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【サミュエル】(学院発展ルート)
8 期待と不安と
しおりを挟む今、私たちは馬車の中にいた。
そこでサミュエル先生は陛下の側近の方から頂いた文書を読みながら見てフルフルと震えていた。
(何が書いてあるのかしら?無理難題じゃなければいいけど……。
超絶技巧の曲だと2、3ヵ月は練習したわ……。
サミュエル先生と弾くなら私はセカンドかしら?
ファーストはサミュエル先生よね…)
私は、サミュエル先生が読み終わるまで緊張しながら待つことにした。
しばらくして文書を読み終わたサミュエル先生が顔を上げた。
「ベルナデット様!!
落ち着いて聞いて下さい」
サミュエル先生が私の顔を見ながらゴクリと息を飲んだ。
「はい」
私も神妙な面持ちでサミュエル先生の話を待った。
「私とベルナデット様が隣国の王女様の生誕祭に招かれました。
そこで私たち2人で一曲、女王陛下の前で披露してほしいとのことです。
2日後には、私たち2人で隣国に向けて出発することになりそうです!!
隣国までは2日程の馬車と船の旅になるようです」
・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・え?
私は思わず顔が真っ赤になってしまった。
(え?つまりそれって、サミュエル先生と2人で隣国へ??
それって、2人で旅行ってこと???
え?え?ど、どうしよう~~~~!!
2人きりで旅行だなんて!!)
私は先程まで、曲について考えていたはずだ。
だがサミュエル先生と2人で旅行と考えただけで全く落ち着かなかった。
普段私は、サミュエル先生と学長室にいる。
しかし、サミュエル先生もお忙しいし、私も指導などであまり2人で学長室にいることは少ない。
学長室にいてもサミュエル先生は多くの仕事を抱えているため仕事をしている。
さらに学長室には先生方や生徒も頻繫に尋ねてくるため、私は完全にサミュエル先生と長時間ヴァイオリンの練習以外で2人になる時間というのをほとんど体験したことがないのだ。
私がそわそわしていると、サミュエル先生も顔を真っ赤にしていた。
そして興奮したように私の手を取った。
「隣国の女王陛下の生誕祭で曲を奏でるなど!!
そんな貴重な機会は滅多にありません!!
ベルナデット様!!
曲は何にしましょうか?」
その言葉に私は、はっとした。
(・・・そうね!!
私、演奏するために行くのよね!!)
私は自分の思考が恥ずかしくなって穴に入りたくなった。
(そうよ!!
サミュエル先生と2人で旅行なんて、浮かれてる場合じゃないのよ!!
女王陛下の御前で演奏するんだから!!)
サミュエル先生は首を傾げながら、「ん~~」と腕組みをしていた。
「やっぱり、誕生祭に相応しいような壮大な曲がいいのでしょうか?
それとも、華やかな曲がいいのでしょうか?
ん~~~数曲選んで、あちらで他の方の演目を見ながら調整しましょう。
隣国には2週間前に到着予定ですから2週間、2人っきりで仕上げましょう」
(え?もしかして2週間2人っきり??)
「2週間で調整となると、曲はかなり厳選する必要がありますね。
あちらの演奏家の方のご意見も聞いてみましょうか」
真剣に生誕祭のことを考えるサミュエル先生を見て私は自分がイヤになった。
(サミュエル先生は必死で生誕祭のことを考えていらっしゃるのに・・。
私は先生と2人で旅行だなんて浮かれて・・・。
本当に恥ずかしいわ・・・)
私が落ち込んでいるとサミュエル先生が私の顔を覗き込んできた。
「ベルナデット様、やはり緊張しますよね。
私も緊張しています。
つらいと思ったらどうか私を頼って下さいね。
緊張を忘れるくらい・・・」
サミュエル先生が私の手をぎゅっと握りしめて、微笑んでくれた。
「緊張を忘れるくらい?」
私はドキドキしながら思わずサミュエル先生の言葉を繰り返していた。
「緊張を忘れるくらい、徹底的に練習しましょうね!!
お付き合い致します!!」
「ありがとうございます!!
頑張りますわ!!」
サミュエル先生の言葉を聞いた私は、顔で笑って心で泣いてしまった。
・
・
・
それから私たちは大忙しだった。
まず、予定していた仕事を全て調整した。
移動と滞在日数を合わせると1ヵ月近くも学園を開けることになるのだ。
予定の調整と選曲。
この国には、過去に誰も生誕祭で演奏した演奏家はいない。
それに誰も生誕祭に出席したこともない。
つまり全く傾向も対策もわからないまま選曲をする必要があるのだ。
出発前日。
私たちは学長室で「う~ん」と唸っていた。
外は日が落ち、学園に残っている人はもう誰もいなかった。
5曲選曲して、向こうで演奏家の方の意見を聞いて決めるということになった。
そして選曲はラスト1曲。
私は楽譜を見つめて考えていた。
(ん~この曲は華やかよね……。
女王陛下の生誕祭って考えるとこれはいいけど……。
この曲を2週間で調整かぁ~。
せめてこの曲を聴かせるなら1ヵ月は時間が欲しいのよね~~。
ん~~~)
ふと楽譜から顔を上げると私を見て微笑んでいるサミュエル先生と目が合った。
「どうされたのですか?」
私が尋ねると、サミュエル先生がはっ、として顔を真っ赤にして慌てた。
「あ、いえ・・。すみません。
ベルナデット様が真剣に曲を選んでいるのに、明日からあなたと2人だと思うと浮かれてしまって・・・」
「え?」
私は瞬きも忘れてサミュエル先生を見つめた。
(え?え?えええ~~~!!
サミュエル先生も私と一緒で嬉しいと思ってくれていたの?)
するとサミュエル先生が立ち上がった。
「最後の曲はそれにしましょうか。
もう遅いです。ベルナデット様。お送り致します」
「は、はい」
私はそっとサミュエル先生の手を取った。
するとサミュエル先生は驚いて私を見た後、耳まで真っ赤にして、私の手を握り返してくれた。
サミュエル先生の手は温かくて、私は恥ずかしいのに嬉しくて不思議な気持ちで家路に着いたのだった。
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