悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番

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コルネリウス ルート(兄ルート)

Ⅹ 雨の後は上天気

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 兄とのキスはとても心地良くて、私はもう一度キスがしたいと思った。
 ところが兄は、口元を手で抑えると、震えながら凄い勢いで立ち上がった。

(え?)

 いきなり、立ち上がった兄を見上げていると、兄が首や耳まで真っ赤になった顔で取り乱しながら大声を上げた。

「フォルトナ!! 私は、もうお前の側にいることは出来ない!!」
「……は?」

 私は、兄が何を言っているのか、理解で出来なくて、目を大きく開けた。
 
「これから、セルーン公爵に誠心誠意お詫びに行く!! 例え、処刑になっても私はそれを受け入れる!! これ以上、私には大切な人たちを騙すことなど出来ない!!」
「は? え? 処刑?! 騙す?! 一体、なんの話ですか?!」

 私も立ち上がって、兄の服の袖を全力で握った。
 意味がわからない!!
 『キスして、気が付いたら、処刑になってた件』なんて、誰得?!

「止めるな、フォルトナ!! 私は最低な人間なのだ!! 処刑も仕方ないのだ」

 兄が部屋を出て、お父様の部屋に向かおうとするのを、私は必死で止めながら言った。

「っっちょおっと!! どうして、最低なのですか!! どうして処刑なんですか?!」
「どうしてだと?! 当然だろ?! 私は……私のこと見込んで養子にしてしてくれたセルーン公爵も、私を紳士だと思い、甘えてくれたフォルトナまで裏切ってしまったんだぞ?!」

 一体、兄は何を言っているのだろうか?
 私が鈍いのだろうか? キスをしたことと関係があるのは、わ・か・る。
 だがキスした直後に、処刑になると思う兄の思考がわ・か・ら・な・い!!
 恋多き友人が、『異性は宇宙人と思って接すると色々楽よ』と言っていたが、まさにその通りだ。

 私は、すでにルジェク王子の婚約者でもなければ、他に結婚を約束した相手もいない。
 つまり、私とキスをしても不貞にはならないし、誰にも迷惑はかからない。
 とにかく、意味がわからない!!

 私はとにかく、相手が宇宙人だと念頭に置いて、兄に問いかけた。

「兄上、落ち着いて下さい!! 裏切りってなんのことですか? 一体、こんな短い期間に何があったのですか?!」

 私はなりふり構わずに、必死で兄を止めた。
 廊下で揉めていた私たちを心配した侍女や執事が、次々に集まって来て皆、青い顔で私たちの様子を見ながらオロオロしていた。
 すると遠くに騒ぎを聞きつけたお父様がやって来るのが見えた。お父様が来たら、兄が落ち着いてくれるかもしれないと思っていると、兄が私の両肩に手を置いて、私を真剣な顔で見つめながら言った。

「フォルトナ、愛している!! 家族ではなく、一人の女性として愛してしまったんだ!! もう、お前を妹としてなど……見ることは出来ない!!」
「……え?」

 その瞬間、皆がシーンと静まり返った。慌ててこちらに向かっていたお父様が石像のようにピシッと固まった。

「好きだ!! フォルトナ!! 愛している!!」

 私たちを見ていた皆の顔色が、青から赤に変わっていく。
 みんな真っ赤な顔で私たちを見ていた。ふと、こちらに向かっていたお父様を見ると、お父様も真っ赤な顔で固まっていた。

 まさかの兄からの公開告白に、顔に熱が集まるのを感じた。
 みんなの視線を痛いほど感じる。ゴクリと誰かの息を飲む音が聞こえた。

 恥ずかしいし、穴があったら入りたいけど、これだけ大勢に知られてしまったなら、ここで恥ずかしがっても、今更感が半端ない。

 こうなったら、女は度胸!!

(公開告白だろうが、親に見られていようが関係あるか!!)

 私は思いっきり、兄に抱きついた。

「?!」
 
 いきなり抱きついたにも関わらず、兄は倒れることもなく私を受け止めたくれた。

「私だって、好きですよ!!! 大好きですよ!!!!」

 そう口にした瞬間、兄にきつく抱きしめられた。
 そしてその後すぐに、周りから『きゃ~~~』『おめでとうございます!』と、大きな歓声が上がった。歓声の中には『やっとか~~』『長かった~~』『じれったかった~~』などの声も聞こえる。

 チラリとお父様を見ると、お父様と目が合ったかと思えば、お父様は親指を立てた後に、背中を向けて部屋に戻って行った。

 私は兄に胸の中から少し離れて、兄の頬を両手で挟みながら言った。

「お父様と私を裏切ったとおっしゃるなら、生涯をかけて……セルーン公爵家の繁栄に尽力し……それから……」

 私はそこまで言って、兄にキスをした。

「フォルトナ?!」

 突然のキスに驚く兄に私は、睨むように言った。

「責任とって、ずっと私の側に居て下さい!!」

 すると兄に抱きしめられた。

「ああ。誓う!! セルーン公爵に繁栄を!! フォルトナを生涯大切にすることを誓う!!」

 こうしてセルーン公爵家には、二度目に歓声が響き渡ったのだった。

 

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