好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番

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第十章 今が繋がった道の先へ

84 明かされた真実

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 お披露目式が終わった次の日の朝。
 朝食が終わり、エマはもちろんのこと、お父様や、お母様、そしてシャロンだけではなく、領地のおじい様や、おばあ様も同席していた。
 私は、事前にエイドと相談して、みんなの前で、ミーヌ侯爵に聞いたことを伝えることにした。

「もしかしたら、ミーヌ侯爵のおっしゃった方がエイドと、エマのお母様かもしれないの。……ゲオルグが、ハワード様なら調べられるかもしれないと教えてくれて……お願いしようかと思っているの……エマ……どう思う?」

 エマだけではなく、なぜかおじい様や、お父様たちも神妙な顔をした。
 エマはともかく、お父様たちの表情を不思議に思っていると、エマが口を開いた。

「私は……知るのが怖いです」

「……」

 みんなは無言でエマを見つめた。

「もし、私の母親や父親がどうしようもない人間だったら?
 幼い、私と兄さんを捨てるような親です。充分に考えられます。
 折角、お嬢様が新しいお仕事を始めたり、ウェーバー子爵領がやっと、豊かになってきたのに……私たちの親と繋がりが出来たばかりに、ご迷惑をお掛けするようなことは……私にはできません」

 エイドが、小さく息を吐いた後に口を開いた。

「そうだな……俺もそう思う。やはり調べて貰うのはやめよう。……子供を捨てるような親だ。下手に繋がりを持つようなことはやめた方がいい」

「待ってくれ、エイド、エマ」

 突然、お父様が大きな声を出した。

「エイド、エマ。すまないな……2人が大きくなって、自分の両親のことを知りたいと言ったら、話そうと思っていたんだ。とても残酷な話になるが……2人の両親は、ヒドイ人間ではない。それだけは断言する」

「両親のことを知っているのですか?」

 エイドが信じられないと顔でお父様を見た。
 だが、驚いていたのは、私もエマもシャロンも同じだった。
 おじい様や、おばあ様、お母様は、知っていたようで、とてもつらそうなお顔をしていた。

 お父様は、エイドとエマを見ながら尋ねた。

「ああ。聞きたいかい?」

「旦那様たちのご迷惑にならないのなら……知りたいです」

 エマが珍しく迷うように言った。それを聞いたエイドも、お父様をじっと見ていながら言った。

「お願いします、旦那様」

「わかった。私の知っている全てを話そう」

 こうして、お父様はエイドとエマの両親のことを話始めたのだった。




☆==☆==




――23年前。
 ウェーバー子爵領内にて。


「シャンレーン様、本当にありがとうございました」

「気にするな、ハンナ。ついでだ、ついで。ではな」

 後にシャルロッテの父となるシャンレーンは、領内の視察の帰りに、重そうな荷物を持ち、ヨタヨタと歩いていた針子のハンナを見つけて、荷物を彼女に家に運んであげたのだった。

