好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番

文字の大きさ
17 / 95
第二章 霧のかかった未来

16 乗馬大会にて(1)

しおりを挟む

 ハンスが、乗馬大会に出場することが決まって3ヵ月が経ち、今日は、いよいよ乗馬大会の日だった。

 私は、まずホフマン伯爵家に行って、そこから馬車でハンスと一緒に乗馬会場に向かうことになっていた。

 いつものようにホフマン伯爵邸に入ると、ハンスが走って来てくれた。

「シャル!! 来て!! 会わせたい人がいるんだ!!」

「え、ええ」

 私は、ハンスに手を引かれて、サロンに向かった。

トントントン。

「入ります」

「ああ」

 中から聞いたことのない方の声が聞こえた。
 ハンスが、扉を開けると私を見て、嬉しそうに微笑んだ。

「入って」

「うん」

 中に入ると、まるで絵画の中から出てきたような美しい男女が座っていた。
 私は、この方々に会ったことはないが、一目見て、誰かわかってしまった。

「シャル、紹介するね!! お父様と、お母様だよ」

「はじめまして、シャロッテ・ウェーバーと申します」

 私が頭を下げると、優しそうな女性が立ち上がり、私の前に歩いてくると、私の手を取って微笑んだ。

「ふふふ。ハンスから手紙で聞いていたけれど……こんなにも可愛らしい方だったなんて」

 ハンスによくにたエメラルドグリーンの瞳が光に輝くと、とても美しく見えた。
 すると、女性の隣に立った男性が優しく言った。

「シャロッテ嬢。はじめまして、ハンスの父と、こちらが私の妻です。いつもハンスを助けてくれてありがとう」

 黄金に光る髪は、ハンスと同じ色だった。
 それに笑った時、片方だけにえくぼが出来るのもハンスと同じだった。
 2人共、とても美しくて、優しそうな方だった。

「シャル!! 今日は僕の初めての乗馬大会だから、お父様とお母様が応援に来て下さったんだ」

「一緒に応援しましょうね」

 ハンスのお母様に微笑まれて、私も嬉しくなった。

「はい」

 こうして、私たちは4人で大会会場に向かったのだった。

☆==☆==

 
「じゃあ、いって来るね!!」

 ハンスは会場に着くと、嬉しそうに選手控室に向かった。
 私は、ハンスのご両親と一緒に観覧席に向かった。

 観覧席に座ると、ハンスのお母様が私に、話かけてくれた。

「シャルロッテと呼んでもいいかしら?」

「はい」

「ふふふ。本当に可愛い。ハンスの手紙には、いつもあなたのことが書いてあるのよ。あなたがいてくれて嬉しい。あなたが大好きだって」

「え?」

 まさか、ハンスが、ご両親にそんな手紙を送っているとは知らずに、思わず頬が赤くなった。

「ああ。私たちが側に居られない分、シャルロッテ嬢に頼りっきりになっているからね。一度、君に会ってお礼を言いたかっただんだ」

 ハンスのお父様が目尻を下げて笑った。ハンスも将来こんな風に穏やかに笑ってくれるのだろうか。

 私が将来のハンスを想像していると、ハンスのお母様が申し訳なさそうに言った。

「ハンスから『宝石のお勉強はとても大変だ』と聞いたわ。まだ、幼いのに、シャルロッテ。あなたにまで、ハンスに付き合わせてしまって、本当にごめんなさい。つらくはない? 大丈夫」

「つらくはないというのは、嘘になるかもしれませんが、私はハンスの役に立ちたいんです。だから、これからも頑張ります」

 すると、ハンスの両親が驚いた後に、嬉しそうに笑った。

「ふふふ。ハンスは幸運ね。こんな素敵な方がそばに居てくれて」

「ああ、本当だね。シャルロッテ嬢。どうか、息子を……ハンスをよろしく頼むよ」

「はい」

 私は、2人に向かって力強く頷いたのだった。

☆==☆==

 それから、しばらくして、ハンスの順番が来た。

「旦那様、ハンスですわ!! 凄いわ~~」

 ハンスのお母様は、オペラグラスを覗きこみながら、興奮したように、はしゃいでいた。

「ああ、素晴らしいね」

 ハンスのお父様も始終嬉しそうだった。

「ハンス、素敵だわ」

 ずっと、話には聞いていたが、ハンスの乗馬姿は、想像以上に素敵で、私は夢中で、ハンスを見つめたのだった。

 
「ああ!! ハンス。無事に失敗もなく終わったわ~~凄いわね~。きっとたくさん練習したのね。素晴らしいわ」

 ハンスのお母様は、ハンスが競技を終えて、無事に退場すると、ほっとしたように言った。

「本当だね~。おや? 次の子もハンスと同じ歳だそうだ。ああ、ランゲ侯爵の御子息だ」

「え?」

 ランゲ侯爵と聞いて、私は急いで、競技場を見つめた。

(ゲオルグだ……この大会に出てたんだ……)

