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第27話 辺境伯の日常
しおりを挟む「出来た!! ギルベルト様、確認後、押印をお願いします!!」
「は、はい!!」
ギルベルト様は大きな声で返事をして、真剣な顔で書類を確認してくれた後に時計を見ると、あと5分で約束の時間だった。
ギルベルト様は急い2つの書類に押印をしてくれた。
「走りましょう、ライラさん」
「はい」
そして私たちは走って砦の馬小屋に向かった。
「はぁ、はぁ、はぁ……リュ―ドはいるか?」
ギルベルト様が息を切らしながら馬小屋にいる兵に尋ねると、後ろから旅支度をした兵が歩いて来た。
「閣下、どうされたのですか?」
私たちは同時に声を上げた。
「「間に合った……」」
そして、王都へ向かう兵に追加の書類を渡した。
「この書類にこの国の命運がかかっているの!! お願い!!」
私が声を上げると兵が、「め、命運!? わかった、任せてくれ」と言って馬の背に乗った。
王都に向かう兵を見送ると、息を切らした私たちに同情した馬小屋にいた兵が、焼き菓子を5つもくれた。
「あの……これ……昨日町に買い出しに行った時にたくさん買ったので、よかったらどうぞ……」
私たちは「ありがとう」と言って遠慮なくその焼き菓子を貰った。
「みんなの分くれたのですね」
どうやら兵はゲオルグやクルス、リーゼの分もくれたようだ。
「では夕飯の後にみんなでいただきましょう」
「はい」
そして私は今度はゆっくりと歩きながら屋敷までの道を歩いた。
先ほどと同じ景色のはずなのに、ゆっくり歩くと違った景色に見えた。
「はは、久しぶりにこんなに全力で走りました」
「私もです。間に合ってよかった……」
「ええ。ありがとうございました」
ギルベルト様が笑ってくれると、胸が締め付けられそうになる。
なぜなのか、私にはよくわからなかった。
「ふふふ、ライラさんのお仕事はカッコイイですね~~」
「え? かっこいい??」
私は特にかっこいいこともなく、ただ書類を作っただけだ。しかも、何か新しいことを考えついたわけじゃないし、何かの大発見をしたわけでもない。
全て型が決まった書類に必要事項を入れ込むだけの地味な仕事だ。
カッコよさとは無縁の仕事。むしろギルベルト様の方が絶対にかっこいい。
「はい、かっこいいです」
自分の仕事をかっこいいと言ってもらえると素直に嬉しいと思えた。
「ありがとうございます……」
気が付けば私はギルベルト様を見つめ、ギルベルト様も私を見ていた。
目が合うと自然と笑みが浮かんだ。
ギルベルト様も同じように微笑んでくれた。それがとても居心地がよかった。
そして戻って再び書類の仕事をすると、夕食の後にみんなで貰った焼き菓子を食べた。食べ終わると、リーゼが呟くように言った。
「無事に戻ってくれてよかった……心配したんだから……」
リーゼの呟きに、胸が締め付けられそうになった。
一度リーゼは大切な人を亡くしている。これ以上、彼女を泣かせたくない。
「うん。心配かけてごめんね」
私はリーゼのおでこにおでこを付けて言うと、リーゼも笑ってくれた。
そして食事の後に、ギルベルト様は砦に向かい、私はゲオルグとダンスの練習をした。すると、またしても風の上級魔法が放たれた気配を感じた。
「あ……」
私は思わず足と止めて窓の方を見た。
「どうした?」
「風の上級魔法の気配がした」
するとゲオルグが眉を寄せた。
「魔物が襲って来たのか……気配は感じる?」
「いえ……きっと感じる前に倒されたのね……」
恐らく私が気配を感じる少し前で風魔法が発動したのだろう。
(もしかして、ギルベルト様、風魔法で防御しながら、上級魔法まで使って魔物を倒しているの?? そんなの無茶だ!!)
気が付けば、私はゲオルグの手を離して走り出していた。
「待て、ライラ!! 夜に外に出るのは危ない!!」
「でも、きっとギルベルト様、倒れているわ!!」
「俺も行く!!」
そしてゲオルグと二人で屋敷を飛び出すと、砦の馬小屋付近で砦に入ろうとしてふらふらと歩いているギルベルト様を見つけた。きっと誰にも迷惑をかけないように魔石の練り込んである執務室で一夜を過ごすつもりだったのだろう。
「ギルベルト様!!」
「ギルベルトさん!!」
私たちが駆け寄るとギルベルト様は私と見ると「またご迷惑を」と言って目を閉じた。脈を取ったが正常だ。
恐らく魔力切れだ。ゲオルグがギルベルト様を背負うと先ほどまでダンスの練習をしていた居間にギルベルト様を運んだ。
「魔力回復薬持ってくる」
「ええ。お願い」
私はゲオルグが出て行った後に、青白くなったギルベルト様の頬に触れた。
「これがあなたの日常だったのですね……これまで王国の民を一人で守って下さってありがとうございます」
そう言って私はギルベルト様の唇に自分の唇で触れた。
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