもしれない。
本当の私を見てくれる人に。
──そして私に恋心という未知の感情を教えてくれる相手に。
そんな気がした。
光希と離れがたい気持ちを振り切って生徒会室に戻ると、早速光希の提案を役員メンバーに話すことにした。
生憎と伊織はどこかに行っているようで姿が見えなかったが、一番厄介な清雅の説得を優先することにした私は、すぐに本題を切り出した。
「条件次第で光希が役員補佐を引き受けてくれることになりました」
「ホント!?さっすが朔ちゃん!すっごーい!!」
壱琉先輩が手放しで喜んでくれているが、清雅と壬生先輩は浮かない表情をしていた。
あれだけ私達を避けていた光希があっさり掌を返したような反応を見せたことに、何かしら思うところがあったのだろう。
清雅あたりは光希を自分の常識の範疇に当て嵌めて勝手に失望してそうだ。
私はこれから光希が提案してくれた内容を話した後の反応が俄然楽しみになってしまい、内心ニヤリとしてしまう。
ところがそんな私の心中を知るはずもない壬生先輩が清雅よりも先に口を開いたのだ。
「条件とは何だ?」
こんな時はいつも黙って成り行きを見守ってきた壬生先輩が、率先して話に参加してきたのだから驚きだ。
そう言えば、昼間も壬生先輩はやたらと光希の肩を持つような発言をしていた。
今まで我々の行うゲームに微塵も興味を示さなかった壬生先輩が、珍しく光希のことは気にかけている様子が気にかかりつつも、私は先程東條先生の準備室であったことを話したのだった。
話を聞き終わった後の反応は、三者三様。
「へぇ~、みっきぃって、面白いこと考えるんだねぇ。──いいよ。僕は賛成。是非とも頑張ってもらおうじゃない」
壱琉先輩は黒い笑みを浮かべて、そう言った。
「中里がそういうのなら俺から言うことは何もない。中里の提案が実現するのなら、色々と助かることは事実だしな」
壬生先輩は満足そうな笑みを浮かべている。
それを目にした途端、私の心はザワリと揺れた。
それがどういう感情かということを考えようとした時、清雅の言葉に遮られてしまう。
「なかなか小賢しい事を言うものだな。だったら証明してもらおうか。そんな綺麗事が本当に通用するかどうか」
傲慢な言い方ではあるが、一応清雅の賛同も得られたようだ。
斯くして、当初の私の目論見どおり、光希は生徒会役員補佐としてこの生徒会室に迎え入れられることになったのだった。
私は生徒会顧問である東條先生からの依頼で、理事長の血縁者だという転校生を正門まで迎えに行くことになった。
そこで私は出会ったのだ。
色んな意味で私の予想を大きく裏切る人物。
季節外れの転校生、──中里 光希に。
とにかく光希は第一印象からして変わっていた。
この学園は、家柄もさることながら見た目も重要視される傾向が強い。
にもかかわらず、本当にあの御堂理事長と血の繋がりがあるのかと疑いたくなるような冴えない見た目のままやってきた光希は、それを少しも気にした様子も見せないどころか、私の外見でさえも興味を示さないという、今までにない反応を見せたのだ。
なんとなくその態度が気に障り、ならば興味をもってもらおうと半ば無理矢理キスしたものの、返ってきた反応は全く以て予想外のものだった。
キスして喜ばれたことはあっても、問答無用で腹に一発食らわせてくる人間は今までひとりもいなかったし、油断していたとはいえ、喧嘩慣れしているはずの私に膝を付くほどのダメージを与えてくる人間は初めてで、私は光希が慌てて離れていく足音を聞きながら、何故か楽しい気分になってしまい、自然と笑いが込み上げてきてしまった。
その後、生徒会室に戻った私がその話をしたことで興味を持った壱琉先輩が、光希を次のゲームのターゲットにと提案したのだ。
私はいつものようにゲームに参加する意向を示したが、せっかく見つけた興味を惹かれる相手が今までのターゲット達と同じような反応を見せるようになるのではないかと思ったら、妙に気持ちがざわついてしまった。
ところが、その日の昼休み、私達役員がターゲットである光希と接触を図ってみたところ、当の本人の反応はあからさまに迷惑そうだとわかるようなもので、嬉しそうな素振りは微塵も見られない。
学園でナンバーワンのモテ男である清雅に対しても、少しも関心を示すことなく、無視され続けることに苛立った清雅が無理矢理キスを仕掛けても、不快そうな態度を崩さなかった。