 何も言わずにじっと、ゲオルグを見ていると、ゲオルグは2つの障害物で失敗してしまった。
 ゲオルグは悔しそうに、顔を下げて退場した。

(ゲオルグ、悲しそうだったな)

 私は、その後ずっとゲオルグの悲しそうな表情が頭の中から消えなかった。

☆==☆==

 全ての競技が終わると、表彰式が行われた。
 なんと、ハンスは9位で史上最年少で入賞した。
 表彰されたハンス以外の方は、全てが10歳以上の方ばかりだった。

「旦那様!! ハンスは、乗馬の才能があるわ!!」

「ああ!! 将来が楽しみだな~~」

 お母様とお父様は、とても喜んでいた。私はその会話を聞きながら、2人の口にしたある言葉にひっかかっていた。

――将来が楽しみ。

 最年少で、乗馬の大会で入賞したハンスは、確かに素晴らしい才能の持ち主だ。
 なぜだろう。才能があるのはいいことのはずなのに、なぜか私はこの言葉に胸にトゲが刺さったような違和感を感じた。
 私は、表彰されて喜ぶハンスの顔を眩しそうに見たのだった。

☆==☆==

 今回の大会で入賞した選手とその両親は、国王陛下からお言葉を賜るということで、ハンスとご両親は、陛下の待つ部屋に向かった。

 私は、人のあまりいない場所で3人を待っていた。
 すると、向こうから暗い顔をしたゲオルグが歩いて来た。

 カツカツカツ。

 ゲオルグの靴の音がやけに大きく聞こえた。

「ゲオル……」

 話しかけようとしてして、ゲオルグを見ると、しっかりと目が合った。
 だが、まるで視界に私など入っていないというように、ゲオルグは私から視線を逸らすと、私の隣を通り過ぎて行った。

 私など初めから存在しないかのように……。

(あ……)

 ゲオルグの瞳は、酷く傷ついていた。
――なぐさめたい。

 そう思って、両手の手のひらを握った。
 
 お友達に「お疲れ様」ということは悪いことではない。
 だが、私はゲオルグに声をかけなかった。
 
 まるで、『声をかけてはいけない』と本能が告げているようだった。

 結局私は、その場に立ち尽くしたままゲオルグには声はかけなかった。

 
 そして、空を見上げて、大きく息を吐いた。

「お疲れ様」

 私の言葉は、誰の耳にも入らずに空に溶けていった。



 しばらくして、少し遠くに笑顔でこちらに向かって走ってくるハンスの姿が見えた。
 私はハンスに向かって大きく手を振りながら、ハンスを待ったのだった。




しおりを挟む
感想 253

あなたにおすすめの小説

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

陛下を捨てた理由

甘糖むい
恋愛
美しく才能あふれる侯爵令嬢ジェニエルは、幼い頃から王子セオドールの婚約者として約束され、完璧な王妃教育を受けてきた。20歳で結婚した二人だったが、3年経っても子供に恵まれず、彼女には「問題がある」という噂が広がりはじめる始末。 そんな中、セオドールが「オリヴィア」という女性を王宮に連れてきたことで、夫婦の関係は一変し始める。 ※改定、追加や修正を予告なくする場合がございます。ご了承ください。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

【完結】お世話になりました

⚪︎
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。 地位や名誉……権力でさえ。 否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。 望んだものは、ただ一つ。 ――あの人からの愛。 ただ、それだけだったというのに……。 「ラウラ! お前を廃妃とする!」 国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。 隣には妹のパウラ。 お腹には子どもが居ると言う。 何一つ持たず王城から追い出された私は…… 静かな海へと身を沈める。 唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは…… そしてパウラは…… 最期に笑うのは……? それとも……救いは誰の手にもないのか *************************** こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

最後の誕生日会

まるまる⭐️
恋愛
「お父様のことを……お願いね……」  母は亡くなる間際、まだ小さかった私の手を握り締めてそう言った。  それから8年……。  母の残したこの言葉は、まるで呪文のようにずっと私の心を縛り付けてきた。  でも、それももう限界だ。  ねぇ、お母様。  私……お父様を捨てて良いですか……?  ****** 宮廷貴族ゾールマン伯爵家の娘アイリスは、愛する母を病気で亡くして以来、父ヨーゼフと2人肩を寄せ合い暮らしてきた。 そんな日々が続いたある日、父ヨーゼフはいきなり宰相から筆頭補佐官への就任を命じられる。それは次の宰相への試金石とも言える重要な役職。日頃からの父の働きぶりが認められたことにアイリスは大きな喜びを感じるが、筆頭補佐官の仕事は激務。それ以来、アイリスが父と過ごす時間は激減してしまう。 そんなある日、父ヨーゼフは彼の秘書官だったメラニアを後妻に迎えると屋敷に突然連れて帰って来た。 「彼女にはお前と一つ違いの娘がいるんだ。喜べアイリス。お前に母と妹が一度に出来るんだ! これでもう寂しくはないだろう?」 父は満面の笑みを浮かべながらアイリスにそう告げるが……。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

処理中です...