なりゆきで妻になった割に大事にされている……と思ったら溺愛されてた

たぬきち25番

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6 トランク1つで

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 私はトランクの前で唸っていた。

「どうしよう……服がない……」

 これまでほとんど外出をしない生活をしていたので、私は誰かと食事に行くような服を持ち合わせていなかった。
 
「仕方ない……」

 私は白のブラウスと黒のカーディガンと黒のロングスカートというモノトーン姿で女官寮の前に立った。

(は~~せめてカーディガンがもう少し明るい色ならよかった……)

 今さら悔やんでも仕方ない。
 私は深呼吸をすると辺りを見回した。みんなこの時間は働いているので寮の前には全く人の気配がない。
 
(この時間って、こんなに静かなんだ……)

 こんな時間にこの場所に立っていたことがないので、この風景は見慣れていたはずだったのに、初めての場所のようで不思議だった。静かな道に鳥の声、そして見上げれば青い空。
 ぼんやりと空を眺めていると、馬車が近づいて来た。
 そして私の前で止まるとすぐに扉が開いた。
 そして、リカルドが馬車を降りた。

「ここで待ってくれていたのですね」
「はい」
「あ、もしも運べる荷物があれば、運びますよ。何回か往復する必要があるでしょう?」

 私はリカルドを見上げて困ったように答えた。

「昨日確認したら、荷物はトランク1つだったので、何度も往復する必要はないかと……」
「え? 全部でトランク1つ?」

 私はうなずいた後に答えた。

「はい。仕事ばかりしておりましたので、服は制服しかなくて……今日の服もリカルド様の素敵なお洋服に合わせる物がなく……申し訳ありません」
「いえ、謝罪の必要はありません。ですが……もしかして、今から退寮の手続きが出来ますか?」

 私の荷物は、すでにまとまっているし、制服やドレスなどは城からの支給品なのでクローゼットに残しておく規則だ。
 
「はい。出来ます」
「では、お昼まで時間がありますし、これから退寮の手続きをしませんか?」

 まさかこんなに退寮することになるとは思わなかったが、やはりリカルドはお忙しいので早くラーン伯爵領に戻りたいのだろう。
 だが……

「退寮しましたら、私は本日はどこで過ごせばいいでしょうか?」
「すでに、イリスさんの泊まる場所は用意してあります。何も心配せずにお越しください」

 どうやら、すでに私の泊まる部屋を用意してくれたようだ。
 
(ラーン伯爵領は財政難だと言うお話なのに……負担にならないのかな?)

 私はリカルドを見上げながら尋ねた。

「私の部屋を別に取ってくださったのですか?」
「はい、イリスさんの部屋を……もしかして、私と同室でもよろしいのでしょうか!?」

 凄い勢いで尋ねられた。
 やはり、2部屋用意するのは経済的に苦しかったのだろう。
 王都は物価が高いので無理をさせてしまって申し訳ない。

「はい」

 1部屋の方が経済的だ。シングル二つよりも、ツインを取る方が安いという王都の宿事情は仕事柄把握している。
 リカルドは何かを悩みながら小さな声で呟いた。

「え? え? 一緒でよかったのか? それなら今日から、イリスさんと同じ部屋で……いや、しばらくは邪魔をされる可能性がある……絶対に邪魔されたくない。あ~~でも一緒に寝たい~~でも、邪魔が絶対に入る~~ん~~ん~~」

 リカルドは、何か眉を寄せて真剣に悩んだ後に、私を見て真剣な顔で言った。

「ラーン伯爵領の領邸に戻ったら、一緒の部屋でお願いします!!」
「え? は、はい」
「ありがとうございます」

 なぜ領邸に戻ってから同室なのだろうか?
 もしかして、ラーン伯爵領邸はかなり狭いのだろうか?
 そうか、わかった。これからの季節、薪代を節約するということだろう。

(うん、うん、薪代って結構高もんね……)

 ようやく理由がわかってうなずいていると、リカルドが真剣な顔で拳を握りしめながら言った。

「一刻も早く領に帰りましょう!!」

 そうだった。
 リカルドは忙しいはずだ。

(早く領に戻れるように協力しないと!!)
  
「リカルド様、退寮手続きは寮監の元で行います。寮監の方は中にいます。こちらです」
「はい。一緒に行きます」

 私はリカルドを連れて、中に入った。
 そして、寮監室をノックすると、中から声が聞こえて扉が開いた。

「イリスさん、どうされ……」

 寮監はそこまで行って眉をひそめた。
 寮監はミシェルさんと言って、すでに子供が大きくなり、旦那様と離婚され寮監になったと言っていた。

「イリスさん、家族以外の方は寮内に入れない規則です」
「リカルド様は……私の……家族です」
「家族?」

 寮監が疑わしいといった瞳を向けていたが、その横でリカルドが顔を赤くして口を押えた。

「家族!! イリスさんの家族!!」

 ミシェルはリカルドを見た後に、私を見た。

「それで、何の用ですか? 外泊届ですか?」
「いえ、退寮の手続きをお願いします」
「え!? 退寮!?」
「はい」

 ミシェルは驚いたが、すぐに姿勢を正した。

「わかりました。少々ここで待っていてください」

 ミシェルの後ろ姿を見送って廊下に二人になると、リカルドが私を見て嬉しそうに笑った。

「俺、イリスさんの家族なんですね」

 いつもと言っているリカルドがと言った。それがなんだかくすぐったく感じ、リカルドを見ながら答えた。

「はい……結婚……したので……」
「そ、そうですね……」

 顔に熱が集まり、恥ずかしくなっていると、リカルドの頬も赤くなっていた。
 二人で視線をさまよわせていると、ミシェルが戻って来た。

「これに名前を」
「はい」

 廊下に置いてある机で自分の名前を書いて渡すと、ミシェルが微笑んだ。

「お幸せにね」
「ありがとうございました。お世話になりました」

 私はミシェルに頭を下げた。

「荷物はどうするのですか?」

 その問いかけに答えたのはリカルドだった。

「これから運びます」
「わかりました。制服やその他の支給服はロッカーへ、鍵は返しに来てください」
「はい」

 私はリカルドを見た。

「では、リカルド様。すぐに戻ります」
「え?」

 私はリカルドを待たせてはいけないと思い、早足で一人で部屋に戻った。

「一緒に行けないのか……部屋見たかった……」

 だから知らなかったのだ。残されたリカルドががっかりと肩を落としたことに……

 

 

 


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