その様子を見た私は益々光希に興味を惹かれていき、初めて自分から積極的にゲームに参加したい、もっと欲を言えば光希に選ばれて勝者になりたいと思ったのものだった。
しかし、その日の接触以来、我々生徒会役員は光希に徹底的に避けられる羽目になった。
いくら私がやる気を出しても向こうがこちらに興味を示さないのでは話にならない。
ゲームが始まって約一ヶ月が経とうとしているのに、本人と接触すらできないゲームは初めてで、さすがに清雅も焦れ始めてきたこともあり、やや強引な手段ではあるが、光希が私達と積極的に関わらなければならないよう一計を案じることにした。
今までどんなに忙しく、猫の手も借りたいという状況でもそれを上回る煩わしさを考えたら絶対に御免だと思っていた生徒会役員補佐に光希を任命することにしたのだ。
早速生徒会顧問の東條先生に要望を出してみたところ、『話はしてみるが無理強いはできない』と言われてしまった。
それはすなわち、本人の意思を尊重するということであり、ほぼ100%の確率で断られるということに他ならない。
このままではまた光希と接触できないまま、多忙な時期を迎えてゲーム自体が有耶無耶になってしまう。
私はなにがなんでもこの計画を実行するために、まずは本人と直接話せるチャンスを得られるよう、東條先生に協力を仰ぎに行くことに決めた。
因みに東條先生はこの紅鸞学園の卒業生だ。
しかも、伝説の生徒会と語り継がれるほどの実績を残した時の生徒会長だった人物で、本人は日本でも有数の大財閥である東條財閥の御曹司である。
現在使われているこの学園のシステムを導入したのも東條先生達の生徒会であり、それまで曖昧だった親衛隊設立に関する規則を明文化し、制度を整えたのもその生徒会の実績だ。
あの俺様ぶって他人のことなど気にしたことがない風の清雅が、実は密かに意識しているくらい凄い人なのだが、何の気紛れかはわからないが何故か今は母校で教鞭をとっている。
噂によると、親友である御堂理事長の要請だということだが、いずれ東條財閥のトップに立つ人間ならば、片手間に母校の教師をやるくらいのことは容易いのかもしれない。
一見適当な態度で生徒と接しているように見えるが、実は結構生徒のことをよく見て、鋭い指摘をしてくるところはさすが伝説の生徒会を率いていた生徒会長だけのことはある。
皆に計画を話した日の放課後、私は光希と直接話す機会を設定してもらうために、東條先生が使っている準備室を訪れた。
ところが、約束もなしに訪れた東條先生の準備室には、偶然にも光希がいたのだ。
おそらく私の出した要望について先生から説明されていたのだろう。
私は突然訪れた絶好の機会を逃すまいと、必死に光希を引き留めた。
色んな意味で百戦錬磨と名高い、東條 響夜からすれば、すぐに部屋から出ていこうとした光希を形振り構わず引き留めようとした私の姿はさぞ滑稽に映っただろう。
光希に対して新たな提案をした時も、その欠点と私の甘い目論見を見破られ、一蹴されてしまった。
だが、私のその無様な足掻きは、それまで私に見向きもしなかった光希によって無駄にならずに済んだのだ。
光希は生徒会役員補佐を受ける交換条件として、私が提案した『今後一切光希に迷惑かけないよう徹底する』というものの他に、生徒会役員補佐というポジションを光希と接触するためだけの手段で終わらせず、今後も優秀な人材発掘のための制度として継続して欲しいと言い出したのだ。
正直そんな発想がなかった私にとって、目から鱗の提案だった。
将来を見据えた視野の広さと、自分の置かれている現状を理解して咄嗟に機転を利かせて自分で最善の状況を作り出そうとする頭の回転の速さに、正直驚かされた。
元々光希を不利な立場に追いやったのは我々だというのに、それを利用してこちらの都合で物事を考えて、傲慢にも救ってやる気になっていた自分を恥じた。
しかしそれと同時に、私の今までの経験がそんなことは無理だと待ったをかける。
確かにそんなことが出来るのなら、光希とも一緒に仕事が出来るし、今後も多忙を極める生徒会としては大助かりだろう。
だが、私達生徒会役員は、単に生徒の代表という訳ではなく、全生徒の中から人気投票で選ばれた人間だ。
光希はともかくとして後に続く人間が、我々と一緒に仕事をすることに下心を抱かないはずはない。
「──そんな人間なんてこの学園にいるのでしょうか……?私達に下心を抱かずに仕事を手伝ってくれる人間なんて……」
