我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

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【クリストフ】(王妃ルート)

7 すれ違い

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それから、私のすることは、あいさつだけになった。
あの日以来、私がクリスの執務室に呼ばれることはなかった。
そのため、ルーカス様とも会っていなかった。

私はあいさつをする相手の方を、謁見の間の控室でぼんやりと待っていた。

(やっぱり私は、劇場の事業から外されてしまったのかしら・・?
劇場作るの頑張ってたのにな・・。
こんな中途半端で外されるなんて・・。)

私は涙が流れそうになるのを必死で堪えた。

(ダメよ。これからお客様にお会いするんだから!!
しっかりしないと。)

私は無性にヴァイオリンが恋しくなった。
私のヴァイオリンをキラキラして目で見てくれた人たちの笑顔を思い出して、気合を入れた。

(うん。王妃になるって決めたのは私よ!!
こんなことわかってたことだわ。
とりあえず、このあいさつを乗り切って、考えよう。)

私は背筋を伸ばした。




~幕間~ クリスの執務室にて


トントン

クリストフの執務室にノックの音が響いた。
誰が訪ねてきたのか、相手が名乗るのを待ったが、一向に名乗らないため、ローベルが立ち上がり、扉をあけた。

「・・・・。リトア殿。」

入ってきたのは、ルーカスだった。

「クリストフ殿下に話があります。」
「お引き取りを。」

ローベルの言葉にルーカスが小声で怒りのある声を出した。

「いいから通せ。これは公爵家としての命令だ。」

すると、ローベルが「少々お待ち下さい。」と一度扉を閉めた。
ルーカスはいつも飄々としていた。
そんな彼がこのような声を出すのは珍しいことだった。

ローベルは、クリスの元に行き、「ルーカス様がどうしてもお会いしたいそうです。」
と伝えた。
クリスは溜息をついたが、頷いた。

ローベルが扉に戻ると、ルーカスに伝えた。

「どうぞ。」
「失礼する。」

するとクリスは立ち上がり、皆に退出の合図をした。
ローベルは戸惑ったが、クリスの視線を受けて出て行った。

ルーカスはクリスの執務机に書類を放り投げた。

「どういうことですか?殿下?
なぜ今後の話し合いにベルナデット様が立ち会われないのですか?」

すると、クリスは溜息をついた。

「もうベルには充分意見を聞いただろ?
ベルだって忙しい。あまりこの件だけに時間をさくことはできないと判断した。」

するとルーカスが自嘲気味に笑った。

「あはは。あはっは。お坊ちゃんはそんなに自分に自信がないのか?」
「何?」

クリスがルーカスを睨み付けた。
だが、ルーカスはそれ以上に鋭い視線を向けた。

「だってそうだろう?
彼女からヴァイオリンを奪っただけでは飽き足らず、彼女の王妃としての民を思う矜持まで奪うのか!!
こんな愚かな相手が彼女のパートナーなど!!
おまえなどに彼女を任せてはおけない。
彼女は私が貰う。」
「ふざけるな!!!おまえに何がわかる!!」

クリスが叫ぶような声をあげた。

「わかりませんね!!わかりたくもない!!
彼女の魅力に怯え縛り付けるしかできない臆病者の考えなど!!」

ルーカスも負けずと叫んでいた。
すると、クリスが消え入りそうな声を出した。

「そうだ。怖いんだ。
私は、彼女を失いたくはないんだ・・・・。」

クリスは自身の手を握りしめて震えていた。
すると、ルーカスが大きな溜息をついた。

「殿下・・・。
光を隠そうとしたって無駄だ。
むしろ光に焦がれて、もっと強い光になって消えてしまう。」

その言葉にクリスが急いで顔を上げた。

「ではどうしろというのだ?」

すると、ルーカスが優しく微笑んだ。

「光は自由に輝くのが一番ですよ。」
「だが・・。」
「無理やり縛りつけるより、殿下の側が居心地が良いと思ってくれた方が側にいてくれるんじゃないんですか?」

クリスは、まるで目から鱗が落ちるようだった。

「私の側が居心地がいい?」
「ええ。そうです。」
「・・・・。」

そして、ルーカスは溜息をつきながら、肩をあげた。

「後、殿下の欲求不満もそろそろ見苦しいので、いい加減ベルナデット様とキスくらい済まされたらどうです?」

クリスは顔を真っ赤にした。

「な、な、な!!」

ルーカスが肩を上げながら今度は首を振った。

「結婚前でもキスくらいの触れ合いじゃ咎める者はいませんよ。
欲求不満と不安を解消してとっととベルナデット様を自由にして下さい。
彼女がいないと劇場がいつまでたっても出来ませんよ。」

クリスは真っ赤な顔でルーカスを恨めしそうに見た後、頷いた。

「・・・わかった。約束しよう。助言感謝する。」

するとルーカスが目を見開いた後、穏やかに微笑んだ。

「人は誰でも間違えます。
間違えた時にそれを正せる人間が真の人格者ですよ。
殿下、先程の無礼な発言を全て撤回致します。」
「そうか・・。だが、臆病者なのは事実として受け入れておこう。」

クリスの言葉にルーカスはお辞儀をすると、「それではよろしくお願いします。」と執務室を後にした。

廊下でルーカスは呟いた。

「本気だったんだけどな・・。
まぁ、次に同じことがあったら次こそ遠慮せず頂きますよ・・殿下。」

その声は誰にも聞こえずに空に消えていった。

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