セカンドライフ!

みなみ ゆうき

文字の大きさ
50 / 107
本編

50.生徒会ライフ!6

しおりを挟む
期末試験を来週に控え、部活動休止期間となっている事を良いことに、壬生翔太は弓道部顧問の谷江先生の許可を得て、朝からひとり黙々と道場で鍛練に励んでいた。


普段は休日でも休むことなく練習が行われている道場も、今日は誰の姿も見当たらない。

常に他人から注目されているという状態から完全に解放され、弓を引くことだけに集中できる貴重な機会に、翔太は時間を忘れて練習に打ち込み続けた。


久しぶりに納得いくまで弓を引き続けた結果、気付けば時刻はとっくに正午を過ぎている。

今日の昼は光希と旧図書館で一緒に昼食摂るという約束をしているのだ。

翔太は慌てて練習を終了すると、着替えのために部室へと向かった。


集中し過ぎていて時間を全く気にしていなかったことを反省しつつ、約束の時間に間に合わない事を先に一言詫びておこうと、ロッカーの中に入れておいた荷物の中からスマートフォンを取り出す。

すると、光希からメッセージが送られて来ていることがわかり、すぐにアプリを開いて内容を確認した。


『急に具合が悪くなったので、今日は中止にして欲しい』というメッセージに内心酷くガッカリしながらも、『気にしなくていい。またの機会を楽しみにしてる。お大事に』というメッセージを送信しておいた。



光希が役員補佐になってから二週間。

側で見ていて、光希がこれまで以上に周囲の人間に対して気を張って警戒していることも、役員補佐という役割を今後も継続させていくために頑張っていたことも知っているだけに、体調を崩したのも仕方がないと思えてしまう。


翔太は部室のシャワールームで汗を洗い流してから制服に身を包むと、いつもどおり学園内にあるコンビニに立ち寄って適当に昼食を調達してから、13時近くになってようやく生徒会室に姿を現した。


他の役員達は学食で昼食を摂っているのか、誰の姿も見当たらない。

翔太は自分の席に座り、パソコンの電源を入れると、コンビニで買ってきたものを机の上に広げて食べ始めた。

いつも以上に味気なく感じる食事をスポーツドリンクで流し込むようにして、ただ義務的にエネルギーを補給していく。

朝から身体を動かして空腹だったはずなのだが、何故か食が進まない。

ようやく半分ほど食べ終わった頃、清雅と朔人が連れ立って生徒会室へと戻ってきた。


「あれ?珍しいですね。壬生先輩がここで昼食を摂っていらっしゃるなんて」

「……ああ」


朔人からの指摘に、翔太は曖昧な返事をする。

光希がいなくてもいつものように旧図書館に行けば良かったのだが、今日は何故か光希のいないその場所に足を運ぶ気になれなかったのだ。

翔太は残りの食事を手早く済ませると、気分を切り替えてさっさと仕事に取りかかることにした。







「何で誰も戻ってこないんだ?」


三人で仕事を始めて少し経った頃、一向に昼休憩から戻ってくる気配を見せない他の人間に対し、清雅が苛立ちを露にした。

朔人は大して気にした様子もなく、淡々とそれに答える。


「壱琉先輩はご実家に戻られるそうなので午後からはいらっしゃいませんし、伊織はいつものようにどこかで油を売ってるのだと思います。光希は一旦自室に帰ると言っていたのでもうすぐ戻ってくると思いますよ」