 シャンレーンがハンナの家を出た途端。

 ドサッ。

 何かの倒れる音がして、シャンレーンとハンナは、音のした方を見た。
 すると近くで、傷だらけの女性が幼い2人の子供を抱いて倒れた。

「おい、大丈夫か? おい!!」

 シャンレーンは、急いで駆け寄ると、倒れた女性に声をかけた。

「……う……」

 女性は傷だらけでひどく衰弱している様子だった。

「シャンレーン様、どうぞ、家の中にその人たちを」

「ああ、すまない。助かる」

 シャンレーンは、傷だらけの女性を抱き上げて、ハンナの家のベッドに寝かせた。

「う……うぅ……」

 女性のつらそうなうめき声に、シャンレーンは急いでハンナを見ながら言った。

「悪いが、この人たちを頼む。私は、ヨークじいを呼んで来よう」

「わかりました!」

「助かる!!」

 急いでこの町唯一の医者であるヨークの診療所に行くと、ヨークは留守だった。
 もしかしたら、急患が入ったのかもしれない。

 仕方なく、シャンレーンは、こどもたちのために果物やパンを買うと、ハンナの家に戻った。
 
「ハンナ、すまない。ヨークじいは不在だった。今日はこの人たちを頼んでもいいか?」

「もちろんいいですよ」

「そうか……少ないが、これを」

 シャンレーンは、買った物をハンナに渡すと、自分は家に戻ったのだった。






 次の日。
 シャンレーンが、医師のヨークのところに行こうとすると、侍女が慌ててやってきた。

「シャンレーン様、子供が捨てられております」

「なんだって?!」

 シャンレーンが門に駆けつけると、昨日、助けた子供たちの姿があった。

「どうしたんだ? 母親はどうした?」

 シャンレーンが、少し大きな男の子に尋ねたが「あー、ち、て、う……いった」とたどたどしい言葉で答えただけだった。

「あーちてう? あーちてう……あいしてる? 愛してるか? くっ!!」

 シャンレーンは、2人を抱き上げると、屋敷に入った。

「すまない、母上、この子たちを頼む」

「ちょっと~~。この子たちどうしたの??」

 シャンレーンの母親。つまりシャルロッテの祖母は、大きな声で尋ねた。

「門の前に置き去りにされてた。私は、母親を探してくる!!」

「子供を置き去りですって?! ええ、探してきなさい!!」

 シャンレーンは、子供を預けると、馬に乗り、急いで女性を探した。

「どこだ。どこにいる? きっとまだ遠くには行ってないはずだ」

 ハンナの家に向かうと「突然、酷く怯えた様子で、気がついたら居なくなっていた」と言っていた。
 それから町中を探したが、女性は見つからなかった。

「どこに行ったんだ?!」

 シャンレーンが、子供たちの母親を探していると、私兵のような見慣れない男たちを見つけた。
 シャンレーンは、馬を降りると、男たちに尋ねた。

「私は、この領の領主の息子だ。君たち、見かけない顔だが、なんの用かな?」

 男たちは大きな声で言った。

「これは、幸いだ。こちらの領主御子息でしたか。それは話が早い。
 私たちは、ハイロ国のゴーラン侯爵家の者です。実は、逃げ出した女と子供を探しております。
 見つけ次第、私たちにお引渡し下さい。
 女性は美しい黄金色の髪です。目は藍色。その子供も同じ風貌です」

「ハイロ国の侯爵家?」

 シャンレーンは、眉を寄せると、男たちは「頼みましたぞ」と言って去って行った。

「隣国の侯爵家が探している? どういうことだ? 嫌な予感がする。早く見つけなければ」

 シャンレーンは馬を飛ばすと、街外れまで来た。そこには、小さな教会があった。

「もしかして……?」

 シャンレーンは急いで、教会に入った。
 するとそこには、あの女性が苦しそうに椅子に座って、祈りを捧げていた。

 シャンレーンは、静かに女性に近づき、女性の隣に座って話しかけた。

「どういうつもりだ?」

「もしかして、あなた様が、私を助けてくれたお優しい貴族様ですか?」

 シャンレーンはその時ようやく、女性の顔を正面から見た。
 女性は、やつれてはいたが、これまで見た誰よりも美しかった。

「優しくなどない。当然のことをしたまでだ。……あなた、名前は?」

 女性は、少し考えて答えた。

「……エイ―マと申します」

 シャンレーンは、溜息をつきながら言った。

「エイ―マ。子と離れるなど感心しないな。
 行くところがないなら、家で働かせてやるから、働きながらあの2人を育てろ。
 人に押し付けるな。私のような男に預けるなど、将来グレても知らないぞ?」

 シャンレーンの言葉に、エイ―マは驚いた顔をすると困ったように笑った。

「やはりお優しい方。……私が側に居ては、あの子たちは殺されます。それに私も……もう長くはありません。どうか、心優しい貴族様……あの子たちをお願いいたします」

「殺される? それは随分とキナ臭い話だな。もしかして、エイ―マは罪人なのか?」

 シャンレーンは、先ほどの男たちを思い出しながら尋ねた。

「いえ……」

 エイ―マはその言葉に顔を曇らせた。
 シャンレーンは、エイ―マの顔を覗き込むと、わざと大袈裟に溜息をついた。

「話くらい聞かせてくれ。私があの子たちを育てたとして、何も知らずに、将来あの子たちが、『母親のことが知りたい』と言ったらどうするんだ? 悪いが、私にはエイ―マのことを調べる資金などない。出来れば自分で話してくれ」