思わず不安を口にすると、光希は無言になってしまった。
長い前髪と眼鏡でその表情までは窺い知れないが、何か思うところはあるようだった。
私は格好悪いところを晒してしまった自分を恥ながらも、心のどこかで光希なら私が長年抱いてきた苦悩をわかってくれるのではないかと思い、つい本音を口にしてしまった。
「私のこの容姿を見て、今まで冷静でいられた人間はほとんどと言っていいほどいませんでした」
ところが。
「先輩の顔が滅多にお目にかかれないくらい綺麗だから、思わず見惚れちゃっただけで、そのまま下心を抱いた人間はそう多くはないと思います。先輩達に心酔しているような人間じゃなければ、慣れれば案外普通に接してくれると思いますよ。美人は三日で飽きるっていうでしょ?」
光希は私を長年苦しめてきたコンプレックスの原因を、たったそれだけの言葉で片付けてしまったのだ。
三日で飽きる……。
綺麗だと称賛されることはあっても、初めて言われたその言葉に衝撃を受けた私は暫し固まった。
光希の衝撃発言は尚も続く。
「先輩は確かに綺麗だと思います。でもそれが好きとか付き合いたいとかって感情に直結するかは別問題ですよね?きっとそういう考え方する人、俺以外にも結構いると思いますよ。先輩達が知ろうとしなかっただけで。──そういう人間が補佐に付けば色んな意味で負担も減ると思うんですが……」
私の外見ではなく私自身を見ようとしてくれているのがわかる光希の言葉に、私は柄にもなく照れてしまった。
それと同時にどうしようもないほどの歓喜の気持ちが湧いてきて、自然と顔が綻んでしまう。
そんな私につられるように、光希の表情も柔らかに綻んだのを見て、私の胸に何かがツキンと刺さった気がした。
それは微かな痛みを伴うものだったのだが、決して不快な痛みではなく、どこか甘く感じるような痛みとなって私の心に広がっていった。
私はついに出会ってしまったのかもしれない。
本当の私を見てくれる人に。
──そして私に恋心という未知の感情を教えてくれる相手に。
そんな気がした。
光希と離れがたい気持ちを振り切って生徒会室に戻ると、早速光希の提案を役員メンバーに話すことにした。
生憎と伊織はどこかに行っているようで姿が見えなかったが、一番厄介な清雅の説得を優先することにした私は、すぐに本題を切り出した。
「条件次第で光希が役員補佐を引き受けてくれることになりました」
「ホント!?さっすが朔ちゃん!すっごーい!!」
壱琉先輩が手放しで喜んでくれているが、清雅と壬生先輩は浮かない表情をしていた。
あれだけ私達を避けていた光希があっさり掌を返したような反応を見せたことに、何かしら思うところがあったのだろう。
清雅あたりは光希を自分の常識の範疇に当て嵌めて勝手に失望してそうだ。
私はこれから光希が提案してくれた内容を話した後の反応が俄然楽しみになってしまい、内心ニヤリとしてしまう。
ところがそんな私の心中を知るはずもない壬生先輩が清雅よりも先に口を開いたのだ。
「条件とは何だ?」
こんな時はいつも黙って成り行きを見守ってきた壬生先輩が、率先して話に参加してきたのだから驚きだ。
そう言えば、昼間も壬生先輩はやたらと光希の肩を持つような発言をしていた。
今まで我々の行うゲームに微塵も興味を示さなかった壬生先輩が、珍しく光希のことは気にかけている様子が気にかかりつつも、私は先程東條先生の準備室であったことを話したのだった。
話を聞き終わった後の反応は、三者三様。
「へぇ~、みっきぃって、面白いこと考えるんだねぇ。──いいよ。僕は賛成。是非とも頑張ってもらおうじゃない」
壱琉先輩は黒い笑みを浮かべて、そう言った。
「中里がそういうのなら俺から言うことは何もない。中里の提案が実現するのなら、色々と助かることは事実だしな」
壬生先輩は満足そうな笑みを浮かべている。
それを目にした途端、私の心はザワリと揺れた。
それがどういう感情かということを考えようとした時、清雅の言葉に遮られてしまう。
「なかなか小賢しい事を言うものだな。だったら証明してもらおうか。そんな綺麗事が本当に通用するかどうか」
傲慢な言い方ではあるが、一応清雅の賛同も得られたようだ。
斯くして、当初の私の目論見どおり、光希は生徒会役員補佐としてこの生徒会室に迎え入れられることになったのだった。
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