【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~

北城らんまる

文字の大きさ
7 / 20
本編

07 お守りを作りましょう

しおりを挟む

 お守りチャームは魔導具の一つだ。
 その効果、製作者によって値段はさまざまである。
 持っているだけで良いことがある、占いと同じような効果のものは平民のお小遣いで買えるくらい。
 魔物除けと呼ばれるようなものは、中央に魔石か魔水晶が嵌められており、意匠も凝らされていて値段も張る。平民でも買えるだろうけれど、一か月の平均給金の半年分以上はあるだろう。
 私が作るのは後者だ。
 それもただのお守りチャームでなく、魔物の攻撃から持ち主を守る魔導護符アミュレットを作る。
 
 作り方を教えてくれたのは、亡くなったお母様だ。
 お母様は私と同じように銀色の髪を持ち、多量の魔力を持っていた。魔術の才能はなかったけれど、お母様が作るお守りチャームは一級品。装飾も細やかで、その繊細な作りを見たお母様の旧友達が、商業化すれば絶対に人気が出ると絶賛していたほど。

 ただ、我がランドハルス侯爵家は商いに携わることを良しとしない。
 お母様がお守りチャームを渡したのは、親しい学友やお父様だけ。私が侯爵家から持ってきたお母様の形見の指輪も、お母様が自作した魔導護符アミュレットの一つ。亡くなる前にお母様が私にくださった。

『この魔導護符アミュレットは災いからあなたを守り、幸せへと導いてくれるわ』

(お母様……どうか私に力をください)

 ジルクス様を魔物から守ってくれるような、そんな魔導護符アミュレット
 頭の中で設計図を起こし、ゆるやかに腕を伸ばす。
 まずは魔糸だ。

「〈作成〉」

 魔力のあるものなら、魔力を糸として具現化して魔糸を紡げる。お母様から教わったことを思い出しながら、どんどん糸を作成する。この糸は普通の糸よりも頑丈。これを複雑に重ね合わせることで、まるで鎖のような一本の糸を作る。

 続いて、魔力を結晶化する作業。 
 魔水晶は魔導護符アミュレットの要だ。
 魔水晶にどれだけ強く祈りと魔力を込められるかが、魔導護符アミュレットの完成度に関わってくる。魔石を使うのが本来の作り方なのだけれど、私には魔石を買うお金がないので、魔水晶を自分の魔力で作る。幸い、自ら作り出せるくらいには豊富な魔力があった。

 額から汗が浮かんでくるけれど、拭うことさえ惜しい。とにかく集中し続けること、一時間──

「出来たわ────」

 首飾りタイプの魔導護符アミュレット
 間違いなく史上最高傑作だ。
 銀色の光沢を放つ銀の台座、その中央にはこぼれんばかりの大粒の魔水晶。薄闇のなかで、ほんのりアメジスト色に輝いている。

 ほぉ……と。

 ようやく息を吐くことができた。
 
「効果を、試してみたいのだけど…………」

 攻撃用の魔導具であれば、実践もできる。でもこれは、攻撃を受けてみないと効能が分からない。

(魔物に攻撃されたら結界を張るイメージだから…………)

 台所からフライパンを持ってくる。
 
(無条件で、結界を────)

 床に置いた魔導護符アミュレットに向かって、思い切りフライパンを振り下ろす。
 バチンッ。

「っったぁ……!」

(張れたけど腕が、腕がぁ……っ!)

 魔導護符アミュレットに触れる手前、小さな結界が張られてフライパンがはじけ飛んだ。腕に伝わる鈍痛。私が作った物だけれど痛いものは痛い。

(結界はこれで大丈夫ね……)

 今まで魔物除けのお守りチャームしか作ったことがなかったけれど、意外とやればできるものだ。

 ふと、後ろに人の気配を感じた。

「こんな夜遅くまで、フライパン片手に何をやっていたんだ?」
「ジルクス様……!」

 扉に背を預けて腕を組み、ジルクス様は私を見つめていた。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

役立たずと追放された令嬢ですが、極寒の森で【伝説の聖獣】になつかれました〜モフモフの獣人姿になった聖獣に、毎日甘く愛されています〜

腐ったバナナ
恋愛
「魔力なしの役立たず」と家族と婚約者に見捨てられ、極寒の魔獣の森に追放された公爵令嬢アリア。 絶望の淵で彼女が出会ったのは、致命傷を負った伝説の聖獣だった。アリアは、微弱な生命力操作の能力と薬学知識で彼を救い、その巨大な銀色のモフモフに癒やしを見いだす。 しかし、銀狼は夜になると冷酷無比な辺境領主シルヴァンへと変身! 「俺の命を救ったのだから、君は俺の永遠の所有物だ」 シルヴァンとの契約結婚を受け入れたアリアは、彼の強大な力を後ろ盾に、冷徹な知性で王都の裏切り者たちを周到に追い詰めていく。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

「悪女」だそうなので、婚約破棄されましたが、ありがとう!第二の人生をはじめたいと思います!