 するとエイ―マが、美しく微笑みながら言った。

「本当に良い方……。あなたに会えたことは、神のご慈悲かもしれませんね。……わかりました。お話しますわ」

「ああ、頼む」

 シャンレーンは、じっとエイ―マの顔を見ながら話を聞いた。



「私は、元々傭兵でした」

「そうか……傭兵? 傭兵ってあの、傭兵か? 護衛などで山賊などと戦う?」

 エイ―マの可憐な風貌からは想像もつかない言葉が飛び出し、シャンレーンは、驚いて聞き返した。

「ええ。そうです。山賊、猛獣と戦う傭兵です」

「そ、そうか……それで?」

「ある時、私は、ある劇団の護衛を任されたのですが、その劇団の女優さんが、駆け落ちしまして、公演ができなくなりました。そこで、急遽、私が舞台に上がることになりました」

 護衛をしていた劇団の女優が駆け落ち……そして、女優に転向。
 シャンレーンは、驚くべきことだと思ったが、当の本人であるエイ―マは涼しい顔をしていた。

「芝居は出来たのか?」

 シャンレーンの問いかけに、エイ―マは、淡々と答えた。

「いえ、始めはできませんでしたが、厳しい稽古の末、なんとか舞台に立てました。元々、セリフなどは一度聞けば、覚えることができたので」

「一度聞いて、セリフを覚える……それは凄いな」

「お褒め頂き光栄です。……おかげで、女優として人気が出まして、たくさんの貴族の方の求婚を受けました。そして、私はその中のお一人、カミラ伯爵と恋をしました。そして、伯爵と結婚し、息子と娘ができました」

「まさに、シンデレラストーリーだな」

 シャンレーンが頷いていると、エイ―マは、悲しそうな顔をしながら言った。

「ですが、現実は悲劇でした。
 伯爵は、侯爵家の令嬢から求婚を受けていたのです。伯爵はずっと、断っていたのですが、その侯爵令嬢は、私と子供たちがいるせいで、自分は伯爵と結婚ができないと思い込み、私たちの存在を消そうとして、毒殺しようとしたり、暗殺しようとしてきました」

「毒殺? 暗殺? よく無事で……」

「毒殺は、匂いで回避して、暗殺者は、返り討ちにしました」

「ああ、エイ―マは元傭兵……、それで返り討ちか……それで旦那は?」

 シャンレーンの問いかけに、エイ―マは切なそうに言った。

「旦那様は、必死で、犯人を探して下さいました」

「ん? 犯人は侯爵家の令嬢なのでは?」

「実は、旦那様が留守の時に子供たちが誘拐されました」

「えええ!! 誘拐?!」

「はい。なんとか、一人で誘拐犯のアジトに潜り込み、子供たちは守ったのです。そしてその時に、この一連の首謀者が誰なのかを知りました。
 旦那様は伯爵ですが、相手の侯爵家は強大です。私は、これ以上ここにいては、子供たちが危ないと思いそのまま、逃げました」

 エイ―マの話を聞いたシャンレーンは頭を抱えた。

「確かに……侯爵家は……強大だな……潰されても仕方ないかもしれない」

「はい。それからは、逃げることに必死でした。逃げ切る自信はあったのですが……幼い子供を連れての逃走は想像以上に困難で、無茶をして背中に大きな傷を受けてしまいました。この傷はきっともう手遅れです。私はもう長くはありません。どうぞ、あの子たちをお願いします」

 シャンレーンは、立ち上がるとエイ―マを抱き上げた。

「え?」

 驚いたエイ―マにシャンレーンは、抱きかかえて、歩きながら言った。

「病院に行く。貴族嫌いのおっかない医師のいる病院なのだが……腕はいい。きっと、君の追手なんて追い払いながら治療してくれる」

「……どうして……?」

 エイ―マの泣きそうな顔を見たシャンレーンは困ったように言った。

「あんなに可愛い子供たちがいるんだ……生きたいだろ?」

「……生きたいです!!」

 涙を流し、必死な顔のエイ―マにシャンレーンは、微笑みながら言った。

「うん。生きよう。
 子供たちは私に任せてくれてかまわない。治療費は……君が治ったら旦那に請求する、他に心配事は?」

 それを聞いたエイ―マはこれまで見せたことのない笑顔で言った。

「よろしくお願いいたします」

 こうして、シャンレーンは、エイ―マを病院に運んだのだった。




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