なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番

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3 夜会会場での安堵と疑念

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 夜会会場の受付に向かった。
 今回の夜会の受付は、私たちの部署ではなく、王太子殿下専属の文官たちだ。
 彼らはかなり厳格に招待客をチェックする。そのため、室長がリカルドに会場に入れないと言ったのだ。

「お名前を」
「リカルド・ラーンです」

 すると、文官たちが眉をひそめた。そして何かのリストを確認した。

「申し訳ございません。本日は既婚者のみの会となっております。お引き取りを」

 やはり職務に忠実な彼らは、条件に合っていないと門前払いだ。
 リカルドは、胸ポケットから先ほどもらった書類を見せた。

「こちらを」

 文官は、書類を確認するとリカルドにそれを戻しながら謝罪した。

「こちらの落ち度です。失礼いたしました。どうぞ」
「はい」

 実際、先ほど入籍したばかりなので、リストに載っていなくても当然なので、王太子殿下の専属文官の落ち度はない。
 リカルドは私の耳に顔を寄せた。

「無事に入れましたね」
「ええ」

 私も力強くうなずた。
 会場に入ると、扉の近くに室長が立っていた。室長に近づき目が合うと驚いた顔をした。

「間に合ったのか」
「はい」

 私がうなずくと、リカルドが真剣な顔で言った。

「この度は助言を頂き感謝いたします」
「それはいいのですが……本当に結婚されたのですね」

 室長はかなり驚いていた。

「はい。おかげ様で。つきましては、イリスさんと一緒にラーン伯爵家に戻りたいのですが、彼女のお仕事の引継ぎなどどれほどかかりますか?」

 私は驚いてリカルドを見た。
 どうやら、私はリカルドと共にラーン伯爵領に向かうらしい。
 てっきり後で一人で移動すると思っていたので驚いた。
 室長は少し考えて口を開いた。

「彼女は今回の会の責任者ですので、今回が終われば移動できると思います」

 リカルドは私を見た。

「そうですか!! イリスさんのご準備はどれほどかかりますか?」

 準備と言われても、城には私の私物はほとんどないし、現在住んでいる女官寮も帰って寝るだけの生活をしているので、私物はほとんどない。

「私物はほとんどないので、手続きが終わればすぐにでも」

 リカルドは多忙なはずだ。一緒に領に戻るならあまり迷惑をかけられない。
 返事をするとリカルドは私を見て微笑んだ。

「では、この明日にでも時間をいただけませんか? 今後の話をしましょう」
「はい」

 リカルドは室長に向かって小さく笑った。

「それでは失礼します」

 私も室長に頭を下げて、その場を去った。
 そして、二人で会場内で目的の人物を探した。

「まだいらしてないようですね」
「そうですね……」

 二人でピルオン公爵を探していると、年配の小柄な男性に声をかけられた。

「これは、ラーン伯爵。こちらにいらっしゃるということは、ご結婚されたのですかな?」

 リカルドは男性を見ながらにこやかに答えた。

「はい、結婚しました」
「ほう。つい先日お会いした時は、お相手がいるというお話は聞きませんでしたが……」

 それはそうだ。
 結婚したのはついさっきだ。相手がいたのならさすがに結婚を即決できないだろう。
 リカルドは相変わらず笑顔で答えた。

「出会ってすぐに結婚を申し込みまして」
「なんと! 出会ってすぐに! それはそれは情熱的ですな~~」

 情熱と言うより、背水の陣という感じだが、そんなことを彼が知る由もないし、知る必要もない。

「え~~ゴホン、リカルド殿。奥様を紹介してくれますかな?」

 男性の言葉で、リカルドが私の前に片手を出した。

「え? はい、彼女はイリスさんと言って、私の……つ、つ、つ、妻ですっ!!」

 リカルドを見上げると、顔を真っ赤にして照れていた。そんな反応をされると私まで照れる……

「はじめまして、イリスと申します」

 リカルドの反応にこれまでこちらを見てもいなかった数人が、微笑ましいと言った表情でこちらを見ていた。
 本当に恥ずかしい。照れる!!

「ほう~~初々しいですな~~結婚式は、船の完成後ですかな?」

 男性はにこにこしながらリカルドを見ていた。
 結婚式のことなど全く考えていない。そもそも、離婚するのだからする必要もない。

「結婚式……そうですね……盛大に執り行いたいですので……船の完成の後でしょうか……いや、もっと早い方がいいかもしれません。また決まりましたらご連絡いたします」

 リカルドも真剣な顔で答えた。

(凄い演技だな)

 仮初の妻相手に結婚式などしないだろうが、しないとは答えられないのだろう。

「お二人の結婚式を楽しみにしておりますぞ。ふぉふぉふぉ」

 男性は笑いながら去って行った。
 リカルドは、小さく息を吐くと私を見た。

「イリスさん、結婚式は……」

 リカルドが何かを言おうとした時だった。
 会場にファンファーレが流れた。
 そして王太子殿下と今日のメインゲストの隣国からのお客様が入って来た。そして、なぜかお客様のステッキ持ちの仕事をサイモンがしている。

(何してるの!?)