「俺達よりも先に休憩に入ったくせに、俺より遅くなるとは生意気なヤツだな。戻ってきたらこき使ってやる」


清雅が光希に対し文句を言っているのを聞いた翔太は、驚きのあまり手を止めた。


「──中里は具合が悪くて帰ったんじゃないのか?」

「え?──いえ、特にそういった話は聞いていませんが……。午前中は元気そうでしたけど……」


朔人の返答に妙な胸騒ぎを覚えた翔太は、すぐにズボンのポケットに入れていたスマートフォンを取り出すと、光希の番号をタップした。

隣に設えられている光希の席のほうから低い振動音が聞こえてくる。

翔太はおもむろに立ち上がると、音の発信源となっている光希の鞄を手に取りながら通話終了ボタンを押した。

途端に鞄の中の振動も止む。


もう一度通話ボタンをタップすると、ほんの少しの時間差で鞄の中から再び振動が感じられた。


翔太は躊躇いもなく光希の鞄を開けると、中からスマートフォンを取り出し、その画面に自分の名前が表示されていることを確認した。

真面目で礼節を重んじる性格の翔太が他人の鞄の中身を勝手に開けて見ていることに、清雅と朔人はギョッとしている。


「壬生先輩!? 一体、何を?」


朔人が思わずそう口にしたが、鬼気迫る表情の翔太を見た途端、それ以上は何も言えなくなってしまった。


「中里がここを出たのは何時だ?」


気が急いているのか、珍しく早口になっている翔太が朔人に問い掛ける。

朔人はいつもとは明らかに違う翔太の様子に戸惑いながらその質問に答えた。


「12時になってすぐだったと思いますが……」


翔太は自分のスマートフォンで、光希からのメッセージを確認する。


送信時刻は12時17分。

朔人の言うことが間違っていないのなら、その時刻には光希はとっくに生徒会室を出ていたということになる。


──ここにスマートフォン入りの鞄を残したままで。


だとしたら、このメッセージ送ってきたのは誰なのか。

そう考えた翔太は、ある可能性に思い至り、すぐに学園内の施設の鍵が保管してある棚を確認した。


ところが。

いつも翔太以外の人間が持ち出すことのない旧図書館の事務室の鍵がどこにも見当たらない。


「……最悪だ」


翔太は忌々しげにそう呟くと、あれこれ考える前に走り出していた。

弾かれるようにして生徒会室を飛び出していった翔太を見て、ただならぬ事態が起きている事を感じ取った清雅と朔人は、一瞬お互いに顔を見合せると、ほぼ同時に翔太の後を追うために生徒会室から出ていった。







学園の敷地の一番端にひっそり佇んでいる旧図書館の周辺は、いつもと同じように全く人影がない。

お陰で全校生徒の憧れである生徒会役員のうちの三人が、敷地内を全力疾走しているという珍しい姿が人目に付かずに済んだことに、朔人は少しだけ安堵していた。

訳もわからず走る羽目になった清雅は、どこか不機嫌そうに目の前にある古い建物を眺めている。

全力で走ってきたにも関わらず、旧図書館までの道のりがいつも以上に遠く感じられた翔太は焦燥感を募らせながら、入り口の扉に手を掛けた。


「壬生先輩。いったいどうしたっていうんですか?」


ようやく息が整った朔人がそう尋ねると、翔太はあえて何も答えず、口に人差し指当てて静かにするよう促した。

朔人は全く訳がわからないまま、とりあえず頷いて指示に従う。

清雅も黙って頷いたのを確認すると、翔太は極力音がしないよう気をつけながら、ゆっくりと重厚な造りの扉を開けた。


扉を開けてすぐのところにあるラウンジに人影はない。

そこから続く読書スペースにも誰の姿も見当たらなかった。

旧図書館の内部はひんやりとしているが、走ったばかりの三人にとっては外よりはましといった程度でしかなく、妙な緊張感も相俟って、じんわりと吹き出してくる汗が止まらない。


初めて建物の中に足を踏み入れた清雅と朔人が物珍しげに辺りを見回している間に、翔太は明確な意思を持ってどんどん奥へと進んでいった。

未だに事情がわかっていない二人もその後に黙って付いていく。

然程広くもない建物のため、すぐに翔太は目的の場所である事務室の前に到着した。

翔太の予想どおり、その部屋からは人の気配が感じられる。

とりあえず様子を窺おうと、中から漏れ聞こえてくる話し声に耳を澄ませた三人は、その内容を聞いて目を瞠り、扉の前に立ち尽くしてしまった。


『……っ……、ふざけんな……っ……!後で絶対ぜってェ、ぶっ飛ばしてやるから覚悟してろよ……っ……!!……ん……っ……』

『そろそろ欲しいって素直に言った方がいいんじゃない?我慢は身体に良くないよ~』


おそらく光希のものであろう苦し気な息遣いと、佐伯と思われる人物の愉しそうな声。

中で何が行われているかということを瞬時に覚った三人は、すぐに事務室の中へと踏み込んだ。


ところが──。

あられもない姿で佐伯に組み敷かれている見覚えのない人物に、清雅と朔人は動きを止める。

翔太だけは何故かその人物が紛れもなく光希本人であることを確信し、躊躇うことなくソファーのほうへと近寄っていった。


「壬生……先輩……?」


力なく自分の名前を呟いた光希らしき人物を見て、翔太は自分の中で何かがプツンと弾けるような音を聞いた気がしたのだった。

しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

暗殺者は王子に溺愛される

竜鳴躍
BL
ヘマをして傷つき倒れた暗殺者の青年は、王子に保護される。孤児として組織に暗殺者として育てられ、頑なだった心は、やがて王子に溺愛されて……。 本編後、番外編あります。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

処理中です...