ワイちゃん
恋愛
 なんでも、わがままな伯爵令息の婚約者に合わせて過ごしていた男爵令嬢、ティア。ある日、学園で公衆の面前で、した覚えのない悪行を糾弾されて、婚約破棄を叫ばれる。しかし、なんでも、婚約者に合わせていたティアはこれからは、好きにしたい!と、思うが、両親から言われたことは、ただ、次の婚約を取り付けるということだけだった。  学校では、醜聞が広まり、ひとけのないところにいたティアの前に現れた、この国の第一王子は、なぜか自分のことを知っていて……?  婚約破棄から始まるシンデレラストーリー!

私、今から婚約破棄されるらしいですよ!舞踏会で噂の的です

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
デビュタント以来久しぶりに舞踏会に参加しています。久しぶりだからか私の顔を知っている方は少ないようです。何故なら、今から私が婚約破棄されるとの噂で持ちきりなんです。 私は婚約破棄大歓迎です、でも不利になるのはいただけませんわ。婚約破棄の流れは皆様が教えてくれたし、さて、どうしましょうね?

【完結】ぼくは悪役令嬢の弟 〜大好きな姉さんのために復讐するつもりが、いつの間にか姉さんのファンクラブができてるんだけどどういうこと?〜

水都 ミナト
恋愛
「ルイーゼ・ヴァンブルク!!今この時をもって、俺はお前との婚約を破棄する!!」 ヒューリヒ王立学園の進級パーティで第二王子に婚約破棄を突きつけられたルイーゼ。 彼女は周囲の好奇の目に晒されながらも毅然とした態度でその場を後にする。 人前で笑顔を見せないルイーゼは、氷のようだ、周囲を馬鹿にしているのだ、傲慢だと他の令嬢令息から蔑まれる存在であった。 そのため、婚約破棄されて当然だと、ルイーゼに同情する者は誰一人といなかった。 いや、唯一彼女を心配する者がいた。 それは彼女の弟であるアレン・ヴァンブルクである。 「ーーー姉さんを悲しませる奴は、僕が許さない」 本当は優しくて慈愛に満ちたルイーゼ。 そんなルイーゼが大好きなアレンは、彼女を傷つけた第二王子や取り巻き令嬢への報復を誓うのだが…… 「〜〜〜〜っハァァ尊いっ!!!」 シスコンを拗らせているアレンが色々暗躍し、ルイーゼの身の回りの環境が変化していくお話。 ★全14話★ ※なろう様、カクヨム様でも投稿しています。 ※正式名称:『ぼくは悪役令嬢の弟 〜大好きな姉さんのために、姉さんをいじめる令嬢を片っ端から落として復讐するつもりが、いつの間にか姉さんのファンクラブができてるんだけどどういうこと?〜』

婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。

虐げられてきた令嬢は、冷徹魔導師に抱きしめられ世界一幸せにされています

あんちょび
恋愛
 侯爵家で虐げられ、孤独に耐える令嬢 アリシア・フローレンス。 冷たい家族や侍女、無関心な王太子に囲まれ、心は常に凍りついていた。  そんな彼女を救ったのは、冷徹で誰も笑顔を見たことがない天才魔導師レオン・ヴァルト。  公衆の前でされた婚約破棄を覆し、「アリシアは俺の女だ」と宣言され、初めて味わう愛と安心に、アリシアの心は震える。   塔での生活は、魔法の訓練、贈り物やデートと彩られ、過去の孤独とは対照的な幸福に満ちていた。  さらにアリシアは、希少属性や秘められた古代魔法の力を覚醒させ、冷徹なレオンさえも驚かせる。  共に時間を過ごしていく中で、互いを思いやり日々育まれていく二人の絆。  過去に彼女を虐げた侯爵家や王太子、嫉妬深い妹は焦燥と嫉妬に駆られ、次々と策略を巡らせるが、 二人は互いに支え合い、外部の敵や魔導師組織の陰謀にも立ち向かいながら、愛と絆を深めていく。  孤独な少女は、ついに世界一幸福な令嬢となり、冷徹魔導師に抱きしめられ溺愛される日々を手に入れる――。

家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

日下奈緒
恋愛
そばかす令嬢クラリスは、家族に支度金目当てで成り上がり伯爵セドリックに嫁がされる。 だが彼に溺愛され家は再興。 見下していた美貌の妹リリアナは婚約破棄される。

処理中です...