 私は思わず、室長を見た。室長もサイモンを見て青い顔をしていた。
 メインゲストや王族のステッキや剣を持つのは、王太子殿下専属文官の仕事だ。
 どうやらサイモンは手柄を焦るあまり、自分勝手に王太子殿下とそのお客様に声をかけたのかもしれない。
 ふと会場内にいる王太子殿下専属の文官の室長を見ると、眉をひそめてかなり不機嫌そうだ。

(うわ~~これ、後で絶対揉める……)

 私はサイモンの所業に頭を痛めながら殿下たちの入場を見ていた。
 王太子殿下や陛下や王妃殿下の後に、高位貴族の方々が入ってきた。

(あ、ピルオン公爵)

 リカルドを見ると、彼も気が付いたようで私を見てうなずいた。
 その後、王太子殿下がお客様を歓迎するあいさつをされた後に夜会が始まった。

「行きましょう、イリスさん」
「はい」

 私たちは、会場内を速やかに移動してピルオン公爵の元に向かった。

「ピルオン公爵、ご無沙汰しております」

 リカルドが公爵に声をかけると、公爵が何かに気付いたような顔をした。

「あっ、リカルド殿。そうであった!! もしかして、明日の調印か?」

 どうやら、公爵はすっかり忘れていたようだがリカルドの顔を見て思い出したようだった。

「はい、明日の朝一で使用いたします」
「ふむ、待っておれ」

 公爵は一緒に来ていた秘書に何かを告げると秘書がリカルドの方を見た。

「すぐに公爵家に早馬を出します。この夜会の間に印を押せるように手配いたしますので、お待ちくださいませ」

 秘書はそう言うと去って行った。
 肝心のピルオン公爵は「すまぬな」と言うと、忙しいようで、すぐに他の人と話をしていた。
 リカルドは、私を見てほっとした顔をした。

「ありがとうございました。無事にピルオン公爵と話ができました。やはり忘れておいででした。は~~よかった」

 私も安心した。
 
「無事に書類がいただけそうでよかったですね」
「はい。イリスさん、お疲れではありませんか? どこかで休憩しましょうか」

 私は用事も済んだので、会場の隅を見てリカルドに頭を下げた。
 
「申し訳ございません、リカルド様。少々お側を離れてもよろしいでしょうか?」
「はい。イリスさんもお仕事がありますよね。では、私はせっかく来たので、あいさつをしてきます」
「わかりました。それでは失礼いたします」

 私はリカルドの側を離れて、会場の外に出た。
 すると関係者しか入れない場所に、室長と王太子殿下専属の室長がいた。

「大変申し訳なかった」
「客人の持ち物は、大変貴重な物なのだぞ。それなのに、ろくに物の扱い方も知らないヤツに任せるなど!! どういう教育をしている。そもそも、客人の持ち物を預かるのは我々の仕事だ!! 傷でもついていたら責任問題だぞ」

 夜会などで細かく管轄が決まっているのには訳があるのだ。
 それぞれ訓練や教育を受けた者が対応することで問題を未然に防いでいるのだ。もしも粗相があれば、賠償問題や、国同士の関係にも影響する。
 だから、殿下の専属室長が言うことは正しいのだ。

「このことに関しては後日、殿下の意向を含め連絡する」

 そして殿下専属の室長がこちらに歩いて来たので、私は隅に寄って頭を下げた。
 専属室長がいなくなり、私が室長に近づくと、彼が困ったように言った。

「はぁ、段取りにないことを勝手にされるのは困るな」
「そうですね」

 私は室長に同意したが、何のなぐさめにもならない。

「私は大丈夫だ。君はリカルド殿の側に戻りなさい。問題があった場合だけ手伝いを頼む」
「はい」

 私たちの仕事はこの会の企画や運営だが、当日になってしまえば各担当が動くので何かトラブルでもない限り、することはない。だからこそ、あまり動く必要のないドレスで待機という形で出席しているのだ。

(もう、何も起こりませんように!!)

 祈るように会場に戻ると、サイモンが他の貴族と親し気に話をしていた。

「そう言えば、サイモン殿は独身だが会場に入ってもいいのか?」
「もちろんです。私は優秀なので、特別に王太子殿下の許可を頂いております」
「ほ~~王太子殿下の……では今回の夜会の仕切りは、陛下ではなく王太子殿下なのか。それは素晴らしい」

 確かに私たちは未婚だが、王太子殿下に事前に許可を貰っているので中に入れる。
 だが、それは関係者だからで優秀だというわけではないし、誰の指示で動いているのか口にしてもいけない。
 ふと壁際を見ると、どこの所属かわからないが、数人の若い文官がサイモンを見ながらヒソヒソと何かを話をしている。

(これ、室長に報告した方がいいかも……)

 私は念のために室長に先ほどのサイモンのことを報告した。室長は胃を押さえながら『わかった。報告感謝する』と言ったのだった。

 
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