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第二章 霧のかかった未来
16 乗馬大会にて(1)
しおりを挟むハンスが、乗馬大会に出場することが決まって3ヵ月が経ち、今日は、いよいよ乗馬大会の日だった。
私は、まずホフマン伯爵家に行って、そこから馬車でハンスと一緒に乗馬会場に向かうことになっていた。
いつものようにホフマン伯爵邸に入ると、ハンスが走って来てくれた。
「シャル!! 来て!! 会わせたい人がいるんだ!!」
「え、ええ」
私は、ハンスに手を引かれて、サロンに向かった。
トントントン。
「入ります」
「ああ」
中から聞いたことのない方の声が聞こえた。
ハンスが、扉を開けると私を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「入って」
「うん」
中に入ると、まるで絵画の中から出てきたような美しい男女が座っていた。
私は、この方々に会ったことはないが、一目見て、誰かわかってしまった。
「シャル、紹介するね!! お父様と、お母様だよ」
「はじめまして、シャロッテ・ウェーバーと申します」
私が頭を下げると、優しそうな女性が立ち上がり、私の前に歩いてくると、私の手を取って微笑んだ。
「ふふふ。ハンスから手紙で聞いていたけれど……こんなにも可愛らしい方だったなんて」
ハンスによくにたエメラルドグリーンの瞳が光に輝くと、とても美しく見えた。
すると、女性の隣に立った男性が優しく言った。
「シャロッテ嬢。はじめまして、ハンスの父と、こちらが私の妻です。いつもハンスを助けてくれてありがとう」
黄金に光る髪は、ハンスと同じ色だった。
それに笑った時、片方だけにえくぼが出来るのもハンスと同じだった。
2人共、とても美しくて、優しそうな方だった。
「シャル!! 今日は僕の初めての乗馬大会だから、お父様とお母様が応援に来て下さったんだ」
「一緒に応援しましょうね」
ハンスのお母様に微笑まれて、私も嬉しくなった。
「はい」
こうして、私たちは4人で大会会場に向かったのだった。
☆==☆==
「じゃあ、いって来るね!!」
ハンスは会場に着くと、嬉しそうに選手控室に向かった。
私は、ハンスのご両親と一緒に観覧席に向かった。
観覧席に座ると、ハンスのお母様が私に、話かけてくれた。
「シャルロッテと呼んでもいいかしら?」
「はい」
「ふふふ。本当に可愛い。ハンスの手紙には、いつもあなたのことが書いてあるのよ。あなたがいてくれて嬉しい。あなたが大好きだって」
「え?」
まさか、ハンスが、ご両親にそんな手紙を送っているとは知らずに、思わず頬が赤くなった。
「ああ。私たちが側に居られない分、シャルロッテ嬢に頼りっきりになっているからね。一度、君に会ってお礼を言いたかっただんだ」
ハンスのお父様が目尻を下げて笑った。ハンスも将来こんな風に穏やかに笑ってくれるのだろうか。
私が将来のハンスを想像していると、ハンスのお母様が申し訳なさそうに言った。
「ハンスから『宝石のお勉強はとても大変だ』と聞いたわ。まだ、幼いのに、シャルロッテ。あなたにまで、ハンスに付き合わせてしまって、本当にごめんなさい。つらくはない? 大丈夫」
「つらくはないというのは、嘘になるかもしれませんが、私はハンスの役に立ちたいんです。だから、これからも頑張ります」
すると、ハンスの両親が驚いた後に、嬉しそうに笑った。
「ふふふ。ハンスは幸運ね。こんな素敵な方がそばに居てくれて」
「ああ、本当だね。シャルロッテ嬢。どうか、息子を……ハンスをよろしく頼むよ」
「はい」
私は、2人に向かって力強く頷いたのだった。
☆==☆==
それから、しばらくして、ハンスの順番が来た。
「旦那様、ハンスですわ!! 凄いわ~~」
ハンスのお母様は、オペラグラスを覗きこみながら、興奮したように、はしゃいでいた。
「ああ、素晴らしいね」
ハンスのお父様も始終嬉しそうだった。
「ハンス、素敵だわ」
ずっと、話には聞いていたが、ハンスの乗馬姿は、想像以上に素敵で、私は夢中で、ハンスを見つめたのだった。
「ああ!! ハンス。無事に失敗もなく終わったわ~~凄いわね~。きっとたくさん練習したのね。素晴らしいわ」
ハンスのお母様は、ハンスが競技を終えて、無事に退場すると、ほっとしたように言った。
「本当だね~。おや? 次の子もハンスと同じ歳だそうだ。ああ、ランゲ侯爵の御子息だ」
「え?」
ランゲ侯爵と聞いて、私は急いで、競技場を見つめた。
(ゲオルグだ……この大会に出てたんだ……)
何も言わずにじっと、ゲオルグを見ていると、ゲオルグは2つの障害物で失敗してしまった。
ゲオルグは悔しそうに、顔を下げて退場した。
(ゲオルグ、悲しそうだったな)
私は、その後ずっとゲオルグの悲しそうな表情が頭の中から消えなかった。
☆==☆==
全ての競技が終わると、表彰式が行われた。
なんと、ハンスは9位で史上最年少で入賞した。
表彰されたハンス以外の方は、全てが10歳以上の方ばかりだった。
「旦那様!! ハンスは、乗馬の才能があるわ!!」
「ああ!! 将来が楽しみだな~~」
お母様とお父様は、とても喜んでいた。私はその会話を聞きながら、2人の口にしたある言葉にひっかかっていた。
――将来が楽しみ。
最年少で、乗馬の大会で入賞したハンスは、確かに素晴らしい才能の持ち主だ。
なぜだろう。才能があるのはいいことのはずなのに、なぜか私はこの言葉に胸にトゲが刺さったような違和感を感じた。
私は、表彰されて喜ぶハンスの顔を眩しそうに見たのだった。
☆==☆==
今回の大会で入賞した選手とその両親は、国王陛下からお言葉を賜るということで、ハンスとご両親は、陛下の待つ部屋に向かった。
私は、人のあまりいない場所で3人を待っていた。
すると、向こうから暗い顔をしたゲオルグが歩いて来た。
カツカツカツ。
ゲオルグの靴の音がやけに大きく聞こえた。
「ゲオル……」
話しかけようとしてして、ゲオルグを見ると、しっかりと目が合った。
だが、まるで視界に私など入っていないというように、ゲオルグは私から視線を逸らすと、私の隣を通り過ぎて行った。
私など初めから存在しないかのように……。
(あ……)
ゲオルグの瞳は、酷く傷ついていた。
――なぐさめたい。
そう思って、両手の手のひらを握った。
お友達に「お疲れ様」ということは悪いことではない。
だが、私はゲオルグに声をかけなかった。
まるで、『声をかけてはいけない』と本能が告げているようだった。
結局私は、その場に立ち尽くしたままゲオルグには声はかけなかった。
そして、空を見上げて、大きく息を吐いた。
「お疲れ様」
私の言葉は、誰の耳にも入らずに空に溶けていった。
しばらくして、少し遠くに笑顔でこちらに向かって走ってくるハンスの姿が見えた。
私はハンスに向かって大きく手を振りながら、ハンスを待ったのだった。
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