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【サミュエル】(学院発展ルート)
13 旅のしおり~蒸気船にて(3)~
しおりを挟むそれから、日も暮れて風が冷たくなったので、部屋に戻った。
本当はもう少し、サミュエル先生と一緒にあの場所にいたかった。
だが、演奏会前に体調を崩すわけにはいかないので、部屋に戻ることにした。
部屋の前でコンラッド君と会ったので、3人で食事に行くことになった。
食事はとても豪華で美味しそうだったが、私は胸がいっぱいであまり食べられなかった。
コンラッド君が心配してくれたが、「慣れない環境だから」と言うと納得してくれた。
食事が済むと私はベットに倒れ込んだ。
先程のサミュエル先生とのことが忘れられずにまだ落ち着かなかった。
(あ~~~!!どうしよう!!眠れないかも~~)
船室の窓からは月が見えた。
「サミュエル先生・・私のこと、どう思ってるのかな?」
小さく呟いた。
サミュエル先生に『好き』だと言われたことはない。
『そばにいてほしい』とは言われたが、学院の運営の手伝いという意味かもしれない。
キスもしてくれるが、基本的に頬かおでこ。
兄であるエリックはスキンシップのキスが好き(?)なようで、一緒に住んでいた頃は、たまにキスをしていた。
なのでキスの頻度というと兄が圧勝だ。
まぁ、兄は家族なので比べるのはおかしいとは思うが・・・。
私は起き上がって首を振った。
「ダメダメ!!今は誕生祭の演奏に集中しなきゃ!!そうだ。楽譜を読み込みましょう!!」
私は、楽譜を手にした。
~蒸気船客室にて~
コンコンコンコン。
サミュエルの船室にノックの音が響いた。
(もしかして、ベルナデット様?!)
サミュエルは着崩していた服を整えると、扉を開けた。
「こんばんは。学長」
「こんばんは・・・」
扉を開けるとコンラッドが立っていた。
予想外な来客にサミュエルはがっかりしていた。
「ベルナデット様ではなくて申し訳ありませんが、少々お時間頂けませんか?」
「構いませんよ」
それから2人は貸し切りのサロンに向かった。
サロンに着くと、コンラッドは、常駐している侍女を全て下げさせた。
2人になると、コンラッドが自分の両手を合わせて、じっとサミュエルを見据えた。
「単刀直入にお伺い致します。
学長はベルナデット様をどうなさるおつもりですか?」
それはサミュエルが予想していた問いかけだった。
そして最も恐れていた問いかけでもあった。
サミュエルはずっとベルナデットを妻にしたいと思っていた。
それこそ、彼女がまだ幼い頃から。
クリストフとベルナデットの婚約が解消されたと知った時はこの世の全てに感謝した。
すぐにでも彼女を婚約者にしたいそう思った。
だが・・・。
サミュエルの実家は侯爵家だが、侯爵家は兄が爵位を継ぐ予定だ。
3男であり、音楽芸術学院の学長の自分には侯爵の地位はない。
現在、学長でもある自分に与えられる地位はおそらく子爵。
子爵も貴族だ。
だが、ベルナデットはこの国で最も権力を持つ公爵家の令嬢。
そんな自分にベルナデットと婚約してほしいと言える立場ではないことは十分承知していた。
ベルナデットは自分の事を想ってくれているだろうとは気づいていた。
そして、自分もベルナデットを想っている。
それでも、きっと彼女を妻にすることはできないだろう。
サミュエルが黙っていると、コンラッドは焦れたように溜息をついた。
「御自分のことはよくわかっておられるのでしょう?
いい加減、彼女をあなたから解放して下さい」
サミュエルはぐっと拳を握りしめた。
だが・・何も言えなかった。
するとコンラッドが冷めた視線を向けながら立ち上がった。
「そのような生半可な想いであの方と一緒に居られるなどという甘えた考えは持たないことです」
サミュエルは無意識に立ち上がり、コンラッドの襟もとを掴んでいた。
「生半可?!そんな想いなら・・・その程度の想いなら・・・。
どんなに・・・」
驚いた顔のコンラッドと目が合って、サミュエルはゆっくりと手を離した。
「へぇ~。ただの気取った優男ってわけじゃないのか・・」
コンラッドが怪しく笑った。
そして、サミュエルに捕まれて乱れた襟もとを整えながら言った。
「いずれにしても、覚悟は必要なのではないですか?サミュエル・イズール殿」
そして、コンラッドはサロンを出るとパタリと扉を閉めた。
サミュエルは先程までコンラッドを掴んでいた手を握りしめた。
『好き』だとこの手に抱きしめて、彼女の全てを奪えたら・・・。
何度も何度もそう思ってはその自分勝手な想いを押し殺した。
(ベルナデット様はずっと綺麗に笑っていてほしい)
サミュエルはサロンから見える月を見た。
(でも何もせずに諦めることもできない)
そうしてサミュエルもサロンを後にした。
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